原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

最決平成22年12月7日(平成22年重判・商法1)

2013-11-01 | 商法的内容

【事案の概要】

第1 当事者

   申立人(許可抗告相手方):Y社の株主であるX

   相手方(許可抗告抗告人):Y社(被買収会社)

   なお、訴外A社はY社の買収会社である。

第2 事件の経過

 1 Y社は、マザーズに上場していた株式会社であり、振替株式発行会社であった。

 2 Y社は、同じくマザーズに上場する訴外A社と資本業務提携のため、訴外A社の完全子会社となることを決定した。

   そのためのスキームとして、スクイーズアウトによる二段階買収の方法を採用することを決めた。すなわち、①訴外A社がTOBを実施してY社を支配可能なだけのY社株式を取得した後、②Y社普通株式を全部取得条項付株式に変更してY社が全ての株式を取得し、その取得対価として既存小規模株主(Xを含む、TOBに応じなかった株主)に金銭を交付することにより、既存少数株主をY社より締め出しY社を訴外A社の完全子会社化する、というものであった。

   A社は、①(一段階目のTOB)に成功し、Y社は、②のための株主総会(以下、単に「株主総会」という)の手続に着手した。以下、その経過を述べる。

 3 株主総会の基準日は、平成21年3月31日であった。

   振替機関は、Y社に対し、同日を基準日とする総株主通知を行った。この総株主通知におけるXの保有株式数は、383株であった。

   Xは、株主総会に先立ち、Y社に対して、下記各決議に係る議案に反対する旨を通知し、6月29日に実施された株主総会でも実際に反対した。

                  記

   ア.Y社普通株式の他に、N種種類株式を創設し、その発行可能株式数を100株とする。

   イ.普通株式を全部取得条項付普通株式に変更し、Y社は株主総会決議によりその全部を取得することができることとし、取得対価として1株につき、N種種類株式1/16,000株を交付する。

   ウ.Y社は、8月5日、8月4日を基準日として株主名簿に記載された株主の有する全部取得条項付普通株式を取得し、1株あたり1/16,000株を交付する。

 4 Xは、7月10日、会社法172条1項に基づき、価格決定の申立てをした。なお、同項の定める申立期間(株主総会開催日である6月29日から20日以内)が満了するのは、7月21日であった。

 5 Xは、7月29日、証券会社に対し、Y社への個別株主通知を依頼した。しかし、8月5日ころ、証券会社担当者はXに対して、「Y社はスクイーズアウトの実施に伴い7月30日をもって上場廃止となったため、個別株主通知はできない」と告げた。実際に、個別株主通知はされなかった。

   なお、Xは、株主総会以降、Y社株を37株買い増している。

 6 Y社の主張の骨子は、XはY社に対して個別株主通知をしていないのであるから、Y社はXを株主として扱う必要はなく、それゆえ、申立ては不適法である、というもの。

【争点】

振替株式について会社法172条1項に基づく価格決定の申立てを受けた会社が、審理の中で申立人が株主であることを争った場合、申立人が株主であると認めるためには、振替法154条3項の個別株主通知が必要か、必要だとしていつまでに個別株主通知をすることが必要か。

【原審・原々審の判断】

第1 原々審(東京地裁平成21年10月27日)

   Y社の主張を全面的に認め、申立て却下。

第2 原審(東京高裁平成22年2月18日)原々決定取消、差戻

 1 会社が、年2回の総株主通知の他に個別株主通知を受けるメリットはなく、かえって、個別株主通知が要求すると解すると、振替株式発行会社の株主の少数株主権行使に多大な負担をかける(個別株主通知をするには、場合によっては1週間程度の期間を要するので、会社法172条1項が要求する20日以内の申立期間を順守するのが困難となる、という意味。また、振替法施行令40条が個別株主通知後4週間以内に権利行使可と規定することとも矛盾する)。

   それゆえ、価格決定の申立てにあたり、個別株主通知は要しないと解すべきである。

 2 仮に、価格決定の申立てにあたり、個別株主通知が必要だと解しても、会社は、株主名簿に記載されていない株主を株主として扱うことは可能であって、価格決定の申立てがなされた場合に、申立人が株主であることが確実だと判断できる事情があれば、会社はその者(申立人)を株主として扱うべきであり、にもかかわらず、申立人が株主であることを争うのは、信義則違反・権利濫用である。

   →本件は、そのような事案であり、Y社は背信的悪意者に準ずるものと評価される。

【決定要旨】

第1 主文内容

   原決定破棄、原々決定に対する抗告棄却。

第2 決定要旨

   個別株主通知は、少数株主権等を行使する際に自己が株主であることを会社に対抗するための要件(対抗要件)であると解される(上場会社株式は、日々取引がなされるので、総株主通知においてある者が株主として記載されていたからといって、少数株主権行使の時にも株主であったと推認することはできない)。

そうすると、価格決定の申立てにおいて、会社が、申立人が株主であることを争った場合、その審理の終結までの間に個別株主通知がなされることを要し、かつ、これをもって足りると解すべきである。

   本件においては、個別株主通知がなされていない以上、Xは、会社に対して自己が株主であることを対抗できない(価格決定の申立ては不適法)。

   なお、本件でY社に信義則違反・権利濫用があったとは言えない。

【判決の射程・意義】

第1 従前の高裁判決

   これまで、本争点に関しての高裁の判断は分かれていた。

 1 東京高決平成22年2月18日

   本件原審に同旨(本件原審と同じ合議体の判断)。

 2 東京高決平成22年1月20日

   個別株主通知は、価格決定の申立てを含む、少数株主権の権利行使要件であり、会社法172条1項所定の申立期間である株主総会の日から20日以内に個別株主通知がなさなければ、申立ては不適法である。

 3 東京高決平成22年2月9日

   本決定同旨。

第2 本決定の意義

 1 本決定は、高裁レベルで判断が分かれていた点について、最高裁として初めて判断を示したものである。

 2 本決定によれば、個別株主通知は、自己が株主であることの(会社への)対抗要件であり、個別株主通知無くして少数株主権等の行使ができないことを明らかにした。

   もっとも、個別株主通知は対抗要件にすぎないため、少数株主権等の行使に関して、申立期間中にこれをせねばならないのではなく、審理終結までにすればよいともしている。

 3 以上からすると、振替株式発行会社(上場会社)の株主が、少数株主権を行使する際には、さしあたり権利行使(申立て)をしたうえで、追って個別株主通知をすることも許容されるが、本件のように会社が上場廃止となる場合は、上場廃止以前に個別株主通知が要求されることになった。会社が上場廃止となるか否かで、少数株主権の行使の可否が左右される点に、疑問がないではない(私見)。

【関連事項等】

第1 全部取得条項付種類株式の取得

<会社法>

(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)

第百七十一条  全部取得条項付種類株式(第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

 全部取得条項付種類株式を取得するのと引換えに金銭等を交付するときは、当該金銭等(以下この条において「取得対価」という。)についての次に掲げる事項

 当該取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法

~ホ(略)

 前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項

 株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。)

(略)

(略)

(裁判所に対する価格の決定の申立て)

第百七十二条  前条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、同項の株主総会の日から二十日以内に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。

 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

(略)

 (略)

 *取得価格の決定の申立てを行うためには、会社法171条1項の決議をする株主総会の時に株主であり、取得価格の決定の申立て(株主総会の日から20日以内)をする際にも株主である必要がある。

第2 スクイーズアウトについて

 1 二段階買収

   買収者が、被買収会社の株式の全部取得を目指す場合、まず、公開買付(TOB)によって被買収会社の支配権を取得できるだけの株式を取得し、その後に別の方法(株式交換等)で未取得株式を取得することにより、被買収会社を完全子会社化する買収方法。

 2 スクイーズアウト

   二段階買収を行う際の二段階目の手続。買収者がTOBにより、支配権を行使しうるだけの被買収会社株式を取得した後、被買収会社の普通株式を全部取得条項付株式に変更した上で、これを被買収会社が全部取得し、その対価として小規模株主には別の種類の株式の端株を交付することによって、既存小規模株主を締め出し、完全子会社化する方法。

   なお、端株の交付に代えて、株式競売代金を交付することもできる(会社法234条1項2号)。ちなみに、二段階目の手続において、株式交換ではなく全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトを採用するメリットは、税制上の点にある。株式交換は非適格組織再編とされ、株式交換完全子会社(被買収会社)が一定の資産について評価替えを強制され、評価益に課税されてしまう(法人税法62条の9)。

第3 株式振替制度と株主の権利行使

 1 総論

   平成21年1月に、「社債、株式等の振替に関する法律」(振替法)が成立したことにより、上場会社は全て同制度に参加し、株券を廃止した。

 2 振替株式の権利行使の方法

   振替株式については、株式の譲渡のたびに株主名簿の名義書換が行われるわけではなく、会社は、以下の振替機関(株式会社証券保管振替機構。いわゆる「ほふり」)による通知に基づいて、株主を確定する。

 (1)総株主通知(振替法151条1項)

    会社が株主総会の開催や剰余金の配当を行うため、権利行使者を決めるための一定の日(会社法124条の基準日や会社法180条2項2号の効力発生日)を定めたときは、振替機関は会社に対し、当該一定の日の振替口座簿に記載された株主の氏名等を速やかに通知しなくてはならない。

    総株主通知を受けた会社は、通知事項を株主名簿に記載・記録する。これにより、当該一定の日に株主名簿の名義書換がされたとみなして(振替法152条1項)、株主の権利行使が行われる。

 (2)個別株主通知

    株主が会社に対して少数株主権等(振替法147条4項参照)を行使しようとするときは、自己が口座を有する口座管理機関(証券会社)を通じて振替機関(ほふり)に申出をすることにより、保有振替株式の種類・数等を会社に通知してもらうことができる(振替法154条3項~5項)。

    この場合、当該株主は株主名簿の記載にかかわりなく(振替法154条1項)、当該通知の後4週間以内に少数株主権等を行使できる(振替法154条2項、同法施行令40条)。

 *株主名簿への記載は、株主たる地位の会社への対抗要件である(会社法130条1項)。振替株式発行会社ではない通常の株式会社の場合、株主名簿の書換えは随時行われるが、振替株式発行会社の場合、総株主通知(年2回)が名義書換のタイミングとなり、いわば「書換え空白期間」が生ずる。そこで、振替法は、株主が少数株主権を行使する際に、株主たる地位を会社に示す個別株主通知制度を創設した。個別株主通知は、名簿書換と同じく、株主たる地位の会社への対抗要件であると一般に解されている。

<振替法>

(総株主通知)

第百五十一条  振替機関は、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、発行者に対し、当該各号に定める株主につき、氏名又は名称及び住所並びに当該株主の有する当該発行者が発行する振替株式の銘柄及び数その他主務省令で定める事項(以下この条及び次条において「通知事項」という。)を速やかに通知しなければならない。

 発行者が基準日を定めたとき。 その日の株主

二以下 (略)

(株主名簿の名義書換に関する会社法 の特例)

第百五十二条  発行者は、前条第一項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の通知を受けた場合には、株主名簿に通知事項及び同条第三項(同条第八項において準用する場合を含む。)の規定により示された事項のうち主務省令で定めるもの並びに同条第五項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により示された事項を記載し、又は記録しなければならない。この場合において、同条第一項各号に定める日に会社法第百三十条第一項 の規定による記載又は記録がされたものとみなす。

2以下 (略)

(少数株主権等の行使に関する会社法 の特例)

第百五十四条  振替株式についての少数株主権等の行使については、会社法第百三十条第一項 の規定は、適用しない。

 前項の振替株式についての少数株主権等は、次項の通知がされた後政令で定める期間が経過する日までの間でなければ、行使することができない。

 振替機関は、特定の銘柄の振替株式について自己又は下位機関の加入者からの申出があった場合には、遅滞なく、当該振替株式の発行者に対し、当該加入者の氏名又は名称及び住所並びに次に掲げる事項その他主務省令で定める事項の通知をしなければならない。

 当該加入者の口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式(当該加入者が第百五十一条第二項第一号の申出をしたものを除く。)の数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 当該加入者が他の加入者の口座における特別株主である場合には、当該口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該特別株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 当該加入者が他の加入者の口座の質権欄に株主として記載又は記録がされた者である場合には、当該質権欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項

 加入者は、前項の申出をするには、その直近上位機関を経由してしなければならない。

 第百五十一条第五項及び第六項の規定は、第三項の通知について準用する。この場合において、同条第六項中「第三項及び前項」とあるのは、「前項」と読み替えるものとする。

<振替法施行令>

(少数株主権等の行使期間)

第四十条  法第百五十四条第二項に規定する政令で定める期間は、四週間とする。

【参考文献】

 ・判タ1340号91頁

 ・平成22年度「重判・商法1事件」(有斐閣)

 ・江頭「株式会社法」(有斐閣)該当箇所

 ・大杉他「リーガルクエスト会社法」(有斐閣)該当箇所

 


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