背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

高嶺の花、リズ・テーラー

2005年10月08日 14時58分06秒 | アメリカ映画
 オードリー・ヘップバーンは死んだ今でも人気の衰えない女優だが、同時代にオードリーと人気を二分したエリザベス・テーラーの方はすでに忘れ去られようとしている。エリザベスの愛称リズはこの女優のためにあったと言えるほど有名な女優だった。ハリウッドでの経歴はオードリーよりはるかに長く、戦前から子役として活躍していた。名犬ラッシーが出てくる「家路」という映画では十歳のリズが主演だった。十代後半のリズが出演している映画には、「若草物語」と「花嫁の父」がある。前者はカラー映画で、後者は白黒映画だったが、どちらを見てもこの世にこんな美少女がいるのかと目を疑うほどの魅惑をリズは振りまいていた。「花嫁の父」は近年「花嫁のパパ」という題名でリメイクされたが、旧作では父親役が名優スペンサー・トレーシー、花嫁役がリズだった。この二人の共演が素晴らしい。
 私が初めてリズ・テーラーを見たのは「クレオパトラ」だった。この映画でリズは、美貌に加え、すでに風格といったものを備えていた。当時(40年ほど前)私はヘップバーンに熱を上げていたので、リズにはあまり関心がなかった。ただ、アメリカではヘップバーンよりリズ・テーラーの方が圧倒的に人気があることは聞き知っていた。日本ではまったく逆だった。リズはこの頃、「クレオパトラ」で共演したリチャード・バートンと五度目か六度目の結婚をしたばかりだったと思う。リズと言えば、恋多き多情な女で、スキャンダルの絶えない女優だった。男を獲って食べてしまうような恐ろしさがあった。だから多くの日本人がリズを敬遠したのだろう。その後、リズは演技派に転じ、「じゃじゃ馬ならし」や「ヴァージニアウルフなんかこわくない」ですさまじい女ぶりを演じるが、女優として玄人受けはするが、一般的人気は下がっていったようだ。
 リズ・テーラーを私が再認識するようになったのは、大学を出てからで、彼女がもう映画界から半ば引退してダイエットの本を書き始めた頃であった。50年代の映画を何本か見て、リズ・テーラーという女優は美しいだけでなく、セリフも演技も実にしっかりしていると感心してしまった。リズはもともとイギリス人で、話し方にブリティッシュ特有のアクセントがある。そして、匂わんばかりの色気と知的な気品がアンバランスに融合しているところに魅力がある。
 「陽のあたる場所」と「ジャイアンツ」はそうしたリズの魅力が活かされた作品だ。「陽のあたる場所」は、貧乏青年のモンゴメリー・クリフトが良家の令嬢リズに恋するあまり、身ごもった冴えない恋人を湖に突き落とし殺してしまう話だが、暗くて悲しい社会派ドラマだった。「ジャイアンツ」では、あの屈折したジェームス・ディーンが憧れる金持ちの若妻役をリズは演じている。慕う男に気がありそうなそぶりをして、男の気持ちを引き裂いてしまう美しい女。男にとってこれほどタチの悪い女はいない。遠くから眺めることはできるが決して得られない高嶺の花、リズはこうした女を見事に演じていた。


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