第65回2019年度の江戸川乱歩賞の受賞作。ハードボイルドミステリー。ヒロイン西澤奈美の職業は企業のトラブル炎上を鎮静化させるという請負人。怪しげなオフィスや店舗が入居する大久保の雑居ビルに住み冷蔵庫にはアルコールと栄養ゼリー、日課は体力トレーニング。話し相手はユキエと名付けたAI。服は黑尽くめ。世間から隔絶した人生を送っている。親を知らず児童養護施設で育ち、はじめて就職した会社の上司から弄ばれるというどん底の経験のなかで、「わたしなんて死んでしまえ」という声を乗り越えて生まれ直します。そして必死の思いで男どもに復讐を果たした彼女に、秘められた胆力を見抜いたボスの原田にスカウトされて、諜報工作に必要なあらゆる技術や格闘術、トレーニング法、専門知識などをたたき込まれます。高いスキルを身につけた彼女だったが、心を開く数少ない相手は同じ施設の後輩で二年前に再会して恋人になり別れた雪江だけです。大手医療薬品メーカー美国堂は、傘下に入れた韓国企業の社長による過去の反日発言がネットに流れ、「美国堂を糺す会」から抗議デモを受け、糾弾される事態に。このトラブル処理のため、「糺す会」に乗り込んだ彼女は、リーダーの”エルチェ”に近づいて徐々に信頼を得る。そして彼から同志として紹介された”ナミ”は、恋人になった姫野雪江だった。・・・トラブルシューター、嫌韓、ヘイトデモ。超タフでかなり非常だが、どこか弱さと危なげさをもつ黑好きのヒロイン。炎上トラブル処理という珍しい現代的なテーマでスピード感ある展開で大変面白かった。ラストの余韻が忘れられずにいます。ヒロインのその後、続編を期待します。
2019年9月講談社刊
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