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「よしなさいよう。よしなさいってば。――」
それから良平は小声になった。
「見つかると、お前さん、叱られるよ。」
畑の中に生えている百合は野原や山にあるやつと違う。この畑の持ち主以外に誰も取る事は許されていない。――それは金三にもわかっていた。彼はちょいと未練そうに、まわりの土へ輪を描いた後、素直に良平の云う事を聞いた。
晴れた空のどこかには雲雀の声が続いていた。二人の子供はその声の下に二本芽の百合を愛しながら、大真面目にこう云う約束を結んだ。――第一、この百合の事はどんな友だちにも話さない事。第二、毎朝学校へ出る前、二人一しょに見に来る事。…
――芥川龍之介「百合」