背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

「私が殺したリー・モーガン」

2019年07月23日 00時20分21秒 | ジャズ


 「私が殺したリー・モーガン」"I Called Him Morgan"(2016年)は、見ていて切ない気持ちになったけれど、感動するドキュメンタリー映画だった。
 麻薬に溺れ、転落した天才トランぺッターのリー・モーガン。どん底にあったモーガンと出会い、尽くしに尽くして彼を更生再起させた内縁の妻ヘレン。彼女は12歳も年上だった。でも、男ってダメだよなあ。また人気が出始めると、新しい恋人を作って、ヘレンを捨てようとしたんですな。

 1972年2月の大雪の日のニューヨーク。リー・モーガンのバンドが出演していたジャズ・クラブで、悲劇は起こる。ヘレンが口論の末、護身用のピストルで、モーガンを撃ってしまうのだ。大雪で救急車が1時間も遅れ、出血多量でモーガンはあの世に…。33歳だった。
 このドキュメンタリーは、1996年にヘレンが死ぬ1か月前に語った談話(カセットテープに録音したもの)をもとに、2015年時点での関係者やミュージシャンの証言、リー・モーガンの写真と演奏(ビデオとレコード)、ヘレンの故郷やモーガンとの思い出の場所の映像などで構成されている。ヘレンが13歳の時に産んだ息子や、モーガンが死ぬ前に交際していた恋人も登場。40年以上も前の事件がなまなましく再現される。
 ジャズ・ファンならみんな同じだったと思うが、リー・モーガンが愛人に射殺されたというニュースは、当時本当に衝撃的だった。


<リー・モーガンの死後に発売されたアルバム「ラスト・セッション」>

新宿ピット・インでジャズを聴く

2012年07月03日 23時45分00秒 | ジャズ
 6月30日(金)、新宿ピット・インの夜の部で森山威男&スモール・オーケストラを聴く。入場料が4200円なのに、お客さんが40人以上で、八割方の入り。
 ナマのジャズ演奏に接するのは久しぶりだった。森山威男がドラムで、ピアノとベースに、管楽器がトランペット、サックス3本(アルト、テナー、バリトン)、トロンボーン、そして珍しいことにアコーディオンが加わっていた。
 森山威男と言えば、山下洋輔トリオのドラマーで、40年以上前に確か同じピット・イン(当時は紀伊国屋書店の裏)でこのトリオの演奏を聴いたことがある。テナーが、坂田明ではなく中村誠一だったと思う。あの頃の山下洋輔トリオはまさに絶頂期で、唖然とするほどの凄さだった。1970年代初めまでは、まだフリージャズも勢いがあった。
 今じゃ森山さんももう60歳半ばなのに、相変わらずエルヴィン・ジョーンズばりのドラムで、頑張っていた。が、ワンステージ終ったら相当バテたらしく、「今日はこれで終わりにしたい」みたいなことを言う。もちろん冗談で、休憩後赤い衣裳に着替えて再登場。やる気満々だった。このバンド、起承転結がちゃんとあるジャズを演奏していたが、ところどころフリーになり、管楽器が変な音を出して掛け合いをやったりする。テナーサックスは、死んだジョージ・アダムスのようだった。ピアノの田中信正という人がフリーからクラシックまで幅広く何でも弾けるタイプで、なかなか良かった。アコーディオンの佐藤芳明という人はこのバンドのレパートリーの作曲を担当しているらしく、また演奏も独特で感心した。

 7月3日(火)、同じくピット・インで、松下美千代トリオを聴く。昼の部で午後2時40分開始。入場料は1300円。お客さんは私を含めわずか8人。少なくてかわいそう。
 ピアニストの松下美千代さんのことは、以前にもこのブログで紹介したが、私の知人の娘さん。30日に森山威男を聴きに行った時、スケジュール表をもらって、松下さんが出演することを知り、久しぶりに応援に行かなくてはと思い、聴きに行ったわけだ。
 なかなか感じのいいトリオで、ドラムの斉藤良はセンスがいいし、ベースの工藤精(しょう)も腕達者だ。ピアノの松下さんとのからみと言うか、ジャズによる三者のコミュニケーションが微笑ましく、楽しい。ツーステージたっぷり聴いて、いい気分になった。ドラムの斉藤くんは、ジョー・チェンバースのドラムみたいに感じたが、誰をお手本にしているのか分らない。昔、猪俣猛というセンス抜群のドラマーがいて、私の高校時代の友人が猪俣さんに師事してプロのドラマーになったが、あいつ、どうしているのだろう? 伊藤史朗という男だ。
 松下美千代トリオの今日の曲目。「ホリゾント」「天の川」「パセリ」「breakshot」「忍者ウサギ」が松下さんのオリジナル。ガーシュインが好きらしく、「I love you, Porgy」も演奏した。ほかにあと2,3曲あったが、曲名は忘れた。


ジャズ喫茶~GENIUS

2010年04月14日 20時22分11秒 | ジャズ
 思い返せば今から40年前、高校3年ごろから5,6年間はジャズばかり聴いていた。渋谷の道玄坂を上って、ヤマハの手前を右に曲がったところは百軒店(ひゃっけんだな)と言って、行きつけのジャズ喫茶が2軒、「音楽館」と「スイング」があった。「音楽館」は「クルーヴィ」と名を替え、7年ほど前までやっていたが、ついに閉店してしまった。「スイング」がいつ閉店したかは知らない。百軒店の奥の方に「ありんこ」という小さなジャズ喫茶もあったが、ここもずっと前に閉店したようだ。「デュエット」という店もあった。
 それともう一つ、百軒店まで行かずに道玄坂の中ほどを右に曲がった小路の地下に「GENIUS」があって、ここへもよく通っていた。「GENIUS」は、私がジャズを聴きに行かなくなってからもずっとあって、平成になって中野新橋へ移転した。地下鉄・丸の内線の支線に中野新橋の駅はあるが、駅からちょっと離れた住宅街の小さなマンションの1階に今の「GENIUS」はある。新「GENIUS」へはこれまで4度ほど行ったことがあるが、先日久しぶりに訪ねて、70歳近い店長と昔話に花を咲かせた。移転したとはいえ、40年間、店を続けているのだからすごいものだ。
「40年前と同じスピーカーを使っているんですよ」と店長。
「この大きなスピーカー、憶えていますよ」
「レコードもあの頃と同じものをかけています」
 店長に「何かリクエストありませんか」ときかれたので、マイルスの「FOUR AND MORE」をかけてもらう。このLPは、私がジャズを聴き始めた頃、一番よく聴いていたものの一枚で、今聴いてもゾクゾクする。トニー・ウィリアムズのドラムに煽られて、マイルスもノリに乗って吹いている。
 ところで、昔の「GENIUS」は、前衛ジャズが多かった。オーネット・コールマン、アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、アート・アンサンブル・オヴ・シカゴなどのレコードがよくかかっていたことを憶えている。今は、こういうジャズを聴く人は少ないにちがいない。店長の話によると、中野新橋に移ってからはハードバップ系のジャズをかけることが多いそうだ。
 ジャズ喫茶と言えば、明大前に「マイルス」という店があって、ここは場所も替えずに、多分50年以上続いている。駅から甲州街道に向かう商店街の端に、今にも倒れそうな古い二階建ての家屋があり、その二階にある小さな店。店長は女性で、彼女もすでに70歳くらいだと思う。最近ここへは行っていないが、たまに前を通りかかることがあるので、いつもまだやってることを確認し、ほっとした思いにとらわれる。夕方に開店し、夜の11時ごろまで営業しているだけで、商売というより店長が道楽でやっているようなジャズ喫茶である。「GENIUS」もそうだが、「マイルス」もCDはなく、LPレコードしかかけない。


新宿のピットインでジャズを聴く~松下美千代トリオ

2010年04月14日 20時13分18秒 | ジャズ
 最近またジャズを聴きなおしている。
 きのうの午後は久しぶりに新宿のピットインへ行き、生演奏を聴いてきた。友人の娘さんが出演するというからだ。その友人というのはチャンバリスト・クラブ(チャンバラ映画の愛好会)の仲間で、先日飲み会で彼と隣り合わせで飲んでいた時のこと。
「学生時代はジャズばかり聴いていて、ジャズ評論家にでもなろうかと思ってたんだけど…」と私が言うと、
「あっそうだったの。ジャズ、好きなんだ。実はさ、うちの娘、ジャズピアノ弾いてるんだよ」
「えっ、ほんと?で、有名なの?」
 私の質問に彼は、少し照れくさそうに、でも親馬鹿ぶりを発揮して、
「そこそこかな。時々クラブとかにも出演して、CDも出しているんだけど…。ホームページもあるし、ブログも書いているみたいだよ」
「じゃ、今度聴きに行くから、紙に娘さんの名前書いてもらえる?」
 といったわけで、20回以上も一緒に飲んだことのある彼から初めて、娘さんがジャズ・ピアニストであるという話を聞いたのだった。
 娘の名前は、「松下美千代」。本名だという。早速、仕事場へ帰ってから、パソコンで彼女のホームページを調べる。WELCOME TO MICHIYON’S WEBSITE、いかにも女の子らしいホーム・ページである。

http://www.tim.hi-ho.ne.jp/michiyon/

「美千代」だから、愛称「みちよん」。自分でも気に入っている呼び名らしく、ホームページに本人もその名を使っているほど。プロフィールに写真も出ている。可愛いではないか!出演スケジュールも詰まっているし、あちこちで活躍しているようだ。
 でも、演奏を聴いてみないことには、と思いながらも、生演奏を聞く機会を楽しみにしていた。きのう、その日が来たのだった。
 新宿のピットインへ行くのは、2年ぶり。前回は山下洋輔トリオだった。往年の山下洋輔とは違い、いささか失望した。サイドミュージシャンが若くて、しっくり行っていないと感じた。
 松下美千代トリオの出演は午後2時半から。ピットインの昼の部は、若手のジャズミュージシャンが多い。平日のこの時間帯、客も少ないにちがいない。掲示板で夜の部の出演者を見ると、まだやっているのかとびっくりするようなミュージシャンの名前が並んでいる。渡辺貞夫、峰厚介、佐藤允彦、渡辺香津美、辛島文雄など、昔の名前が出ているのだ。
 2時ちょっと過ぎに店に着く。開場2時というのに、CLOSEDの看板が店の前に出ている。待っている客は私を含め3人。2時30分少し前に開店。客はやっと10人。カウンターで、ドリンク付き入場料(1300円)を払う。アイスコーヒーをもらい、前から5列目の左端の席に着く。ここからは「みちよん」の顔は見えないが、ピアノの鍵盤はよく見える。ジャズファンとしてはピアニストの指の運びが見えることが大切なのだ。

<ピットインの店内。五列目の左端に座った>
 ステージの左脇に出演者の控え室があったので、彼女に挨拶くらいはしておこうと思った。ドアが開いていたので、中を覗くと、小柄な女の子が立っている。こげ茶色の長袖のTシャツに、グレーのベストを身につけ、下はサブリナというのか、細めのパンツ。ショートヘアで、昔で言うマッシュルームカット。薄暗闇で見たせいもあるが、ひょろっとしていて、なんだか不思議の森に生えている地味なキノコのよう。写真とは違うが、この子がきっと、かの「みちよん」にちがいない。
「松下さんですか?」
「はい」と、素直な返事。が、小首をかしげている。
「お父さんの知り合いでチャンバリストのFです。聴きに来ました」
「あっ、あ~、どうも」と、彼女、ちょっと驚きながらも心当たりがある表情。父親から私が訪ねにくることを聞いていたようだ。大きな目が輝いている。
「じゃ、またあとで」と、開演前なので、そそくさと席へ戻る。
 演奏が始まった。一曲目を聴き始めてすぐ「おっ」と驚き、「なかなかやるなあ」と思い、「いいじゃないか」と感心した。ベースとドラムの息も合っている。このトリオで何度も演奏しているのだろう。
 一曲、二曲と聴いて、新鮮で爽快な気分になった。ポップ調とゴスペル調を融合したようなライト・ミュージック的なジャズで、ノリも軽快だ。ホーム・ページで好きなミュージシャンに確か、オスカー・ピーターソンとキース・ジャレットを挙げていたが、後者の影響が強いようだ。黒人のジャズに特有なブールス・フィーリングは感じない。でも、日本人のやるジャズはこれでいいのだと思う。ソウルフルなジャズを日本人が真似ようとしても無理だし、猿真似になってしまう。
 二曲演奏して、みちよんが挨拶。
「こんなお天気のいい日に、地下の暗いところへわざわざお越しくださって、ありがとうございます」
 続いてサイドメンの紹介があり、ベースの工藤精さん、ドラムスの斎藤良さんに、暖かい拍手が送られる。
 ファーストステージでは、リチャード・ロジャースのスタンダードと、ベーシストのスティーブ・スワローとチャーリー・ヘイデンの曲を演奏。へぇー、ずいぶん珍しい選曲だなと思う。四曲目はゴスペル。メロディーラインを小学生が音楽の時間に使うピアニカで演奏していたが、面白いアイデアだし、ピアニカの音色も意外なほどゴスペルのメロディに合うなと感じる。
 休憩時間にみちよんと5分ほど話す。私のジャズ体験を一方的にしゃべったので、きっと「なに、このオジサン」と思ったことだろう。
 セカンドステージは、リラックスした雰囲気になる。みちよんのしゃべりも好調。親友をイメージして彼女が作った「加藤けいこ」(タイトルも親友の名前そのまま)が、変拍子でなかなかの傑作。「けいこ」という名前はどういう字を当てるのか知らないが、彼女もジャズ・ピアニストだそう。自分と誕生日も同じで双生児みたいだと言っていた。ほかに彼女のオリジナル曲を2曲ほど披露。BREAKSHOTという曲が良かった。
 演奏が終わり、客席に来た彼女に、「とっても良かったよ」と言う。若い人が何かに対しひたむきに情熱を注いでいる姿を見ると、嬉しくなりいつも感動してしまう。年を取ったせいもあるが、応援したい気持ちなる。こういう時は励ましの言葉だけでなく、ご祝儀を渡すのがいちばんだと私は思っている。包み紙に、私の会社名と氏名を書き、「ホーム・ページもあるから、今度覗いてみて!」と言葉を添えておく。
 みちよんに包み紙を手渡し、彼女のCD、「TURNING POINT」も買って帰る。MICHIYON TRIOのファースト・アルバムである。ベースとドラムスも同じメンバーで、6曲入り。今、彼女のCDを聴きながら、このブログを書き綴っている。