読書の記録

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反脆弱性(下) 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

2018年02月08日 | 哲学・宗教・思想

反脆弱性(下) 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

著:ナシーム・ニコラス・タレブ 訳:千葉敏生
ダイヤモンド社


 上巻からの続きである。

 この「反脆弱性」という概念、とんでもなく大事な概念なのか、実は単なるハッタリなのか、まだ十分に腹に落ちていないのだが、いちおう前者だということにしていろいろ考えてみたい。

 
 僕自身をふりかえってみると、たしかに少々のトラブルやストレスにつきまとわれていた仕事や事態のほうが、結局は強いアウトプットになったり、大きな成果になったようには思う。反対にノンストレスに進んだプロジェクトが最後の最後でひっくりかえってリカバーするには時間も技量も足りなかったなんてことはあったように思う。
 入江章栄の「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経済学」によると、事業の成功の条件は、「最初の間に小さな失敗を続けること」なのだそうである。どうもこれは科学的(統計的ということだろうか)に立証されたことらしい。つまり「最初から成功」したものはないということだ(最初から成功したものは途中で大失敗に転じる)。
 「最初の失敗」というのは、タレブ言うところの「いじくりまわし(アンカリング)」に相当する。試行錯誤の一環である。

 「最初の失敗」とか「いじくりまわし」というのは、要は経験値を増やすということだと思う。こんなときはこうなる、あんなときはああなる、という、様々な選択と結果のシミュレーションみたいなものだ。またこれをやっておくことで、精神的な余裕もうまれてくる。
 むしろ、なんか幸先よくなんのトラブルもなく事態が進んでしまうとしたら、それは警戒したほうがよい、ということになる。


 普段の仕事か日常の行いにおいてはまあそんなことだが、では人生100年と言われるこの時代において、長期的に考えると、どうだろうか。

 最近、よく警告されるのが「その仕事を続けていて大丈夫か」ということである。よく30年以上君臨する会社はないとか、いつまでも通用する技術はない、とか言われる。自分が所属している会社の中でのみ通用するスキルや経験は、会社が傾いてしまって外に職を求めたとき、本人の会社で得たスキルの価値はゼロになる。以前の会社でどっぷりはまって居心地よい状況をつくればつくるほどそうなる。これは「脆弱性」だ。
 そうすると、会社の中にいて、これは「一般のビジネススキルとして、あるいは人間のスキルとして必要なもの」と、これは「単にウチの会社内や業界においてのみ通用するスキル」というのを見極めていく必要があるということだ。ただし後者をないがしろにしすぎると、そもそもその会社で評価されない、ということになる。つまりその限りでは脆弱ということだ。しかしそこを耐え忍んで続けるほど、長期的には「反脆弱性」を身につけるということになる。
 最近の若手社員はこのあたりはさっさと見極めてしまい、ベテランから影で舌打ちされているわけだが(つまりベテランからみて若手社員は「脆弱」なわけだが)そういう意味では若手社員のほうが「反脆弱性」があると言えるかもしれない。しかし僕もなんだかんだで40代も後半になってしまい、気が付けば今の会社も20年近く居座ってしまっている。

 さらにもっと気になるといえば、”サラリーマン”という自分自身の「ビジネスモデル」もまた、「脆弱」かもしれない(タレブはもっとも反脆弱性のある職業として「売春婦」を挙げている。まあそうだろうなあ)。日本語しか使えないというのも「脆弱」かもしれない。貯金が「定期預金」しかないというのも脆弱かもしれない。そもそも貯金が「円」しかないというのも「脆弱」かもしれない。住むところがマンションの1室しかないというのも「脆弱」かもしれない。
 こうやって考えると「脆弱」だらけだなあと思う。たまたま今のところは社会もぼくが勤めている会社もなんとなく平和に機能しているのでそれなりにうまくいっているわけだが、「反脆弱性」の理屈でいえば、これこそが死亡フラグではないか、と思ってしまうのである。
 いま、ここで少々の苦労や損失があってもすべきなのは、上の死亡フラグの反対にチップを張っておくということか。つまり、手に職をつけておく、英語を勉強しておく、資産運用をしておく、外国通貨で貯金をしておく、別に土地と家を用意しておく、ということになる。
 ほぼ新たな人生をもうひとつ用意するに等しいわけだ。人生メソッドをひとつしか持たないことがそもそも「脆弱」ということだ。なんということか!



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