「それはそうと、昨日深川まで足を伸ばしたのだけど、重ちゃん。三組の火消し知ってるかい」。
「知ってるも何も、深川の三組って言やあ、そりゃあ気っ風に良い、滅法男前の若頭が有名よ」。
お紺の脳裏に、昨日の涼やかな金次が直ぐに浮かんだ。
「金次ってえお人かえ」。
「何でぃ。知っているじゃねえか。若けえ頃は纏持ちで鳴らしたもんでよぉ。初出の梯子なんかは、うっとりするくれえだったぜ」。
重蔵は「男が惚れ込む男だ」と、目を輝かせる。
「読売のお紺ともあろうもんが、知らなかったのけぇ」。
「うん。火事場には行く事があってもさ、火消しの人相まで目に入らないよ」。
「だな」。
どうして金次を知ったのかと重蔵がしつこいので、昨日の一部始終を話して聞かせると、やはり重蔵も男であった。深川八幡のおえんと言えば錦絵にもなろうかと言う程の別嬪で、おえん目当ての客で水茶屋は大層な繁盛だとか。
「で、そのおえんが惚れてる太助ってえのはどんな男よ」。
「それが、はっきりそうとは言い切れないんだけど、豆みたいだった」。
「……豆」。
「うん。目も鼻も口も豆。おまけに体付きもね」。
「なんだそりゃあ」。
全てが小振りに出来ていて、似面絵を書いたなら、全てが○になるとお紺はそう感じていた。
「で、のしゃばりお紺としては、顛末が気になるってえのかい」。
「まあね。読売には出来ないけど、気になるじゃないか」。
「だったらよ、おえんの水茶屋に行ってみりゃあ良いんだ。今日、おえんがどんな顔してるか見りゃ分かるってもんさ」。
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「知ってるも何も、深川の三組って言やあ、そりゃあ気っ風に良い、滅法男前の若頭が有名よ」。
お紺の脳裏に、昨日の涼やかな金次が直ぐに浮かんだ。
「金次ってえお人かえ」。
「何でぃ。知っているじゃねえか。若けえ頃は纏持ちで鳴らしたもんでよぉ。初出の梯子なんかは、うっとりするくれえだったぜ」。
重蔵は「男が惚れ込む男だ」と、目を輝かせる。
「読売のお紺ともあろうもんが、知らなかったのけぇ」。
「うん。火事場には行く事があってもさ、火消しの人相まで目に入らないよ」。
「だな」。
どうして金次を知ったのかと重蔵がしつこいので、昨日の一部始終を話して聞かせると、やはり重蔵も男であった。深川八幡のおえんと言えば錦絵にもなろうかと言う程の別嬪で、おえん目当ての客で水茶屋は大層な繁盛だとか。
「で、そのおえんが惚れてる太助ってえのはどんな男よ」。
「それが、はっきりそうとは言い切れないんだけど、豆みたいだった」。
「……豆」。
「うん。目も鼻も口も豆。おまけに体付きもね」。
「なんだそりゃあ」。
全てが小振りに出来ていて、似面絵を書いたなら、全てが○になるとお紺はそう感じていた。
「で、のしゃばりお紺としては、顛末が気になるってえのかい」。
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