6月26日(水)、西南大学での文芸評論家縄田一雄氏の講演を聴きに出かけた。
会場の大学チャペルは満席、若者よりも年配者それもご婦人が多かった。
生憎と縄田氏が体調不良で講演会は中止。急きょ、葉室麟氏に聞く形式の
座談会に切り替えられた。話し相手は西南大学の田村元彦教授(法学部)と
KBCアナウンス部長奥田智子さん。
今年1月、直木賞・芥川賞の受賞者発表会での、葉室氏を映像でご覧になった人が感じられたと
思うが、今回も肩に力を入れずに飄々と話された。応対がゆったりとして、思ったままを
相手に返す柔らかな雰囲気を持った人という印象だった。
司会役奥田さんの質問に、正直に答えてくださっていた。まず、受賞発表会のエピソードから。
葉室氏は発表会での(芥川賞)田中慎也氏の緊張ぶりを披露していた。葉室氏はその場の緊張を
ほぐす役目を演じてくださったようだ。社会経験が豊かな人だからといえるだろう。
いま日本社会は危機に直面しているが、日本人はそのようなときこそ、しなやかに生きる力を持っている
と語られた。
話は次々と飛躍したので、「こんな話はあまり面白くないないなぁ」とこぼしながら
ご自身の作風について、尊敬する筑豊の作家のこと、好きな作家司馬遼太郎さんと藤沢周平さんのこと、
行動に揺らぎがない立花宗茂と同じ志をもつ千代夫人との結びつき、
老成した黒田如水のキリシタンぶり、広瀬淡窓と教養主義、陽明学の役割と革命家など
歴史に学ぶ面白さを語られた。
氏は日本人の人を包み込む優しさと心栄えがあること、心ひかれ人物は行いの正しい人だと述べられた。
地方で文筆活動を続ける理由を、中央の支配者でない人物や負けた側の人が理解できる
ことを挙げられた。ここにいてこそ物事が見えてくることがあるといわれた。作品の構想が湧き出てくる
環境を失いたくないということだろうと私は理解した。
このところ2ヶ月に一冊のペースで、新作を発表することについて、作家としての残り時間を
意識しているという正直なところを披露された。50歳過ぎて作家生活に入られたので、
歴史の中に登場する描きたい人物像が、氏の頭の中にまだ一杯詰まっているようだ。
5度目のノミネートで、見事に選者(5人)満票を得た作品「蜩ノ記」は、選者から「よく書き上げた」と
褒められている。私は、今からこの本を読むつもりでいる。
撮影 栗橋氏