「如何でございましょう。左甚五郎浮世物語と題させて頂きました。戯作は、江戸では未だ馴染みが薄いようにございますが、上方では多く読まれています。庶民の味方として名高い甚五郎親方が主題でございますれば、江戸でも一気に評判になる事間違いありません」。
僧の名は、浅井松雲了意。浄土真宗の末寺本照寺の住職の子として産まれるも、訳あって諸国を放浪し、仏学、儒学、和学を収め、この時は、京都二条本性寺の昭儀坊に住していると言う。諸国を歩いただけあって、言葉に訛はなかった。
肘枕で読んでいた草紙をぽんと男の膝元に投げ返すと、万林は胡座をかいた。
「如何もこうありゃしませんぜ。鶴が空を飛んだの、龍が動いたのってんなら構やしねえが、こんなもんが世に出たら、御坊さんあんただけじゃなく、こちとらも獄門行きですぜ」。
「勿論、名や藩のところは伏せさせて頂きます」。
「伏せたところで、粗方は分かるってもんでさ。でいち、寺社奉行はどうしなさる。奉行ったら限られますぜ。それによ、御上を愚弄する事に変わりはねえ。駄目だったら駄目だ。寄りにも寄って、御法度の切支丹にまで手を貸してるじゃねえですかい」。
「これは戯作。絵空事と知った上で読まれるものです。何なら絵を加えてお伽草紙にしても構いませんよ」。
「絵空事って言ってもよ、御坊さん、見て来たように書いてなさるじゃねえですかい。それによ、円徹が御大名の御烙印ってえのは何でい」。
「違いますか」。
悪びれる風もなく、了意が喰い下がれば、そのしつこさに業を煮やした万林は、声を荒げるのだった。
ランキングに参加しています。ご協力お願いします。
にほんブログ村
僧の名は、浅井松雲了意。浄土真宗の末寺本照寺の住職の子として産まれるも、訳あって諸国を放浪し、仏学、儒学、和学を収め、この時は、京都二条本性寺の昭儀坊に住していると言う。諸国を歩いただけあって、言葉に訛はなかった。
肘枕で読んでいた草紙をぽんと男の膝元に投げ返すと、万林は胡座をかいた。
「如何もこうありゃしませんぜ。鶴が空を飛んだの、龍が動いたのってんなら構やしねえが、こんなもんが世に出たら、御坊さんあんただけじゃなく、こちとらも獄門行きですぜ」。
「勿論、名や藩のところは伏せさせて頂きます」。
「伏せたところで、粗方は分かるってもんでさ。でいち、寺社奉行はどうしなさる。奉行ったら限られますぜ。それによ、御上を愚弄する事に変わりはねえ。駄目だったら駄目だ。寄りにも寄って、御法度の切支丹にまで手を貸してるじゃねえですかい」。
「これは戯作。絵空事と知った上で読まれるものです。何なら絵を加えてお伽草紙にしても構いませんよ」。
「絵空事って言ってもよ、御坊さん、見て来たように書いてなさるじゃねえですかい。それによ、円徹が御大名の御烙印ってえのは何でい」。
「違いますか」。
悪びれる風もなく、了意が喰い下がれば、そのしつこさに業を煮やした万林は、声を荒げるのだった。
ランキングに参加しています。ご協力お願いします。
にほんブログ村