読書の記録

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春のソナタ

2017年11月30日 | クラシック音楽

春のソナタ

三田誠広

集英社

クラシック音楽を題材にした小説というのはけっこうある。

最近だと直木賞をとった恩田睦「蜜蜂と遠雷」が大ヒットした。同年に本屋大賞を受賞した宮下奈都の「羊と鋼の森」もピアノの調律師の話だ。推理小説だと、中山千里の「さよならドビュッシー」にはじまる一連のシリーズがある。

 

僕が好きだった小説は藤谷治の「舟に乗れ!」だ。これは高校生が主人公の単行本全3巻。なにかの賞をとったとは聞かないが、佳作だと思う。高校生たちの青春音楽ものだが、登場人物たちの役割分担(?)がけっこう巧みで、舞台かドラマを見てるみたいだし、物語の展開もなかなか切ない。

 

クラシック音楽が出てくる小説としてむかしからよく知られたものでは、三田誠広の「いちご同盟」がある。映画化もしたようだ。ヒットしたマンガ「四月は君の嘘」でも引用されていた。引用どころか「四月は君の嘘」は「いちご同盟」のオマージュなんではないか、というくらい、通底に似たものを感じる。

 

三田誠広にはもうひとつ「春のソナタ」という似たような小説がある。「いちご同盟」の主要登場人物はみんな中学生だが、「春のソナタ」の主人公は高校生。そして周辺に出てくる人物は大人たちである。「いちご同盟」に比べると、「春のソナタ」のほうが鬱屈度が強いというか、重ためであるが、その差は「大人たち」にあるのは言うまでもない。オトナになるということは鬱屈になるということだ。そのためか「春のソナタ」は飲酒のシーンが多い。それも美味い酒ではなく、現実逃避の酒、自分を奮い立たせるための酒、そして慰めの酒ばかりである。

 

主人公の直樹くんは高校生だからもちろんお酒は飲まない(ちょっと飲むシーンはあるが)。酒に逃げ、酒から逃げられないオトナたちを見ていくことで,彼は真理をつかんでいく。

 

ところで、「蜜蜂と遠雷」も、「舟に乗れ!」も「いちご同盟」も「春のソナタ」もみんな主人公は若い。10代だったり20代の前半だったり。これにマンガの助けも借りると「四月は君の嘘」も「のだめカンタービレ」も「神童」も「ピアノの森」も、みんなみんな登場人物は若い。

クラシック音楽というと、趣味性が強いというか、高尚なイメージもあってまるでオトナの嗜みのようにも見えるが、実はクラシック音楽は青春ものと相性がよい(これがジャズだとそうはいかないのがミソ)。

クラシック音楽というのは、とくに演奏者にとっては身体能力がものをいう世界なので必然的に若くなる、とか、部活動や学校行事に結び付きやすいというのもあるが、クラシック音楽というものが妙に頭でっかちで中二病を誘発しやすいというのも多いにあると思う。

 

 


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