100年

2006-03-27 13:50:13 | Notebook
     
26日に誕生日をむかえて、家族と食事をした。だいぶ傷んだ両親と、あいかわらずな妹と雛鳥のような姪。
あんた何歳になるの? と母に訊かれて、44だよと答える。そうして息子のほうから冗談で「あれから44年にもなるなんてねえ」と添える。産まれた本人は知りもしないはずの「あれから」。

ほぼ半世紀の年齢の方々ならお分かりだと思うが、これくらいの年月を生きてくると、50年くらいの年月というものが、だいたいの感覚として掴めてくる。それは多分に幻想をふくんではいるけれども、自分の生い立ちと照らし合わせて、だいたい、そんなもの、というふうに感じられるようになってくる。情報化社会のさまざまな影響のおかげで耳年増になっているせいもあるだろうが、50年前の知らない世界のことが、想像可能な世界のようにみえてくる。

こうして50年間が感覚的に掴めてくると、今度は100年くらいの年月が、かなり具体的に把握できるようになってくる。50年がこんなものだから、100年はそんなもの。そう思えてくる。100年という時間が、なんとか手をのばせば触われるような、そんなふうに感じられる。

そうすると、西暦2000年と聞いても、えっ、そんなものだっけ、などと思うことがある。
把握可能な(気がする)100年が、たかだか20回。悠久の年月が、移行可能な範囲内にみえてくるから不思議だ。40歳でこうなのだから、80歳、100歳の方々はどうだろうか? 移行可能どころか、もっと身近なご近所のように感じられるのかもしれない。だとすると、すでに生きながらにして仙人のようなものではないか。ひとによってはボケも手伝って、いい感じの桃源郷に住んでいるかもしれないな。2000年を行ったり来たりの自由自在。

妹がふと、男のひとの厄年って何歳だっけ? と訊く。知らないと答えると、彼女は尊敬すべき素敵なお兄さまにむかって「でもシンちゃんは毎年厄年みたいなもんだね」と言って、ひきつったように笑う。やれやれ、なんなんだ? おだやかで暖かく素朴な性格のくせに皮肉がきつくて、ひとを見る目がつめたいことがある。相手の気持ちがまったく見えていないのは父親ゆずりで、これは父方の血筋のようにみえる。何度か会ったことのある叔父さんも、人情があつくて感じやすいくせにデリカシーを欠いていて、おなじものを感じさせた。おしつけがましくて、独りよがり。そういう強い性質がじっさいに子どもたちに引き継がれて、現実に家族を壊し不幸を生んでいるのだから、まったく笑い事ではないのだが、なぜ誰も気づいていないのだ? わたしは自分のそういうところをすこし直すだけでも、そうとうの苦労をしたものだ。

わたしの母がじつは自殺をかんがえていた時期がある(目を見てすぐにわたしは悟った)ことにもまだ気づいていないのだろうか、父よ? わたしの母が異常な潔癖性になり、その後うつ病のような状態になっている、その理由のひとつが自分にあることにさえ気づいていないのだろうか、父よ? やれやれ。
わたしはかつて、妹の夫にこう言ったことがある。へんな家族ですみません。その言葉の意味もまだ気づいていないのだろうか? あのときあなたの夫はとても失望していたのだぞ。なんにも反省しないまま離婚してしまったのだろうか、妹よ? そうでないことを祈るが。

やれやれ。

父方の血筋のなかの、こういう性質はいったいいつごろから始まったのだろう。曾祖父は五島列島の漁師だったそうだ。でも船酔いする漁師だとか(笑)。網元をつとめていたこともあり、造り酒屋をいとなんでいたこともあったらしい。祖父は満州で満鉄に勤めていた。
父の血は、いったいいつからこうなのだ? 200年前から? それとも300年? その背景にはそれぞれの時代と、五島列島の風俗と、家族が貧乏だったことや、いろいろな原因があるのだろうな。だとしたら、もっと以前から続いている性質なのかもしれない。わたしは500年、1000年をさかのぼっていった。無数にいらっしゃるご先祖さんよ、なにか反省し残したことがあるんじゃないの? 正直に、お言い。あなたたちのご子息とその娘さんは、たとえ目の前で他人が泣きながら腹を立てていても、へらへら笑っているような人間ですよ。あなたがたの目の前で家族が泣いたことはありませんか? あなたといると悲しくなると言われたことはありませんか?

こんなことを考えていたら、わたしはなんだか、ひどい目眩におそわれたような気分になった。悠久の過去へのバッドトリップ。やれやれ、すてきな誕生日。恍惚の痴呆桃源郷にたどりつくのはまだまだ先のようである。


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2 コメント

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Unknown (kaze)
2006-03-28 19:37:37
ええ文章になってまっせ、お世辞抜きに。

いや、う~ん、少しはお世辞入ったかな。まあ、それもよかろということで。

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Unknown (SleepyShin)
2006-03-28 21:46:03
ありがとうございます。でも、うーん、ちょっと攻撃的になってしまったので、書き直すかも。
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