メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ハヤカワ・ノヴェルズ『カーテン ポアロ最後の事件』 アガサ・クリスティー/著 早川書房

2022-10-10 13:44:03 | 
昭和50年初版

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください




これはアガサの最初の小説『スタイルズ荘の怪事件』を読んでからのほうが良かったなと
読み始めてから気づいたけれども

ポワロ最後の事件がどうしても気になったから
順番が逆になってしまった

ポアロの最後を飾る作品をずっと前に書いていたのは驚き

また犯人当てに参加して、最も犯人像から遠い人物を推理して
ヘイスティングズの娘ジュディスか?

いや、彼女の犯行は冒頭に匂わせてあったから
いかにもおっちょこちょいぽいフランクリンか?

それともまさかアガサは、最後にポワロを犯人に仕立てた?!
命が短いのを知って、夫婦仲や親子仲を取り戻したり
暗い過去に苦しむ女性を救ったり?

犯罪を憎むと同時に人情もある人だよね
最後にこれくらいのインパクトは用意したかも…!?

まだ1度も読んだことがないミス・マープルものも気になってきた
テレビで見かけたことがある
「ジェシカおばさんの事件簿」みたいな感じかな?



<登場人物>
エルキュール・ポアロ:私立探偵
カーティス:ポアロの従僕
ジョージ:ポアロのもと従僕

アーサー・ヘイスティングズ:陸軍大尉。ポアロの親友
ジュディス・ヘイスティングズ:ヘイスティングズ大尉娘。フランクリン医師の秘書

ジョージ・ラトレル:スタイルズ荘持ち主。大佐
デイジー・ラトレル:ラトレル大佐夫人

ジョン・フランクリン:医師
バーバラ・フランクリン:フランクリン医師妻
クレイヴン:フランクリン医師夫人看護婦
サー・ウィリアム・ボイド・キャリントン:准男爵。バーバラ・フランクリン旧友
スティーヴン・ノートン:スタイルズ荘宿泊客
アラートン:スタイルズ荘宿泊客。少佐
エリザベス・コール:スタイルズ荘宿泊客



【内容抜粋メモ】

スタイルズ荘の宿泊客
ヘイスティングズの妻シンシア・マードック
若くして遺伝性のアルコール依存症で亡くなり/驚
アルゼンチンに葬られている

息子の1人は海軍、もう1人は結婚してアルゼンチンで農場経営
娘グレースは軍人に嫁いでインドにいる

ポワロは時々危険な心臓発作を起こし
関節炎のため、エジプトに療養に行ったが
かえって悪くなりすっかり痩せて衰えている

従僕のジョージは父が病気で故郷に帰っているため
カーティスが世話をしている

高級下宿(ゲストハウス)となったスタイルズ荘にいて、ヘイスティングズを誘う

ヘイスティングズの下の娘ジュディスもいる
理学士の学位をとり、フランクリン医師の助手となって働いている
フランクリンはいつも不器用であちこちにぶつかってばかりいる

フランクリンの妻バーバラはとくにどこが悪いというわけではないのに
人の気をひくためにあちこちが痛いという話ばかりで
看護婦のクレイヴンは嫌気がさしている

ノートンは小鳥気違いで気弱い男

サー・ウィリアム・ボイド・キャリントンはバーバラの幼馴染
溌剌とした男らしさでヘイスティングズのお気に入りとなる

アラートンは女たらし

エリザベス・コールは美人だが、どこか悲し気

ポワロはこの中に仮にXと名付けた殺人犯がいると話す

5つの殺人事件に関わり、自分では手を下さず
常に誰からも疑いようのない犯人が用意されているのが特徴

ポワロ:
Xはこの家にいるのだよ 近いうちに殺人事件が起きる ここで
やれることは3つ
狙われている人物に警告すること
犯人に警告すること
犯人を捕らえること

しかし、ポワロはヘイスティングズにXが誰かを
どうしても明かさないためモヤモヤする

ポワロいわくヘイスティングズは正直で顔にすぐ表れてしまうから
犯人に気づかれたら危険だというのが理由

ジュディス:人によっては殺されても文句の言えない人もいるのよ

ヘイスティングズはジュディスとアラートンが親し気なのが心配で
忠告すると、もう大人なんだからと怒る

ポワロ:女は常に自堕落な男に惹かれるのだよ


ブリッジ
ジョージは昔、部下から怖れられる大佐だったのに
今では下宿を切り盛りする妻デイジーに完全に尻に敷かれている

ブリッジで熱くなったデイジーはジョージをひどく罵り
一緒にゲームをしていたヘイスティングズらはいたたまれないほど

ノートンはジュディスとアラートンの仲が気になると
ヘイスティングズに漏らす


カラバル豆の研究
フランクリンとジュディスはほとんど研究室にこもって
カラバル豆の実験をしている

フランクリン:
西アフリカの部族は、この豆が正邪を裁くと信じていた
食べると罪あるものは死に、罪なき者は助かる
現地でもっと調査しなくては
魂を売ってでも・・・
僕にだって殺してやりたい人間がいくらでもいます
人類の約80%は抹殺されて然るべきですよ

去年、アフリカで研究する話を受けたが
バーバラが反対してダメになったそう


ヘイスティングズはウィリアムに誘われてナットンの豪邸を見に行く
叔父から多額の遺産をもらって裕福な暮らしをしている
下宿人の中で一番金持ちだろう

ヘイスティングズはポワロにウィリアムがいかに魅力的か話すと

ポワロ:
退屈な男だ 要するに見掛け倒しというやつだよ
記憶が悪いから人から聞いた話を話した当人に後でまた話す始末だ

エリザベス:
ここに集まってくるのは落伍者ばかり
人生に打ちひしがれ、年をとり、希望もない人

エリザベスは5つの事件の1つの被害者と分かる
姉マーガレットが妹たちのために父を殺した事件
姉が犯人だといまだ信じられない様子


猟銃事件
ジョージがみんなに酒をおごると言って家に入ると
デイジーが店の酒をタダで飲ませるなんてダメだと言う声が聞こえてきて

また気まずくなり、ウィリアムは兄を撃ち殺した弟の話をして
ノートンはさらに空気が重くなる話をしてしまう

ジョージが鳥を狙って撃った弾はデイジーの肩に当たり
ひどく出血して、大きなショックを受けるジョージ

狩猟会の舞踏会で一目惚れした思い出を語り
意識が戻ったデイジーが夫に会いたいというと喜んで駆けつける

ポワロは、これこそXの仕業だと話す

バーバラ:
健康でない人は生きる資格がないから
静かに死ねばいいんですわ
私がどれほどジョンの重荷になっているか分かっています
ジョンは本当に聖者のような人です
あの恐ろしい豆で自分を実験台にするんじゃないかと気がかりで

その後、安楽死の話題となり

ジュディス:
衰弱している人は決定する気力がない
代わって決めてやるのが病人を愛する人の義務ですわ
役に立たない人はこの世から取り除くべきです

ノートン:
アラートンは妻がいるのに以前から若い娘にちょっかいを出して
後に女性は睡眠薬で自殺した

ヘイスティングズはジュディスが心配でならない

ノートンは双眼鏡で珍しい鳥を見た後、なにか目撃して
ジュディスとアラートンではないかと思ったヘイスティングズが見ようとすると止める

ヘイスティングズ:今後、あの男と付き合うのを絶対に禁止する!



四阿
ヘイスティングズはジュディスとアラートンがキスするのを見て激怒するも
ノートンに連れ戻される

アラートンは明日イプスウィッチに、ジュディスはロンドンに行き
落ち合う約束をするのが聞こえる

ヘイスティングズはとうとうアスピリンの瓶に睡眠薬を入れ
ウイスキーに混ぜてアラートンに飲ませる計画を立てる

ポワロに毎晩その日あったことを手足となって報告していたが
頭痛がするというと、ホットチョコレートを飲むよう言われ
その晩、アラートンを待つ間に寝入ってしまい
自分がしようとしたことを思い返して深く後悔し、ポワロに打ち明ける

「暗黒の日も、明日まで待てば過ぎ去るものだ」

ポワロ:
ここに来て間もなく、私の部屋のカギがなくなったから
代わりをつくらせた
夜は内側から戸締りしておいたほうがいい
私ならジュディスを信用するよ

アラートンはイプスウィッチに出かけたが、ジュディスは研究室にこもる
駆け落ちをしなかったことに心底ほっとするヘイスティングズ

バーバラとウィリアムは買い物に出かけて、バーバラは疲れたと言い
クレイヴンは友だちに会う予定をキャンセルせざるを得なくなった

フランクリン:そうだ近道だ それが一番いい方法なのだ

ラトレル夫婦は仲が戻り幸せそう

結婚と離婚の話題になり

フランクリン:
男は妻を選ぶ
妻が死ぬまで夫の責任なのです


コーヒー
とても上機嫌なバーバラはみんなを部屋に呼びコーヒーを淹れる
流れ星を見て、願い事をするジュディスら

ヘイスティングズは妻のことを思い出して涙し
ジュディスに見られないように書架を回して『オセロ』を読む

『昨日、お前を見舞ったあの安らかな眠りは二度と訪れまい』

「ずっと前からやろうと思っていたことをとうとうやった」と
フランクリンも上機嫌(伏線がたくさんあるな

その24時間後、バーバラはカラバル豆の毒で死んでいるのが見つかる

警察の調べで、バーバラは何度か自殺をほのめかしていたことがあり
ポワロが研究室から瓶を持ったバーバラを見たと証言し自殺と判断されるが
ヘイスティングズには、これもXの仕業だと明かす

ポワロ:
これは私の最後の事件になるだろう
機械はすり減るものなのだ
自動車のエンジンのようにつけかえるわけにはいかない

フランクリンの見立てでは、いつポワロの心臓が止まるか分からないと言われて
絶望するヘイスティングズ

妻が死んだばかりなのに、フランクリンはまたアフリカに行けることを喜ぶ

フランクリン:
夫婦仲も互いにとっくに冷めていた
最初の誘いを断ったのは、経済的な事情から
妻が自殺したとは信じられないが
私は真相を知りたくない

ノートンが見た事柄についてポワロに相談してみたらとすすめるヘイスティングズ

ポワロ:
用心するんだヘイスティングズ
今夜、ノートンが私の部屋に来るようにしてくれ

ヘイスティングズはエリザベスに父を殺したのは姉ではないと告げる

ウィリアムはナットンへ引っ越す

ウィリアム:
この家は邪悪なものに憑かれている
バーバラは世界中で一番自殺しそうにない女ですよ

ポワロ:
Xは恐ろしく頭がいい男だ
私に万一のことがあったら、必要なヒントはちゃんと準備してある
君を真相の解明に導いてくれるはずだ

ヘイスティングズは心の奥底ではすでに知っている気がする



夜、ノートンが部屋に入り、内側からカギをかけるのを見たヘイスティングズ
朝、いくら呼んでも来ないため、部屋を開けるとノートンが死んでいる

額の真ん中を撃たれて
カギはポケットの中の密室事件
警察は再び自殺として片付ける

ポワロ:
身長は誤魔化せるものじゃない
ここにいる者はみな背が高い

「わが友よ(シェー・ラミ)」

これがヘイスティングズにかけた彼の最後の言葉となる



ポワロの死
警察は心臓発作で死亡したと判断

ヒントを書いた書類はなくなっている
その代わり、『オセロ』と『ジョン・ファーガスン』の本があり
「ジョージと話したまえ」というメモが入っている

ジュディスはフランクリンと結婚して一緒にアフリカに行くと話す

ヘイスティングズはジョージに会いに行く
父の看病ではなく、カーティスを雇うために休暇をもらったようなものだと話す
今度はカーティスを疑うヘイスティングズ


ポワロの手記
ポワロの死の4か月後、法律事務所に預けられたポワロの手記を渡される

ポワロの手記:
1人の人間が5つの殺人事件に関わるとはあり得ない
『オセロ』には殺人芸術の完璧な見本がある

人はみな潜在的殺人者だ
どんな人間にも、殺してやりたいと思うことがある

Xのテクニックは良心の抵抗力を押しつぶす方法なのだ
“食べればなお食欲が出る”というやつだ

ここで犯罪が起きるという私の確信には根拠があった
犯罪を犯すのは私自身だったから

私は無実の人間を救う、殺人を阻止するのを生涯の仕事にしてきた
だからこれしか方法がなかった

ノートンがXだった
彼は流血を嫌い、弱虫と思われ、面目を失ったため
あまり注意を払われないことを利用して
大胆に振る舞う機会を待っていた

フランクリンとジュディスは愛し合っていた
四阿で会っていたのはこの2人

クレイヴンが会うはずだった友人とはアラートンのこと
2人はねんごろの間柄でアラートンは二股かけていた

ノートンが双眼鏡でなにか見たというのもウソ

Xの罠にヘイスティングズもかかり、アラートンを殺そうとした晩
チョコレートの中に睡眠薬を入れて眠らせた

バーバラを殺したのはヘイスティングズ!
バーバラはフランクリンを殺して、ウィリアムと結婚しようと
コーヒーのカップに毒を入れたが
書架を回したことに気づかず自分で飲んでしまった!

私は私の言うことを疑問も抱かずに信じてくれる人間が必要だった

歩けないフリもウソ
それがバレる怖れがあるからジョージを帰らせた

ノートンにXの話をして、すすめたチョコレートの中にも睡眠薬を入れた
ヘイスティングズが見たノートンは、ポワロの変装姿

額を撃ってから、部屋に戻ってこの手記を書いた
射殺は私の好みを示している
シンメトリーを考慮して額の中心を撃った

フランクリンとジュディスは真相を知っていた

これを読んだら、エリザベスにノートンが犯人だと教えてやりたまえ

今は幼い子どものようにこう言うだけだ
これが正しかったか私には分からない

さようなら、わが友よ
思えば素晴らしい日々だった・・・


ヘイスティングズはノートンの額を見て気づいていた
カインの印そっくりだと




エルキュール・ポワロの死の謎
アガサは80歳に80冊目の『フランクフルトへの乗客』を出した

「毎年クリスマス用に1冊書かないと、地球が軌道から外れる」と催促する
読者のために新作を発表

自分の死後も読者が2年間楽しめるように2編用意していた
1つはポアロ、1つはマープルという噂は以前から有名だった

『カーテン』は『書斎の死体』の後に書かれた
1冊は夫、1冊は娘に贈り、死後、出版することで収入が得られることを望んだ

なぜ予定を変更して生前に発表したか?
映画『オリエント急行殺人事件』の成功でポアロを待ち望む声が高まったが
病弱で新作を出せなかったからという話もある

アガサ:
ポアロにはいささか倦きているが
死なすことができないのは、死ぬ前に物語を作らねばならないから
それはポアロを死なせるより難しい

時代が進むにつれ、ポアロは非現実的になるように思う
今日では私立探偵が事件にあたることはない


(寅さんが現代にそぐわなくなってきたのと似てるな

アガサの絶頂期は30~40年代


ニューヨーク・タイムズは、ポアロの死を黒枠の囲み記事で大きく報じた

「どんな辺鄙な町の図書館員でも『カーテン』を知らないものはいない」

ポアロティアンのエッセイ『さよなら、ポワロ』

ミス・マープル『カリブ海の秘密』『復讐の女神』


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