
医療サスペンス。若き医師・一ノ瀬希世は、母の故郷である伊豆諸島の小さな島の診療所に2年間の限定で赴任してきた。周囲14キロ人口四百人弱のこの島には、ピンピンコロリの健康増進運動が浸透していた。住民たちは皆いきいきと暮らしており、長患いする者もいないという。だが、その運動に関心を抱いていた旧友の新聞記者が来島しての取材を希望していたのに突然失踪。やがて希世は不審な死や陰鬱な事件に次第に包囲されてゆく。・・・
この島で、一体何が起きているのかの謎がミステリー。よそ者を極端に避ける孤島を舞台に,島を仕切る名家や家同士のしがらみをはじめ,古くからの信仰や迷信など少しずつ見えてくる真相には興奮しました。製薬会社が一枚噛んでいることで結末の予想は付きました味方がいない中、若きか弱い女性医師が主人公なので無理だと思ったが少しずつ味方を増やしていく展開も面白かった。結末のドン伝返しがなく残念。
2015年3月新潮文庫刊
親父が死んでくれるまであと一時間半。もう少しで巨額の遺産が手に入る。大崎正好はその瞬間を待ち望んでいた。すい癌宣告をうけ療養中だったが7年前突然の失踪。異母兄と姉の3人で「失踪者宣言の申立書」を7年1か月前に家庭裁判所に提出し失踪宣言を待っていた。しかし突如、本人名義のブログが更新される。『私はまだ生きている』父しか知り得ない事実、悔恨、罪などが次々とアップされ明かされていく。・・・
誰が仕組んだのか?財産の独り占めを狙う中の悪い姉・兄、父の手伝いに雇った女愛子たちの遺産争い。その裏事情とブログの更新で展開されるのだが終盤直前に何のインパクトもない登場人物が突然現れて実はその人物が事件の鍵を握っているっていう展開で折角のトリックが最後は興醒め。人物描写も中途半端。金はあの世には持って行けないんだから・・・。
2019年8月集英社刊
2015年第14回このミステリーがすごい!大賞受賞作。
依頼人のもっとも大切なものを報酬に、大金をもたらす株取引の天才「黒女神」二礼茜。助手を務めるのはメガバンクに失望した元銀行員百瀬良太。金に困っている人を助けたいという思いでメガバンクに就職したが、その内情に失望して三年で退職した百瀬良太。良太は、零細企業を営む兄の金策の過程で“黒女神"、二礼茜と知り合う。茜は目的のためなら手段を選ばない株取引のエキスパートで、依頼人が本当に大切に思っているものと引き換えに大金をもたらす。兄が必要な資金を得るかわりに、良太は茜の助手を務めることとなった。社屋建設費用の借金に苦しむ老舗和菓子屋社長、薬物中毒で死亡した人気歌手の娘の死因を隠そうとする父親など、さまざまな人物が茜を訪ねてくる。茜はなぜこのような活動をしているのか。金を通じて人の心を描き出す。やがて二人は壮絶な経済バトルに巻き込まれていく。
どれも株取引を通じて問題を解決していく話リアル感のない展開だったが何故か読みやすかった。「傘を持たない人に傘を貸せる人になりたい。」2人の心意気は多いに同調する。いつも筋トレのヒロイン茜がいい。
2016年1月宝島社刊
曙医科大を放逐され、貧乏病院で老医師の代替医として勤める「医者探偵」宇賀神晃が医学会の伏魔殿の謎に挑む。曙医科大学が開発した認知症治療薬DB‐1は、同大付属病院が実施した臨床研究で画期的な成果を上げた。重症患者三人が、ほぼ完全に脳機能を取り戻したのだ。国際的製薬企業のサニー製薬も権利獲得に乗り出した。ところが、宇賀神とは医学生からの親友の医師明石が自殺した。スクープの為には取材協力者も欺くやり手で長身の美人中央新聞社会部の医療担当記者新郷美雪、お喋りだが行動力もある病院給食サービス業者最大手の女創業者・現会長瓦田春奈と共に事件の裏に隠された驚くべき策略の謎を解くべく行動する。アルツハイマー患者と家族の間に奇蹟の時間を作り出す。その結果が死であってもその薬は患者家族にとっての貴重な薬なのか悪魔の薬なのか読む人に選択を迫る。続編宇賀神探偵の続編が期待できそうか。?
「論理って、誰かが決めるものではないと思ってる。いろんな人の思いや事情がぶつかりあって、落ち着く所に落ち着いていく。・・・結論が出るまでには、長い時間がかかる」(P282)
2019年3月講談社文庫刊
静岡県浜松中央署管内で小学四年生の村木千夏ちゃんが誘拐された。犯人は、千夏の母・清美に身代金一億円を持って、浜松駅からタクシーに乗車するよう命じる。静岡県警は総力戦でのぞむが、身代金は奪われ、千夏は無残な遺体となって発見された。県警の日下悟警部補は、千夏への仕打ちから、村木家に強い恨みを持つ者の犯行ではないかと推理するのだが。・・・
指定された身代金受け渡しの日は「浜松まつり」の凧たこ揚あげ合戦が行われ多くの見物客が訪れる祭り当日が指定され犯人よる身代金奪取の奇策が展開される。消えた身代金に仕掛けられたGPSの行方、巧妙にすり替えられた身代金の中身等、警察による犯人探し、犯行の動機と行われた犯行のトリック潰しの捜査が描かれる。冒頭に示される18年前の事件の新聞記事の関わりの伏線が結末の意外な犯人に繋がる。「絶対に不可能な事態を最初に設定して、それを現実の諸条件の中で可能にする筋道を見つけ出す。さらに静岡県という地理的条件が」という著者の目論見はよくある誘拐事件の中での特徴とミステリーの妙味を堪能させてくれた。
2018年9月小学館刊
美形覆面調査員・二ノ宮千佳、降臨。助手の丹谷タケルを従えて人呼んでレシピ探偵。ミシュランやゴ・エ・ミヨなど名立たるガイド誌から極秘裏に調査を依頼され、店の実態をつまびらかにするのが本来の仕事らしい。3つの連作短編「星の魔力 ホロホロ鳥のロティ」・・・・、依頼人はミシュラン本社のミシュランガイド担当幹部。最高の味とサービスなのに、酷評され続ける星付きレストランの実態を探る。「カリスマ 究極の煮干し系醤油ラーマン」・・・依頼人は大手外食チェーンの開発担当。行列ができる人気ラーメン店「すずらん」の味の秘密を探ってくれという。「エトランジェ 街角のフライ」・・・依頼人は女性起業家。子供の頃に祖母が連れて行ってくれたお店で食べたフライのようなものをもう一度食べたい。揚げ物料理だけど、天ぷらやトンカツとは違う。洋食屋のフライのような、優しい味。あれは一体何だったのか?懐かしのあの料理を探して・・・。
五感を震わせる究極のグルメ譚。料理に纏わる人間模様を魅力的なキャラクターたちが深掘りしていく。幸せとは何か?読後感が良好、続編も期待できそうな・・・展開。
2019年7月幻冬舎刊
山岳小説前作「ソロ」の続編。前作で山岳界において“ヒマラヤに残る最後の課題”と言われていた一つ、ローツェ南壁の冬季単独登攀を達成し、トップクライマー入りした奈良原和志はアマ・ダブラム西壁に挑んでいた。次の挑戦の武器になる新製品のテストも兼ねているためソロを封印、登山経験もあるスポンサー企業ノースリッジの若手技術者柏田を伴ってのものだった。難しい登山ではなかった。だが落石で柏田が死亡、和志も大怪我を負う。ネット上で起きる誹謗中傷と柏田の両親からの起こされた訴訟。気力を失った和志に、登山の師であり、癌で余命宣告を受けたにも拘わらず献身的なサポートを続ける磯村賢一は、リハビリに付き合う中、「だったら、山をやめたあと、おまえはなにをして生きるんだ。山なしで、生きていけるのか」とあえて「冬のK2」のソロ登頂を提案してきた・・・。
困難への挑戦に対し、邪魔が入りトラブルも起こるが、仲間との信頼をもとに誰かのために夢を背負って登る姿に感動。緻密な山岳風景描写、臨場感ある内容で楽しめました。
「人生の最後は誰だって同じだ。生きているあいだになにがあろうと、いいことも悪いこともすべて無に帰する。あの世に持っていけるものなんてなにもない。だからおれはきょうを全力で生きることにしたんだよ。この世で生きていられる時間を、一分一秒でも無駄にしたくないからな」(p80)「ただ生きるのではなく、自分が生きたいように生きること、そうして生き切った人生こそ、彼にとっては価値のあるものなのだ。その選択が正しかったかどうかを決めるのは、このあと何年生きたかではなく、どう生きたかなのだろう」(p344)
2019年6月祥伝社刊
女とは怖い生きものであると著者はいう。その美貌と肉体で男を虜にし、巧みな話術で財産を奪い、魂さえも我がものにしようとする。世にも恐ろしき六人の女性を描いた連作短篇集。母子家庭の女が男の肉体を目的に肝臓を手に入れるために男に近づく・・・「あなたがほしい」。性技を尽くして何人もの男から大金を騙し取り、練炭自殺にみせかける・・・「婚活の行方」。意外な真犯人、その結末の衝撃さ・・・「さがしもの」この結末も怖い・・・「長い手紙」生々しいインパクト大の怖さ半端ない・・・「最後の恋人」仕事を強要したマタハラ上司に復讐する・・・「壊れたおもちゃ」。の6篇が収録されている。どれもが実際にあった事実かもしれない怖さがある。
2019年6月双葉文庫刊
移植手術、安楽死、動物愛護等「生命」の現場を舞台にした5つの作品から構成される連作医療短編ミステリー。“移植手術"は誰かの死によって人を生かすのが本質だ。新米医師の葛藤のうちに意識不明の患者が病室から消えた・・・『優先順位』。生きる権利と、死ぬ権利。“安楽死"を願う父を前に逡巡する息子は思う「なぜ父はパーキンソン病を演じているのか」・・・『詐病』。過激な動物愛護団体がつきつけたある命題。「動物の命は人間より軽いのか?」養豚場の母豚の胎内から全ての子豚が消えた謎・・・『命の天秤』。医療ジャーナリストが追及する真面目な学術調査団が犯した罪・・・『不正疑惑』。この手術は希望か、それとも絶望か・・・『究極の選択』。
最終編を除く四編は、最終編のための断章各編の結論が覆り、各編との繋がりが見えてきる構成。ミステリーとして楽しむとともにあまり知らない分野の話で勉強になりました。
2018年4月徳間書店刊
衆議院議員の宇田清治郎は、「総理の友人に便宜を払うため、国交省や県に圧力をかけたのではないか」と総理がらみの不正疑惑をマスコミから糾弾されていた。その最中、3歳になる孫娘柚葉が誘拐された。犯人の要求は、「記者会見を開いて、おまえの罪を自白しろ。今まで政治家として犯してきたすべての罪を、だ」タイムリミットは、翌日の午後五時。動機は宇田清治郎への怨恨か。それとも、総理の罪を暴くことにあるのか。警察は、思い当たる過去の罪を事前に打ち明けてくれ、と宇田を説得するが、煮え切らない態度。保身のための駆け引きに長けた「官邸サイド」と対峙するのは、宇田家・次男の晄司。宇田一族、総理官邸、警察組織。三者の思惑が入り乱れる中、刻々とタイムリミットが迫る。
派閥の裏政治や永田町の思惑がよく分かる展開だが誰にも感情移入出来ずに不完全燃焼気味。忖度がまかり通る今の政治とシンクロして結末の意外な展開も伏線が弱くスッキリ出来ないサスペンスだった。
2019年4月文藝春秋社刊
主人公ヒデ坊こと秀男のモデルはタレントのカルーセル麻紀だとか。北海道釧路市出身の彼女を6歳から22歳までの生き様描いた物語。
秀男は男として生まれた。でも、『あのおねえさんみたいな、きれいな女の人になりたいな。』蔑みの視線も、親も先生も、誰に何を言われても関係ない。
「ヒデ坊どうせなるのなら、この世にないものにおなりよ」。その言葉が、生きる糧になった。生まれたからには、自分の生きたいように、生きてやる。
リスペクトがあるからこそ、想像力を最大限解放しえたこと。
どこまでが事実でどこが虚構かが生み出す、過酷で、美しく、孤独で、切なく、劇的で、潔く、笑えて、泣ける・・・波乱万丈のエンターテイメント作品です。
主人公をカーセル麻紀だとして想像して読んだのでなお面白かった。
2019年6月新潮社刊