大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

のしゃばりお紺の読売余話6

2014年10月28日 | のしゃばりお紺の読売余話
 「それはそうと、昨日深川まで足を伸ばしたのだけど、重ちゃん。三組の火消し知ってるかい」。
 「知ってるも何も、深川の三組って言やあ、そりゃあ気っ風に良い、滅法男前の若頭が有名よ」。
 お紺の脳裏に、昨日の涼やかな金次が直ぐに浮かんだ。
 「金次ってえお人かえ」。
 「何でぃ。知っているじゃねえか。若けえ頃は纏持ちで鳴らしたもんでよぉ。初出の梯子なんかは、うっとりするくれえだったぜ」。
 重蔵は「男が惚れ込む男だ」と、目を輝かせる。
 「読売のお紺ともあろうもんが、知らなかったのけぇ」。
 「うん。火事場には行く事があってもさ、火消しの人相まで目に入らないよ」。
 「だな」。
 どうして金次を知ったのかと重蔵がしつこいので、昨日の一部始終を話して聞かせると、やはり重蔵も男であった。深川八幡のおえんと言えば錦絵にもなろうかと言う程の別嬪で、おえん目当ての客で水茶屋は大層な繁盛だとか。
 「で、そのおえんが惚れてる太助ってえのはどんな男よ」。
 「それが、はっきりそうとは言い切れないんだけど、豆みたいだった」。
 「……豆」。
 「うん。目も鼻も口も豆。おまけに体付きもね」。
 「なんだそりゃあ」。
 全てが小振りに出来ていて、似面絵を書いたなら、全てが○になるとお紺はそう感じていた。
 「で、のしゃばりお紺としては、顛末が気になるってえのかい」。
 「まあね。読売には出来ないけど、気になるじゃないか」。
 「だったらよ、おえんの水茶屋に行ってみりゃあ良いんだ。今日、おえんがどんな顔してるか見りゃ分かるってもんさ」。





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