メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

少年少女サスペンス冒険 8 山上にひるがえる旗 ジェームス・ラムゼイ・アルマン/著 学研

2023-07-30 18:33:10 | 
昭和51年初版 安川茂雄/訳 辻まこと/絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します



ジュブナイルでこれほど本格的な登山の物語が読めるとは期待していなかった
マンガ『岳』を思い出す

今、高い山に登ろうとするなら、通信手段も充実しているし
万が一の事故の場合は、ヘリコプターなどで助けることもできるけれども
最初に有名な山々に登った登山家たちは
寒い時はセーターを着こみ、少人数で登ったってとんでもないことだな/驚

私の父も登山が好きで、若い頃は単独で登っていて
家族でもけっこう険しいルートを登ったことも思い出す

目の前の一歩を進む繰り返しはマインドフルネスそのもの
疲れも分からなくなるのはアドレナリンか
ゾーンに入った状態なのかも

ホテルのコックとなった男の身体は
滑落で自由がきかなくなるほど奇跡的な生還だったろうに
それでも惹きつけて止まない山の魅力は
神のようなエネルギーなのかもしれない

20代で早くも未亡人となった母親が
息子を山男にしたくない気持ちも当然だけれども
“あなたの将来のため”というのは違うんだよね

自分がもう二度と同じ辛さを経験したくないという思いで
子どもの夢を止めることはできない

でも、妻の立場から言わせれば
山で死ねるなら本望だとか、男のロマンだとか言うのであれば
結婚して子どもを育てるという人生設計は諦めればいいのにという気もする


このイラストは彫刻だろうか?



【内容抜粋メモ】

登場人物
ルディ・マット 16歳
ヨセフ・マット ルディの父 クルタールの名ガイドだった
イルゼ ルディの母
フランツ・レーナー ルディの叔父 イルゼの兄
ジョン・ウィンター大尉 名登山家
テオ・ツールブリッケン ビューサイトホテルのコック もとガイド
エミール・サクソ ブローリ村の名ガイド
エドワード・スティーブンスン卿
クラウス・ヴァイセルホフト ガイド




●シタデル






クルタール村の16歳、ルディは小柄で痩せ型
ビューサイトホテルの調理場でコックのテオとともに皿洗いをしているが
すぐに調理場を抜け出してシタデルに向かう

木の枝に隠してある自作の登山づえをもっていく
道端のお堂には、1821~1850と書かれた父の名前が彫ってある







海外からの観光客が増えて、どの村も農家や牛飼いを止めて登山ガイドになり
それが最高の名誉とされている

モンブラン、モンテローザ、、、すべて登られたが
ただ1つ、シタデルはいまだ誰も制覇したことがない

森林限界を越えると静寂と岩、雪、空しかない世界
途中からシタデル行きと隣りのブローリ村に向かう氷河に分かれる

その先に古い小屋がある
最近はホテルのように整えった山小屋が多いが、ここは見捨てられていた





クレバスから人の声が聞こえてぞっとする


●ウィンター大尉
シタデルに見惚れてクレバスに落ち、7m付近でひっかかり3時間経つ
村に戻ってガイドを呼ぶには往復4時間かかる

ルディはザイルもピッケルも持っていないため
着ているものを脱いでつなぎ、氷河に体をつけて引き上げる!







30代くらいの男性を見てすぐ、有名な登山家だと分かる
ルディが名乗ると、15年前にシタデルで亡くなった名ガイド
ヨセフの息子と知って驚く

ウィンター大尉もシタデルを子どもの頃に見てとりつかれ
ルディの叔父でクルタール1のガイド、フランツを誘ったが断わられた

ルディもシタデルに登りたいと思っていることを知り

ウィンター大尉:
若い頃は誰でもたくさん夢を見るものさ
大切なことは大きくなっても、その夢を忘れないことなんだよ


ルディは毎日シタデルを眺めて、最適なルートのことを考えていた
南東稜から登るのがいいという意見で2人は同意する

だが、母のいいつけでルディは登山を禁じられ
ホテルのオーナーになるため、ホテルで皿洗いをしている


●汚れたお皿が200枚
ビューサイトホテルのコックのテオはルディの分も皿を洗い
ウェートレスのグレッチェンには
母が病気で手伝いに行ったとウソをついてくれる







テオはヨセフとともにエドワード・スティーブンスン卿のガイドとしてシタデルに登ったが
10mほど転落して大けがをして以来、障害を負い、ガイドを辞めた
落石で怪我をしたスティーブンスン卿を世話するために残ったヨセフは、卿とともに凍死した

フランツもルディを呼びに来て、ウソがバレてしまう
ヨセフの妻イルゼはフランツの妹で
これ以上悲しい思いをさせないとかたく約束している

テオ:風を瓶に押し込めておくわけにはいかないさ

ルディが帰宅し、イルゼとフランツは再び説得する

イルゼ:あなたのためを思っているのよ

フランツ:
オレは20年もガイドをしているが、教育がないから
いまだに10頭の牛も買えない

そこにウィンター大尉が来て、シタデルの下見としてブンダーホルンに行きたいから
フランツにガイドを頼むと同時に、ルディをポーターに雇いたいという

ルディは命の恩人だと説得し、母は「今度だけ」と念を押して許可する










●たきぎの束
父がいつも着ていた赤いフランネルのシャツをシタデルの頂上に掲げるのがルディの夢
あちこちほつれたシャツのほころびを直していると
同年代でガイドをしているクラウスに“ベイビーフェイス”とバカにされる

ウィンター大尉はルディのために真新しいピッケル、登山靴、ナップザックなどを買ってくれた
そこに食糧、食器、毛布、着替えの衣類などを詰めると重さが肩に食い込む

ブンダーホルンの中腹からシタデルが見え
ウィンター大尉が熱心にメモを書いている間

ルディはより効率的な下山ルートを探そうと単独行動をして
足元の岩が砕け身動きがとれなくなる







フランツらになんとか助けられ、下山では2人に挟まれておりた
クルタールのガイドが軽蔑する“たきぎの束”みたいに

山男が一番してはいけない、自分を助けてもらうために
他人の命を賭けさせることをしてひどく恥じ入る


●先生と生徒
ルディの新しいピッケルなどは、母の言いつけでフランツに預けられた
失敗を引きずっているルディにガイドの基本を教えるためにフェルスベルクに誘うテオ







今までは身一つで登っていたが、荷物を背負うとバランスをとるのが難しく、疲れもひどくなる
でも、ガイドは荷物を背負わなければならない

ガイドは他人に手を貸すのが任務
ルディが失敗したのは、自分のことばかり考えていたから

ヨセフはクルタール1番のガイドだった
シタデルに赤いシャツをたてたら、スイスのどこからでも見える

イギリスの偉大な登山家スティーブンスン卿と登り
“とりで”まで着いて、落石に当たり、卿は足を骨折

ヨセフもシタデル登頂が一生の夢だったが、お客様を置いていくことはなかった
ポーターのテオが村に助けを呼びに行く途中、滑落した

ヨセフは山が険しくて死んだのではない
自分も凍える寒さの中、赤いシャツを卿にかけて死んでいた

ルディはテオの案内を頼まれて、2人で何度もスリップしながら、なんとか成功させ
意気揚々と帰宅すると、ウィンター大尉が隣村に行ったと聞いてショックを受ける


●脱走
小屋の煙突から煙が見えたと聞き、ウィンター大尉がシタデルに登るに違いないと思い
気づけば、フランツの家から靴などを持ち出し、シタデルに向かうルディ

小屋にはウィンター大尉とブローリ村の名ガイド、エミール・サクソがいた
叔父と母が許してくれたとウソをつき、仲間にしてくれと頼む
ウィンター大尉は偵察に来るのはいいが、村に降りて、もう一度フランツを誘うよう頼む

絶壁を蟻のように這い、アイスフォールに来ると
正午の太陽で雪が解けて雪崩に襲われる

エーデルワイスはガイドがたまる酒場
ウィンター大尉がサクソと登り始めたニュースがたちまち広がる
代々、クルタールとブローリはガイドのことでいがみ合ってきた

ビューサイトホテルの望遠鏡からテオが朝も晩も見ていて
3つの影を確認し、ルディも一緒と気づく

テオ:
お前たちゃガイド、山男を気取っているが、ただの羊の集まりにすぎん
本当の山男は16歳のルディ、ただ1人だ

フランツはルディを連れ戻すと言い
テオも含め5人のガイドがサポートでついていくことになる

ルディは顔周りの雪をかいて呼吸を確保し
逆さになった体をなんとか起こして地上に出る
サクソも出てきたが、ウィンター大尉は頭を打って出血

小屋までおりて、ウィンター大尉はいったんブローリ村に行き
ビバーク(露営)の準備をする計画

サクソはクルタールのガイドはみんな臆病者だからと、一緒に登るのを断る

ウィンター大尉:ただの人間同士、一緒にやろうじゃないか


●シタデルの幽霊
このまま村に帰れば、また皿洗いの日々しかないと思ったルディは
帰るフリをして、シタデルを登り始める







“とりで”まで行って帰ろうと思うが、その先が気になり進み続ける
父が15年前に発見したルートを進むと、突風、吹雪が襲う

洞穴を見つけて入ると、時間の感覚もなくなり
日が暮れて、ここで夜を過ごすしかなくなる







夜と霧 これまで感じたことのない孤独に襲われ
赤いシャツを羽織ると父が一緒にいてくれている気がする

この穴は父とスティーブンスン卿が死んだ所だと気づく
父を呼ぶと、急に恐怖が消え、山の悪魔も見えなくなる

一夜を明かし、食糧もないまま尾根を下る

フランツらとサクソがケンカしている小屋にルディがボロボロで帰ってくる
ルディ:幽霊も、悪魔も、そんなもの何もいやしなかったよ







テオ:この子が母や叔父に逆らうのは、そう仕向けたお前たちのせいさ

ウィンター大尉:
この子だって好きなことがしたいんだ
とにかくこの子は登ろうという気概を持っている
明日のアタックにぜひ連れていきたい

バカげた村同士の偏見にこだわってチャンスを逃さず
力を合わせりゃきっと成功する


●人跡未踏の土地
1人は村にしらせに行き、テオは小屋で料理を作って待つ
テオ:どうしてよいか分からなくなったら、お父さんならどうするだろうか聞いてみるんだ

サクソ、ウィンター大尉、フランツ、ルディの順に登り
その先はルディがトップとなってルートを教える

標高が高くなるにつれて空気が薄くなり
ウィンター大尉は頭の傷が響いて激しく咳き込む
“肩”のあたりでテントを張り、明日、アタックして帰路につく計画をたてる


●針の穴
絶壁ではルートを見つけるために、十数回登っては降りを繰り返し
つま先、手の指1つで体重を支え、4人とも緊張と疲労で限界となる





針の形の岩にはホールドがなく、3時間も経過する
体の小さいルディがトンネルを抜け、ザイルを通して、とうとう肩に立つ4人








●サクソを追って
ウィンター大尉は嘔吐し、一度休ませることを提案するフランツ
サクソは大尉とルディを残して、フランツと登頂して戻ろうと誘う
ウィンター大尉:せめて君たちだけでも行ってくれ

フランツはクルタールのガイドの誇りをかけて大尉のそばにいることを約束し
テントを張り、明日向かおうと言う 食糧は3日分しかない







ルディは眠れず、物音を聞いて見に行くと、サクソが1人で登頂に向かったと分かる
ここまで導いたのは自分だという思いで、ルディも登り始める

いいとか悪いとかどうでもいい
なんでもいかなくてはいけない


●栄光の日
望遠鏡に群がる人々
イルゼはルディも参加していると知り、怒りや悲しみを越えて言う

イルゼ:
心ではずっと分かってた
ウソをつくよう仕向けたのは私
あの子が本当にやりたいことに目をそむけて
私の思う通りの人間に仕立てようとした私が悪かったんです

こうなるのが神様のおぼしめしなら喜んで受け
勇気の限りを尽くすようお祈りします

サクソとルディがいないと気づき、フランツと気力が戻ったウィンター大尉も先へ進む

細い尾根の途中にルディのザックを見つけて
ザックだけ残して落ちるはずはないと希望をつなぐ
呼んでも返事はなく、赤いシャツを持って頂上に向かう









サクソに追いついて、一緒に登ろうと言っても、自分が先に登頂するんだと聞かない






振り払った勢いでサクソは滑落し、7m下にひっかかったが足を骨折、左手も力が入らない
ルディはザックを置いて、自分もサクソのもとへ降りる






サクソ:お前の勝ち、オレの負けさ 頂上で勝どきでも上げてこいよ

ルディはテントのほうまで降りるルートを見つけて、サクソに包帯を巻く
尾根の上に叔父らを見つけるが声をかけなかった

サクソ:オレはもうダメだ
ルディ:ダメじゃありません できます

2人でボロボロになってテントにたどり着く


●大空の旗じるし
ほとんど動けない“たきぎの束”となったサクソとルディをサポートして、4人は下山
クルタールは大騒ぎで、4人のニュースはスイス中まで広がっていた

市長がウィンター大尉を称え、“シタデルはあなたがたの山”と演説すると

ウィンター大尉:
ルディの山です
本当のシタデルの征服者です

望遠鏡を覗くよう言われてみると、頂上に赤いシャツが見えた
ウィンター大尉:君と君のお父さんとで立てたんだ







ルディは市長に呼ばれるが、ホテルにそっと入るテオを見て
ルディ:テオじいさんが待っている 汚れたお皿が1000枚もたまってるよ




訳者あとがき
シタデルは架空の山だが、マッターホルンをモデルにしているよう
1865年に初登頂したのはウィンパーで、ウィンター大尉に似ている

ウィンパーの著書『アルプス登攀記』

本書は山岳映画『山の上の第三の男』として上映された


アルマン
生粋のNYっ子 『白衣の人々』でピュリッツァー賞受賞
映画化された『白い塔』『登山の時代』など

日本は登山のさかんな国で、5本の指に入る山好きな民族ではないかと思っている



コメント    この記事についてブログを書く
« 少女・世界推理名作選集 9 ... | トップ | クイズに答えてアメリカへ行... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。