★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

紫陽花

2024-07-13 23:59:14 | 文学


呆れし少年の縋り着きて、いまは雫ばかりなる氷を其口に齎しつ。腰元腕をゆるめたれば、貴女の顔のけざまに、うつとりと目をみひらき、胸をおしたる手を放ちて、少年の肩を抱きつゝ、ぢつと見てうなづくはしに、がつくりと咽喉に通りて、桐の葉越の日影薄く、紫陽花の色、淋しき其笑顔にうつりぬ。


――泉鏡花「紫陽花」