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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

大門剛明著「 確信犯」

2010-12-14 | た行
確信犯とは、道徳的、宗教的あるいは政治的な確信に基づいてなされる犯罪のこと。=テロ?、義賊?
14年前広島で起きた殺人事件。被告人は判決で無罪となった。
だが14年後、末期がんに冒された元被告は「犯人は自分であると」告白した。
その直後、その事件を担当した裁判長・末永が殺され、裁判に関わった二人の判事・正木響子と穂積直行も狙わる。嫌疑をかけられたのは被害者の息子で当時9歳で犯行を目撃した・吉岡拓実。
拓実は本当に事件を起こしてしまったのか。・・・・
裁判に関わった二人の判事や拓実の恋人・高遠乃愛など、多視点で話しが展開される。
誰が主人公なのか判らず前半は読み難いが、中盤以降舞台を法廷内だけではなく広島の野球スタジアムや広島市内を舞台に、単なる犯人捜しで終わらず人間ドラマのように過去と現代の二つの事件に隠された驚愕の真相を追ように展開される。
また裁判員制度などの司法改革の是非を問う問題も織り込んでいる。
裁判員制度は司法制度改革の一部にすぎないこと、法テラスや弁護士増員問題なども含めてあまり知られていない部分にも言及して推理小説に仕上げている。
司法格差の闇を鋭く抉ったといえる社会派推理小説で面白かった。
ラスト本当の「確信犯」が誰か明かになる。

2010年7月角川書店刊
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壇上志保著『ガラスの煉獄―女刑務官あかね―』

2010-11-25 | た行
元刑務官という著者の女子刑務所物語。
北九州の女子刑務所で、作業課の刑務官を務める三上茜は、食器や花器などのガラス製品を作る、受刑者のガラス作業の監督、指導を行っている。
茜は、指導教官だった木島浩二、そして幼なじみの在日朝鮮人女性江崎涼と、それぞれ秘密の関係を持っている。
茜が一人の天才受刑者鈴木トモを見出してからの注目で上層部を色めきたたせた。
刑務所の組織やしきたり、部署間の協力と対立の図式、受刑者同士の複雑な確執など、知ることのなかった内部情報に興味がいった。
そんな独特の雰囲気を巧みに盛り込みつつ、テンポよくサスペンスタッチで展開される。
受刑者が密かに外部へ発信していた暗号文や、第三者に渡ってはならない仮釈放情報が漏れているとか、複雑な人間関係や女性しかいないから当然の性の問題等。
やがて見えない意図的策動に、あかねが運営する刑務所内のガラス工房を少しずつ蝕ん
でいきそして突然の惨劇がおきる。
高級硝子器の流通に見え隠れする北朝鮮の影、刑務官たちの暗闘、県警の絡む不可解な策動など。
日常の仕事とともに、茜の私生活が並行して描かれるが、話が唐突に過去にもどるため読みにくい。
木島よりも、涼と茜の愛憎半ばする関係が核になり、ガラス作業を巡る事件はむしろ従といった感じで展開される。
在日朝鮮人問題や不倫・男女関係の描写や心理状態も中途半端だが、特殊な塀の中が覗けて儲けた気分。

2010年9月 新潮社刊

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滝本竜彦著「僕のエア」

2010-10-16 | た行
職もなく生き甲斐もなく友もなく恋人もなく、当然のことながら貯金も少ない24歳フリーター男子、
駄目駄目俺=田中翔。
スミレ姉さんから来た結婚式招待状で初恋幻想が見事に玉砕、高校の同窓会でも
伊藤と梢から惨めさを味わされ、土砂降りの街でイカツイお兄さん方から暴力をふるわれ、
車に轢かれたその瞬間、電信柱の陰から俺を見つめる何かがいて、
やがて希望や夢を俺に与えようとするあいつが現れた。
他人には見えないが、男にだけは声も姿もはっきりと分かる少女が現れ、男をはげまし導こうとする。
一般社会とのつながりをこじらせたどこにでもいそうな青年が、短い人生でため込んだ知識と
自意識と大人になりきれない現状を悩み迷い日々ノタウチまわる。
希望も絶望も何にもない昨今の閉塞状況の若い世代のこの厭世状況はいかにして一掃されうるのか。
この小説は、現実の不運を妄想の力で補い、乗り越えていこうとするのか
未来が見えない現状に悩む人たちにも、進むべき道を示して救いをもたらす物語のようだが、
はたして上手く行くのだろうか。

2010年9月 文藝春秋刊
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田村優之著「月の虹」

2010-10-12 | た行
月の虹、月虹(げっこう)、Luna Rainbow、Night Rainbowとも呼ばれ、 昼間の虹と同じ原理で、月明かりでも虹が見えることがある。
30歳の新聞記者瀬尾圭一がM&Aを追いかける取材現場で出逢った運命の女子学生安藤静音。
年齢に比べて妙に透明感があり、瀬尾は彼女に惹かれていく。
やがて、二人の9歳の年齢差をものともせず相思相愛の中になるのだが・・・
熾烈な合併交渉の取材と自らの小さな嘘が二人の恋の障害となり、互いを思う気持ちとは別の事情や、タイミングなど、悪い偶然が続いて二人の間にはすれ違いが始まる。
以前月の虹を見たという静音の誕生日に嵐山の渡月橋で毎年会い続けるという、幸せだった頃の二人の約束を果たす為転勤した東京からかけ付けるのだったが。・・・
在日外国人問題、こわれやすい傷被った心と、ふたつの名前と、鬱の問題
・・・淡く白い四季豊かな京の町を舞台に詩情豊かに織りなす悲恋物語。
『事故ー。それは、ほんのわずかな運命の違いで起きるものだろう。』(238P)
感情移入して一気に読めました。
京都の情景描写が美しく上手い、また京都に旅に出掛けたくなりました。


2010年8月日本経済新聞社刊
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高嶋 哲夫著 「風をつかまえて」

2010-08-29 | た行
きっかけは町内の児童が描いた「緑の丘、紺碧の海、青い空に輝く太陽。そして白い風車」の絵。
文科省主催の児童絵画コンクールの大臣賞受賞作の絵からだった。
北海道の南西部日本海に面する破綻寸前の小さな町、内地町。起死回生の町おこしとして町長が提案し、外国製高い風車は買えないので予算500万円で、地元の町の小さな東間鉄工所が「風車」を造ることになったのだが、予算も不足、技術面なども、問題点は山積みで・・・・。
主人公は鉄工所の次男坊で25歳の元暴走族の東間優輝。7年前母親の葬儀の時父親と喧嘩して家を出たきり挫折の人生だったのを札幌で幼馴染で大学院生の由紀子に偶然出会い久しぶりに家に帰ることに。
過疎化と疲弊していく地方とそこに住む人々の再生をかけた風車造りと職人気質の父親真二郎と優輝の姉や高校の物理の先生、昔の仲間達の姿を描いた、めちゃ感動の青春小説。
読書感想文コンクールの高校生の部の課題図書になった作品だとか。
ECOな日本製風車つくりなんて大人が読んでも充分感動できるお話しで、北海道を襲う台風接近シーンなんてサスペンスもの、後味がいい読後感もいい。映画化しても面白そうです。

2009年3月日本放送出版協会刊
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滝田務雄著「長弓戯画 うさ・かめ事件簿」

2010-08-26 | た行
都会の雑踏のなか、和弓で射殺された男。誰が、どうしてそんな目立つ凶器で殺人を行ったのか?しかも、日本有数の弓の名手でもなければ犯行が困難な状況であった。
美男子なれどヘナチョコな少女漫画家マーチ宇佐輝先生と、ドSの編集者カメちゃんこと小亀ミドリは事件が起きた現場に居合わせ心ならずも巻き込まれる。
捜査し調べるうちに次々現れる新事実、その度に繰り返される二人の掛け合いの推理は構築と否定の連続。どこまで行っても真相が明かにならない五里霧中のなか、謎多き「和弓殺人事件」の真相が解明されて意外な真実が・・・。
残念ながら主人公のキャラが中途半端でリアル感がない、和弓を使ったトリックも不納得で動機も理由も環境問題などともっと絡めてたら深みが増したのに残念。
弓道をしてる人から見たら怒るかも。
駄洒落一ぱいのコメディーセンスもミステリーとしてはもう一つ。
シリーズ化のつもりなら心理面やリアル感、社会性がないと支持されないのではないか。

2010年6月東京創元社刊
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高嶋哲夫著「乱神」

2010-07-12 | た行
鎌倉時代、二度に渡って蒙古の侵攻を受けた「元寇」を題材にしたちょっと異色の歴史小説。
北九州大学の考古学者、馬渡俊が九州の海岸で棒状の物体を発掘した。
800年近い歴史を刻み込んだ中世ヨーロッパの剣。この発見が日本の歴史を覆すのか?
最初の元の侵攻直後にヨーロッパの十字軍の騎士たちが九州の浜辺に漂着した。
イングランドの騎士エドワード以下従者のアラン、サラセン人のザフィル 船長のトマス、航海長のエリンコ他30数名の面々達だ。
最初は元寇に間違えられて捉えられたがヨーロッパ人として鎌倉に護送される。
当時の執権・北条時宗は再び攻めてくる蒙古に対抗するため、軍事的知識を彼らから学ぼうとするのだが・・・。
神風、台風が元寇を退けたとするよく解らない歴史上のグレーゾーンを背景に十字軍の騎士が日本に漂着し、鎌倉武士と一緒に元軍と戦ったという破天荒な設定は意外性があり面白かった。
この歴史を若き名執権・北条時宗が闇に葬り去ったという驚愕の真実も納得がいく。
面白さは主人公である騎士エドワードの、日本とヨーロッパの対比。
何度も鎌倉武士の強さに驚嘆するシーンや、日本の武士と十字軍の戦術の違いや、
仏教とキリスト教の宗教観の対立と、当時の新興宗教の日蓮やザフイルの信じるイスラム教などとの宗教論。
最後は、十字軍の騎士たちが、神のためでも報酬でもない戦の真の目的を見出し、
蒙古と対峙する合戦シーンは圧巻。
『人は命の火が燃え尽きるとき、何を以って安らぎを得るのか。土地や地位や財産ではない。神による救いでもない。どう生きたかという、物語のみだ。』(426P)
圧倒的なスケールで描かれた新感覚歴史ロマンです。
2009年12月幻冬社刊
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辻村深月著『ゼロ、ハチ、 ゼロ、ナナ。』

2010-06-10 | た行
まず奇妙なタイトルに曳き付けられた。
後半にこのタイトルの意味が明らかになるミステリーの仕掛けだ。
30歳”という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。
都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。
少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた二人だったが、チエミが仲の好かった母親を殺害して疾走・・・。
ストーリーは殺人と逃亡の謎を追う単純な話しで 第1章を神宮寺みずほの視点でチエミを捜索する過程を追い、第2章でチエミの視点でその逃亡の過程を語る。
みずほがチエミの過去をたどる過程でそのチエミと自分の、チエミの家族・交遊・仕事関係を少しずつ明らかに浮き彫りにしていく
著者はこの本で苦労した点を『誰が誰に対してどれだけ依存しているのかという関係性、強弱のバランスが難しかったです。』語っていた。
女たちの結婚・恋愛絡みの微妙な関係の心理変化、職場での女の立場、不妊、赤ちゃんポストなどを絡ませて女性らしい視点でその心理描写は細やかで裏・表、本音を語る。
スタートの取っ付きにくさを我慢し読み進めて途中からグイグイ引きこまれた。
その伏線が何箇所かあるにも拘らずタイトルの意味が最後まで解けなかったのは私の完敗だ。
2009年9月講談社刊

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高樹のぶ子 著「満水子」

2010-06-02 | た行
平成12年5月から一年「満水子1996」として地方紙新聞に連載された。
ダム建設のため水没する村で、肉親たちが次々と悲劇に見舞われた過去を持つ満水子。
30代後半の歳ながら少女のようなキュートさを感じさせる水ばかりを描く女流画家満水子(まみこ)。
49歳のノンフィクション作家の坂本重治は、彼女についての記事を書く仕事を任されます。
そして、満水子について調べていくうちに彼女に惹かれていきます。
精神不安定な、過去から逃げる女・・・そこにはいつも義兄・吉田泉の存在が影を落としていた。
満水子の謎が氷解していくにつれ後戻りできなくなる坂本。
何が真実で何が嘘かわからないようでいて、とても素直にも見える、その振る舞いに、坂本は振り回されます。
プライドの高い男だが、満水子の前ではプライドを失い、そして、忘れどこまでも自分に正直になってしまう
。東京、京都・嵐山、越後湯沢、郡上八幡、函館と場所を変え満水子という狂奔の川を、謎を追いかけて泳ぎのぼった中年男の、甘苦しく哀れな一年の結末。
性描写もあるが小悪魔的な不条理な女に不愉快感さえも覚えて嫌になったがミステリアスな満水子に魅せられ読み終えた。
ミステリー性をもった恋愛小説。
2001年10月 講談社 刊 講談社文庫

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恒川 光太郎 著「南の子供が夜いくところ 」

2010-03-19 | た行
「今年で120歳」というユナと呼ばれるおねえさんと出逢ったタカシは、一家心中の一歩手前で彼女に連れられ、遠く離れた南の島で暮らすことになる。・・・「南の子供が夜いくところ 」
島に一本しかない紫焔樹。森の奥の聖域に入ることを許されたユナは、かつて〈果樹の巫女〉と呼ばれた少女だった・・・「紫焔樹の島」
呪術的な南洋の島の世界に何の前触れもなく、ごく自然に異次元にいざなう。
多様な声と土地の呪力にみちびかれた、めくるめく魔術的世界「悪夢の迷宮」。
2005年「夜市」で日本ホラー大賞受賞した著者の7つの連作短編。
光と闇、入り乱れる南洋の島々「そこでは不思議はあたりまえ」、
世界の99%は想像するしかないものばかり、変幻自在・極彩色の時空間が織りなす、
人生を漂流するものたちの不思議な異次元空間が楽しめます。
「夜の果樹園」がハロウィンを思い出させるストーリーで「悪夢の迷宮」らしく面白かった。
2010年月角川書店刊
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高山聖史著『当確への布石』

2010-02-28 | た行
2007年 第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞作。
受賞時は「暗闘士」名で大幅改稿し出版されたとか。
私立大学の社会学部の准教授で、TVでも名の知られた犯罪被害者救済活動を続けてきた大原奈津子は、衆議院統一補欠選挙への出馬を決める。
前議員の田所孝夫がセクハラ事件を起こし、その失職に伴う補選だった。
そんな折、元犯罪者のプライバシーを侵害するビラを撒いて騒ぎを起こしていた団体「凶悪犯罪抑止連合会」から推薦状が届いた。
戸惑う奈津子は元公安刑事の平澤栄治に、抑止連の正体を突き止めるよう依頼する。
やがて選挙の策略家・森崎啓子の謎の動きや抑止連との関係の暴露記事を書いた雑誌記者・井端純平の不穏な動きに翻弄されながらも、
平澤の捜査によって補選のカラクリが序々に見えてくる。
選挙とその周辺に渦巻く数々の策謀。さまざまな人物の思惑が交錯し、それぞれの企みが絡み合うなか、選挙戦は続き投票日と開票日が近づく。
大原は果して当選できるのか?妨害工作の謎、味方の陣営の中にスパイは居るのか?
ヒロイン自身の秘密は等複数の謎が仕掛けられた展開で内容に引き込まれた。
選挙の裏側も覗けてこれは選挙ドラマ小説版ミステリーだ。
2007年06月宝島社刊
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太朗想史郎著「トギオ」

2010-02-10 | た行
『このミステリーがすごい!』大賞第8回(2010年)大賞受賞作。
(『快楽的・TOGIO・生存権』改題)。
捨て子の「白」を拾ったがために、大きく狂いはじめる主人公蓮沼健の人生。
家族は村八分に遭い、主人公はクラスメイトから生々しく陰湿ないじめを受ける。
村を出た主人公と稔は港町に流れ、やがて大都会・東暁(とうぎょう)を目指すことに。
少しずつ明かされる一風変わった異次元の世界の様子と重苦しく展開されるまわりの描写と会話だけの物語。
『生き抜くために悪事に手を染め、殺伐とした東暁で地べたを這いつくばって暗殺者として生きる健の唯一気にかけていたのは、村に置いてきた白のことだけだった。』
SFなのか奇妙な異なる世界の話なのか?とに角説明がない・・・頻繁に登場するアイテム「オリガミ」とは何?
ゲームや電子マネーの機能や本人識別のID機能、ネット検索や様々な情報記憶機能等々、
今でもありそうで近未来には皆が持ち重要な役目を持つものに設定されているが説明はない。
今の日本の現状を置き換えて現実的にあり得ない展開を、”隠れた現実の一面”を表現して進められる物語。
将に型破り「このミス大賞」には相応しくないと私は思うが、この本そのものが謎・ミステリーだと解釈しよう。

2010年1月宝島社刊
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天童荒太著「静人日記 」

2010-02-07 | た行
直木賞受賞作『悼む人』の主人公で見知らぬ死者を悼み、全国を放浪しながら“悼みの旅”をしている坂築静人がつづった日記。
新聞の死亡記事を見て、亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」。
日記という形式をとり、過酷な旅の全容と静人の脳裏に去来する様々な思いを克明に描いている。
人の死を知り、その死んだ人の善き事を覚えて悼むという、常人にはちょっと理解しがたい行為で、ただ、ただ、自分のために旅を続ける静人。
小説的な面白さを期待するとガッカリしますが日々、どのように旅をし、死者を追い、悼んでいるかが解ります。
死者の周辺の人々から疎んじられ、罵声を浴びせられることもあるが、時にはあなたの行為で救われたと、感謝されることもある。
だから悼むという行為に対して彼自身が抱く疑問や矛盾、彼がどのように向き合っていたかも日記には現れています。
亡くなった人は善人ばかりではなく、人から憎まれていた人もいて、乳児や幼児もいれば老人もいる。
そんな中で、どうやって1人1人を同じように悼むことができるだろうかが書かれています。
これは、彼の“悼み”の記録であり200余篇の生と死と愛の物語です。
著者が7年もの歳月をかけて取り組んだ「悼む人」の続編です。
「悼むとは覚えておくこと」(56P)「かけがえのない人がこんなにも大勢亡くなっている事実に、胸がふさがれたこと、同時に、自分がいま生きていられることにあらためて感謝したくなった」(251P)
「いま、世界で最も必要とされる人物の物語」(著者)

2009年11月 文藝春秋刊
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大門剛明著「罪 火」

2010-01-31 | た行
『雪冤』で横溝正史ミステリ大賞+テレビ東京賞W受賞後第1作。
ひとつの過ちが魂をも焼きつくしていく「誰かを巻き添えにして死のうと思っていた・・・」
伊勢神宮奉納全国花火大会の夜に殺人事件は起こった。
被害者は中学2年生の町村花歩。犯人は元派遣社員・若宮忍。
花歩の母親、町村理絵はかつて若宮の恩師であり、一人暮らしの彼を家族ぐるみで気遣っていた。
なのに何故、若宮は花歩を殺したのか。
やがて事件は意外な別人が逮捕され新たな展開をみせ、若宮と理絵に予期せぬ結末と展開される。
人は罪を本当に許すことができるだろうか。自ら犯した罪を心から悔い改めることはできるのか。
町村理絵校長は加害者と被害者遺族と話し合う修復的司法(VOM=修復的司法は、「当該犯罪に関係する全ての当事者が一堂に会し、犯罪の影響とその将来へのかかわりをいかに取り扱うかを集団的に解決するプロセス」)を勧める人格者。
一方35才の派遣労働者若宮忍はかつて人を殺め少年院に入れられていた。
母を火事で亡くし人生に絶望し、殺伐とした気持ちで自暴自棄に生きていた。
町村校長は疑いながらも若宮は更生したと信じたい思いから迷い、逆に若宮はなんて事ないと思っていた殺人の罪、良心の呵責に苦悩する。
娘を殺された女校長が探偵役となり、教え子であった犯人を追いつめていく過程の各々心の動き心理描写がいい。
被害者が加害者になった時人間はどう変り、贖罪しようとするのか、はたして裁判外紛争解決(ADR)ではなく、加害者と被害者遺族と話し合う修復的司法(VOM)は可能なのか・・・、
人間の大罪と葛藤、贖罪(罪をあがなう行為)、重い難解なこの小説のテーマは突っ込み不足で未消化だし、設定の無理さも目立つが後半明らかになる意外さに何度も伏線の関係部分を読み返してしまった。
2009年12月角川書店刊
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高野和明著「13階段」

2010-01-06 | た行
13階段 は死刑台にいたる階段を象徴するが現代の日本の死刑台は13段はなく地下に落下する仕掛であるとか。      
2001年度第47回江戸川乱歩賞受賞作。
死刑囚と日本の死刑、刑務官及び死刑執行人、保護観察制度や保護監察官など日本の制度を題材にどんでん返し連続の謎解きサスペンス推理小説。
元刑務官の南郷正二と傷害致死で2年の実刑を受け4ヶ月の刑期を残し出獄した三田純一が冤罪を訴える死刑囚樹原を助ける為
匿名の依頼人から依頼を受けた杉浦弁護士から真犯人調査を引き受ける。
月100万の報酬と成功報酬1000万。
しかし、死刑が確定し刑の執行日が迫るため残された猶予期間は3ヶ月。
弁護士事務所の職員の身分で事件の再調査をはじめるが・・・
やがて明かされる驚愕の事実・・・
2003年、長澤 雅彦監督により 反町隆史、山崎主演で映画化された。
後半設定に無理があるように思えるが現代日本の死刑制度等考える上で参考になる面白い小説です。
2001年 講談社 刊
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