背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

『ツレがうつになりまして』

2013年08月29日 17時53分53秒 | 日本映画


 前々回の終わりに、「現代に生きる普通の人間を人間らしく淡々と描いて、感動と共鳴を覚えるような作品に出会いたいものである」と書いたが、『ツレがうつになりまして』(2011年 佐々部清監督)はまさにそういった作品で、感心しながら観た。最近DVDを借りて観た新作の中では、3本の指に入る私好みの佳作であった。(あとの2本は、『ゲゲゲの女房』と『間宮兄弟』である)
 まず、映画の構成がしっかりしていて、最初からの30分、中盤の60分、ラストまでの30分のそれぞれが飽きないように巧く作られていた。ストーリーはシンプルで、主な登場人物は二人。結婚五年後の若い夫婦だ。子供はいない。その夫の方が急にうつ病になり、愛する妻が夫を支え、一年半ほどしてようやく夫のうつ病が快方に向かうまでの話である。なんのことはない、現代社会ではかなり卑近な事件を夫婦生活を中心に描いただけの映画だった。
 夫は外資系のコンピューター会社のサポートセンターに勤める真面目なサラリーマン。高崎幹男といい、堺雅人が演じている。妻は売れない漫画描き。のんびり屋で朝寝坊。家事が得意でなく、主婦向きではない。高崎晴子といい、宮崎あおいが演じている。
 シナリオも監督の演出も大変良いのだが、堺雅人と宮崎あおいの二人がこれ以上望めないほど良かったことが、この作品を面白いものにしていたと思う。とくに堺雅人という俳優は、『武士の家計簿』もそうだったが、ほわーっとした独特な雰囲気があり、何かを持っている得がたい俳優だと私は思うようになった。この2本しか、彼の出演作は見ていないのだが、天性の素質がある気がする。宮崎あおいは、引っ張り凧の女優のようだが、作品によって合う合わないがあり(時代劇は疑問)、出来不出来の差が激しいようだ。と言っても、私はまだ彼女の出演作を4本しか見ていない。
 「ツレがうつになりまして」は、細川貂々(てんてん)という漫画家が描いたエッセイ漫画が原作だそうだが、私は寡聞にして詳しいことを何も知らない。ちょっと調べてみると、実話なのだという。そして、2006年にこの作品を発表するや、大ベストセラーになったようだ。「ツレうつ」という略語まで出来たという。そういえば、なんだか聞いたような気もする。テレビドラマにもなったらしいが、私はほとんどテレビを見ないので、知らない。
 してみると、映画は、原作の面白さに相当依存していたのだと思えてくる。原作ありき、なのだろう。とくに原作が漫画の場合は、表現法が映画に近いので、シナリオ化しやすいと思う。すでにテレビドラマがあったとするなら、映画はそれの改良版なのかもしれない。
 『ツレがうつになりまして』という映画をほとんど予備知識がないままに見て、イイ映画だなと私が感心したことも、そんなことを知ると、褒めたい気分がだんだん冷めてくる。
 そういえば、『ゲゲゲの女房』もまったく同じ流れで出来た映画だった。
 最近の邦画を観て思うことは、原作のないオリジナルシナリオ(監督と脚本家の合作)から作った映画がほとんど見当たらないということである。原作はなんとか賞を取った小説だったり、ヒットした漫画だったりして、映画の企画がまずテレビ局や広告代理店で持ち上がり、プロデューサーが、マニアルに通じたシナリオライターに脚色を依頼し、主なキャスティングも決めて、適当な映画監督を指名して映画化するパターンが多い。つまり、映画製作が分業化してしまい、映画監督の主体性とか作家性とかオリジナリティが薄れてしまったようだ。そして、もう一つの流れは、昔ヒットした名作のリメイクである。リメイクで前作を上回る出来ばえの映画など、あるのだろうか。前作を見たことのない若い人たちが見て、すごいと感心することはあるかと思うが、その程度のことにすぎない。
 前回取り上げた『の・ようなもの』は、原案・脚本・監督そしてキャスティングも森田芳光が一人でやった映画だが、そんな監督の個性むきだしの映画は、自主製作映画を除き、最近の劇場公開作品では稀なのかもしれない。

 
  


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1 コメント

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Unknown (けん)
2013-08-30 02:28:49
TBさせていただきました。
またよろしくです♪
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