「濱部は、器量はともかく若い女好きだった筈だけどね」。
「年増でも色気がありゃあ、濱部様には問題ねえ」。
加助は雅に会ったことがないことを千吉は思い出し、
「色気っていうよりも、女としてどうかなって」。
「そりゃあどういう意味だい。器量が悪いのかい」。
加助は興味深そうに、千吉を見詰める。そんな素直な眼差しに、千吉の口も軽くなり、
「器量の善し悪しよりも、物の言い方とか仕草がね。どうにも意地が悪いと言うか…。その、舐め回すような目付きがどうにも蛇みたいなんだ」。
決して器量も良いとは言えないけどねと、千吉は付け加えることを忘れなかった。
「じゃあ何かい。あの三太みたいな感じかい」。
加助に指摘され、千吉は、「ああ、そうだ。その通りだ」。思わず加助を指で指し、膝立ちで腰を浮かしていた。
千吉は胸につかえてたものが取れたような、すっとした思いだった。
「そうあの三太に良く似たお人だった。それと鶴二のような目付きの」。
三太は一時、川瀬石町の裏長屋に住まっていた上方の瀬戸物焼き継ぎ屋で、現在は何処へ行ったのか行く方知れずになっている。鶴二とは、濱部の知り合いで読売書きをしていたが、ひょんなことから人を殺め、お仕置きになったのだった。
加助は寸の間、雅を思い描こうとしたが、どうにもその人となりが浮かばない。すると千吉が、
「そうだ。気の強いところは、お志津さんと良い勝負だね」。
「親方のおかみさんか」。
志津とは加助の親方・平五郎の女房である。この志津のせいで、加助は内弟子から、通いの大工へとなり、千吉の住まいに寄宿するはめになったのであった。
「千吉、そういうことは、鶴二のような風貌で、三太みたいな厚かましさと、おかみさんのような気風ってことかい。そりゃあ人じゃないな」。
「だがね、札差の家付きだ。金子はある。そこが違うかな」。
千吉は、酒を口に運ぶと涼しそうな顔で、言い放つのだった。それを聞いた加助は頭を捻りながら、
「千吉よ、お前さん。がきの頃から人様を悪く言うことなんぞなかったのによ。このところ一体どうしちまったんだい」。
「そうだねえ」。
言われてみればそのとおりである。
「あたしの思いを遥かに超えた、お人がこのところ多いのさ」。
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「年増でも色気がありゃあ、濱部様には問題ねえ」。
加助は雅に会ったことがないことを千吉は思い出し、
「色気っていうよりも、女としてどうかなって」。
「そりゃあどういう意味だい。器量が悪いのかい」。
加助は興味深そうに、千吉を見詰める。そんな素直な眼差しに、千吉の口も軽くなり、
「器量の善し悪しよりも、物の言い方とか仕草がね。どうにも意地が悪いと言うか…。その、舐め回すような目付きがどうにも蛇みたいなんだ」。
決して器量も良いとは言えないけどねと、千吉は付け加えることを忘れなかった。
「じゃあ何かい。あの三太みたいな感じかい」。
加助に指摘され、千吉は、「ああ、そうだ。その通りだ」。思わず加助を指で指し、膝立ちで腰を浮かしていた。
千吉は胸につかえてたものが取れたような、すっとした思いだった。
「そうあの三太に良く似たお人だった。それと鶴二のような目付きの」。
三太は一時、川瀬石町の裏長屋に住まっていた上方の瀬戸物焼き継ぎ屋で、現在は何処へ行ったのか行く方知れずになっている。鶴二とは、濱部の知り合いで読売書きをしていたが、ひょんなことから人を殺め、お仕置きになったのだった。
加助は寸の間、雅を思い描こうとしたが、どうにもその人となりが浮かばない。すると千吉が、
「そうだ。気の強いところは、お志津さんと良い勝負だね」。
「親方のおかみさんか」。
志津とは加助の親方・平五郎の女房である。この志津のせいで、加助は内弟子から、通いの大工へとなり、千吉の住まいに寄宿するはめになったのであった。
「千吉、そういうことは、鶴二のような風貌で、三太みたいな厚かましさと、おかみさんのような気風ってことかい。そりゃあ人じゃないな」。
「だがね、札差の家付きだ。金子はある。そこが違うかな」。
千吉は、酒を口に運ぶと涼しそうな顔で、言い放つのだった。それを聞いた加助は頭を捻りながら、
「千吉よ、お前さん。がきの頃から人様を悪く言うことなんぞなかったのによ。このところ一体どうしちまったんだい」。
「そうだねえ」。
言われてみればそのとおりである。
「あたしの思いを遥かに超えた、お人がこのところ多いのさ」。
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