限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

【座右之銘・143】『Omne, quod est honestum, id quattuor partium oritur ex aliqua』

2024-07-21 11:20:26 | 日記
『有徳の人』という言葉は耳にした時、どういった人物像を想像するだろうか?謙虚、優しさ、正直、廉直、などいろいろだろう。言うまでもなく、徳は物理の法則のように、全時代、全世界を通じて不変であるようなものではなく、時代、場所によって変わる。つまり文化背景依存である。

今なお欧米では、今から遡ること2000数百年前の、古代ギリシャ・ローマの著名な人物が行動規範(モデル)となっている。具体的には、『プルターク英雄伝』に取り上げられている、カエサル、スキピオ、アリステーデースなどが敬仰されている。



古代ローマの雄弁家キケロに「De Officiis」(義務について)という著作があり、その中に当時の人々が抱いていた有徳の具体的内容が書かれている場所がある(巻1-15)。次の文で言われているように、徳の基本は四つであるということだ。

【原文】(Sed) omne, quod est honestum, id quattuor partium oritur ex aliqua.
【私訳】徳と呼ばれるものはとりも直さず次の四つのものから出てくる。
【英訳】But all that is morally right rises from some one of four sources
【独訳】Aber alles, was ehrenhaft ist, geht aus einem der vier Teilbereiche hervor.
【仏訳】Mais tout ce qui est honnêtte vient de l'une de ces quatre sources principales :

この個所で指摘されている四つとは『賢明、正直、勇気、寛大』だ。日本で好まれている有徳の人物像といえば、理不尽に怒ることなく、愚痴ることのない好々爺のような人物を想像しがちだが、ヨーロッパでは積極的に行動する、逞しいリーダー像が浮かんでくる。こういった基準から判断すると、アメリカのトランプ前大統領は有徳人物とみなすことも、アメリカ人にとっては可能だといえよう。
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