よく考えてみると、美男美女というのは不思議なものだ。たまたま知り合った女性が、たまたま美女だったというだけのことなのに、足取りが軽くなってしまうのは何故なのか?(笑)
どちらかというと美女は苦手なわたしでさえ、このていたらく。じつに不思議なことではないか。
ところで、こんなに狭いクニのなかにも、美女の多いお国柄というのがあるらしい。その土地を訪れると、美女ばかりが街中をうようよ歩いているのだそうだ。しかしそんな話を聞くと、わたしは戦慄をおぼえる。
なぜか。美女ばかりということは、ようするに、不美人が「淘汰」されたということではないか。つまりその土地では、不美人は生き延びることができなかったということになる。美人ではなかったというだけのことで、むなしく命をうしない、消えていった女たち。あとに残るのは美女ばかり。なんとも、おそろしい。
岡山の男性には、四角いサイコロのような顔立ちが多いと聞いたことがある。あごもしっかりしていて、横に縦に四角い頭をしている。なるほど、わたしの知っている岡山の男性はみなそんな頭をしている。これは岡山出身の女性が言っていたことだが、むかしむかし、岡山には「度を超した色好み」のお殿様がいて、そんなお殿様がまるでタンポポのように子種をお飛ばしあそばせられたのだそうだ。だから岡山で生まれる男性のほとんどが、そのお殿様と同じ頭のかたちをしているのだという。へんな話だな、じゃあ、ほかの男性はどうなったのだろう? 岡山は美女が多いというが(その女性も美女だ)、お殿様は面食いだったのだろうか。不美人たちの運命はいったい、どうなってしまったのだ。なんとも奇怪な話ではないか。犯罪の匂いすらしてくるではないか。
ところで男の値打ちはどこで決まるのだろうか。まあ美男であったほうがいいかもしれないが、美醜で決まるようなものでもないような気がする。
男を判断する基準はひとつしかない。そう言った女性がいて、とても印象に残っている。彼女は聡明で愛嬌のある人気者だった。彼女が言うには「男は目」なのだそうだ。
男は目、よ。だって、それ以外じゃ判断のしようがないじゃないの。そう彼女は言ったのだ。
目、ですか? そうよ、目よ。
目だけ、ですか? そうよ、目だけよ。
仕事だけじゃ見えない、生き方だけでは見えない、服装でもないし顔立ちでもない、表情でもない、言っていることはどこまで本当か分からない。だから、目よ。
そのころわたしは、ちいさなちいさな事務所に勤めていて、そこへ彼女が遊びに来た。彼女はおなじ業界の人間だったから、社長にも紹介して、すこし仕事の話などもしたと思う。
その社長は、いつもきちんとした身なりで、人当たりもよく、周りからも信頼されていた。あの男についていけば大丈夫、とまで太鼓判を押すひともいた。そうそうたる男たちが、みな信頼をよせていた。
ところがその女性は、たった1度その社長に会っただけで、こう言ったのだ。
なによ、あの男。シンちゃん、あんな社長で大丈夫なの?
なにか失礼があったのかな?
ぜんぜん。とても優しくて、いい感じだった。でも、あの男はダメよ、シンちゃん。
それからほんの3か月後、その社長は会社の資金を使い込んでいたことが発覚して追放された。
そうそうたる男たちが、みんな騙されていたのだが、まだ当時は20代だったその女性の目はごまかせなかったというわけだ。
男は目。
しかしよく思い返してみたら、女もそうだな。女も目。いまさらそう気づいて膝をたたく、そんなわたしは修業が足りなさすぎて、なんだか馬鹿みたいである。