島田荘司選第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。正義の在り方と家族愛の問題を問うた社会派ミステリー。
日本とポーランドで起きた2つの殺人事件。一見、無関係に思える二つの事件だが、日本での殺人事件の陰には、ポーランド人の姿が見え隠れする。
ナチスの時代ポーランド人強制収容所で書かれた囚人の日記に隠された意外な真実。主人公の吉村学はIT企業のエンジニアを定年退職し趣味である推理小説の翻訳に日頃の退屈さを紛らわせている男。その吉村夫妻がポーランド旅行時に事件に巻き込まれて知り合った女性アンカ・ビドラ。ヨーロッパを舞台にポーランド人との密な交際によって事件を描きながらの謎解きストーリー。
翻訳文や手紙といった形で語られる。アンカの祖父がナチス・ドイツによる強制収用所で記したという日記がこの二つの事件を結ぶ鍵。
1972年プラハで起きた事件が、ポーランド人も強制収容所に入れられた過去など、今なおナチス協力者やナチ残党狩りの現実が「神の手廻しオルガン」の意味が明らかになる濃厚なミステリーで文芸作品のような読み応えがある作品でした。
2017年5月光文社刊