メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『少年少女昭和ミステリ美術館 表紙でみるジュニア・ミステリの世界』(平凡社)

2015-10-09 11:51:43 | 
『少年少女昭和ミステリ美術館 表紙でみるジュニア・ミステリの世界』(平凡社)
森英俊、野村宏平/編著

「ジュヴェナイル」カテゴリー参照


図書館めぐりで、本書が棚に並んでいるのを発見した時、鳥肌が立った。
私の大好きな乱歩の少年探偵シリーズのカバー絵ほかが、表紙にも中にも画面いっぱいに、丸ごと1冊にまとめられている!
いつかじっくり読もうと思って、このタイミングはベストv

「ミステリーとSF小説は親戚みたいなもの」

みたいな一文が本編にあったが、私の中でも垣根がないことに気づいた。
本書に、私の好きな眉村卓さんのカバー絵もあってもよさそうなのに。

「少年探偵シリーズ」と大体セットで置いてある「ルパンシリーズ」は、いつも横目で見ながらも通り過ぎてきた。
きっと、乱歩さんのような荒唐無稽な面白味がないのでは?と勝手に思っていたから。
あの戦後の昭和の東京とかけ離れた、イギリスという舞台もネックの1つだったのかもしれない。

ルパンといったら、「ルパン三世」でしょう。
でも、本書を読んだら、原書のほうがキャラが「ルパン三世」っぽくて、それを翻訳する際にすべて削ったことが分かって意外。
しかも、この「ルパンシリーズ」を翻訳した山中峯太郎さんの文章もかなりブッ飛んでいると聞いて、俄然、興味が湧いてきたw

森さんも、野村さんも、カバー絵に惹かれたと聞いて、納得。あと、おどろおどろしい邦題ね。

「いつからそんな嗜好になったのか?」と問う文章に、私もいつからだ?とフシギに思った。
小さい頃から、世界の七不思議とか、表紙が真っ黒なホラーマンガばかりを集めていたのはなぜなんだろう?
そいや、世界の七不思議系のカバー絵もおどろおどろしかったなあw

一番知りたかった、少年探偵シリーズのカバー絵を主に描いていた柳瀬茂さんの経歴が
これだけのコレクターの方にもよく分からなかったのがフシギ。版元さんにも記録がないの?!

それにしても、先日のゴーリーといい、コレクターさんの功績に脱帽。
beco cafe mystery night vol.5 エドワード・ゴーリーの世界@西荻窪(2015.9.12)

突然、興味をもった新参者にも分かりやすく、時系列にまとめて、リストアップしてくれているのは本当に有り難いかぎり/礼

表紙絵を見ていると、全部読みたくなってくる(危ない、危ない
ああ、永遠に自由な時間があったなら

ネットで本書を調べたら、『少年少女 昭和SF美術館 表紙でみるジュヴナイルSFの世界』なんてのもある!
こっちなら、眉村卓さんのカバー絵をデザインした木村光佑さんのことが分かるかなあ?


追。
とっても謎なのは、本書の取り寄せ先の図書館の本って、いつも独特の臭気を放っていること
なにかの消毒剤?! 直接聞いてみたいくらい。
近所の図書館より、こうしたコアな図書がたくさんあるのは嬉しいが、
毎回この臭気ストレスにさらされながら読むのは閉口させられるんだ


【内容抜粋メモ】

とりあえず版元やら、名前やらをメモしておこう。
でも、「後でネットで調べれば出てくる」てものじゃないと思うんだよね・・・

関連サイト

「密室系」内の「少年探偵小説の部屋」
約3000作品

国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」


【まえがき(森英俊さん)内容抜粋メモ】
ミステリ(なんで音引きがついてないんだろう???)との出会いは、
偕成社<世界推理・科学名作全集>『黄色い部屋の謎』(ガストン・ルルー著)。

ミステリへの入門書として格好なのは、ジュニア・ミステリ(ジュヴナイル・ミステリ)
ミステリの原体験がこれだったという声は少なくない。

大人の目からするといささか不自然さが目立ち、つっこみどころ満載だが、
カラフルなカバー絵や函絵、口絵、挿絵などのイラストもキャッチーで、好奇心をくすぐる(そーそー

「書影」書籍の姿・外観。また、その画像(ステキな言葉がたくさん出てくるなあ


【まえがき(野村宏平さん)内容抜粋メモ】
ヴィジュアルには精神をタイムスリップさせる魔力がある。
本書は、編者2人の所有する(森コレクションのほうが圧倒的に多いが)の中から、心惹かれる表紙を選んでみた。



**************第1展示室 児童ミステリ界のビッグ3 乱歩・ホームズ・ルパン

初期の少年探偵シリーズのカバー絵は「松野一夫」さんかあ!

少年探偵 江戸川乱歩全集(全23巻)光文社 昭和26~35



武部本一郎氏の明智さんカッコよすぎ! その他、牧秀人、斎藤寿夫、中村英夫、岩井泰三、伊勢田邦貴ら。

名探偵明智小五郎文庫(全17巻)ポプラ社 昭和32~38

少年探偵 江戸川乱歩全集(全46巻)ポプラ社 昭和39~48
(私の好きなシリーズはコレ


講談社は、戦争の影響で一時中断し、戦後引き継いだのが、講談社から分離独立した光文社(そういう経緯なんだ/驚
光文社は売れ行きに気を良くして雑誌『少年』でシリーズは10年ぶりに復活。
同時期<痛快文庫>が刊行。
昭和30年代に、人気はますます高まり、単行本化の権利は光文社が所有、年に3冊も新作発売というハイペース(それで雑な部分も多いのか?w

光文社からポプラ社に版元が移り、乱歩のリバイバルブームが起こった。
平成10年、全面的に装幀を一新したが、かつてのカバー絵に愛着を持つ読者のためにポプラ文庫から刊行(それ大事v


「リライトは氷川瓏」ってどういうことだろう?(後ろに出てきた



[大人が読んでもおもしろい少年探偵シリーズ]
とりわけ興味深いのは、怪人二十面相の行動パターン。
しばしばぶっ飛んだシチュエーションが出てきて、びっくりする。
『鉄塔の怪人』(やっぱり?爆)、『魔法博士』など。
乱歩氏は時々ヤケになっているんじゃないかと思うくらい暴走することがある。それとも、計算で書いていたのだろうか?w




名探偵ホームズ全集(全20巻)ポプラ社 昭和31~32


定番だったのが、山中峯太郎によるもの。絵は、牧秀人。昭和45年頃から柳瀬茂に一新(こっちもかあ、テイストが違うから気づかなかった
頻繁に装幀が変更されたことでも有名(黄色いイメージがぼんやりあるんだけど・・・


[山中峯太郎のホームズもの]
ひときわ異彩を放つ山中氏の翻案による全集。
軍人から作家に転身、戦前は戦記小説で人気だった。

面白く読めるよう大胆にアレンジし、負けず嫌い、大食漢、会話主体で、擬音を多用。
各編の最後に次のストーリーの予告があるのも大きな特徴。

「完訳主義」という時流に反したせいか、いつしか姿を消して絶版状態。
山中氏は71歳でホームズものの翻案を成し遂げた。
背表紙と裏表紙が頻繁に変わっている。


名探偵ホームズ(全22巻)偕成社 昭和41~46

ポプラ社と人気を二分した全集

その他:
<ドイル冒険・探偵名作全集>岩崎書店
<名探偵ホームズ全集>小学館
<世界名作文庫>偕成社 など


[望郷~有栖川有栖 内容抜粋メモ]
子どもの頃からミステリが大好きで、ついにはミステリ作家になる。同業者には珍しくない。
子どものうちからミステリの楽しさを教えてくれた、児童書の送り手は、子どもの人生を変えてしまうと実感。

最初の出会いは、『さばかれた指紋』(オースチン・フリーマン著)。
小学3、4年生の時、『ビーグル号の冒険』(ヴァン・ヴォークト)でSFが大好きになったのがきっかけ。
当時は怪獣ブーム真っ盛りだった。

あかね書房の<少年少女世界推理文学全集>は好企画。

今でも心酔しているクイーンに初めて接したのは『エジプト十字架の秘密』。
13歳で創元文庫の『オランダ靴の謎』へ進み・・・あとはミステリ道をまっしぐらである。



探偵名作・少年ルパン全集(全12巻)講談社 昭和30~31
初の児童向けルパン全集。全巻の翻案を保篠龍緒、カバー絵は牧村史朗が手がけている。

『妖魔ののろい』の原作は『カリオストロ伯爵夫人』(なんだか宮さんのかほりが・・・


怪盗ルパン全集(全30巻)ポプラ社 昭和33~55

もっともポピュラーな全集。翻案はすべて南洋一郎、カバー絵は牧秀人ら(黄色いイメージはルパンだったか?

アルセーヌ・ルパン全集(全20巻)ポプラ社 昭和43~45

すべて池田宣政(南洋一郎の別名)の訳、函入。こちらは中高生向け。函絵はすべて武部本一郎。


[複雑怪奇、ポプラ社版<怪盗ルパン全集>の変遷]
偕成社、集英社、小学館、秋田書店などから刊行。

モーリス・ルブランのルパンは正義感は強いが、ダークな面、脆さ、物欲、権力欲、愛欲にまみれた人間臭い男だが、
南洋一郎はそれをばっさりカットし、貧しい者のために盗みを働く、快活、超人的な義賊として作り変えた。
文章も会話主体、テンポよく、原作より面白いという意見も多い。

問題の書とされるのが『ピラミッドの秘密』。
原作にはなく、秘境冒険小説の大家だった南の創作の可能性が高い。

昭和49年からはボアロー&ナルスジャックによる贋作が追加され、
南はライフワークを成し遂げ、87歳で亡くなった。
最終巻『ルパン危機一髪』は唯一の邦訳として貴重。同様に南の創作と思われる「ルパンと女賊」が収録されている。



**************第2展示室 世界の名作・日本の名作 少年少女ミステリ全集

少年探偵全集(全5巻)光文社 昭和25~26

『超人間X号』絵は小松崎茂! いいねえ、SF映画のポスターみたい

世界名作探偵文庫(全29+9巻)ポプラ社 昭和29~32

原作はすべて海外の作品。昭和37年に<世界推理小説文庫>としてほぼ再刊された。
(フー・マンチューって、ピーター・セラーズ主演映画『天才悪魔フー・マンチュー』のこと!?


[奇想天外なジュニア・ミステリ(森)内容抜粋メモ]
海野十三『少年探偵長』では、どんな方法で忍び込んだか語られず、
「読者がまだ知らない話をここで述べたいのであるが、今はそれができない」と片付けられてしまうのには唖然とした(爆

西條八十には怪作がいくつもある。
山中峯太郎がホームズに続いて挑んだのが、オーギュスト・デュパンもの(いっぱい探偵がいるんだねえ!


日本名探偵文庫(全25巻)ポプラ社 昭和30~32

日本の名作探偵たちの活躍が読めるのが最大の売り。コレクターの間でも非常に人気が高い。

探偵冒険全集(全25巻)保育社 昭和32~33

少年少女世界探偵小説全集(全23巻)講談社 昭和32~34

カラフルなカバー絵と口絵が魅力的。とくに小松崎茂『巨龍プールの怪事件』など

少年少女最新探偵長編小説集(全9巻)東光出版社 昭和33



[児童書画家列伝(野村)内容抜粋メモ](待ってました!!
昭和30年代くらいまでの児童書の表紙絵、挿絵は、戦前から活躍している画家が多かった。
松野一夫はミステリファンに馴染み深い。

黒マント+黒マスクという怪人二十面相のイメージ(原作にはない)を定着させたのは、小林秀恒。
梁川剛一、『青銅の魔人』の山川惣治、『塔上の奇術師』の石原豪人、伊勢田邦貴、武部本一郎、
<少年探偵 江戸川乱歩全集>では、温かみのある柳瀬茂が馴染み深い(うん、うん

牧秀人、岩井泰三、斎藤寿夫、<少年版江戸川乱歩選集>の生頼範義、小松崎茂なども忘れられない名絵師だ。


少女・世界推理名作選集(全30巻)金の星社 昭和37~42

世界推理小説文庫(全20巻)ポプラ社 昭和37~38

(ここでも柳瀬茂さん! 幅広く活躍されていたんだなあ!

世界推理・科学名作全集(全20巻)偕成社 昭和37~41

世界科学・探偵小説全集(全24巻)偕成社 昭和37~41
戦前から児童書を多数出していた偕成社。そのジュニア向けの初の本格的海外ミステリ全集。
あかね書房の<少年少女世界推理文学全集>と並んで、昭和30~40年代を代表する翻訳ジュニア・ミステリ全集となった。

※「菊判の判型」って何だろう?

名作冒険全集(全24巻)偕成社 昭和32~35


[モノクロの悪夢に魅了され・・・(恩田陸)内容抜粋メモ]
常々フシギに思っているのだが、人の嗜好とは一体いつ決定されるのだろう。
ダークなもの、謎解きや、犯罪のストーリーに惹かれる性向は、いつから始まるのだろうか。

「ひとりとふたり」というミニコミ誌は当時流行り始めていた「ナール体」の文字に萌えまくり、
岩波少年文庫のサイズ、造本は、手にした時の佇まい、表紙の硬さ、丸背の感じが最高に好きだった(手にとった好みってあるよね

『中一時代』『中一コース』には、しばしば小説の付録が付いていた。

当時のNHK少年ドラマシリーズが人気で、それをノベライズした『時をかける少女』、『なぞの転校生』(!)に夢中だった。

「ゴールデン洋画劇場」では、年に1回くらいはヒッチコック映画をやっていた
『鳥』(F氏が鳥トラウマになった)、『めまい』などと、ぴったり重なるのだ(そう、そう! 眠くなりながら、家族と観てた

『エジプト十字架の秘密』で、ハイウエイの脇に首を斬られた男がはりつけになった、
T字形の十字架が見えるところは強烈に目に焼きついている。
ここで、私の人生と志向は決定的なものになったのだ。


少年少女世界推理文学全集(全20巻)あかね書房 昭和38~40



[翻訳ジュニア・ミステリ・トリヴィア(森)内容抜粋メモ]
ジュニア・ミステリ全集の収録頻度がダントツなのは、ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』。
クリスティ『ABC殺人事件』、クイーン『エジプト十字架の秘密』も比較的高い。

翻訳ジュニア・ミステリは、『夜霧の怪盗』の原作は『赤い拇指紋』など原題からかけ離れた邦題をつけることは珍しくない(映画と同じだね

翻訳ジュニア・ミステリ全集でしか読めない本:『のろわれた沼の秘密』(フィリス・ホイットニー)など。



名探偵シリーズ(全15巻)ポプラ社 昭和42

『美しき鬼』柳瀬茂/絵

カバー袖広告「明智小五郎・金田一耕介・神津恭介等の名探偵が、次々と起こる怪事件の謎を解く痛快な長編推理小説!」


ジュニア世界ミステリー(全20巻)ポプラ社 昭和43

ジュニア探偵小説(全26巻)偕成社 昭和43~47
西條八十、柴田錬三郎、島田一男、高木彬光、横溝正史ら、花形作家たちの代表作が数多く収録され、クオリティはきわめて高い。
カバー裏面のイラストは、犯人と探偵らしき人物が白抜きで、時刻表が覆う斬新なデザイン。




[いまでも読める昭和の少年探偵小説(野村)内容抜粋メモ]
単行本化されたものはぐっと少ない。ほぼ絶版で、容易に入手できる昭和の少年探偵小説はごく一部。
横溝正史の少年ものは、角川文庫などで多くが復刊され、いつのまにか絶版に。

ポプラポケット文庫からは、高木彬光も再刊されたが、後が続かないのが残念。

山田風太郎などの復刊は、ミステリ評論家・日下三蔵の功績。
コラムニストの唐沢俊一も意欲的。
「青空文庫」でも読むことが可能。

これ以外となると、大きな図書館に行くか、古書で入手しかない(図書館てやっぱ貴重!
古書店やネットオークションでも、昭和20~40年代は高値。
人気作家もの以外は出版部数が少ない上、子どもの本だからと処分されたケースが多く、
運良く保管されていても、破れていたり、いたずら書きがしてあったりする(それも含めて貴重では


世界探偵名作シリーズ(全12巻)偕成社 昭和44~45

サンヤング・シリーズ(全37巻)朝日ソノラマ 昭和44~47

テレビドラマ化もされたオヨヨ大統領シリーズの第一弾『オヨヨ島の冒険』
マンガの台頭により、ジュニア・ミステリの新作が激減。このシリーズは貴重だった。


『ドンとこい、死神!』(タイトルからして惹かれる!

子どもの関心は、小説よりテレビや漫画に移行。
このシリーズは、放送業界出身の作家を多く起用した。
手塚治虫の『どろろ』までが小説家されたのは、当時「事件」だった。

当時、漫画やアニメを小説にすること自体が斬新だった。
今でいう「メディアミックス」だが、朝日ソノラマが「ソノシート」の会社で、ノウハウがあったからかもしれない。

「読者が犯人」というとてつもないトリックに挑んだ『仮題・中学殺人事件』は、日本ミステリ史上、重要な位置を占める。

昭和50年にソノラマ文庫が生まれ、そこからジュニア文庫のブーム、ライトノベルの隆盛につながることを鑑みると、
土台となったこのシリーズは、日本の出版文化史において重要。


[朝日ソノラマの思い出(辻真先)内容抜粋メモ]
敗戦後、少年少女向けの大衆小説、とくにミステリは大凶作となった。
戦後の世相「六・三・三・四」の新教育制度に見合う、エンタメ小説は皆無といっていい。

戦前の児童雑誌には、大仏次郎、吉川英治、江戸川乱歩、吉屋信子ら巨匠が轡を並べていた。

“ミステリのトリックは洗い直してなんべんも使える、最後は子ども向けのネタに仕立てられる”
そんな笑い話を先輩作家から聞いて哀しくなった。

娯楽に飢えた若い読者の渇をわずかに癒やすのは、海外ミステリやSFに限られたが、東京・大阪の一部の大型書店でしか入手できない。

やがて大人どもは若者の活字離れを非難するようになったが、そんなバカな。
若い世代を無視しつづけたのは活字のほうじゃないか。
どの版元も若者相手に書ける等身大の作家を育てていなかったのだ。

あの頃の大手書店はマンガを並べなかった。
大学生がマンガを読むとマスコミが驚くことに、ぼくは驚いた。

『宇宙戦艦ヤマト』の封切り館前に若者が徹夜で行列し、大新聞がフシギがった時も、マスコミの不感症ぶりにガッカリした。

朝日ソノラマの坂本編集長に若い読者向けの小説を書いてみないかと言われて無邪気に喜んだ。
有楽町の古びたビルが、新しいクリエーターの梁山泊だった。
赤塚不二夫さんが井上ひさしさんを連れてきた現場に居合わせ、
ぼく自身、虫プロで机を並べた永島慎二さんを紹介した。

八方破れの朝日ソノラマには、しばしばムチャな注文があった。
「書くけど締め切りは?」「いま」(笑

今でいう「メタミステリ」でトリックにあてはまらず、大人の目にははみ出して見えたに違いない。


少年少女サスペンス推理(全10巻)学習研究社 昭和45~49

ジュニア版・世界の推理(全24巻)集英社 昭和47~48
各巻ごとに異なる画家を起用し、折り込みのカラー口絵も付けた贅沢な造り。この版で渇を癒やしたカー・ファンも多いのでは。

世界の名作推理全集(全16巻)秋田書店 昭和48~49

世界名探偵シリーズ(全13巻)ポプラ社 昭和48~49
ここにも柳瀬茂さん!

文研の名作ミステリー(全10巻)文研出版 昭和52

その他の全集

『ポー推理小説文庫 黒猫』ポプラ社 ジュニア・ミステリ史に残る珍本


[映像化されたジュニア・ミステリ(野村)内容抜粋メモ]
江戸川乱歩の少年探偵シリーズが圧倒的に多い。
当時の庶民の娯楽は映画とラジオが主役。
『怪人二十面相』、『少年探偵団』をラジオで連続放送。
ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団 の主題歌がお馴染み(聞いたことある!
子どもたちにとって、探偵は憧れの的だった。

昭和43年、虫プロがアニメ『わんぱく探偵団』を制作。
『怪盗ラレロ』も忘れるわけにはいかない。
『タイム・トラベラー(時をかける少女)』を皮切りとした<少年ドラマシリーズ>。

昭和50年代は、また乱歩のラッシュとなる。



**************第3展示室 ジュニア・ミステリの名匠たち

代表的な作家ごとに作品を紹介。ミステリと呼ぶよりは「探偵小説」のほうがしっくりくるだろう。

横溝正史

『怪獣男爵』


『獄門島』(表紙怖いよーーーー!!

『幽霊鉄仮面』は戦前の代表的長編。角川文庫に次々と編入され、一時期忘れ去られていた感のあった知名度は高まる。
角川映画『犬神家の一族』(1976)と、角川書店のマルチメディア戦略とも相俟って、ブームは頂点に。
古谷一行が金田一を演じたTVシリーズも好評を博した。

【ブログ内関連記事】
心の中のベストフィルムまとめ 角川映画


海野十三

『金属人間』(いいねえ!

空想科学小説の先駆者。子どもから絶大な人気を得ていた「日本SFの祖」
その奇抜な発想は突っ込みどころも満載。


大下宇陀児

香山滋
映画『ゴジラ』の原作者。海外の秘境を舞台とした冒険小説が多い。



[ジュニア・ミステリの怪人たち(森)内容抜粋メモ]
横溝正史の怪獣男爵は悪事のかぎりをつくす、姿も怪物そのもので、忘れ難い強烈な印象を残す。
対照的な「怪盗X・Y・Z」の生みの親でもある。
彼に似ているのが、柴田錬三郎の東京紳士。

義賊の片鱗もないのが、水谷準の「銀仮面」。
「怪盗ラレロ」は、マラリア星からやってきた異星人が地球に逃げてきて、子どもたちの味方として能力を駆使して悪を懲らしめる(ステキ


久米元一
終戦後いち早くジュニア・ミステリ分野に進出。
この時期に発表した海外を舞台にしたものは、どこまでオリジナルなのかさだかでない。
<少年画報><漫画王><冒険王><りぼん>などに連載するなど、ほぼすべての少年少女雑誌の誌面を飾った。


西條八十
蘇州夜曲 などの多くの名曲を生んだ。
ジュニア・ミステリは余技とは思えぬほどクオリティが高く、カルト的な人気にますます拍車がかかっている。


島田一男
新聞記者シリーズで人気作家となる。


柴田錬三郎
虚無的ヒーロー「眠狂四郎」を創造し一世を風靡した。


高木彬光
幽霊塔と呼ばれる屋敷で、過去と現在の事件が交錯するノンシリーズ長編『妖鬼の塔』を刊行。


『幽霊馬車』の「霊」文字がステキ



野村胡堂
『銭形平次捕物控』の国民的作家。


最初に出版された児童書は、昭和元年に刊行されたジュニアSF『太郎の旅 月世界のたんけん』。
最大の異色作は、SFミステリ『傀儡城』(ロボット城に改題)。


[ジュニア・ミステリの名探偵たち(森)内容抜粋メモ]
ジュニア・ミステリでしかお目にかかれないユニークな名探偵も多い。

久米元一の天知五郎、南洋一郎の佐久良竜太郎など。
なかでも屈指の推理力を誇るのが、都筑道夫の書いた中学2年生の草間次郎。

宮崎惇の上月佐武郎は、読心術、催眠術、腹話術、念力(!)を駆使して、
十数類の使い道のある万能万年筆も携行している(すげえー!

秋元文庫が創刊、朝日ソノラマがソノラマ文庫を創刊して、
ジュニア文庫という新しいジャンルが形成され、のちのライトノベルにつながる。

その他、エラリイ・クイーン、エニード・ブライトン、「ヒチコック・ミステリー」。

岩波書店は、多くの翻訳児童書を出しており、学校図書館で小学生の目に触れる機会も多かった。
古典的名作の岩波書店に対して、学習研究社は、新しめの作品が目立つ。
ウィンターフェルトの『カイウスはばかだ』は歴史ミステリの傑作。



[「探偵小説」への偏見(内田庶)内容抜粋メモ]
私は、ある政令指定都市の図書館の依頼を受けて、母親100人に「十代の読書を考える」、
「SFと推理小説の世界」の講師を務めた。

図書館側から、「SFと推理小説の子どもたちの利用度が他より高い」と言われたため、
<少年少女世界推理文学全集>(あかね書房)の利用カードを見たら、何十という貸し出し日の印が押されていた。
驚いたのは、このシリーズが数セットも備えられていることだった。
このシリーズがコンスタントに増刷されている意味を初めて知った。
図書館で購入され、多くの子どもたちに読まれていたのだ(図書館さんは偉いねえ!

英米では、小さな子どもの時から「探偵小説」に親しんでいることを熱っぽく話したことを覚えている。
「活字離れ」をさせない唯一の道は、読書を型にはめず、子どもの多様な好奇心を押さえ込まないこと。乱読をすすめた。

それに対する母親の質問には隔靴掻痒(痒いところに手が届かないように、はがゆく、もどかしいこと)感がつきまとった。
「ホームズの『吸血鬼』を読んで、子どもが夜うなされるようになったから、探偵小説は出さないでくれ」と執拗な電話もあった。
タイトルはおどろおどろしいが、内容は違う。自身も読んでみては?と言っても聞く耳持たず。

講談社は、探偵小説に対するアレルギーを予測していたので、当時の国会図書館長・金森徳次郎の推薦を表紙カバーに刷り込んだ。
売れて当然と思っていたのに、講談社が驚くほど無残な結果に終わった。

私は、あかね書房社長・岡本陸人氏に、「探偵小説」でなく「推理小説」にし、装幀は高級感を出すよう提案した。

岡本社長は、「推理小説」を「推理文学」に変え、監修者に川端康成らを並べ、学校図書館向けにした。
児童読み物一般の版型B6をA5にして、本文は一段組みを二段組みとした。

<少年少女世界推理文学全集>は、長い間、増刷され、活版印刷だったので、活字がつぶれて絶版になった。
学校図書館で「推理文学」に親しんだ子どもの数は、流行児童文学者をはるかに凌駕するものだったはずである。



**************第4展示室 付録・ガイド本の世界

昭和40年代までは、付録の小冊子は、子どもたちの宝物だった。
山王書房の<さくら文庫>は、駄菓子屋に置かれ、巻末に付いた籤を集めて、
合計20点になると好きな<さくら文庫>がもう1冊もらえるという仕組みだった。

<カバヤ文庫>は、カバヤキャラメルのおまけとして昭和27年に創刊された。
キャラメルを買うと「文庫券」が1枚入っていて、50点たまると<カバヤ文庫>1冊がもらえる。
内容は、世界名作のダイジェスト。

岡山県立図書館HPで、デジタル化したものが公開されている。

小説の別冊付録で人気なのは<おもしろブック>などの絵物語。


[付録本ミステリの変遷(森)内容抜粋メモ]
戦前は<新青年>にこの手の別冊付録が多く付いていた。

戦後初期、人気だったのは「絵物語」と呼ばれるもの。
おおざっぱにいえば、マンガと小説の中間的存在。
光文社の<少年>、秋田書店の<冒険王>など。

月刊少年誌の付録は、次第にマンガが中心になった。
代わりに学年誌や、学習雑誌が付録を付けた。
昭和30~40年にかけて付録本ミステリは全盛をきわめた。

少女誌の付録
講談社の<少女クラブ><なかよし>、集英社の<少女ブック>なども、マンガとともに小説もかなり掲載されていた。

※宮敏彦、梶龍雄、梶謙介

学年誌の付録
旺文社の<時代>、学習研究社の<コース>の両誌はミステリに積極的で、重要な発表の場だった。
昭和50年代にはジュニア向け文庫が台頭するが、その下地といってもいいかもしれない。



[ガイド本&アンソロジー(野村)内容抜粋メモ]


昭和40年代は、小説以外の周辺書が競って出版された。
その先駆けは、藤原宰太郎の「推理クイズ本」

昭和46年、ジュニア向け本格的なミステリガイド本として、中島河太郎『推理小説の読み方』(ポプラ社)が刊行。
ガイド本は、児童書から大人の本への橋渡しともなった。

けれども、名作のトリックが明かされていることも多く、せっかくの読書意欲も半減してしまう。
読者のショックは、著者や出版社の想像以上に大きかったはずだ。

筆者も、クリスティや、クイーンの犯人を知ってしまった苦い思い出がある。
その時は、記憶喪失になりたいと本気で願ったものである(爆 分かる!映画やスポーツの速報とか

短編集は売れないという出版界のジンクスのせいか、昭和にはジュニア向けのミステリアンソロジーは少なかった。
平成に入ると、日本児童文学者協会編の<ミステリーがいっぱい>(偕成社)などが登場。
傑作ミステリがテーマ別に選ばれていて、大人でも楽しめる内容になっている。


**********************


[戦後ジュニア・ミステリの歴史(野村)内容抜粋メモ]

太平洋戦争終結後、空前の出版ブームとなった。
小さな出版社が雨後の筍のように設立され、禁止されていた娯楽読み物が次々復刻された。

終戦間もない頃は、戦前作品の復刊が中心だったが、少年少女向け雑誌が創刊され、
江戸川乱歩らばかりでなく、戦後デビューした新人作家たちも掲載された。

マンガ文化以前で、戦前人気だった剣豪小説はGHQに禁じられていた時代。

連載が完結するとすぐ単行本化された。意欲的だったのが偕成社、ポプラ社、光文社。
偕成社の編集者がたちあげたのがポプラ社(そうなんだ/驚

読者の強い味方となったのが「貸本屋」である。

海外作品は、児童向けにリライトされて、全集に収録された(そっか、それが氷川瓏さんらか。納得



昭和30年代、テレビとマンガという強力なライバルが台頭。
昭和28年に本放送が開始、新しい娯楽として急速に普及。
だが、乱歩の少年探偵シリーズのドラマ化は人気に拍車をかけた。

ジュニア・ミステリの脅威はマンガが大きかったかもしれない。
手塚治虫らストーリー性の高いマンガが注目を浴び、小説のページは削られた。

昭和34年に<週刊少年マガジン><週刊少年サンデー>が創刊し、週刊マンガ誌の時代が到来。
ジュニア・ミステリの重要な発表の場だった月刊誌は次々と休刊。

そんな中で生き延びたのが、ビッグ3の乱歩・ホームズ・ルパン。

昭和50年には、文庫ブームがおこり、余波は児童書にも及び、<ソノラマ文庫>などが創刊。

昭和末期になると、「テレビゲーム」というさらに新しい娯楽が登場して、子どもたちの活字離れは加速。

そして、平成になって息を吹き返した。
『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』で、ミステリの面白さが再認識された。
小説もともに活気づき、はやみねかおるら、新しい書き手が台頭。
時代に即した新しいジュニア・ミステリが発表されるようになったのは嬉しいかぎり。



気になった単語
「怪魔もの」=タイトルに「怪」「魔」という文字が増えたため。

ディクソン・カー『ビクトリア号の殺人』など。

プロパー:
1.本来であること。固有であること。
2.その分野・方面に対して,専門にかかわっていること。また,その人。

証左=証拠

ペダンティック=学者ぶるさま。学識をひけらかすさま。

活写=物事のありさまを生き生きと描き出すこと。

トップ屋=週刊誌にトップ記事を執筆するライターの俗称。




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