本3冊の感想をまとめてアップします。
コンサートの前に入った本屋さんで、文庫の売上1位となっていて、思わず手に取りました。上下巻あわせて700頁の大作ですが、流れるように展開する物語に引き込まれて、週末の2日間で一気に読了しました。
東京湾岸で見つかった他殺体は、恨まれる理由がまったく思い浮かばない善良な弁護士。間もなく愛知県で容疑者が見つかり、犯行を自供しはじめますが…。
当然この人は犯人ではなく、誰かをかばっているのは明白ですが、誰をかばっているのか?どうしてかばっているのか?という動機の部分は、誰もが納得のいく壮大なストーリーが秘められていて、大いに満足しました。
本作のモデルとなっているのは、80年代に大きな社会問題となった(豊田商事事件)と思われます。(孤独な高齢者の心に付け入る)卑劣な犯行であることが明らかになり、事件当時、人々に大きな衝撃を与えました。
本作は、エンターテイメントとしてのおもしろさはもちろん、事件と関連する登場人物たちの心情がていねいに描かれていて、人間ドラマとしても読み応えがありました。
latifaさんのご紹介で読んだ本です。吉田修一さんの推理小説は結構読んでいるのですが、人の心の暗い部分をぐさりとえぐるような描写に、いつもひりひりするような痛みを覚えます。
吉田さんの推理小説以外を読むのは初めてでしたが、こういう明るい小説も書かれるんだーというのが発見でした。三浦しをんさんの小説を思わせる、軽やかなタッチの青春小説です。
最初のうちは(自分のことはさておいて)軽薄な大学生の生態に、ちょっぴり眉をひそめながら読んでいたのですが、お嬢様の祥子が登場してから俄然おもしろくなってきました。
彼女を見て思い出したのは、映画「セント・エルモス・ファイアー」に登場するウェンディ。彼女のキャラクターが大好きでした。のちにウェンディは福祉、祥子は人道支援の仕事に就くところも似ています。
現在と過去が行き来する文章に??と思いながら読み進めましたが、本作は2001年に起こった(新大久保駅乗客転落事故)にインスパイアされた?作品となっていました。明るいだけの青春小説ではないところが、吉田さんらしいと納得しました。
50年以上前に出版された、老人介護と認知症をテーマにした小説ですが、今読んでもまったく古びたところがありません。時代を超えて読み継がれ、今あらためて注目を集めている名作です。
家族構成や住宅事情、地域、夫婦とも仕事に就いていることなど、自分を取り巻く環境が比較的似ているので、なおのこと主人公の昭子に降りかかるさまざまな困難がとても他人事でなく、身近なこととして感じられました。
ただ救いだったのは、この手の小説や映画がどれもどんよりと暗い気持ちになるのに対して、本作は有吉さんらしく明るく快活な文体で、時にユーモアを交えて描かれていて、気持ちよく読み進めることができたこと。
終盤になって登場する山岸夫妻には意表を突かれましたが、エミの存在は、茂造の人生の最後を照らす一条の光、ちょっとした贈り物のようなものだったのかもしれないと思いました。
茂造が実の息子のことはすっかり忘れているのに、嫁の昭子や孫の敏のことは憶えている、というのもなんとなくうなづけるものがありましたが、細かいところにまでリアリティが行き届いていることに、入念な取材の力を実感しました。