主人公はフラワービジネスの営業マン。実はこの営業マンは
150年前に日本にきた情報部員の英国人を紹介する役割。
2009年6月のコッツワルズで営業マンは車が故障し、車を修理
してもらったパトリシアから、その家に伝わる150前のノート
を読むようにと渡される。
そのノートには英国から江戸に派遣された情報部員が日本語の
先生となった武家の娘との不安定な江戸時代末期の中で、英国人
と武家の娘との行き場のない張りつめた愛の物語が書かれていた。
浪人に追いつめられた二人がのがれた丘の頂で緩やかな曲線に
波うつようにゆっくりと風にゆられていた「野いばら」
再び2009年7月にもどりパトリシアを訪れた営業マンが案内された
コッツワルズの丘に群生する「野いばら」
そこでの二人の会話;
「これはあたながうえたのですか」
「わたしがここにきたときはすでにこうだった」
「いつごろからでしょうか」
「わからない、おそらく大昔からでしょうね」
「誰がうえたのでしょうか」
「わからない」
150年前と現在を「野いばら」が結んでこの話は終わっている。
私個人としては、ここまでが序文でこれから営業マンと
パトリシアとの現代の愛情を描いてほしかった。
例えば二人の肌にとげさす激しい愛。そしてその愛が
終り、再び風にゆられて「野いばら」は時空をこえて
未来にひろがっていく。
読んでいて、色や香りがするすばらしい小説でした。
皆さんも1575円でしばし現実をわすれてください。
著者;梶村 啓二 出版;日本経済新聞出版社