原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

信頼関係破壊の法理について少し

2011-12-21 | 民法的内容
本日,バッジが交付されました。日弁連から弁護士会に送られてきて,その上で個々の事務所に送られてくるので,登録から数日経って交付されるという仕組みのようです。

さて,信頼関係破壊の法理について。賃貸借契約は信頼関係を基礎とする継続的契約であり,また,賃貸借契約の解除は賃借人の生活基盤を脅かすことに繋がるので,賃貸人の解除権を制限する法理である。一般的には,こんなふうに説明されると思います。典型事例は度重なる賃料不払いなんかですよね。1度や2度の不払いなら,いまだ信頼関係は破壊されていないと一般的に言われ,賃貸人はそれでもって債務不履行解除できない,と説明されます。

注目してほしいのは,教科書でよく登場するにケースは,賃借人に原因があるケースです。賃料不払いにせよ,用法遵守義務違反にせよ,賃借人が原因を作り出すケースが,いわゆる教科書事例になっています。

で,「基本的なテーマなのだが,基本(教科書事例)とはちょっと違う」事例を考えさせる司法試験なら,賃貸人に原因のあるケースを出すのではないかと思います。例えば,賃貸人が一方的に賃料増額を要求したり,賃貸人が賃借人を罵倒したりするなどして,相互の「信頼」がなくなったケースなどが考えられるでしょうか。

これは,意外と難しい問題です。賃借人の生活基盤確保のために解除権を制限したと考えるなら,信頼関係破壊の法理は適用されないはずです。他方,賃貸借契約は相互の信頼関係を基礎とする継続的契約だと捉えるならば,賃貸人に原因がある場合でも信頼関係破壊の法理を適用する余地がある(賃借人保護のためにより厳格に適用すべきなのでしょうけれど。被告から(再)反論するなら,権利濫用ということになるかなぁ)。参考になるのは,有責配偶者からの離婚請求でしょうか。一定の場合に,有責配偶者からの離婚請求も認められますから,それと同じように考えると,賃貸人に原因のある場合でも,一定の場合には信頼関係破壊の法理を適用して解除を認めるべき,ということなりうると考えることはできます。

判例や裁判例のリサーチが十分ではない段階ですが,ふと思ったので紹介しておきます。

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4 コメント

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Unknown (元不動産屋)
2011-12-22 12:29:08
不動産取引の実務では、賃貸人の資力が不安で敷金返還請求権が心配とか、オーナーと折り合いが悪いとかで、賃借人としては出たいんだけど、解約禁止特約がついていて出れなくて困るという事案はよくあります。
信頼関係破壊の法理で解約禁止特約を飛ばしたというのは聞いたことありません(おそらく、通常の借家は賃借期間が2年なので)が、定期借家事例では通常の賃貸借に比べて賃借期間が長く、解約禁止特約をつけるのが普通なので、定期借家事例では問題になるかもしれませんね。
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Unknown (TM)
2011-12-22 22:09:19
記事の内容とは関係ないのですが、再現答案の検討の仕方について質問させてください。

私は、出題趣旨と見比べてどの程度沿っているかや、どこに分量を多く割いているかを主に検討しています。

合格者に話を聞くと、文章の流れを意識して読んだなどと言われるのですが、いまいちピンときません。

上位答案と下位答案を比べると上位の方が読みやすいなというのは伝わるのですが、具体的にどのような点に注目して検討するとよいでしょうか。
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Unknown (はら)
2011-12-28 12:40:00
元不動産屋さん

そうですね~。私もその種の相談を受けたことがあります。司法試験的に言うと,賃借人は「(少なくとも今は)出たくない」事案が狙われるでしょうかね。「こういう場合も信頼関係の破壊と言えるのか?」なんて現場で悩むケースでしょうか。ちょっと,色々と勉強してみたくなりました。

TMさん

>私は、出題趣旨と見比べてどの程度沿っているかや、どこに分量を多く割いているかを主に検討しています。

それは,正しい上位答案の読み方です。私のやり方としては,「上位答案を添削する」です。出題趣旨を採点基準にして,点が入るであろう所に,○を付けていきます。すると,上位答案は,○がたくさん付く。要するに,無駄な記述があまりないのです。逆に,不合格(下位)答案は,○を打ちたくてもあまり打てない。点にならないであろう部分が多いのです。

私見ですが,このように,点になる事項を効率的に書いてあるか,それが合格者の方が言う,
「文章の流れを意識して」ということではないでしょうか?

そして,その前提には,わかりやすい構成になっているか,文章それ自体の出来(表現力),という点もあるでしょうから,上記の点とこれらをひっくるめて,「文章の流れ」という表現をされているのだと思います。

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Unknown (TM)
2011-12-28 13:51:54
お返事ありがとうございます。
出題趣旨と見比べてはいたものの、点数になりそうなところはどこかという視点を持つことは新鮮だなと思いました。
さっそく実行させていただきます。
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