以前取り上げた「I was wondering~.」のような丁寧さに関わる話は、言語学の世界ではかなり活発に議論されているところ(それでも足りない、というか知りたいところに手が届かないのは私の勉強不足もあるでしょうが)ですが、それがあまり教育の現場に還元されていないのは大きな問題だと思います。今回は人に何かを依頼するときの表現としてふさわしい表現を考えます。
この丁寧さについて議論するときには、「誰に」「何を」などの、いわゆる場面について設定することが大事だと思います。このような設定があいまいなままで「丁寧な依頼の表現ってのはさ、斯く斯くしかじかなんだよ(ドヤ)」と語ったところで、生徒が使えるようにはならないでしょう。ここで丁寧な依頼の代表例である、次の表現はどのような場面で使われるのが適切なのか、少しだけ丁寧に考えてみます。
(1)Could you ~?
(2)Can you ~?
(3)Would you ~?
(4)Will you ~?
(5)I wonder~.
ここで押さえておきたいのは、この中で最も丁寧なのは、明らかに(5)である、ということです。また、当たり前といえば当たり前のことですが、頼む相手によってどの程度の強制力をもった表現を使うかは異なりますし、頼みやすいことであればより強制力の強い表現を使い、頼みにくいことであればより間接的な表現を使う(鶴田など(1988;90-1)を参照)わけです。しかし、鶴田などが述べている最も重要な要素は「この場面で相手はそれをする義務があるかどうか」(p.91)です。
では、(1)~(4)の中で強い強制力をもった表現はどれでしょうか?答えは(4)そして(3)です。(3)は(4)よりは丁寧ですが、依然として強制力をもった表現です。相手の意志を問うwillやwouldを使う場合には「相手にそれをさせる立場や状況にいる」ことが必要です。例えば上司が部下にたいして一般的な仕事の依頼(指示)をする際に用いるのであれば、これらの表現が最適です。次の例は上司が部下にたいして依頼(指示)している場面で使われます。
(6)Will you type this letter, please?(この手紙打っといてくれる?)(鶴田など(1988;92)より)
さらに、ホテルなどで客にたいして記入してもらうときにも、客には少なからずそれを書くべき義務があるのでwouldを用いた表現が使われることがあります。
(7)Would you fill in this form, please?(この用紙を記入していただけますか?)(同上;95)
ここまでの話をまとめると、willやwouldを用いる際には、少なからず指示する立場にあることが求められます。これにたいして、canやcouldを用いると、依頼になります。何か簡単なことを依頼する際にはcanが好んで使われます。例えば家族で食事をしていて、塩をとってほしい場合(自分で席を立ってとるのは欧米ではよいマナーとはいえないのです)、次の表現を用いるでしょう。
(8)Can you pass me the salt?(塩とってくれない?)
依頼する相手が目上の人であるなら、さらに丁寧なcouldを用いるとよいでしょう。
(9)Could you pass me the salt?
また、親しい間柄で簡単なことを依頼する場合、あるいは教師が生徒に依頼する場合などには、次のように依頼することができる。
(10)It's hot, isn't it? Can you open the window?
では見知らぬ人に(10)のようなことを頼むときはどうするでしょうか。しかしよく考えてみると、見知らぬ人に窓を開けるように頼むことは考えにくいと思います。もしなんらかの事情で自分は窓を開けることができずにいる状況で、どうしても窓を開けたいのであれば、自分自身で窓を開けられない事情を説明した後で、次のようにかなり丁寧に依頼する必要があるでしょう。
(11)Could you possibly open the window, please?
(12)I was wondering if you could open the window?
また、見知らぬ人に何かを尋ねるのでれば次のように表現するでしょう。
(13)Could you tell me the way to the station?(駅への行き方を教えていただけませんか?)
たとえ仲の良い間柄でも、couldを用いる場合があります。それは少し頼みにくいことを依頼する場合です。例えばちょっとした小銭ではなく、少し高いお金を借りたい時なんかはcouldを用いることでためらいがちに表現するとよいでしょう。あるいはI wonderを用いるとより丁寧です。
(14)Could you possibly lend me 10 bucks?(もしかして10ドル貸してくれないかなぁ。)
(15)I was wondering if you could lend me 10 bucks.(10ドル貸してくれないかなぁって思ってたんだけど。)
(14)の例のようにpossiblyを入れると丁寧さはぐっと増すので、親しい人でも頼みにくいことであれば入れるとよいと思います。ただし、とくに頼みにくくないことにpossiblyを入れると、逆にわざとらしく無礼に聞こえるので注意が必要です。当たり前ですが、仲のよい人には食事中このように言うのはおかしいですよね。
(16)Could you possibly pass me the salt?
このように、英語の丁寧さも知れば知るほど奥が深いのですが、まずは鶴田など(1988)やLeech(1980)、ミントン(2012)あたりを参考にするとよいでしょう。特に鶴田などやLeechも述べているように、「聞き手への負担・利益」や「間接性」の尺度の問題をもっと深めていけば、教育で還元できる内容が構成できると思います。もう少し考える時間ができたら、この問題をもう一度もっと教育に還元できる形で考察したいと思います。しばらくは無理でしょうけど。。。
【参考文献】
Leech, G.(1983). Principle of Pragmatics. Longman.
鶴田 庸子・ポール ロシター・ティム クルトン.(1988).『英語のソーシャルスキル』.大修館書店.
ミントン, T.D.(2012).『日本人の英語表現』.研究社.
この丁寧さについて議論するときには、「誰に」「何を」などの、いわゆる場面について設定することが大事だと思います。このような設定があいまいなままで「丁寧な依頼の表現ってのはさ、斯く斯くしかじかなんだよ(ドヤ)」と語ったところで、生徒が使えるようにはならないでしょう。ここで丁寧な依頼の代表例である、次の表現はどのような場面で使われるのが適切なのか、少しだけ丁寧に考えてみます。
(1)Could you ~?
(2)Can you ~?
(3)Would you ~?
(4)Will you ~?
(5)I wonder~.
ここで押さえておきたいのは、この中で最も丁寧なのは、明らかに(5)である、ということです。また、当たり前といえば当たり前のことですが、頼む相手によってどの程度の強制力をもった表現を使うかは異なりますし、頼みやすいことであればより強制力の強い表現を使い、頼みにくいことであればより間接的な表現を使う(鶴田など(1988;90-1)を参照)わけです。しかし、鶴田などが述べている最も重要な要素は「この場面で相手はそれをする義務があるかどうか」(p.91)です。
では、(1)~(4)の中で強い強制力をもった表現はどれでしょうか?答えは(4)そして(3)です。(3)は(4)よりは丁寧ですが、依然として強制力をもった表現です。相手の意志を問うwillやwouldを使う場合には「相手にそれをさせる立場や状況にいる」ことが必要です。例えば上司が部下にたいして一般的な仕事の依頼(指示)をする際に用いるのであれば、これらの表現が最適です。次の例は上司が部下にたいして依頼(指示)している場面で使われます。
(6)Will you type this letter, please?(この手紙打っといてくれる?)(鶴田など(1988;92)より)
さらに、ホテルなどで客にたいして記入してもらうときにも、客には少なからずそれを書くべき義務があるのでwouldを用いた表現が使われることがあります。
(7)Would you fill in this form, please?(この用紙を記入していただけますか?)(同上;95)
ここまでの話をまとめると、willやwouldを用いる際には、少なからず指示する立場にあることが求められます。これにたいして、canやcouldを用いると、依頼になります。何か簡単なことを依頼する際にはcanが好んで使われます。例えば家族で食事をしていて、塩をとってほしい場合(自分で席を立ってとるのは欧米ではよいマナーとはいえないのです)、次の表現を用いるでしょう。
(8)Can you pass me the salt?(塩とってくれない?)
依頼する相手が目上の人であるなら、さらに丁寧なcouldを用いるとよいでしょう。
(9)Could you pass me the salt?
また、親しい間柄で簡単なことを依頼する場合、あるいは教師が生徒に依頼する場合などには、次のように依頼することができる。
(10)It's hot, isn't it? Can you open the window?
では見知らぬ人に(10)のようなことを頼むときはどうするでしょうか。しかしよく考えてみると、見知らぬ人に窓を開けるように頼むことは考えにくいと思います。もしなんらかの事情で自分は窓を開けることができずにいる状況で、どうしても窓を開けたいのであれば、自分自身で窓を開けられない事情を説明した後で、次のようにかなり丁寧に依頼する必要があるでしょう。
(11)Could you possibly open the window, please?
(12)I was wondering if you could open the window?
また、見知らぬ人に何かを尋ねるのでれば次のように表現するでしょう。
(13)Could you tell me the way to the station?(駅への行き方を教えていただけませんか?)
たとえ仲の良い間柄でも、couldを用いる場合があります。それは少し頼みにくいことを依頼する場合です。例えばちょっとした小銭ではなく、少し高いお金を借りたい時なんかはcouldを用いることでためらいがちに表現するとよいでしょう。あるいはI wonderを用いるとより丁寧です。
(14)Could you possibly lend me 10 bucks?(もしかして10ドル貸してくれないかなぁ。)
(15)I was wondering if you could lend me 10 bucks.(10ドル貸してくれないかなぁって思ってたんだけど。)
(14)の例のようにpossiblyを入れると丁寧さはぐっと増すので、親しい人でも頼みにくいことであれば入れるとよいと思います。ただし、とくに頼みにくくないことにpossiblyを入れると、逆にわざとらしく無礼に聞こえるので注意が必要です。当たり前ですが、仲のよい人には食事中このように言うのはおかしいですよね。
(16)Could you possibly pass me the salt?
このように、英語の丁寧さも知れば知るほど奥が深いのですが、まずは鶴田など(1988)やLeech(1980)、ミントン(2012)あたりを参考にするとよいでしょう。特に鶴田などやLeechも述べているように、「聞き手への負担・利益」や「間接性」の尺度の問題をもっと深めていけば、教育で還元できる内容が構成できると思います。もう少し考える時間ができたら、この問題をもう一度もっと教育に還元できる形で考察したいと思います。しばらくは無理でしょうけど。。。
【参考文献】
Leech, G.(1983). Principle of Pragmatics. Longman.
鶴田 庸子・ポール ロシター・ティム クルトン.(1988).『英語のソーシャルスキル』.大修館書店.
ミントン, T.D.(2012).『日本人の英語表現』.研究社.