世界のエリートは大事にしないが、普通の人にはそこそこ役立つビジネス書
林雄司
扶桑社
これを面白いと思うかどうかである。
本書は、これを面白いと思う人のための本である。これのツボにはまらない人は、本書はなんの役にも立たないだろう。そもそもこれビジネス書なのか?
僕は、これを読んで「タモリ」に似ているなと思った。タモリの芸や観察眼に通じるところが3つある。
まず、ここにあるのは、予定調和の破壊だ。妙に定型化されたカルチャー(パワポの提案書もそのひとつ)をあえて用いることで、その予定調和のおかしみを出すといったところか。つまり、パロディとかパステューユのたぐいだ。タモリの牧師さんネタやフォークソングネタと同類である。
二つ目としてとりあげるネタが、へんに日常的でかつマニアックだ。興味ない人には心底どうでもいいことを、真剣に追求する。スマートスピーカーの名前を自分の母の名前で登録して呼び掛けてみるとか。また、その追求する姿がなんだかおもしろおかしい。これもタモリっぽい。そもそも「デイリーポータルZ」そのものが、タモリ倶楽部っぽいとも言える。この絶妙な生活との距離の近さが、成功のための確信犯であることは本書でも触れている。
三つ目に、この著者の「力まない」という一貫した態度。これもタモリである。タモリには「やる気のあるものは去れ」という名言がある。
この「力まない感じ」が、実はこの本で紹介されているティップスにも表れていて、それが相手にも好感や信頼をよび、事態をうまい方向に転がしていく。たとえば、企画書に出てくる図表をあえてここだけ手書きにしてみる、とか、メールでの仕事のやりとりの文言にあえて「!」とか「ですー」とかすこしヌキをいれてみるとか(このテクニックは「伝える技術」でも紹介されていたな)。
つねに上機嫌でありたいものである。