美しき旋律 麗しき雑音

忘れるための記憶/覚えておかないための記録

ボクは森に住む妖精

2006-10-20 23:53:59 | 詩・散文・ショートストーリー
ボクは森に住む妖精だ。背中にはもちろん羽が生えている。左右に2枚ずつ。いわゆる昆虫っぽい羽なので、雨は苦手だ。

ボクは森に住む妖精だ。ほぼ森の中で暮らして入るが、時々は街へ出て、繁華街を歩いたりもする。一番近い街の商店街では、ダミ声のおじさんが魚や野菜や肉を売っている。いったいどこで買ったのか、動物柄の上着に、ぱっつんぱっつんのスパッツを履いたおばさんが自転車で暴走している。若い男女は基本、ジャージを着用している。もちろん二人とも髪の毛の色はキンキンの金髪だ。誰も彼も原色が眩しい服を着ている。森では、みんな目立たぬような色で過ごすのが普通なのに、この街では目立つのが当たり前のようだ。

ボクは森に住む妖精だ。森でのんびりしている時に、たまに街の人間がやってきて、ボクらの森で好き勝手に振舞う。穴を掘ったり、木を燃やしたり、動物たちを殺したり。そんな状況を目にするたび、ボクは悲しい気持ちになってしまう。

ボクは森に住む妖精だ。よく天使と間違われるけど、天使の羽は羽毛で、ボクら妖精の羽は昆虫っぽい羽だ。そこんとこよーく認識しといてほしい。

ボクは森に住む妖精だ。森に住んでいるからって、苗字は「森」ではない。森に住んでるからって、森が全てとは思わない。森に住んでるからって、死ぬまで森にいるつもりはない。森に住んでるからって、いわれのない差別を受ける筋合いはない。森に住んでるからって、バウムクーヘンが好きなわけではない(プリンは好きだ)。森に住んでるからって、襟裳岬も冬のリヴィエラも越冬ツバメも歌えるわけではない。

ボクは森に住む妖精だ。今日も森の中を歩いたり、木々の間を飛んで回ったりしている。花の蜜を吸ったり、可愛い娘ちゃんのおっぱいを吸ったりもする。妖精っていうと、なんだか子供のイメージがあるらしいが、ボクはもうすぐ40歳だ。来年は厄年なので、門戸厄神に厄払いに行くつもりだ。

今日は日中は曇りがちだったけど、夕焼けはきれいだったなあ。