背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

緒形拳のファンより

2005年10月08日 10時01分47秒 | 日本映画
 日本人の男優では誰よりも緒形拳が好きだ。一時期彼の出演する映画ばかり見ていた。緒形拳ほど役柄に成りきってその人物の個性を際立たせることができる俳優はいないと思う。役の幅も広い。冷酷非情な殺人犯、愛人の尻に敷かれる中年男、女を売り買いする女衒、マグロ漁業に命をかける漁師、無頼派の作家、時代劇の必殺仕掛け人などがざっと思い浮かぶが、どの役ももはまり役だったと思う。いや、どの役も緒形拳でなければ演じられなかった、とまで思うわけだ。こうした俳優はそうは居ない。今生きている日本人の男優では彼以外に見当たらない。
 彼の主演した映画に駄作はない。と言うより、彼が主演したから映画が駄作にならないのだ。そう思う。映画が良くなるか悪くなるかは、監督の力も大きいが、俳優の魅力によるところも大きい。監督と俳優のコラボレーションで映画は完成するものだが、名監督に名俳優あり、名俳優に名監督あり、といった関係なのだ。緒形拳の主演した映画に限って言えば、今村昌平の「復讐するは我にあり」、野村芳太郎の「鬼畜」、相米慎二の「魚影の群れ」、深作欣ニの「火宅の人」、五社英雄の「薄化粧」などは、どれも傑作である。
 緒形拳は女優とのからみもうまい。もちろん、ラブシーンだけではない。上に挙げた作品では、それぞれ、小川真由美、岩下志麻、夏目雅子、原田美枝子、藤真利子たちと共演しているが、ベテランであろうと若手であろうと、女優の個性を引き出す彼の手腕も大したものだ。たとえば、「火宅の人」で彼は作家の壇一雄を演じているが、若い女編集者の原田美枝子と愛人関係を結ぶ。この二人のアツアツぶりが最高にいい。新進の原田美枝子の大胆な演技が素晴らしく、なんと魅力的な女優が現れたのだろうと私は目を見張った。こんな愛人がいたらいいのにと心底思ったほどだ。原田美枝子の代表作は「火宅の人」に尽きる。彼女はこの愛人役を越えることが出来ないまま、低迷していると思う。「薄化粧」の藤真利子も良かった。彼女の代表作も残念ながらこの一作だけかもしれない。
 緒形拳は若い頃、新国劇の期待の星で、舞台で時代物の立ち回りをやっていた。私はその頃の彼の舞台を見たことはない。彼が一躍脚光を浴びたのは、NHKのテレビドラマ「太閤記」で主役の木下藤吉郎(秀吉)を演じたときだ。その後紆余曲折があって、中年になってから主演級の映画俳優になったのだが、その役者魂と経験をいかんなく発揮し始めたと言える。
 最近、映画で緒形拳を見かけることが少なくなったことを私はとても残念に思う。


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