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ある男(小説)

2023年02月07日 | 

2018年に出版された平野啓一郎さんの小説。映画「ある男」の原作です。

平野啓一郎「ある男」

この小説は2018年に出版された際にすぐに読んで、心に残ったのですが、時間が取れないまま記事にする機会を逸していました。先日、映画「ある男」を見たら、映画がすてきな作品になっていたので、もう一度原作を読み直したくなりました。

それと原作を読み直したくなったもうひとつの理由は、映画を見た時に、谷口大祐(X)が過去にボクサーだったということを、私がすっかり忘れていたことを不思議に思ったからです。

映画の中では結構重要なパートだったのに、どうして私は忘れていたのかしら? 改めて原作を読み進めていくうちに、その理由がわかりました。

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映画では、弁護士の城戸が狂言回し的な役割となっていて、谷口大祐(X)の人生にフォーカスしたドラマとなっていました。でも小説ではあくまで弁護士の城戸が主人公であり、城戸のアイデンティティにまつわることや、東日本大震災に端を発して

妻との間に生じた心のすれ違いが、いつの間にか無視できないほどに大きくなってしまったことなど、城戸自身のドラマにも大きなボリュームが割かれていて、谷口大祐(X)の人生と平行するように描かれているのです。

でも、2時間の映画に、城戸の内省的なドラマまで深く盛り込むと、あまりにごちゃごちゃしてわかりにくくなってしまうので、谷口大祐(x)の人生に重点を置いて描いていたのは、正解だったと思います。

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小説の城戸は、平野さんが自らを投影させて作り上げたキャラクターではないかな~?と思いながら読んでいました。もちろん設定や背景など、全くの別人ではあるのですが、城戸の物事の捉え方や感じ方が、平野さんの考え方を投影しているように感じることが

時々ありました。私自身、平野さんの日頃の発言に共感することが多いので、城戸の考え方や行動には、全面的にではありませんが、理解できる部分が多かったです。

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映画でも小説でも、谷口大祐(X)の人生をはじめ、全体的に重苦しい雰囲気の中、谷口大祐(X)がすごした4年間の結婚生活が、かけがえのない時間として、優しい眼差しで描かれていたのが救いでした。

小説ではそれに加えて、谷口大祐(本人)の元恋人 美涼と城戸とのやりとりが、ほのかな恋心をにおわせながらコミカルに描かれていて、暗いお話の中で、一種の清涼剤のような役割をはたしていたのが楽しかったです。

小説も映画も、それぞれによかったです!

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