原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

民法724条関連の話

2011-07-10 | 民法的内容
不法行為の損害賠償請求権の消滅時効は,3年ですよね(民724)。普通,債権の消滅時効は10年(民167)なわけですが,不法行為の損害賠償は短くなっている。なんで??

意外とうまく説明しにくいところです。実は,これについて明示しているのが,最判H14.1.29です。年月日だけ言われてもピンとこないと思いますが,これは,「民法724前段にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時を言う」ということを述べた有名な判例です。「あぁ,あの判例ね」と思っていただけるでしょう。その判旨の中で,以下のように述べられています。

「民法724条の短期消滅時効の趣旨は,損害賠償の請求を受けるかどうか,いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果,極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ,加害者を保護することになるが,それもあくまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しながら3年間『も』放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとしているものにすぎず,それ以上に加害者を保護しようとする趣旨ではないというべきである。」

こう言ってるわけです。基本的に,「加害者」保護の視点があるわけです。ただそれも,被害者が3年間『も』放置していた場合に,被害者を犠牲にして加害者を保護する正当性があると言える。で,3年間『も』放置していたと言えるためには,損害の発生は現実に認識されていなくてはいけない。でないと,被害者を犠牲にすることは正当化できない。それで「損害を知ったとき」とは,現実に知った時,と解釈されるわけです。

いわゆる通常の「10年」の消滅時効の趣旨は,①権利の上に眠る者は保護せず,②永続した事実状態の尊重,③立証困難からの救済,が趣旨と言われていて,不法行為の損害賠償請求は,これに④加害者保護という趣旨が加わるので,3年の短期消滅時効になるわけです。他の短期消滅時効も同じ。商事債権の消滅時効が5年(商522)となっているのは,④法律関係の早期確定・安定の要請が強いからというのは,よく勉強することかと思います。

こういう風に,一口に時効と言っても,それぞれ別の制度趣旨があって,時効期間も異なってくるわけです。

そうすると,例えば,こんな事例ではどうでしょう?平成10年(13年前),ようやく夢のマイホームが完成。しかし,そのマイホームには欠陥があった。その欠陥に気づいたのは,去年(1年前)である。建築請負契約書を見ると,瑕疵担保の条項があって,瑕疵担保責任の追及は,完成から10年間(本件では,平成20年まで)とされている。損害賠償を請求したいがどうか?

まず,損害賠償請求の根拠ですが,債務不履行責任,瑕疵担保責任,不法行為責任,このあたりが考えられますが,請負契約における瑕疵担保責任は,債務不履行(不完全履行)責任の特則なので,債務不履行責任に基づく損害賠償請求はできず,瑕疵担保責任の追及か,不法行為責任の追及,ということになるでしょう。

そして,瑕疵担保責任の追及は上に述べた10年間の約定があるので,ちと厳しい。そこで,損害の発生を知ったのは去年であり,まだ3年間経っていない(民724)として,不法行為責任の追及を検討するでしょうか。

相手方としては,こういった請求権競合の場合であれば,「責任追及は10年間」という約定をした趣旨からして,不法行為責任もすでに追及できないはずだ,でないとこの特約は骨抜きだ,とでも言いたいところ。この点について判断したのが,東京地判S39.1.31です。商法738の船舶所有者の堪航担保義務違反による1年の短期消滅時効(商765)と民法724の競合が問題になった事例で,判旨は,それぞれ別の時効期間となり,一方が消滅しても,他方は消滅しないとしました。曰く,

「債務不履行と不法行為は,それぞれ,その制度目的を異にしているのであるから,双方の責任が競合する場合であっても,時効に関する限り,消滅時効は,それぞれの規定に従い,前者にあっては1年,後者にあっては3年と解するのが相当である」

…よく考えてみれば,当たり前って言えば当たり前なんですよね。別の訴訟物なわけだし。

面白くない記事になっちゃった気がする…(涙)

<参考文献>

酒井廣幸「不法行為の時効」(新日本法規)17頁以下

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