石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

さよなら久米宏、さよなら報道記者!

2010-09-10 09:08:13 | 月刊宝島「メディアに喝!」
 十八年間走り続けた列車が消える。「ニュースステーション」という駅から久米宏が立ち去る。「疲れたのではない、衰えたのです」。衰えを感じさせない名セリフではないか。八月二六日の降板記者会見のやりとりだ。

 「衰えたとは具体的に言うと?」

 「最適な言葉が出てこなくなった。しゃべり出してから何を次にしゃべるか決めてない状態が出てきたのです」

 そーか、この番組は久米という達人が、次に何をしゃべるかの「話芸」によって引っ張ってきた番組だったのだ。TVニュースという、ものすごい古い手法の「動画つき官報」の各項目を、次々と話芸でつないで来た。そのつなぎに衰えを感じての降板だった。

 久米宏が降りることが「ニュース」で、次に古館伊知郎が後継者です、が「ニュース」になり、「番組がなくなるのに、後任がいるのは分からない」と久米がカンカンに怒ったことが「ニュース」になる。芸能も含めて日本のメデイアが異常に「人事」をニュースとして愛するのは何故だろう? たぶん、それだけが「新鮮」に見えるからだろう。

 つまり日本のニュースとは、大部分が全国四〇〇ヶ所もある記者クラブで「官製」の原材料が仕入れされて、一部加工、化粧直しされ、分配、流通、全国のメディアから怒涛のごとく吐き出される。その取り扱いと手法のマンネリズムこそが問題なのだ。それを直視せず、「商品」としてどう魅力的に見せるか。そこに久米宏という香具師(やし)が必要だった。プラスチックの寿司も、新鮮なネタに見せて十八年間お客に食わせ続けた、久米とは天才詐欺師だった。

 この際だ。テレビニュースを根本的考え直そうよ。テレビの報道部を作ったとき、新聞記者を鑑と仰ぎ、いそいそと同じ記者クラブに加わった。あそこで断固として新聞などと席を同じうせず、映像と音声という全く新しい武器を使って、ニュースを「つかむ」手法を身もだえしながら考え抜くべきであった。

 きょうのニュースとして首相のワンコメントを頂戴する、あのマイクを捧げ持つだけの人も放送記者? そんなのニュースじゃないだろう。ニュースは記者の群の外にある。カメラとマイクがあるなら、いっそ「本日の自殺中継」を毎日やって、ほんとに庶民が今どんな現実で生きているか、死のうとしているか、それを伝え切るのがニュースである。

 テレビ取材をENG(Electric News Gathering)と呼ぶ。ニュースの「ギャザリング(集め方)」を全部洗いなおそう。たとえば拘置所から裁判所まで重要容疑者が乗った護送車の屋根をエンエンとヘリで撮る、あんなの単なる「手抜き」である。

 ニュースの「顔」を百回変えても日本は変わらない。ニュース作りの「システム」こそ変えなければならない。十八年間走り続けた列車が消える。この際、ニュースステーションという古い駅舎でメモだけしている「マンネリ報道記者」たちも一緒に乗り込んで、さよーならー。


月刊「宝島」 メデイアに喝! No.2 2003年11月掲載


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4 Comments

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みんな居なくなった。 (yuusuke320)
2010-09-10 09:51:04
 「AERAの石井氏のコラムが無くなった」と岡留氏の噂の真相で残念だ。と語った元長野県知事田中氏。
 久米氏のニュースステーションも終わり、月間誌・噂の真相も廃刊しました。そして、石井氏も鬼門に。
 懐かしさを乗り越え、先人のガッツを受け継いでゆきたい。

 
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発信しつづけるということ (メメ76)
2010-09-14 08:40:11
1.ちょうどこのころ、レンホーや島田しんすけもニュースキャスターとしてデビューし、こけた。一度見たかったが見ないうちに番組が終わってしまった。その香具師たちが衣装をかえ、今したり顔で露出している。

2.だが、いくら 権力にひよろうが、低レベルになろうが、ジャーナリズムは必要と考えます。見たいものを見せるという意味で良いも悪いも露出させるべきです。そのよしあしの判断は見る側でしょう。
私にとって石井信平というフィルターのなくなった今、「実話スペシャル」までが読書の対象になりました。
 
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yuusukeさま (石井代行)
2010-11-04 01:25:23
ガッツを是非受け継いでいってください。
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MEMEさま (妻より)
2010-11-04 01:28:36
お返事遅れました。

権力に日和った時点でおそらくジャーナリズムから離れてしまっているのでしょう。どこまでも反骨である気概がジャーナリストには必要ではないでしょうか。

そういう意味で、今注目しているのが、上杉隆さんです。
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