読書の記録

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世界のエリートは大事にしないが、普通の人にはそこそこ役立つビジネス書

2017年12月01日 | ビジネス本
世界のエリートは大事にしないが、普通の人にはそこそこ役立つビジネス書
林雄司
扶桑社
 
 作者はニフティの人気コンテンツ「デイリーポータルZ」の編集長。
 ペリーがパワーポイントの提案書を携えて日本にやってきたら。その名も「開国のご提案」。
 これを面白いと思うかどうかである。
 本書は、これを面白いと思う人のための本である。これのツボにはまらない人は、本書はなんの役にも立たないだろう。そもそもこれビジネス書なのか?
 
 僕は、これを読んで「タモリ」に似ているなと思った。タモリの芸や観察眼に通じるところが3つある。
 まず、ここにあるのは、予定調和の破壊だ。妙に定型化されたカルチャー(パワポの提案書もそのひとつ)をあえて用いることで、その予定調和のおかしみを出すといったところか。つまり、パロディとかパステューユのたぐいだ。タモリの牧師さんネタやフォークソングネタと同類である。
 二つ目としてとりあげるネタが、へんに日常的でかつマニアックだ。興味ない人には心底どうでもいいことを、真剣に追求する。スマートスピーカーの名前を自分の母の名前で登録して呼び掛けてみるとか。また、その追求する姿がなんだかおもしろおかしい。これもタモリっぽい。そもそも「デイリーポータルZ」そのものが、タモリ倶楽部っぽいとも言える。この絶妙な生活との距離の近さが、成功のための確信犯であることは本書でも触れている。
 三つ目に、この著者の「力まない」という一貫した態度。これもタモリである。タモリには「やる気のあるものは去れ」という名言がある。
 この「力まない感じ」が、実はこの本で紹介されているティップスにも表れていて、それが相手にも好感や信頼をよび、事態をうまい方向に転がしていく。たとえば、企画書に出てくる図表をあえてここだけ手書きにしてみる、とか、メールでの仕事のやりとりの文言にあえて「!」とか「ですー」とかすこしヌキをいれてみるとか(このテクニックは「伝える技術」でも紹介されていたな)。
 
 以上、ゆるーい感じの本書だが、それらの中で「つねに上機嫌でいる」という指摘はかなり確信をついていると思う。優秀な人は怒らないと喝破したのは「思考の整理学」でおなじみの外山慈比古だが、実はアドラーも宮沢賢治も人生の秘訣として言っている。タモリも滅多に怒らないことでは定評がある。
 つねに上機嫌でありたいものである。

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