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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

ダン・ブラウン著「天使と悪魔」

2010-01-04 | た行
米国のベストセラー作品。
著者は、1964年米ニューハンプシャー生まれの元英語教師。
ハーバード大学の図像学者ラングドンの活躍する「The Da Vinci Code」(ダ・ビンチの暗号)の続編。
ラングドンは、スイスの化学研究所所長から電話を受け、ある紋章についての説明を求められる。
秘密結社「イルミナィ」17世紀にガリレオが創設した伝説の紋章。
その刻印が胸に焼印された全裸の男の死体が発見される。
かつて科学者を弾圧したキリスト教会に復讐するため、1時間に1人ずつ、拉致した新教皇候補を殺害してゆくという。
殺害が行われる場所のヒントに気付いたラングドンは、殺害を阻止し、盗まれた反物質を発見すべく推理と追跡を開始する。
知力と体力を限りを尽くして、姿なきてきが仕掛けた殺人ゲームに挑む科学と宗教の対立を深遠なテーマでもって描き、
スピード感にあふれ、ひねりと衝撃が連続で、途方もなく壮大なラストを用意した涙ありラブロマンスありのタイムリミット・サスペンス小説です。
2009年原題「Angels & Demons」ロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演で映画化された。

2003年角川書店刊

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高村薫著「太陽を曳く馬」

2009-12-31 | た行
今年最後の読み納めは私的には超難解小説に挑戦。
上下巻約800Pその内容の半分も理解できず我慢我慢の苦難の読書でした。
何故こんなにも難しく著者の高村氏は書くのか藝術・宗教の哲学的な論調に自分の理解力のなさにギブアップした本でした。
「新リア王」の続編で、「晴子情歌」から始まった福澤家シリーズの続編。
刑事の合田雄一郎が語り手という形で物語が進む。
福澤彰之の息子・秋道は画家になり、赤い色面一つに行き着いて二人の男女を殺す。
一方、一人の僧侶が謎の死を遂げ、刑事の合田雄一郎は21世紀の理由なき生死の調査にあたる。
―人はなぜ描き、なぜ殺したのか。
やがて9.11の夜、義兄から元妻貴代子のN・Yでのテロでの犠牲死を聞き合田雄一郎の意識の彷徨が始まる。
告訴状から始まり、赤坂にある永刧寺の副住職である被告人へ向けたもので告訴人はてんかんの発作で道路に飛び出したことによって無くなった末永和哉の両親。
末永は福澤彰之が特別に永刧寺に入れた事から生前から彰之は末永の症状に関して気にかけ、周りにも配慮を促していたが彰之不在の際に事故が起きてしまったため、保護責任者遺棄を訴える内容のもの。
公休の合田雄一郎が地検の指示により西新宿にて告訴代理人久米弁護士に会うところから始まる。・・・途中延々と続く混沌の宗教論争や美術論争。
表題の「太陽を曳く馬」は紀元前二千年頃約四千年前のバイキングの祖先がスカンジナビアの海岸の岩に刻んだ原始的な絵の中で、有名な長い冬の終わりに太陽を曳いて駆け上ってくる架空の馬の絵のこと、「のったりとした1本の横線から生えた4本の脚と、横線の一方の端が長く伸びてゆく首と、その先についている小さな丸い円だけで出来た図形だった。」(上巻50p)
何かの暗号か呪文のようであり、専門家にとっては人間の眼の秘密を明かすとまで言われているという。
生まれた時代が違うゆえに同じ言葉を持たない、同じコミュニケーション方法を持てない福澤彰之と秋道の父子の間に合田雄一郎が、2人の翻訳者として互いの核心に触れるということなのだろう。
延々続く芸術論とその倍以上の量がある宗教論、現代芸術(抽象画)・動機不明の殺人・宗教に対して、どのように向き合うのかというテーマが真ん中に据えられて展開されます。
これらの対象に合田雄一郎の眼を通じて深く、沈み込むほどに深く入り込んでいく
『宗教は、良い行いが良い生活につながるとは限らない現実や、悪人ばかりが得をする現実について、何らかの説明と補償をする必要に迫られた。
インドで生まれた業と輪廻の考え方は、まさにその回答の一つだ。
・・・現世の苦や不公平からの救済の約束という基本構造は、現代の新宗教ではより強化されて存在するし、もちろんオウムも例外ではない。』(下巻206P)
難解な言葉を排除し簡略してみると部下の吉岡刑事を通じて表現される同世代の認識で充分だ。
事件の概要は権力による都心のど真ん中アメリカ大使公邸の真裏にある永劫寺内で元オウム信者さえ受け入れてなにやら20数名以上の出家者が集団生活をしている仏道を志す人たちの自立した修行の集いとしてサンガなるもの座禅や托鉢修行を行なう宗教団体に治安上の問題を感じ摘発の口実が欲しかったのだ。

2009年7月新潮社刊
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高嶋 哲夫著 「追跡 警視庁鉄道警察隊」

2009-11-13 | た行
かつては鉄道公安官と呼ばれたが今は1987年国鉄民営化にともない創設されて通称鉄警隊と呼ばれる警視庁鉄道警察隊の活躍を描いた警察小説。
長く続く終わらぬ不況と見えて来ない未来。
大きなストレスを抱えて疲弊する現代日本。
そんな時代を反映してか都会の満員電車での犯罪が急増しているという。
不振な荷物の放置、盗難スリ・痴漢被害にカバンなどの切り裂き犯。
そういった電車内や駅構内での犯罪を担当しているのが、鉄道警察隊。
その鉄警にスポットを当ててミステリー。
東京都内を運行する列車内でスリの横行と女性を狙った切り裂き事件が多発。
集団で取り囲んで犯行に及ぶ「多国籍スリ集団」と女性のバッグをゲリラ的に狙う「切り裂き魔」。
主人公の鉄道警察隊新宿分駐所第2中隊第5小隊に属する新人小笠原と同僚たちはが捜査で辿りついた犯人像・・・それは女性だった。
やがて自首してきた人物とは、なんと認知症を煩った初老の女性だった
。夫に連れられてきたその女性を見て、どうしても悪質な犯人像と結びつかない小松原は、独自に捜査を続けていく。
すると今度は女性の体を切り付けるというさらに悪質な犯行に段々エスカレート していく。ミステリー的には
犯人は途中で予想できてしまうが満員電車という非日常の世界における犯罪を
追う鉄道警察隊隊員たちの特殊な日常勤務と苦労・苦悩を描いた物語として新鮮な感じで読めた。
2009年7月角川春樹事務所刊
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高村 薫 著「晴子情歌」

2009-10-05 | た行
物語は東北・北海道を舞台にした晴子の物心付いた時からの回想的書簡と、それを読む息子彰之の心象風景や感慨が交互に描かれて続く。
しかも母からの手紙は全て旧字旧かなで書かれているという凝った設定。
著者が成そうとしたことは、一組の母と息子の人生を描くこと同時に日本の歴史時の歩みを検証することであるようだ。
家系図でも頭に描きながら読まないとこの母子を取り巻く家族関係は極めて複雑で、その当時の暮らしぶりやその仕事ぶり、戦争・政治社会問題など
日本の近現代が俯瞰されてリアルに描かれている。
『遠洋漁船に乗り組む息子・彰之のもとに大量に届き始めた母・晴子からの手紙。そこにはみずみずしい15歳の少女がおり、未来の母がいた』
旧漢字の多さなどに読みづらさを感じながらもかなり我慢の読書になったが晴子の波乱に満ちた壮大な昭和史の中の一生に引き込まれた。
しかし、昭和20年生まれの彰之の不安定な生き方が理解できなかった。
この本の続編は、
その後の2005年「新リア王」2009年「太陽を曳く馬」に続いていく。
2002年5月新潮社刊
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高杉良著「反乱する管理職」

2009-09-13 | た行
経済小説。
1982年。バブルで日本中が踊り始める直前に名門生保東都生命に入社した主人公友部陽平は、帰国子女で英語が
堪能だったのが幸いし選ばれてハーバードのビジネススクールに派遣されるほどのエリートだった。
しかし経営の行き詰まりと共に保険の解約が増大し、破綻の危機に晒されたようになった東都生命は、
メインバンクの援助打ち切りと風評による資金流出に拍車がかかるなか、ついに外資系保険に売却されることが決まった。
名門生保に次々と乗り込んでくる外資幹部、管財人の弁護士チーム。
解体され、バラ売りされ、職員たちは次々と去っていく。
職員代表として「管財人室長」を命じられた友部は管財人のサポートの仕事を進める中、この身売り劇の陰で、許されざる謀略が進んでいることを知り・・・。
エリートビジネスマンの奮闘を通して、金融再編という高度成長期以降の日本経済が、もっとも困難であった
日々の現実を描いていて実名が想像できる社名政治家が登場し裏話を覗く楽しみがあった。
世界的な金融再編のなかで、名門といわれた保険会社がバブル崩壊とともに破綻し、外資に飲み込まれてゆく経過を日本人として憤慨して読んだ。
魅力的な主人公と早い展開、恋人や人妻との逢瀬、浮気場面と英雄イロを好むごとく仕事にもプライベートにも精力的な頑張りに脱帽でした。
『働き盛りのミドルに奮起を促し、エールを送りたいとの願いを込めて、
主人公・友部陽平の生き方から、少しでも学んでいただき、勇気づけられればと、切望してやみません。』(著者談)
2009年01月 講談社刊


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拓未司著「蜜蜂のデザート 」

2009-08-03 | た行
「このミス大賞」をとった「禁断のパンダ」に続くビストロ・コウタシリーズの第二弾です。
神戸でフレンチビストロを営む料理人・柴山幸太。彼が最近気がかりなのは、「誰もが料理は絶賛してくれるものの、デザートの感想は語ってくれない」ということ。
ところが、新スイーツの開発を目指した矢先、またも思わぬ事件に巻き込まれることに・・・。
華やかなパティスリー界の舞台裏とパティシエ達の葛藤、そして息子の「食物アレルギー」や「食の安全」など問う美食ミステリー。
殺人事件は起きるんですがそちらの方はあっさり犯人は逮捕されて問題は食中毒事件の犯人当て?
しかし予想できない意外な犯人を仕立てるのにはチョット無理があるようでなんとなく怪しいのが中盤辺りで解って予想できてしまうのは残念。
今回も料理描写がすばらしすぎてどの料理も食べてみたいと思わせる筆津づかいは流石。
『家庭では味わえない非日常な料理を提供する』(125P)・・・ビストロ・コウタのコンセプト。
2008年12月宝島社刊

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高嶋 哲夫著「ファイアーフライ」

2009-06-30 | た行
ファイアーフライ(英語)とは蛍のこと
43歳でセネックス工業半導体製造装置開発部の主任研究員である木島は、社長と間違えられて、男女の二人の誘拐犯に誘拐される。
山深い廃村の古家に監禁された彼はそこで、仕事漬けの日々から解放され、自然に囲まれ大自然と触れ合う日々を送るうち、次第に本来の自分を取り戻し、そしていつしか犯人たちとの心の交流も生まれていきます。
やがてラジオのニュースで監禁中の彼に横領罪の嫌疑が掛けられていることを知り又、犯人たちも首謀者との連絡が取れず次第に彼らは孤立してゆく。
人質としても、犯人としても、行き場を失った彼らは互いに協力しあい、身代金を盗ることにするのだが・・・。
物語の中盤から、この誘拐の裏には、何か裏がありそうな匂いが次第に強くなり、裏事情の想像も付く展開になるがそういった謎よりもラストの落とし所に興味が湧いた。
主人公の木島は、家族との関係が希薄なワーカホリックでした。
仕事オンリーの生活から事件により強制的に隔離されたことにより、自然の中で自分らしさを次第に取り戻していきます。徐々に犯人達に協力する展開はけっして「ストックホルム症候群」だけで説明できないリアルさがあります。木島が家族や会社の人間関係や仕事の意味を見つめ直し自分の人生を振り返ることにより自らの人生の再生の勝負に出る展開が面白い物語でした。
ただし、かなり男目線のため女性が読むとまた感じ方が違うと思いますが・・・。「長生きすれば賢くなれるってわけじゃないわ。意地悪になるだけ」
「人間なんて本質的には変わりません。心の奥底に様々な可能性を秘めて生活しているんです。そして、何かのきっかけがあればその奥底のものが大きく膨れあがる。」(本文より)
 今年数十年ぶりに都会の真ん中の人工的庭ではあるが蛍を見ました。
この本の中で主人公達が見た蛍の谷の幻想的なヒカリを見てみたいです。
この本の表紙の写真の写真家
米山氏のURL http://airacafe.com/womb/hotaru.html
2008年5月 文藝春秋 刊
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大門剛明著「 雪 冤 」

2009-06-19 | た行
著者は、1974年三重県生まれ。龍谷大学文学部卒
第29回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をダブル受賞!
平成5年初夏に京都で残虐な殺人事件が発生した。被害者はあおぞら合唱団に所属する長尾靖之と沢井恵美。二人は刃物で刺され、恵美には100箇所以上もの傷があった。容疑者として逮捕されたのは合唱団の指揮者・八木沼慎一だったが、一貫して容疑を否認するも裁判で死刑が確定してしまう。
やがて、事件発生から15年後時効直前、慎一の手記がマスコミに公開された直後に事態が急展開する。息子を信じ無実を訴える父・八木沼悦史のもとににかかってきた一本の電話。
「あなたの息子は無実です。真犯人は別にいる」と「メロス」と名乗る人物から自首したいと連絡が入り、彼と対峙した後、自分は共犯で真犯人は「ディオニス」だと告白される。
デイオニスとは太宰治の小説『走れメロス』にでてくる悪い王様。
この真犯人ディオニスは誰かという謎解きと死刑制度と冤罪に関する
様々な立場の主張を織り込み死刑囚の父親八木沼悦史(元弁護士で過去に死刑囚を弁護し減刑を勝ち取ったがその人物が再犯で殺人者になる過去を持つ死刑廃止論者)と、被害者の妹沢井菜摘(死刑を肯定しながらも冤罪を気遣う)や被害者遺族と加害者家族の視点をちりばめられて真犯人探しがドラマチックに展開される。
緊迫感が増すと終盤と二転三転する衝撃のラスト。
死刑制度と冤罪という問題に深く踏み込んだ衝撃の社会派ミステリーは読み応えタップリでした。
テレビ東京賞受賞でテレビでドラマ化が予定されているので、配役と映像化も非常に楽しみな作品です。
2009年05月角川書店
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藤堂 志津子著「パーフェクト・リタイヤ」

2009-05-23 | た行
著者は1949年札幌市生れ1988年「熟れてゆく夏」で第100回直木賞受賞。
30代後半~50代の女の恋愛とセックスを描いて定評。
女性としての晩年を、どうやってパーフェクトなものにしようとするのか。
定年退職を6日後に控えた布沙子。元上司との愛人関係に区切りをつけ、嫌われていた苦手な後輩とも対決。
そして、もう一つ「完璧な退職」のために計画してきたことがあった・・・表題作の『パーフェクト・リタイヤ』
他オーバー40の女性たちの心情を鮮やかに描いた傑作短篇5編。
夫が単身赴任中の専業主婦。ブサイクな出張ホストとホテルで密会を繰り返す社長夫人の彼女の本当の望みとは何・・・『六日間』。
勤め先の小さな会社の社長と十数年、愛人関係を続けている育美。癌で入院している社長の妻を見舞う病院通いの毎日で見つけたのは・・・『愛のくらし』。
48歳の画家・鮎子。最近同棲中の年下の彼とは別の男との情事に夢中だ。欠点は数回情事を重ねるとすぐ飽きてしまうのが常だった・・・『猫をつれて』。
犬の散歩で偶然出会った若い男。足を挫いて歩けない由未子に代わって犬の散歩を頼んだのがキッカケで由未子の生活に入り込むでくる・・・『バッドボーイ』。
更年期を経た、向えた女性の日常を鋭く描いて男性の立場からは面白かった。
全5篇すべてが6日間の出来事を描いた作品です。2009年6月文藝春秋刊。
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高嶋 哲夫 著「ジェミニの方舟―東京大洪水 」

2009-05-08 | た行
地震を扱った「M8」、津波を扱った「TSUNAMI」に続く災害パニック小説第三作弾。
懐かしい登場人物も顔出し。
大雨続きでたっぷり水を含んだ首都東京を大型の台風23号と24号が合体して巨大化史上まれな強風を伴う超大型台風ジェミニが上陸を窺う。
地盤のゆるい埋立地、ゼロメートル地帯、網の目のように広がる地下街と地下鉄網。
ショパイ塩水を含む強風が吹きつけ建築途中の高層マンションに襲い掛かる。
最新研究の科学技術やデータをもとにしたなにがおきてもおかしくない首都水没への警鐘シュミレーション。
この物語に登場する災害に遭遇した登場人物たちの行動リアクションは極自然、けっしてスーパーマンやヒーローが登場するわけではない普通の市民達の必死の行動。
『1人でも亡くなれば、その家族にとっては人類滅亡と同じだ』
パニック時の家族や人間心理もしっかり描かれていて人間ドラマとしても面白い。
忘れた頃の大災害、普段の準備と環境問題への関心を高めてくれる。


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谷崎 由依著「舞い落ちる村」

2009-04-16 | た行
第104回文學界新人賞受賞作。 。
時空のねじれたような女系の村に生まれた女性の、大学のある街との往還を描いた私小説。
近親婚によって支配された閉鎖的な村、慣習も道徳観も、時間さえも
捩れたような村で生まれ育ちながら、異端視されて大学進学のために街に出た
いち子は、そこで初めて「村」と「村の外」の差異を目の当たりにし、言葉で
武装したまさに言葉の化身であるような「朔」という女性と出会い強く惹かれる。
言葉など信じない村と、言葉を重んじる街の対比。相対するふたつの世界。
著者の妖しげな雰囲気をただよわせた不思議な雰囲気の「村」の記述は魅惑的です。
比喩が多く、意味を深く考えるより言葉のリズムと感性で想像することを楽しむべき小説なのでしょう。
短編「冬待ち」を併録。
2009年2月文藝春秋刊

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恒川光太郎著「 草祭」

2009-04-11 | た行
2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。
「恒川ワールド」と称される独特の幻想性を湛えた余韻の残るホラー小説。
「けものはら」・・・消えたクラスメイトを探す雄也。団地の奥から見知らぬ用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。
「屋根猩猩」・・・相互扶助のしきたりがのこる街で幼い頃予約した順番が回ってきた守り神の役。
「くさのゆめがたり」・・・妖艶な緋色と橙。黄色い筋の入った8枚の花弁のオロチバナで秘伝の秘薬の効用は・・・。
「天化の宿」・・・ルーレットとカードで行なう人を救う「天化」ゲームとは。
「朝の朧町」・・・衝撃的な過去から逃げる加奈江のたどり着いたその街は。
美奥という町を舞台にした5つの短編集。ホラーというよりも民話みたいな感じもする。
「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く。その場所は心を凍らせる悲しみも、身を焦がす怒りさえも、静かにゆっくりと溶かしてゆく。
決してあり得ない話なのに、どこかにこの町が存在するのではないかと思えてくるような不思議な話の数々。
人と人とのつながりや自然の描写も優しく暖かく描かれています。
どの短編も時代は様々だが独立しているようで各お話しに少しずつ重なり人物やモノがリンクされている。だれもそこに留まり続けることはできず、現実に戻らなければならない。すぐそばの異界。
生きることは切ないと思わせてくれる人びとの記憶に刻まれた不思議な死と再生の物語。



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辻井南青紀著「ミルトンのアベーリャ」  

2009-04-07 | た行
人と人との関わりあう交点に存在する音。瞬間に消える空気の振動=音楽はなぜ人の魂を突き動かすのか・・・音楽小説。
日系ブラジル人移民の子・ミルトン。
学校で執拗ないじめを受ける幸太郎と英世。
少年たちの閉ざされた心を解放するもの、それは音楽だけだった。
やがてミルトンと幸太郎は、自分たちの音楽を作りはじめる。
ミルトンの意識が頂点をむかえたとき、2人は究極の音楽『アベーリャ(abelha)』を編み出す。
アベーリャ=ミツバチと名づけられたその音楽は、人の意識を変容させるものだった。
ふたりのユニット「トランス=ソニック」は世界デビューへとむかうが、アベーリャの毒はミルトンの意識を侵しはじめる・・・。
以上講談社HPの紹介分より抜粋。
はっきり言って私には理解不能でした。2006年 講談社 刊
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高嶋哲夫著「M8 エムエイト 」 

2009-04-01 | た行
東京をマグニチュード8の直下型大地震が襲うシミュレーション小説!!
コンピュータシミュレーションを使って若手研究者の瀬戸口が
東京直下型大地震を予知。かって阪神大震災を同じく体験した瀬戸口達三人の
同級生のそれぞれの立場での葛藤を軸に、首都大地震の惨状を描く。
地震予知の学問は、机上の理論でなく実際の人々を助けることが出来なければ
意味がない。
しかし、予報が当たらなければ責任問題が起きる。
だから学者は責任を恐れて誰も確定的意見を発表しない。
人助けの学問が人を地震から守れないジレンマ。
「TUMAMI」はこの本の続編。
2004 年集英社刊

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多島斗志之:『黒百合』 

2009-03-18 | た行
『このミステリーがすごい!2009年版』第7位
1952年夏、寺元進は「六甲山に小さな別荘があるんだ。気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。」
父の知り合いに招かれ六甲山にある別荘で同い年の浅木一彦と過ごす。
そこで二人はちょっと訳ありのこれも同い年の少女・倉沢香と出会う。
三人で過ごす夏休み、宿題・ハイキング・池での水泳、散歩、香をめぐる
三角関係恋のさや当てのようなことがあり、次第に育まれる淡い恋、
そして・・・殺人事件。
六甲の避暑地で忘れられない時間を過ごした14歳の夏。
瑞々しいタッチで文芸物のような青春を描きながら、途中挟み込まれた
戦前・戦中の過去の挿話。
昭和10年、進と一彦の父は上役の海外視察旅行に随行し旅の途中、ベルリンで
謎めいた日本人美女と出会うが・・・。
最後にこの女性の謎のベールが剥がされて明らかになる顛末。
さりげなく青春物とミステリーとの融合を果たした秀作。
題名の「黒百合」が意味深。
ミステリファンにお薦め!
2008年10月 東京創元社刊
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