京都社会保障推進協議会ブログ

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「生活扶助基準に関する検討会」(その1)

2007年12月18日 07時30分16秒 | 資料&情報
 生活扶助基準に関する検討会は、今年10月19日に第1回会議が開催されて以降、第2回(10月30日)第3回(11月8日)第4回(11月15日)第5回(11月30日)と矢継ぎ早に開催された。開催の趣旨と検討会委員のメンバーは次のとおりである。
 検討会開催の趣旨と委員名簿

 資料として第1回~第5回検討会の配布資料を掲載する。
  第1回検討会配布資料-1
  第1回検討会回付資料-2
  第2回検討会配布資料-1
  第2回検討会配布資料-2
  第3回検討会回付資料-1
  第3回検討会配布資料-2
  第3回検討会配布資料-3
  第3回検討会配布資料-4
  第4回検討会配布資料-1
  第4回検討会配布資料-2
  第5回(最終)検討会配布資料

 検討会の報告書は生活保護基準を切り下げ格差をいっそう拡大するものとして抗議の声明が出されていますので紹介します。

 生活保護基準切り下げに断固抗議する声明

厚生労働大臣 舛添要一 殿
厚生労働省社会・援護局長 中村秀一 殿
(関連部署:社会・援護局保護課企画法令係)

2007年12月3日

生活保護問題対策全国会議 代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
(事務局)〒530-0047
大阪市北区西天満3-14-16西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所  弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320

私たちは、福祉事務所の窓口規制などの生活保護制度の違法な運用を是正するとともに生活保護費の削減を至上命題とした制度の改悪を許さず、生活保護をはじめとする社会保障制度の整備・充実を図ることを目的として、今年6月に結成された、全国の弁護士・司法書士・研究者・市民184名で構成する市民団体である。
11月30日、貴省が設置した「生活扶助基準に関する検討会」(以下「本検討会」という)が報告書をまとめたのを受け、舛添要一大臣は記者会見において、来年度予算から生活保護基準の切り下げに踏み込む旨発表した。
しかし、現在の深刻な「貧困」の広がりの中で、市民がどんなに苦しんでいるのか、また、「最後のセーフティネット」としての生活保護制度がいかに重要であるかについて、全く理解がないまま、厚生労働省が今回の手続きを進めていることに、私たちは強い怒りをもって、厳重に抗議する。

1 まず、今回の検討会の検討の対象となったものは、憲法25条が規定する生存権保障の水準を決する生活扶助基準である。その切り下げは、生活保護利用者の生活を直撃するだけでなく、最低賃金、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準などの労働、医療、福祉、教育、税制などの多様な施策に連動し、低所得者全般の生活に多大な影響を及ぼす重大問題である。
にもかかわらず、手続き的に見ても、保護を利用している当事者の意見や幅広い市民の意見を聞くこともなく、約1ヶ月半という極めて短期間に結論を出していること自体、「拙速」以外の何ものでもない。厚生労働省は、最初から結論を決め、検討会を自ら敷いた筋書きどおりに操り、その「お墨付き」を得たという体裁を取り繕って、保護基準の引き下げを断行しようとしているものであって、このように姑息なやり方は、断じて容認することができない。
2 また、内容的にみても、全く説得力を欠くものとなっている。
保護基準の算定方式として採られてきた「水準均衡方式」は、もともと「一般国民の消費水準との均衡」を考えていたにもかかわらず、検討会報告書は、年間収入階級第1・十分位の消費水準と比較している。しかし、我が国における生活保護の「捕捉率」(生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用できている人の割合)は極めて低く、保護の利用申請を窓口で違法に拒否する「水際作戦」の結果や制度が周知されていないため、制度を利用できていない漏給層が80パーセント以上もいると言われている。検討会報告書は、このように生活保護基準以下の収入での苦しい生活を余儀なくされている最低位の低所得者の消費支出を比較の対象とし、より低い方に合わせる考え方を採用しているが、これでは歯止めない「負のスパイラル」に陥り、国民の生存権保障の水準が地の果てまで転落することになる。
 なお、報告書には、「これまでの給付水準との比較をも考慮する必要がある」との指摘や、「単身世帯(60歳以上)については」、第1・十分位の消費水準が第3・五分位の「5割にとどまっている点に留意する必要がある」との指摘があること(5ページ)等からすれば、この報告書の内容をもってしても、生活扶助基準の「引き下げ」を結論づけることはできないと言うべきであり、この間、物価が高騰していることなどからすれば、なおのこと現時点での生活扶助基準の引下げは行われるべきではない。
3 生活扶助基準のあり方、年齢階層別の基準額の水準、第1類と第2類の区別、標準世帯、地域差の問題等制度の基本的問題については、最低賃金の水準、年金の給付水準、課税最低限度額、国保料の減免基準など他制度への影響も考え、制度利用者、市民の意見を十分に聞き、全国民的議論のうえで決定すべきであり、今回の手続きに基づく生活保護基準引き下げの方針は撤回すべきである。
4 我々は、今後とも、広く市民各層との連帯のもとで、国会内外の活動を強め、生活保護制度の「切り下げ」阻止の運動をより一層強めて行く決意である。(以上)

 京都新聞も12月6日付社説でこの問題を取り上げています。

生活保護減額  懸念される格差固定化
 高齢や病気などで生活が立ち行かなくなった人を支えてきた「最後のセーフティーネット」が揺れている。
 厚生労働省の検討会が生活保護基準の引き下げを求める報告書をまとめた。生活費である生活扶助が低所得世帯の生活費を上回るというのが理由だ。
 低所得者の生活向上を考えず、水準を「低い方」に合わせる手法は生活保護の老齢、母子加算の減額・廃止の時にもみられた。財政再建の必要性は理解できるが、これでは社会保障費抑制のための数字合わせととられても仕方あるまい。
 生活保護基準の引き下げは、受給者だけでなく社会的弱者をさらに追い詰め、格差の固定化につながりかねない。
 厚労省は二〇〇八年度予算に反映させる考えだが、慎重な議論を求めたい。
 生活保護世帯は〇六年度、百七万五千八百世帯で過去最高を更新した。六十五歳以上の高齢者世帯が四割を占める。
 報告書は厚労省などの調査を基に、全世帯のうち下から一割の低所得世帯と生活保護世帯を比較。生活保護費のうち食費など生活費に当たる生活扶助の水準が夫婦と子ども一人の勤労世帯、六十歳以上の単身世帯のいずれでも、生活保護世帯の方が上回っていると指摘した。
 現状のままでは「勤労意欲を減退させかねない」として、厚労省はこの実態を重視し、生活保護基準の引き下げに踏み切りたい意向だ。
 しかし、これでは順序が逆だ。働いても生活保護水準を下回る収入しか得られない「ワーキングプア」が拡大しているという現実を見据える必要がある。低所得を余儀なくされている要因を分析し、彼らの待遇改善を図るのが先決だろう。
 生活保護基準は介護保険の保険料・利用料や地方税の非課税基準、就学援助の給付対象基準などと連動している。安易に引き下げられれば、諸制度の適用を受けられない層を広げかねないなど「負の連鎖」の引き金となる可能性がある。
 今国会で改正した最低賃金法による賃金底上げも期待できなくなる。
 憲法二五条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」のレベルを限りなく下げることにならないか心配だ。
 現状でも、生活保護の窓口で受給者を減らす「水際作戦」が問題化している。会計検査院の調査では、七割が「門前払い」されたというデータもある。
 北九州市では生活保護を打ち切られた男性が餓死し、京都市でも生活保護を断られ、男性が母親と心中を図った。
 生活保護は受けている人だけの問題ではない。年金制度からの検討など、もっと幅広い議論が必要だ。
 一方で、〇六年度に年間九十億円にまで膨らんだ不正受給など、生活保護に対する国民の偏見や無理解もある。
 本当に保護が必要な人をどう救うか。適正な窓口業務を徹底するにはケースワーカー増員など体制整備も急務だ。[京都新聞 2007年12月05日掲載]

 生活保護基準の引き下げは、保護基準と連動する減免制度や地方税、国保料の負担増に直結するものです。以下、関連資料を生活保護問題対策会議の資料より転載します。

生活保護基準が下った場合の被害項目一覧  2007.10.23版

1 生活保護を利用していることから、負担能力がないとされ、利用時の負担が免除されているもの、生活保護費計算時に考慮(控除)されるもの
  (例) 地方税、所得税、国民年金保険料(法定免除)、NHK受信料、公立高校授業料、母子栄養食品支給、入院助産、保育料、児童養護施設など児童福祉施設一部負担、養育医療、更生医療・育成医療・補装具・療育医療、小児慢性特定疾患治療研究事業、地域福祉権利擁護事業利用料、医療保険(保険料、自己負担)、介護保険(保険料、利用時1部負担)、雇用保険(保険料)、心身障害者扶養共済年金掛金、生活福祉資金貸付金の収入認定除外と返還金は収入から控除、公営住宅家賃(住宅扶助超過額免除等)
 (その他法外援護・各自治体施策)私立高校授業料等への補助、バス・電車の無料証、交通共済掛金免除、水道料金減免など

2 生活保護基準と連動する制度、生活保護基準を減免基準にしている制度
(注)①地方税の非課税基準、⑥⑧境界層該当減額措置 以外は各自治体に任されており、実施自治体は必ずしも多いとはいえない。
(1)地方税
①地方税の非課税基準(均等割非課税=全額非課税)
生活保護基準以下の収入でも住民税が課税となるようになった時期が20年ほど前にあり、そうならないように定められた規定
生活保護法による前年の保護基準額(生活扶助費、教育扶助費、住宅扶助費)として算出された金額を勘案して、市町村の級地区分に関わるものを乗じて得た金額を「参酌して定める」こととされている。1級地は1.0、2級地は0.9、3級地は0.8とされている。
(根拠)地方税法295条3項、施行令第47条の3(2)号、施行規則第9条の4②
(夫婦子2人の限度額)近年生保基準の削減に従い漸減:⑮2600千円→⑯⑰2571千円→⑱2557千円(給与所得控除込み)
②地方税の減免
(例)高松市「世帯収入が生活保護の収入基準以下で、納税が著しく困難であると市長が特に認める者」については免除(高松市税条例36条、施行規則)
③滞納処分の停止
(例)京都府 生保基準額の120%以下の場合
(2)国民健康保険
④保険料の減免(申請減免)
(例)国分寺市 生活保護基準の1.1倍未満:100%減免~生保基準1.5倍未満:20%減免
(例)練馬区  生活保護基準の1.15倍未満は減免
(根拠)国保77条、地方税法717条
⑤一部負担金の減免
(例)京都市 生保基準120%以下は免除、130%以下は1部負担金の多寡により2割、4割、6割を減額、
  (例)川崎市 生保基準115%以下は免除、115%超~130%以下は減額
(例)広島市 生保基準 
110%未満は免除、110%
以上~130%以下は減額
(根拠)国保法44条
(3)介護保険
⑥利用料・保険料の減額(境界層該当)
高額介護サービス費、食費、保険料を1ランク下げれば生活保護にならなくて済む場合に、1ランク下げる。
(根拠)施行令38条1項等
⑦保険料の減額
(例)旭川市 年間収入見込額が生保基準以下、貯金が年間生保基準の2倍以下の場合、保険料を第1段階に減額
(4)障害者自立支援法
⑧利用料の減額(境界層該当)
利用料を1ランク下げれば生活保護にならなくて済む場合に、1ランク下げる。
(根拠)施行令17条1項等
(5)公立高校
⑨授業料減免
(例)都立高校…生活保護世帯及び同程度の世帯は免除、生活保護の1.2倍までの世帯は5割減額
(6)公営住宅
⑩家賃減免
(例)埼玉県:最低生活費以下は減免、

3 低所得層への現物給付及び現金給付や貸付に生保基準を用いている制度
①生活福祉資金
貸付対象者
(「低所得者」の範囲)
目安として生活保護基準の1.5倍~2倍が多い
  (例) 京都市 生保基準の1.8倍
(例) 沖縄市 生保基準の1.7倍
②就学援助
給付対象者(「準要保護者」の定義)
生保基準の何倍以下(1.3倍までが大多数)
(例) 足立区 1.1倍
中野区 1.2倍
宮津市 1.3倍
③自治体の低所得者向け貸付制度
貸付対象者
(例)京都市夏季歳末特別生活資金貸付制度
(貸付対象)世帯の合計収入が生活保護基準の1.5倍以内 (以上)

 
 その他、日弁連をはじめ多くの団体・個人から抗議の声明や抗議行動が巻き起こっています。ところが、厚生労働省は、検討委員会報告を受け、来年度予算で生活保護基準の引き下げを表明するなか、生活保護基準の切捨てに反対し、憲法25条をまもる運動は急務です。
 次回は、その後の展開と資料を掲載します。(以上)