仮定法を習った人は過去時制が時の問題だけではなく、丁寧さを増す(もっと正確にいえばためらいがちに何かを述べたり、間接的に表すことができる)ことも理解できると思います。特に法助動詞を用いたときには顕著に表すことができますが、これは必ず法助動詞を用いなければならない、ということはありません。このためらいがちに述べる用法(これを法的過去形式と呼ぶことにします)と通常の過去時制は確実にどちら、と分けるのが困難なように思われるのが次のような用法です。
(1)I was wondering if you could help me.(あなたが手伝ってくれればなぁって思ってたんだけど。)
このwasは過去にそう思っていた、というわけではなく、実際には今そう思っているわけですが、過去にそう思っていたことにすることで、「今思っている」というよりもためらいがちで丁寧な表現になるわけです。しかしHuddleston&Pullum(2002;138)も述べているように、文の意味としては過去時について述べており、その語用論的含意としてためらいがちさや丁寧さを伝えている、と捉えられるので、この過去形式を時間的な枠組みで考えるのか、法的な枠組みで考えるか、などということは(少なくとも)教育上大した意味を持たないでしょう。ただ、他の法的過去形式と同列に扱っても問題があるとは思えません(ので扱うのがよいと思います)。
何やら難しい話が続きましたが、結局上記のような過去形式の用法は、「仮定法過去」というくくりでどの文献でも少なからず紹介されているような話なので、わかりやすい解説本で一通り確認すればよいでしょう。
そこで(1)の文にもう一度話を戻すと、なぜか過去形式だけでなく進行相を用いているわけです。この理由について学校文法書『Forest(第7版)』では次のように解説しています。
「進行形にすることでていねいさが増すのは、進行形が未完結を表す」ので「『そう思ってる最中なんだけど~(どうかなぁ)』のようなニュアンスが出る」(p.351)
しかし、未完結だということと丁寧さの関係がいまいちはっきりしません。この解説を読んでなるほど、とは思いにくいでしょう(それとも私だけでしょうか?)。『Forest』も述べているとおり、この場合の進行相はより丁寧にする効果があるのですが、それがなぜなのかについて主に3つの観点から説明できる、という話を、もう少し話の筋がわかりやすくなるように考察していきます。
この進行相がなぜ丁寧さと関係するのかについて、Swan(2005)は進行相が含意する〈未完結〉と〈一時性〉で説明しています。しかしこの2つがなぜ丁寧さと結びつくのかについてははっきりと述べていません。そこでその理由について検証したいと思います。まず〈未完結〉について。これについては柏野(1999)に記述があります。柏野によれば、〈未完結〉によって話し手が最終的な結論に達してない、つまり話し手の気持ちが変更可能だということが表されます。これが間接的に丁寧さを表すことにつながっているのです。
次に〈一時性〉 について。Huddleston&Pullum(2002;170)の考察を参考にまとめると、進行相のもつ〈一時性〉によって、「今ちょっと思っているだけだ」と、考えていることが短い期間で終わることを含意して、相手へ断る余地を与えて心理的負担を減らしており、それが丁寧さにつながっているのです。
また、Huddleston&Pullumはもうひとつ、進行相は「文が長くなること」で丁寧さが増す、という説明をしています(p.170)。なぜ文が長くなると丁寧になるのかについては、大西・マクベイ(1997;73-80)も述べているとおり、記述をより間接的に表現することと関係していると思われます。
ここで問題は、進行相の丁寧さを説明したこれらの3つのうち、どれがより正しいのか(よって生徒に指導する際に用いるべきなのか)ですが、私はどれも同様にふさわしいと思いますし、どれか1つだけでも十分に理解できる説明だと思います。どの説明を用いるかは教師の好みの問題、といっても言い過ぎではないでしょう。ある文法項目を説明するのに、「必ずこう説明しなければならない」ということはなく、どの説明がより包括的に説明できるのか、どの説明がより生徒にとって理解しやすいか、といった要因を考慮するべきだと思います。少しマニアックな話になってますね。まぁどうでもいいことです。
また、進行相を用いることでどの程度丁寧になるかですが、過去形式を用いることと比べると、その効果は大きくはないようです(Swan(2005;411-2)を参照)。
【参考文献】
Huddleston, Rodney& Pullum, Geoffrey K. (eds.)(2002). The Cambridge Grammer of the English Language. Cambridge University Press.
Swan Michael.(2005). Practical English Usage. Oxford University Press.
大西泰人・マクベイ・ポール.(1997).『ネイティブスピーカーの英語感覚』.研究社.
柏野健次.(1999).『テンスとアスペクトの語法』.開拓社.
(1)I was wondering if you could help me.(あなたが手伝ってくれればなぁって思ってたんだけど。)
このwasは過去にそう思っていた、というわけではなく、実際には今そう思っているわけですが、過去にそう思っていたことにすることで、「今思っている」というよりもためらいがちで丁寧な表現になるわけです。しかしHuddleston&Pullum(2002;138)も述べているように、文の意味としては過去時について述べており、その語用論的含意としてためらいがちさや丁寧さを伝えている、と捉えられるので、この過去形式を時間的な枠組みで考えるのか、法的な枠組みで考えるか、などということは(少なくとも)教育上大した意味を持たないでしょう。ただ、他の法的過去形式と同列に扱っても問題があるとは思えません(ので扱うのがよいと思います)。
何やら難しい話が続きましたが、結局上記のような過去形式の用法は、「仮定法過去」というくくりでどの文献でも少なからず紹介されているような話なので、わかりやすい解説本で一通り確認すればよいでしょう。
そこで(1)の文にもう一度話を戻すと、なぜか過去形式だけでなく進行相を用いているわけです。この理由について学校文法書『Forest(第7版)』では次のように解説しています。
「進行形にすることでていねいさが増すのは、進行形が未完結を表す」ので「『そう思ってる最中なんだけど~(どうかなぁ)』のようなニュアンスが出る」(p.351)
しかし、未完結だということと丁寧さの関係がいまいちはっきりしません。この解説を読んでなるほど、とは思いにくいでしょう(それとも私だけでしょうか?)。『Forest』も述べているとおり、この場合の進行相はより丁寧にする効果があるのですが、それがなぜなのかについて主に3つの観点から説明できる、という話を、もう少し話の筋がわかりやすくなるように考察していきます。
この進行相がなぜ丁寧さと関係するのかについて、Swan(2005)は進行相が含意する〈未完結〉と〈一時性〉で説明しています。しかしこの2つがなぜ丁寧さと結びつくのかについてははっきりと述べていません。そこでその理由について検証したいと思います。まず〈未完結〉について。これについては柏野(1999)に記述があります。柏野によれば、〈未完結〉によって話し手が最終的な結論に達してない、つまり話し手の気持ちが変更可能だということが表されます。これが間接的に丁寧さを表すことにつながっているのです。
次に〈一時性〉 について。Huddleston&Pullum(2002;170)の考察を参考にまとめると、進行相のもつ〈一時性〉によって、「今ちょっと思っているだけだ」と、考えていることが短い期間で終わることを含意して、相手へ断る余地を与えて心理的負担を減らしており、それが丁寧さにつながっているのです。
また、Huddleston&Pullumはもうひとつ、進行相は「文が長くなること」で丁寧さが増す、という説明をしています(p.170)。なぜ文が長くなると丁寧になるのかについては、大西・マクベイ(1997;73-80)も述べているとおり、記述をより間接的に表現することと関係していると思われます。
ここで問題は、進行相の丁寧さを説明したこれらの3つのうち、どれがより正しいのか(よって生徒に指導する際に用いるべきなのか)ですが、私はどれも同様にふさわしいと思いますし、どれか1つだけでも十分に理解できる説明だと思います。どの説明を用いるかは教師の好みの問題、といっても言い過ぎではないでしょう。ある文法項目を説明するのに、「必ずこう説明しなければならない」ということはなく、どの説明がより包括的に説明できるのか、どの説明がより生徒にとって理解しやすいか、といった要因を考慮するべきだと思います。少しマニアックな話になってますね。まぁどうでもいいことです。
また、進行相を用いることでどの程度丁寧になるかですが、過去形式を用いることと比べると、その効果は大きくはないようです(Swan(2005;411-2)を参照)。
【参考文献】
Huddleston, Rodney& Pullum, Geoffrey K. (eds.)(2002). The Cambridge Grammer of the English Language. Cambridge University Press.
Swan Michael.(2005). Practical English Usage. Oxford University Press.
大西泰人・マクベイ・ポール.(1997).『ネイティブスピーカーの英語感覚』.研究社.
柏野健次.(1999).『テンスとアスペクトの語法』.開拓社.
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