読書の記録

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Newton別冊 ゼロからわかる人工知能完全版

2023年04月03日 | テクノロジー
Newton別冊 ゼロからわかる人工知能完全版 ついにはじまったAI時代 社会や暮らしは急速に変化する
 
NEWTON PRESS
 
 
 chatGPTの珍妙な解答を、要は茶化したわけだが、これはヤセ我慢みたいなもので、一方ではやはりchatGPTの台頭は将来ヤバいことになりそうだとも思っているわけである。
 
 chatGPTをはじめとする生成AIは、Google一強だった検索エンジンの市場を覆すと当初は言われていたが、むしろスマホ登場のインパクトに匹敵するとみなす向きも出てきた。スマホ登場以前と以後は、我々のライフスタイルも様々な商品サービスのありようもまるで変ってしまったが、つまりそれくらいの社会の非連続変化をつきつける可能性が強いわけだ。
 
 これはいつかきた道である。つまりデジタルリテラシーと呼ばれたもの、かつて30年前あたりから綿々と時代は次々とデジタルを使える人と使えない人に峻別してきた。パソコンを使える人と使えない人、電子メールを使える人と使えない人、インターネットを使える人と使えない人。ブログやRSSを使える人と使えない人、スマホを使える人と使えない人、SNSプラットフォームサービスを使える人と使えない人・・ chatGPTをはじめとする自動生成AIも、この枝分かれポイントに入ってくると言えそうだ。それも大きな分岐点として屹立しそうである。
 
 齢50代の自分としては億劫この上ない。
 しかし、この進化はぜったいに留まらないことは様々な識者もずっと前から言ってきたことだし、このブログでも「インターネットの次に来るもの」「拡張の世紀」「ホモ・デウス」「シンギュラリティ」など、何冊かの本をとりあげてきている。
 だけど、実際に目の当たりにするとやはりビビるというか、いろいろな現状維持バイアスが頭の中を駆け巡って抵抗する。
 
 多くの企業では、機密性の保持の観点から業務で自動生成AIを用いるのは制限する方向にあるらしい。イタリアでは国レベルでchatGPTの利用を制限したという報道も見た。日本の行政も、すぐに規制を敷こうとする傾向がある。
 しかし、そのように制限をかけていこうとしても、やはり大筋ではこの流れには逆らなえいだろう。生活や仕事に自動生成AIがものすごいスピードで入り込むという前提で、我々はどうサバイブしてシノギを削るかを考えた方がいい。
 
 というわけで、基本的なことのおさらいという意味で本書をゲット。2022年2月の刊行なので、この手のテーマにしては昔すぎる気もするが、目先のchatGPT狂騒の波に便乗してセンセーショナルに書かれたものよりは冷静で良心的だろうと思ってこれを読むことにした。いまWeb上やSNS上ではさかんにchatGPTを上手に使う方法の記事や投稿が氾濫していて、chatGPTのロジックに合うような上手な尋ね方をすれば、かなり巧みに答えを返してくるというハウツーやhacksががいろいろ紹介されているが、これらの実用編の前にまずは生き越し方をみたいという気持ちがある。
 
 以下、本書をふむふむと読んで、気になるところをピックアップした。長くなるが自分の備忘録のためである。
 
  1. 今日のAIは「特化型AI」と分類されるものであり、「汎用型AI」の開発はまだまだである。「汎用型AI」とは「想定していない未知の課題に対応できる」ものである。

  2. ディープラーニングには「過学習」という学習用データに特化しすぎて未知のデータに対応できなくなる問題がある。(耳の長い猫の画像を見ると「猫」と認識しない等)それを避けるため「ドロップアウト」という学習の間引きみたいな処置が行われる。

  3. 機械学習には「教師あり学習」と「教師なし学習」がある。かつて囲碁の世界名人を破ったことで有名になったAlphaGOは「教師あり学習」で、定石をとにかく食わせていた。しかしAlphaGOよりはるかに強いAlphaZEROは「教師なし学習」。教師なし学習は、どこに正解があるかを初期設定時に入力するルール特性と、その後の自己学習の積み重ねの中から見つけていく。「完全情報」である限り、AIは究極まで突き詰める。囲碁、将棋、チェスはみんな果然情報ゲーム。

  4. まともに説明できないことはプログラムに書けない。逆に、まともに説明できるものは絶対にAIのほうが人間に勝つ。

  5. 普通は、情報が不完全ならば「わからない」が正解だが、裁判のようにどちらかに決めなければならない「不完全情報」をどうするかに、AIの論理プログラミングを挑戦させている。
  6. 雑談をするAIがある。雑談のためのアルゴリズムを学習している。雑談とは「会話を意図的に引き伸ばす行為」で、そのためのポイントは
    ・新しい話題を提案する
    ・相手に質問する
    ・相手の内容を肯定する
    ・単純なあいずちをする
    にあるという。逆にいえば、雑談が苦手な人間ってのもいて、それは上記のセンスが不足しているということである。

  7. ディープラーニングも、外部からの情報を学習する。ということはフェイクニュースも学習対象のひとつになる。AIにどう公平性や倫理性を実装させるかは永遠の課題。

  8. AIに奪われる仕事・奪われない仕事。その仕事の内容がデジタルっぽいかどうかはあまり関係ない。ルーチンな仕事、過去の経緯や経験や実績をもとに次の一手を決める仕事はAIにとってかわられやすい。人の心の機敏に関わる仕事はAIが代替になりにくい。

  9. この手のものは進化の感触がわかりにくい。ある時期から爆発的に進化のスピードが速まり、直線的に進化した場合を上回ったと思ったら、あっという間に抜き去る。

  10. 人間は、ひとつの情報をもとに想像していろいろな考えを作り出すことができる「知識のリサイクル」型であり、知識のネットワークを俯瞰する「メタ認知」のシステムが得意である。一方でAIは情報をいっぱい与えておく必要があり、そのいっぱいの情報の中でいろいろ試して一番いいのを覚えていく学習スタイルをとる。

  11. ディープラーニングはなぜそう判断したかの「説明」が出ない。人間としてもわからない。しかし説明がないまま結果を受け入れろという人間社会は難しいか。

  12. トロッコ問題をAIにまかせるには限界がある。そこは保険の適用という話になる。保険とは、リスクがあることを社会が容認することと同義である。
 こうやって書き写していて思ったのは、たとえば、GPTにこのムックをまるまる一冊読ませて、僕の興味ありそうなところを箇条書きに抜き出せ、といったら、これらが出てくるのだろうか。僕自身の書籍の購入歴とか、このブログに過去書いてきたことなどから、そういうことを類推するのはそんなに難しくないような気はする。長文の要約はchatGPTの得意のするところとされているが、ユーザーにカスタマイズした要約(目的に即した情報編集とでもいうべきか)ができるようになる日も近そうだ。
 それはともかく、ここで挙げたものをさらに要約すると、人間のAIに対してのサバイバルポイントとしては

  •  非完全情報に持ち込む
  •  予測不能な域に持ち込む
  •  少ない情報領域に持ち込む
ということになるだろうか。その領域とは
 
 「人の心の機敏を相手にするダイアローグ型」
 「少ない情報を、異なる分野から補完、類推するメタ認知」
 
 というところかもしれない。突き詰めると「初対面の人と仲良くなれる力」である。なんと昭和のおかんこそが、対AI最終兵器なのだ!
 
 こうやって原点を見つけていくと少し安心もしてくるが、その一方で、野崎まどのSF「Know」にあるように、人間が予測不能と勝手に思っているだけで実はAI的には十分に予測可能なものは非常に多い。バタフライエフェクトだって理屈の上では予測できてしまうのである。僕が最もびびったAI関連の論考の中にこんなのがあった。なぜAIがディープラーニングでこんなとてつもないところに到達できているのかは、実は我々が「演繹的」だと思っていたものが「壮大な帰納法的の果てに行き着くことだったのではないか」という指摘だった。つまり、我々が演繹と思っていいたものは帰納だったということである。
 演繹こそは、人間が誇るアート型センスかと思っていたのだが、もし指摘の通りだとしたらえらいこっちゃである。
 
 というわけで、悶々としていることはいっこうに変わらないが、今度は実践編を考えてみる次第である。

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