全米ベストセラーとなったJ・D・ヴァンスの回顧録を、ロン・ハワード監督が映画化。アメリカの知られざるリアルな一面を描いた、実話に基づく作品です。
ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌 (Hillbilly Elegy) 2020
この作品の原作は、アメリカで話題になっていた頃から気になっていて、翻訳版が出版されてすぐに図書館で借りて読み始めたのですが、長編な上に内容がかなりきつくて、一度に読み終えられずに返却してしまったのです。
そういえば「ザリガニが鳴くところ」もホワイトトラッシュ(貧しい白人)を描いた作品で、最初はつらくてなかなか読み進めることができなかったことを思い出します。(あとで読了しましたが)
著者のヴァンス氏は、アメリカ中西部のオハイオ州やケンタッキー州の最貧の白人社会から、イェール大学のロースクールを卒業した努力家で、現在、共和党のトランプ大統領候補を支えるブレインであり、副大統領候補に任命されています。
民主党を支持しているのが、東海岸、西海岸の都市部のインテリ層やマイノリティであるのに対して、先の大統領選挙でトランプを支持してきたのは、中西部の農家や炭鉱などで働く肉体労働者たち、すなわち国の繁栄から取り残されてきた貧しい白人たちでした。
ヴァンスの母は13歳の時に妊娠。結婚もせず、学校にも行かず、子どもを育ててきました。結婚を夢見て次々と男性と付き合っても長続きしない。何とか資格を取って看護師の仕事に就いたものの、薬物に手を出して解雇されてしまいます。
そうした過酷な環境の中で、ヴァンスも道を踏み外しそうになりますが、見かねた祖母が無理やり母親からヴァンスを引き離して自分の家に引き取り、経済的に恵まれない中で、愛情深く育てます。
そんな祖母の姿に一念発起し、アルバイトで生活を支えながら死に物狂いで勉強するようになったヴァンスを見て、私は涙が止まらなくなってしまいました。
アメリカの名門大学は生まれながらに恵まれた家庭の子女が多く、いくら優秀とはいえ、ヴァンスが彼らと肩を並べて学ぶには、計り知れないほどの苦労を重ねてきたと思います。
でも一方で、そんなヴァンスだからこそ、できること、わかることもあると思います。
今年の大統領選挙は、おもしろいことになりそうだなーとひそかに注目しています。