非制限的用法(前回も述べましたが、ここではこの「非制限的用法」という用語について議論することはやめることにします)については、制限的用法との違いがわかりにくいので、説明をわかりやすくするために次のような例で説明することが多いと思います。
(1)I have an aunt who lives in Chicago.(私にはシカゴに住んでいるおばが1人います。)
(2)I have an aunt, who lives in Chicago.(私にはおばが1人おり、そのおばはシカゴに住んでいます。)
(1)では2人以上おばがいる可能性がありますが、(2)では1人おばがいて、そのおばについての情報が述べられています。(2)を非制限的用法とよびます。しかし、このような例ばかりでなく、非制限的用法はもう少し広く捉える必要があります。
非制限的用法は、そもそも情報を付け加えることがその働きです。ある名詞句(節全体も含めて)に補足として情報を加えたい時に用います。非制限的用法はミントン(2004)やSwan(2005)を参考にまとめると、関係節の情報の重要性によって2つに分けられます。
①「ちなみに(by the way)先行詞は」型(重要性が低い)
②「そして/でも(and/but)先行詞は」型(重要性が高い)
しかし、大事なのはどちらも情報を付け加えていることです。それぞれの例を見てみましょう。まずは「ちなみに」型から。
(3)Queen Elizabeth Ⅱ, who was born in 1926, was crowned in Westminster Abbey on 2nd June, 1953.(エリザベス2世は、1926年生まれだが、1953年6月2日ウェストミンスター寺院で戴冠した。)(例文はミントン(2004;p.154)より)
(4)Paris, which I love, is a beautiful city.(パリは、私は大好きなんですが、美しい都市ですよ。)
(5)John, whom you saw in town, is a good friend of mine.(街でジョンに会ったそうだけど、ジョンは僕の友達なんだ。)(例文は安藤(2005;p.190)より)
(3)は「ちなみに1926年生まれなんだけど」、(4)は「ちなみに私は好きなんだけど」、(5)は「ちなみにあなたは町で会ったようだけど」程度の重要度が主節ほど高くない情報を追加しているのです。続いて「そして/でも」型を見てみましょう。
(6)I offered some candies to my nephew, who snatched them from me without a word of thanks.(甥っ子にいくつか飴を差し出した。するとありがとうも言わずに引ったくっていった。)
(7)Mr.Simons got very angry, which is not surprising.(シモンズ氏は激怒した。でもそれは無理もないことだ。)(ミントン(2004;p.161)より)
(8)She passed the letter to Moriarty, who passed it on to me.(彼女はモリアーティに手紙を渡した。そして彼はそれを僕に渡してきた。)
(9)I dropped the saucepan, which knocked over the eggs, which went over the floor.(私は鍋を落とした。するとその鍋が卵をひっくり返した。そして卵が床中に落ちた。)(例文はSwan(2005;p.498)より)
(6)~(9)をみると、「そして/でも」型は文末にくることが多いのがわかります。英語では文末に新情報を置くという特徴があるので、文末が際立っていることが関係しているのだと思いますが、詳しいことはわかりません。しかし、ひとつの基準としては参考になるでしょう。これらの関係節は話者の伝えたいメッセージと関連している、という点で重要性の高い情報を含んでいるといえます。しかし、どちらの用法にしても、情報を補足している、という機能に違いはありません。また、かならずどちらの用法になる、と2分割できるものでもありません。たとえば(2)の例に戻ってみましょう。
(2)I have an aunt, who lives in Chicago.
この例文を文末にあるので「そして/でも」型ととらえて「私には叔母がいます。そしてその叔母はシカゴに住んでいます。」と捉えるのか、それほど重要ではない情報だから「ちなみに」型だととらえて「私には叔母がいます。ちなみにシカゴに住んでいます。(ま、どうでもいいけどね)」と捉えるのかを判断することに意味はあまりない、ということです。話者がどちらで判断しているのかを、この文だけでは知ることはできないと思います。もう少しこの問題を考えてみるために、どのような文がこの後に続くのか、考えてみましょう。
(10)I have an aunt, who lives in Chicago. I'm going to visit her soon.
(11)I have an aunt, who lives in Chicago. Actually I had another aunt, but she passed away last summer.
(10)では関係節の情報が後の文の重要な情報となっているので「しかし/でも」型と考えられ、(11)では後の文と関係節の情報は特に関係ないので、話者は「ちなみに」型として補足したと考えられます。しかし、どちらにしても情報を補足したという点では変わりません。よって教師側もどちらの用法かについて、マージナルなものがあることを前提にしておく必要はあると思います。ただしこの点については、多くの文法項目で同じことがいえると思いますのでさほど問題ではないのかもしれません。
ちなみに非制限的用法は制限的用法ほど会話では見られませんが、「そして/でも」型は、次のように、ある話し手への返答として使うこともでき、会話では時々使われます。この場合の先行詞はどちらもAの発言です。
(12)A: Our rent is due next week.
B: Which is why we shouldn't be going out to dinner tonight.(Huddleston&Pullum(2005)より)
(13)A: And he's somewhere that looks very much like Hawaii.
B: Which means he is on vacation?(田中(2013)より)
また、固有名詞を先行詞にとる場合には、非制限的用法と解釈されます。しかし、固有名詞にtheがつくと、「同じ名前の人やものがいる中の、この人/もの」という意味で、制限的用法となります。この使い方は会話でよく用いられます。
(14)That player is Matsui... not the Matsui who plays for the Mets, but the Matsui who plays for the Yankees.(あの選手が松井――メッツの松井じゃなくて、ヤンキースの松井です。)(綿貫・ピーターセン(2006)より)
また、制限的用法と非制限的用法の話し言葉での見分け方についても重要だと思いますが、学校文法書の多くは見分け方に関する記述が一切ありません。コミュニケーション重視を掲げながら、その記述がみられないのは残念なことです。たとえばCelece-Murcia&Larsen-Freeman(1999)やSwan(2005)、Huddleston&Pullum(2005)などの海外の文献には必ず見られるので、日本でも話し言葉にもう少しスポットが当たるとよいと思います。
関係代名詞については、すべての構造を同列に扱って指導するよりも、ある程度習得しやすい構造から指導していくことが重要だと思います。これについてはCelce-Murcia&Larsen-Freeman(1999;p.577-8)によれば、ネイティブスピーカーの実際の使用頻度と、ESLの学習者の使用頻度、そしてESLの習得順序がかなり一致しているようなので、特に使用頻度が高い(よって恐らくは構造的に最も理解しやすいと思われる)構造から難易度を上げていくことで生徒の理解につながり、結果として負担を減らすと思います。詳しい結果については原典を参照されたい。
明日はまた休みです。テンションがあがりますね。そういえば生徒が「My tension is up.」と言っていました。私は一応「I'm excited.あたりがいいよ」と直しておきましたが、My tension is up.が日本中で使われれば、日本人英語として世界に通じる日がくるかもしれません。そんな日がくるのもおもしろいと思ったり。思わなかったり。
【参考文献】
Celece-Murcia, M,&Larsen-Freeman, D.(1999). The Grammer Book An ESL/EFL Teacher's Course 2nd edition. Heinle&Heinle.
Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K. (eds.). (2002). The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge University Press.
Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K.(2005). A Studnet's Introduction to English Grammer. Cambridge University Press.
Swan Michael.(2005). Practical English Usage. Oxford University Press.
安藤貞雄.(2005).『現代英文法講義』.開拓社.
田中茂範.(2013).『表現英文法』.コスモピア.
T.D.ミントン.(2004).『ここがおかしい日本人の英文法Ⅲ』.研究社.
綿貫陽・マーク ピーターセン.(2007).『表現のための実践ロイヤル英文法』.旺文社.
(1)I have an aunt who lives in Chicago.(私にはシカゴに住んでいるおばが1人います。)
(2)I have an aunt, who lives in Chicago.(私にはおばが1人おり、そのおばはシカゴに住んでいます。)
(1)では2人以上おばがいる可能性がありますが、(2)では1人おばがいて、そのおばについての情報が述べられています。(2)を非制限的用法とよびます。しかし、このような例ばかりでなく、非制限的用法はもう少し広く捉える必要があります。
非制限的用法は、そもそも情報を付け加えることがその働きです。ある名詞句(節全体も含めて)に補足として情報を加えたい時に用います。非制限的用法はミントン(2004)やSwan(2005)を参考にまとめると、関係節の情報の重要性によって2つに分けられます。
①「ちなみに(by the way)先行詞は」型(重要性が低い)
②「そして/でも(and/but)先行詞は」型(重要性が高い)
しかし、大事なのはどちらも情報を付け加えていることです。それぞれの例を見てみましょう。まずは「ちなみに」型から。
(3)Queen Elizabeth Ⅱ, who was born in 1926, was crowned in Westminster Abbey on 2nd June, 1953.(エリザベス2世は、1926年生まれだが、1953年6月2日ウェストミンスター寺院で戴冠した。)(例文はミントン(2004;p.154)より)
(4)Paris, which I love, is a beautiful city.(パリは、私は大好きなんですが、美しい都市ですよ。)
(5)John, whom you saw in town, is a good friend of mine.(街でジョンに会ったそうだけど、ジョンは僕の友達なんだ。)(例文は安藤(2005;p.190)より)
(3)は「ちなみに1926年生まれなんだけど」、(4)は「ちなみに私は好きなんだけど」、(5)は「ちなみにあなたは町で会ったようだけど」程度の重要度が主節ほど高くない情報を追加しているのです。続いて「そして/でも」型を見てみましょう。
(6)I offered some candies to my nephew, who snatched them from me without a word of thanks.(甥っ子にいくつか飴を差し出した。するとありがとうも言わずに引ったくっていった。)
(7)Mr.Simons got very angry, which is not surprising.(シモンズ氏は激怒した。でもそれは無理もないことだ。)(ミントン(2004;p.161)より)
(8)She passed the letter to Moriarty, who passed it on to me.(彼女はモリアーティに手紙を渡した。そして彼はそれを僕に渡してきた。)
(9)I dropped the saucepan, which knocked over the eggs, which went over the floor.(私は鍋を落とした。するとその鍋が卵をひっくり返した。そして卵が床中に落ちた。)(例文はSwan(2005;p.498)より)
(6)~(9)をみると、「そして/でも」型は文末にくることが多いのがわかります。英語では文末に新情報を置くという特徴があるので、文末が際立っていることが関係しているのだと思いますが、詳しいことはわかりません。しかし、ひとつの基準としては参考になるでしょう。これらの関係節は話者の伝えたいメッセージと関連している、という点で重要性の高い情報を含んでいるといえます。しかし、どちらの用法にしても、情報を補足している、という機能に違いはありません。また、かならずどちらの用法になる、と2分割できるものでもありません。たとえば(2)の例に戻ってみましょう。
(2)I have an aunt, who lives in Chicago.
この例文を文末にあるので「そして/でも」型ととらえて「私には叔母がいます。そしてその叔母はシカゴに住んでいます。」と捉えるのか、それほど重要ではない情報だから「ちなみに」型だととらえて「私には叔母がいます。ちなみにシカゴに住んでいます。(ま、どうでもいいけどね)」と捉えるのかを判断することに意味はあまりない、ということです。話者がどちらで判断しているのかを、この文だけでは知ることはできないと思います。もう少しこの問題を考えてみるために、どのような文がこの後に続くのか、考えてみましょう。
(10)I have an aunt, who lives in Chicago. I'm going to visit her soon.
(11)I have an aunt, who lives in Chicago. Actually I had another aunt, but she passed away last summer.
(10)では関係節の情報が後の文の重要な情報となっているので「しかし/でも」型と考えられ、(11)では後の文と関係節の情報は特に関係ないので、話者は「ちなみに」型として補足したと考えられます。しかし、どちらにしても情報を補足したという点では変わりません。よって教師側もどちらの用法かについて、マージナルなものがあることを前提にしておく必要はあると思います。ただしこの点については、多くの文法項目で同じことがいえると思いますのでさほど問題ではないのかもしれません。
ちなみに非制限的用法は制限的用法ほど会話では見られませんが、「そして/でも」型は、次のように、ある話し手への返答として使うこともでき、会話では時々使われます。この場合の先行詞はどちらもAの発言です。
(12)A: Our rent is due next week.
B: Which is why we shouldn't be going out to dinner tonight.(Huddleston&Pullum(2005)より)
(13)A: And he's somewhere that looks very much like Hawaii.
B: Which means he is on vacation?(田中(2013)より)
また、固有名詞を先行詞にとる場合には、非制限的用法と解釈されます。しかし、固有名詞にtheがつくと、「同じ名前の人やものがいる中の、この人/もの」という意味で、制限的用法となります。この使い方は会話でよく用いられます。
(14)That player is Matsui... not the Matsui who plays for the Mets, but the Matsui who plays for the Yankees.(あの選手が松井――メッツの松井じゃなくて、ヤンキースの松井です。)(綿貫・ピーターセン(2006)より)
また、制限的用法と非制限的用法の話し言葉での見分け方についても重要だと思いますが、学校文法書の多くは見分け方に関する記述が一切ありません。コミュニケーション重視を掲げながら、その記述がみられないのは残念なことです。たとえばCelece-Murcia&Larsen-Freeman(1999)やSwan(2005)、Huddleston&Pullum(2005)などの海外の文献には必ず見られるので、日本でも話し言葉にもう少しスポットが当たるとよいと思います。
関係代名詞については、すべての構造を同列に扱って指導するよりも、ある程度習得しやすい構造から指導していくことが重要だと思います。これについてはCelce-Murcia&Larsen-Freeman(1999;p.577-8)によれば、ネイティブスピーカーの実際の使用頻度と、ESLの学習者の使用頻度、そしてESLの習得順序がかなり一致しているようなので、特に使用頻度が高い(よって恐らくは構造的に最も理解しやすいと思われる)構造から難易度を上げていくことで生徒の理解につながり、結果として負担を減らすと思います。詳しい結果については原典を参照されたい。
明日はまた休みです。テンションがあがりますね。そういえば生徒が「My tension is up.」と言っていました。私は一応「I'm excited.あたりがいいよ」と直しておきましたが、My tension is up.が日本中で使われれば、日本人英語として世界に通じる日がくるかもしれません。そんな日がくるのもおもしろいと思ったり。思わなかったり。
【参考文献】
Celece-Murcia, M,&Larsen-Freeman, D.(1999). The Grammer Book An ESL/EFL Teacher's Course 2nd edition. Heinle&Heinle.
Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K. (eds.). (2002). The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge University Press.
Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K.(2005). A Studnet's Introduction to English Grammer. Cambridge University Press.
Swan Michael.(2005). Practical English Usage. Oxford University Press.
安藤貞雄.(2005).『現代英文法講義』.開拓社.
田中茂範.(2013).『表現英文法』.コスモピア.
T.D.ミントン.(2004).『ここがおかしい日本人の英文法Ⅲ』.研究社.
綿貫陽・マーク ピーターセン.(2007).『表現のための実践ロイヤル英文法』.旺文社.
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