2009-04-14 07:21:47 | Notebook
    
あなたがいなくなっても、こうして今年も桜が満開だ。

とうに見るひとがいないのに、春になると桜が咲く。夢のように不思議な感じがする。

わたしは独りここにいて、桜の樹を見上げる。

きっとわたしがここにいなくとも、桜の花弁は舞うのだろう。

わたしは眼をひらく。

この眼をひらくのが、わたしでなかったとしても、きっと見るのだろう。

この身体の持ち主が、わたしでなかったとしても、この胸は熱く打ち続けるのだろう。

ここに誰もいなかったとしても、この腕は何かを求めるのだろう。

わたしがこの世にいなくとも、この眼は開き、見るのだろう。

夢のような、わたしよりも、風は確かに吹くのだろう。

古い公案に、こういうものがある。

「降りしきる雪が、山脈を白くつつむ。

しかし、ある山の頂にだけは雪が積もらず、山肌はむきだしになっている」

わたしの考えた答えは、こういうものだ。

「そこに『わたし』がいるから、雪は積もらない」

今年も桜は咲き、花弁は降りしきる。