嵐山石造物調査会

嵐山町と近隣地域の石造物・道・文化財

菅谷館跡西側の鎌倉街道跡に疑問符 1982年

2008年12月17日 | 千手堂

   菅谷館跡の西側を走る街道跡 本名説に“疑問符”
     畠山重忠の通った鎌倉街道はどこか 県立資料館が調査
 鎌倉時代の代表的な武将、畠山重忠は、ゆかりの地・菅谷館のある比企郡嵐山町のどこを通って鎌倉に上ったのか-。県内には、各地に武士団がおり、それぞれが本拠地から「いざ鎌倉」とはせ参じて行った鎌倉街道と伝えられる古道が縦横に走っているが、県立歴史資料館の調査によって、これまで「まず本物」とみられてきた同町菅谷の国指定史跡、菅谷館跡の西側を走る鎌倉街道跡は「どうやら間違い」と“疑問符”がつけられた。同資料館は、まだ調査中のため「確定的なことはいえない」と慎重だが、この街道跡については「鎌倉街道」と断定的に記述している書物も多く、すでに石碑や県の案内板も建てられていることなどから、今後、研究者だけでなく町民の間からも議論がわき起こりそうな雲行きだ。

  嵐山町 石碑や案内板が建てられているが
       街道跡、確認できず 今月にも専門家が協議
 問題となっている鎌倉街道跡は通称、上道(上野信濃越後本道)と呼ばれる古道の一部といわれるもので、四十八年(1973)5月、国の指定史跡となった菅谷館跡の西側約三十メートルの同町千手堂にあり、山林や桑畑に囲まれた幅約十メートルで南北にくぼ地状となって約二百メートル走っている。今回、“疑問符”がつけられるきっかけとなった調査は、同館跡内にある県立歴史資料館(島田桂一郞館長)が中心となり、文化庁の補助を受けて、五十六(1981)、五十七年度の二カ年事業として進めている「歴史の道調査事業」。五十六年には、県下七十九市町村の学校教師や郷土史家ら各一人を調査員に委嘱して各地域に言い伝えられる鎌倉街道を調査し、昨年(1982)三月、伝承地所在確認の報告書を刊行。五十七年度からは同資料館の学芸部員や専門調査員が伝承地を実地調査するなどして、周辺の寺社や地蔵尊、馬頭観音との関係、地元の古老からの聴き取り調査などを行ってきた。
 その結果、大半の部分については問題なく調査は終わったが、最期に残ったのが、同資料館の“おひざ元”の鎌倉街道跡。同事業の調査項目には発掘は含まれていなかったというが、同資料館では、より確かな調査を行おうと、昨年秋、学芸部員ら職員の労力奉仕で試掘調査を実施。嵐山町のほか、入間郡毛呂山町と比企郡小川町、大里郡寄居町の四カ所で、街道を横断する形で幅五十センチの溝二本を掘ったところ、毛呂山、小川、寄居町の三カ所では街道両側に排水用らしい側溝を確認、街道跡はまず間違いないことが裏付けられた。しかし、問題の嵐山町の街道跡では側溝はおろか、街道跡である確認もできず、「大掛かりな調査をしなければはっきりしたことは言い切れないが、(どこが鎌倉街道の)本家本元かよくわからない」(島田館長)事態となり、館跡に近いことから現在の街道跡は、堀の跡ではないかとの疑問も出てきている。
 同町内にはもともと鎌倉街道跡と伝えられるルートが、同町千手堂をはじめ、中世の中ごろ、鎌倉の方向から信州・善光寺に通じる道筋を折り込んで書かれた宴曲抄に記されている現在の国立婦人教育会館筋を通るルートなど三つあったという。いつごろ、だれが千手堂のルートを確定的な鎌倉街道跡としたかは分からないが、三十三年(1958)四月、地元の有志約八十人が「鎌倉街道」の石碑を“街道筋”横に建立、鎌倉街道について書かれた本などにも、ほとんどの著者が。この鎌倉街道を確定的に記載している。同資料館も例外ではなく、同館発行の冊子にも「(菅谷館跡の)西側には館跡にそって鎌倉街道が通っております」と記述され、“街道跡”横に県の案内板が建てられているだけに、資料館も今回の調査結果はショックだったらしく、島田館長も「発掘の前に、軍事的にみても、街道があまりに館跡に近過ぎ、おかしいのではないかとの議論もありました」と困惑した表情。
 同資料館では今年三月に調査報告書をまとめる予定で、一月には学芸部員と県の専門調査員らがそれぞれの調査結果を持ち寄り、同町内のどこを鎌倉街道が通っていたかを突き止める会議を開くことにしている。
 畠山重忠といえば、現在の大里郡川本町を本拠に嵐山町菅谷を別館に構えていたと伝えられる郷土の英雄だけに、一月の会議は注目を集めそうで、今後、研究者の間だけでなく、町民などの間からも「わが英雄はどこを通って鎌倉へ上ったのだろうか」との議論がわき起こりそうだ。
     『埼玉新聞』1983年(昭和58)1月1日
1958年(昭和33)4月、地元の有志約八十人が建てた「鎌倉街道」の石碑についてはhttp://satoyamanokai.blog.ocn.ne.jp/weblog/2008/09/post_5651_1.htmlを参照。


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