メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

世界少女名作全集 25 愛と悲しみ ベルナルダン・ド・サン・ピエール/著 岩崎書店

2024-02-18 10:28:37 | 
1973年初版 1981年 第9刷 足沢良子/訳 山中冬児/装幀・口絵 武部本一郎/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


これも『愛のしらべ』同様、大人のお節介な世話焼きのせいで
若い2人の愛が引き裂かれ、死に至る物語

いったい「子どものために」と思って
犠牲になった話が世界中にどれだけあることか

老人が長々と聞かせる道徳も、個人のものの見方の1つで
作者の道徳感と経験から導いたものに過ぎない

2人を悲しみに追いやった母親たちの面倒をみるよう
若者を縛りつけようとしたのも失敗に終わっているし
こうした話を、10代が読んだらどう感じるのかなあ?

それにしても、老人が語った物語にしては長すぎるだろう
と無用なツッコミをしたくなる


【内容抜粋メモ】

登場人物
ラ・トゥール夫人
娘 ビルジニー
黒人の召使い マリー

マルグリット
息子 ポール
黒人の召使い ドマング

ラ・ブールドネ総督


●フランス島のポール・ルイ
旅の青年が荒れ果てた2つの小屋のそばに座っていると
老人が通りかかり、どういう人が住んでいたのか聞くと
涙なしでは聞けない物語を語る








●兄妹のようなポールとビルジニー
1726年 ラ・トゥールという青年が妻と一緒にこの島に来た
何人かの黒人を連れて帰り、永住するするつもりが熱病にかかって死んでしまった
未亡人となったラ・トゥール夫人は、黒人の召使いドマングと、村のはずれの土地を開墾して住みついた









その1年前から年寄りの黒人の召使いマリーと住むマルグリットは
自分と似た境遇に同情し、いっしょに住もうと誘う
その後、ドマングとマリーは結婚









語り手の老人はマルグリットの隣人で
2人のために土地を区画して、2つの小屋を建ててあげた

ラ・トゥール夫人は娘ビルジニーを産み
マルグリットの息子ポールと兄妹のように仲良く育ち
2人の母親は2人の子どもを我が子のように育てる



●ラ・トゥール夫人の悲しみ
ビルジニーは12歳となり、美しく成長すると
ラ・トゥール夫人は、自分が死んだら、財産もない娘の将来はどうなるかと心配で泣く
(自給自足の天国みたいな暮らしをしていても、それに気づかないんだな

フランスに1人の叔母がいて、金持ちの家柄だが
2人の結婚に反対している








叔母に手紙を出すと、母娘の境遇は天罰で
一族の恥にならないよう絶海の孤島で暮らすのは健気だと褒め
ラ・ブールドネ提督にすべて任せたとあるが
夫人が相談しても適当な返事しかしない提督

ラ・トゥール夫人:
あなた方は私の悲しみの種だけれど
私の喜びもみんなあなた方にあるのよ(すでに期待が重い・・・



●逃げてきた女奴隷
脱走した黒人女がやって来て、ムチに打たれたむごい傷跡を見せる
ビルジニー:可哀想に 私、あんたのご主人にお詫びに行ってあげるわ







女奴隷の案内についていったビルジニーとポールは
主人に奴隷を許してくれるよう頼む

ビルジニーの美しい姿を見て「あなたのために奴隷を許そう」と言い
女奴隷は再び主人のものとなる
(せっかく命からがら逃げて来たのに、地獄に戻すのは人助けなのか?

帰り道で迷った2人は、焚火をおこして野菜を焼いて食べ
人跡未踏の密林でひと晩過ごすしかないと思っていると
ビルジニーの犬フィデールを連れたドマングが迎えに来て助かる










女奴隷は、足を鎖で縛られ、首にはトゲのついた鉄の枷をはめられて
木の切り株にゆわえられていたと話すドマング

ビルジニー:ああ、善いことをするのは、なんて難しいんでしょう!

足をケガした2人を、脱走した黒人の群れが家まで運んでくれる



●幸福な生活
2組の家族は、町で買い物するほどの余裕はなかったものの
自然からの恵みを得て、毎日が幸福と平和の連続だった



●貧しい人たちと
ラ・トゥール夫人は、旧約聖書から心うつ物語を読み聞かせ
日曜に教会にでかけると、みんなこの家族と知り合いになろうとする

勢力家が力のない者と交際するのは、お世辞を言われたいため
小さい地主たちは嫉妬深く、人の悪口が好きなため、距離を置いて付き合った

ラ・トゥール夫人らは貧しい人の面倒を親切にみたため
金持ちからは尊敬され、貧しい人からは信頼されるようになった

島はまだ商業は発達せず、人も素朴で
戸にカギをかけずとも安心して暮らせた



●ビルジニーのなやみ
白人で読み書きができる者は少なく
2人の子どもたちは、歴史は母親たちの生涯しか知らず
時は自然の移り変わりではかり、信仰に従った

ビルジニーは時に明るく、時にふさぎこむようになる
母親はその理由を知っていたが口に出す勇気がなかった
(ポールへの恋心のことか?








ポールは母からもらって肌身離さず持っていた聖パウロの像をビルジニーにあげる
ビルジニー:あんたがこの世に持ってるただ1つのものを私にくれたことを決して忘れないわ

マルグリット:2人を結婚させてあげましょう 2人は互いに深く愛し合っていますわ

ラ・トゥール夫人:
2人はまだ若すぎるし、財産もない
ドマングは老いて、マリーは病身、私もすっかり弱ってしまった
ポールがもっと一人前になって、自分の働きでみんなをみられるようになるまで待ちましょう

2人をしばらく離すために、ポールにインドで商売をさせようとするが断わる

ポール:
どうして雲をつかむような儲け仕事のために、旅に出ろと言うのです
畑仕事よりもとくになる商売があるでしょうか
(子どものほうが真実を分かってる



●フランスからの手紙
ラ・トゥール夫人の叔母が重い病気にかかり、姪に戻ってほしいと手紙で頼んでくる
立派な教育をして、宮廷の人と結婚させ、財産を全部譲るという

叔母の差し金でラ・ブールドネ総督が来て
せっかくの莫大な遺産を相続させないのは道に外れていると説きふせ
旅の費用にとよこした大きな銀貨の袋を渡す








反対するポールに

ラ・ブールドネ総督:
あなたが将来、経験を積まれたら、人の上に立つ者の不幸が分かるでしょう
幸運は、毎日訪れるものではありません

ラ・トゥール夫人はビルジニーに、いつかポールと結婚させるから
気持ちは黙っているようにと諭す









島の宣教師をつとめる牧師も来て

牧師:
あなた方は、今こそお金持ちになられたのです
貧しい人々に十分施しをすることも出来る
あなたは、親戚の幸福のために犠牲にならなければなりません
(金のために犠牲になれって、どういう宗教だ/汗

老人は、幸福は財産が与える喜びでなく
自然が与える喜びだと信じているが、意見は聞き入れられなかった

マルグリットは、ビルジニーには立派な身分の親戚があるが
ポールは正式に結婚する前に生まれたから身寄りは母親しかいないことを話す

ポール:
母さんから愛し合うことを教わったのに
ビルジニーを引き離そうとしている
ビルジニーはただひとつの財産です









ビルジニー:
私は一生ここで暮らしたいけど、お母さんはそれを望まない
本当に辛い試練だわ
私が出かけるのはあんたのため
あんたから受けた御恩を千倍にもしてお返ししたいからよ
神さまが私たちの結婚を許してくださるまで辛抱しなければならない
いつかあなたのものになるために帰って来ます








ポールには今度の旅は止めにしたと告げて、老人の家に泊まらせて
ビルジニーを朝早く船で出してしまう(!



●わかれわかれに
老人:
人間の生涯とは、ちょうど地球の一日の歩みのようで
半面が光を受けるためには、他の反面が闇の中に没しなければなりません

聞き手:人間の楽しい生活は人を喜ばせるが、不幸は生きる道を教える

ポールはビルジニーに手紙を書くため、老人から読み書きを教わる
小説をたくさん読むようになると、堕落した風俗小説から
ビルジニーが堕落して自分を忘れるのではないかと心配する

ビルジニーからの手紙がようやく届く
これまで書いた手紙は、叔母の女中により捨てられてしまったため
修道院の寄宿舎に住む友人に頼んだ

叔母は母の苗字を捨てさせ、贅沢な生活であっても、自分が自由に使えるお金は一銭もない
懐かしい故郷の話をすると、女中から「野蛮な土地のことは忘れなければなりません」と言われる








●ポールの苦しみ
老人には妻子もなく、1人で暮らしている


 



老人:
孤独に暮らしていると、人の心は自分を惑わずものから免れ
自分と神についての純粋な考えにかえることができる

孤独は体と精神の調和を回復する
(現代の医師は逆のことを言うよね 孤独から病死になりやすいとか
けれども、人はさまざまな欲求を持つことで全人類と結びついている

わしが名誉や財産を無視すると分かると、人びとはわしを“気の毒だ”と思い
孤独な生活を軽蔑し、あわただしい渦へ引きずり込もうとするが
わしは誰とでも話はするが、誰にも心は許さない

植民地では、ビルジニーがまもなく結婚しようとしている
もう貴族と結婚したという噂が広まり、2年もビルジニーから手紙が来ないと心配し
ポールは老人に相談する

老人:
家柄がないと、フランスへ行っても立派な役目につけない
今はなんでも金次第になってしまった
神さまは君に自由と健康と正しい心、善い友だちを与えてくれた
君は幸福なんだよ

ポール:だけど、ボクにはビルジニーがいない!

老人:
聖書は、平等、友愛、慈善、平和だけを説くが
今でも、どれほど多くの暴力が聖書の名で行われていることか!

人類に知恵を説いた哲学者の大部分がどんな悲劇の運命をたどったか思い出してみたまえ

ポール:僕はビルジニーと結婚するためにベンガルに行って金持ちになりましょう

老人:
それじゃ君はビルジニーの母さんや、君の母さんを捨てて行くのかね?
ヨーロッパでは体を動かす仕事は軽蔑される

ポール:なんですって? 僕には分かりませんよ

老人:
休息の楽しみが疲労によって分かり
食べる楽しみは空腹で分かり、飲む楽しみはノドの渇きで分かる
愛し、愛される喜びは、たくさんの困難や犠牲によって得られるのだ

ところが、金持ちはそういう喜びをまったく知らない
貧しい者はその楽しみをしみじみ味わう

もし理性の火が消えたら、燈台はつまり文学だ
だから本を読みたまえ



●サン・ジェラン号の遭難
1744年 ビルジニーは叔母にむりやり結婚させられそうになったが
承知しなかったため、相続権を取り消して、島へ追い返された

ビルジニーを乗せた船サン・ジェラン号が夜明けに港に入ると聞いて
興奮して老人と出かけるポール

その船から必死の救助を求める大砲が鳴り響いている
ラ・ブールドネ総督が率いる一隊が海岸に並び、焚火をたき、食糧などを用意する

船は狭い暗礁に入りこみ、身動きが取れないところに疾風が来て
いかり綱が全部ちぎれたのを見て、ポールは海に飛び込み泳いでいく









ついに船は水力に負けて二つに裂け、乗組員は船を捨てて海に飛び込み
空き樽にすがる

船尾にビルジニーが現れ、そばにいた水夫が助けようとするが諦めて海に飛び込んでしまう
波はすべてを飲みこみ、ポールは口と鼻から血を流し意識を失い、総督は医者に看護を命じる










海岸にビルジニーの亡骸が流れ着く
拳に握ったものをやっと取り出すと、ポールからもらった聖パウロの画像だった



●永遠に幸せな国へ
ビルジニーの葬儀には、大勢が参列し、まるで聖女のように祀る
(死んでからじゃ遅いんだよな

ポールは3週間後に歩けるようになるが
虚ろなままビルジニーの思い出の場所を巡る

老人:
ビルジニーと結婚しても、君と苦労をともにする力はなかっただろう
君に残されているのは、あの子が君の次に愛した2人のお母さんたちだ

金持ちの親戚、総督、牧師の権威がビルジニーを不幸へおいやったのだ
インドへ一旗あげに行く人の誰もが、いつかは自分の一番大事なものを失う運命にあるんだ

けれど、君だけは、一点のやましい所はない
自分の信念に忠実だったからね
君の意見だけが正常だった

ビルジニーはどうしても免れることのできない運命に従ったのだ
死は生と呼ばれる不安な昼のあとに来る、静かな夜なのさ

けれど、ビルジニーは最後の瞬間まで幸福だった
人の魂は消え失せることはない

この地球上の幸福だけが幸福なのではない
あの無数の星が輝く空が何もない空間だけとは考えられない

ビルジニーは天国から君に便りを送るだろう
“人を脅かす不幸は、もう私の所まで来れない
私は今、そういう美のおおもとにいるのよ”
(すっかり自分の説教に感動して、自分で泣いてしまってる老人

ポール:僕もあの人の所へ行くために死にたい!

マルグリットは、ビルジニーが「私は人がうらやましがるほど幸せよ」と言い
ポールを連れて飛び立ち、ラ・トゥール夫人もドマングとマリーを連れて
あとからついて来る夢を見た

フシギなことに、ラ・トゥール夫人も同じ夢を見たという









老人:
事実が時々、夢に現れるのは、あらゆる民族で言われることだ
ビルジニーが死んで2か月後、ポールはあっけなく世を去った
マルグリットも、それから1週間後に亡くなった

マルグリット:
死ぬことは大きな幸福ですわ
死にたいと思うのは当然ですわ
もし、この世が試練なら、早く済ませたいと願わない人はありませんものね


ドマングとマリー、犬のフィデールも老衰で亡くなり
ラ・トゥール夫人もその1か月後に亡くなった

叔母は、死と生の両方を怖れながら、5、6年過ごして
財産が人に行かないよう処分しようとしたが
親戚連中はノイローゼを気違いと言って監禁し
財産は自分たちで管理し、叔母も亡くなった

家族が飼っていた家畜は野生にかえり
育てた果樹園や畑、花は荒れ果てた

わしは、友を失った男、子に死なれた父のように
たった1人残されて、空しく地上をさまよう旅人のようになってしまった!




解説

ベルナルダン・ド・サン・ピエール
1737年 フランス生まれ
陸地測量部将校として、ほうぼうを旅し、理想的な植民地をつくりたいと考えた
のちは、書斎にこもって作家生活に専念し、77歳で死去するまで
自然を賛美する作品を書き続けた
晩年は幸福で、2人の子どもにポールとビルジニーと名付けた

ベルナルダン:私は、熱帯地方の自然の美と、ある小さな社会の精神的な美とを融合させようとした

もっとも深く交際したのは、哲学者のルソー
当時、ルソーは、ヨーロッパ中の人に、自然をよく見、自然にかえれとすすめた

本書は、ベルナルダンが実際にフランス島に行った時
人から聞いた話がもとになっているという

彼の文体は、フランス文学における自然描写のさきがけとなった

ジョルジュ・サンドも、影響を受けた1人

コメント    この記事についてブログを書く
« 世界少女名作全集 21 春の調... | トップ | 学園ハンサム「いとをかし」... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。