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超予測力 不確実な時代の先を読む10か条

2018年10月17日 | 経済
超予測力 不確実な時代の先を読む10か条
 
著:フィリップ・E・テトロック 訳:土方奈美
早川書房
 
 
 ナシム・タレブの「反脆弱性」やダンカン・ワッツの「偶然の科学」によると、予測というものは外れるものだ、ということだ。実際に過去にシンクタンクや投資関係者や政策決定者がどのような未来予測をたてたかを追跡してみたところ、その正答率は「チンパンジーがダーツをやってるがごとくの精度」ということだった。
 この名言を放ったのが本書の著者テトロックである。
 
 これにはいくつか教訓がある。
 ①過去のデータをいくら分析してもその先の予測はできない。ーーランダムウォーク理論
 ②自信たっぷり予測する輩はいっぱいいるが、その予測があたったのかどうかが検証されることは現実社会にほとんどない。
 ③当たるか当たらないかよりも「予測がある」こと自体に価値(値付け)があるのが現実社会である。
 
 さらにつっこんでいくと、
 ④人間というのはさも予測をしていたかのような「後知恵バイアス」がある。ーーオレははじめからわかってたんだ理論
 ⑤自分に都合のよい将来像をえがく予測を重宝する。
 ⑥正確性を追求するあまりに歯切れが悪い物言いよりも、すぱっと断言してくれる物言いを人は好む。--科学者の説明に不信感を感じやすい背景
 ⑦発言影響力がある人ほど、客観的な予測の検証を嫌がる。ーー中世のベテラン医者が、臨床実験を拒んだというエピソード
 
 つまり、予測というのは原則として「無理」なのだが、「似非予測」を依り代として必要とするのがわれわれ人間社会、なのである。古代からそれは変わらない。
 もちろん、ここでいう予測とは社会予測のことである。天体運動のように物理に即した予測のことではない。人間社会は物理原則では動いていないにもかかわらず、なにか物理学的なメカニズムがあるように錯覚してしまう、期待してしまうことこそが罠なのだ。
 
 しかし、一般とくらべてそこそこ精度の高い予測をたてられる人種が存在する。それが本書の「超予測者」だ。
 「超予測者」は、決して投資の専門家でも、経済学者でも、占星術師でもない。彼らの所属は様々である。共通しているのは「思考パターン」だ。本書は、超予測者の思考パターンを解析している。
 
 
 結論だけいうと「自分は間違っているかもしれない」と常に疑って謙虚に検証を重ねること、である。つねに最終判断は保留しながら認識のベータ版を更新していくという態度である。
 これの反対は「おれがこう思うんだから間違いない」という自信過剰である。年季のはいったトレーダーや学者こそがこれに陥る。
 
 原則論はこれで、あとはフェルミ推定のセンスがあるとか、事態や事象の程度を定量化するセンスがあるとか、一般事例と特殊事例を識別するセンスとか、他人の話を素直に聞くとかあるのだが、ベースにあるのは「自分は間違っているかもしれない」という態度だ。これが予測の精度を上げる。
 
 なるほど。「予測は間違うものだ」というのが定理だとすれば、まずは自分は間違っているかもしれない、という前提を持つことで少なくとも「間違いの誤差を下げる」ことはできる。つねに最新情報をチェックし、自分にはない視点をもつ他人からの意見をとりいれ、より確度の高い法則を物差しとしてそこから類推しようという謙虚な態度になる。
 
 
 ただ、まあ。最初に書いたようにこの世の中は「似非予測」が依り代なのだ。
 現実の世の中は「時間も労力もかかる精度の高い予測」よりも、スパッと言い切ってスピーディに結論をくだす「似非予測」を中心にまわっている。人間社会は物理法則ではない。それでも、本書でも最後のほうで注意深く書いてあるように、かつてにくらべ「似非予測」の弊害、「超予測」の価値は認められるようになってきた。AIやIoTによって予測に関する時間やコストが下がってきてもいる。
 
 シンクタンクに勤めていたり、株のトレーディングで生活している人でなければ、こんな超予測力を身につける必要はないかと思う。しかし「自分は間違っているかもしれない」という謙虚な態度と検証を忘れない姿勢は、実生活ではみんな多かれ少なかれ持っているのでのではないかと思う。自分の生活や人生のこの先の予測は、絶対大丈夫!とどんなに空威張りしても、実はどこか心もとない、というのが多くの人の心底の本音ではないだろうか。
 
 

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