goo blog サービス終了のお知らせ 

宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(23) リーヴァーズ・ディープ宙域

2014-06-04 | Traveller
 これまで紹介してきたのは、帝国(第三帝国)という安定した巨大国家の領内、逆に268地域星域やアウトリム・ヴォイドといった独立星系群でした。今回紹介するリーヴァーズ・ディープ宙域はその中間、俗に「小帝国(Pocket Empire)」と呼ばれる中小国家が林立し、その周囲を帝国、ソロマニ連合、アスランといった「列強」が取り囲む、というこれまた違った趣きのある宙域です。
 この宙域はまず1981年にMarischal Adventures社から「スコティアン・ハントレス号」シリーズのシナリオが発売され、続いて1982年からFASA社の『Far Traveller』誌で関連記事の掲載が始まり、本家GDWからもハントレス号シリーズのシナリオ『侵略の夜(Night of Conquest)』が出ました。Gamelords社からは1983年から84年にかけて設定やシナリオが数々出版され、その後はSword of the Knight Publications社の『Traveller Chronicle』誌で設定の連載が行われたり、1999年にCargonaut Press社から幻のサプリメント・シナリオなどをまとめた『Lost Supplements Collection』が出るなど、息の長い(というかKeith兄弟の情熱とも執念とも言える)サポートが続いていました。他にも『Travellers' Digest』誌のグランドツアー第16話の舞台となったり、JTAS誌やGURPSやT20でも異星種族設定が紹介されるなど、和訳資料は少ないですがその設定量はかなりのものになっています。
 今回からは、そんなリーヴァーズ・ディープ宙域のディープな魅力を少しでもお伝えできたら、と思います。ただ、この宙域に関してはシナリオ等で本格的に動き出すのが1108年以降、多くの設定は1115年視点のものとなっています。いつものように1105年設定に変えるのは不可能ではないですが、国境線やトラベルゾーン指定の変更問題に加え、シナリオのネタになりそうな美味しい事件が減ってしまうこともあり、あえて「1115年設定」で記述しています。ただし1108年以降判明したいくつかの新事実については、意図的に伏せています。


 大裂溝に面したリーヴァーズ・ディープ宙域は帝国の最辺境の一つであり、アスランやソロマニ連合との緩衝地帯でもあります。これら列強国の狭間には様々な独立中小国家や中立星系が存在し、様々な勢力の思惑がうごめく、魅力と危険が背中合わせの宙域です。
 宙域のその名前は、暗黒時代に様々な《略奪者》たち(Reavers)がこの宙域、そして周辺宙域を荒らし回っていたことから付けられました。《略奪者》たちは暗黒時代の終わりとともに拡大を始めた第三帝国やアスランによって歴史の中に封じられていきましたが、現在でもこの宙域に多数ある中立世界は海賊や犯罪者の隠れ家であることは否めません。


【宙域史】
 リーヴァーズ・ディープ宙域の古代史はほとんど判明していませんが、少なくとも他の宙域と同じく、30万年前には太古種族が活動していたと考えられています。その痕跡は各地の遺跡や遺物、最終戦争の傷跡、テラから持ち込まれた群小人類たち、そして彼ら太古種族の末裔であるドロインの存在に見ることができます。
 太古種族が去り、再びこの宙域が動き始めたのは-2600年頃でした。衰退と腐敗の過程にあった第一帝国の辺境の総督は自らの覇権を維持拡大するために、内密に国境外世界から「蛮族」の傭兵を雇い入れ始めました。現在のダイベイ宙域にあたるランキシダム属州の総督も例外ではなく、将来の謀反を企図してディープ方面へ探検隊を送り込みました。そこでヴィラニ人は、当時TL7に達していた知的種族サイエと接触したのです。
 目的に適ったサイエ文明に対しては極秘裏に技術供与が行われ、武器や宇宙船を作る能力を彼らは得ました。しかし総督の野心は露見し、罷免された上で処刑されました。その結果、サイエの存在は帝国内では闇へと消えてしまいました。一方、サイエ文明に送られた派遣団は帰国することができなくなり、そのまま留まって彼らに技術供与を続けました。
 攻撃的で拡張主義的なサイエは、得た技術を用いてカレドン、リフトリム、ナイトリムの各星域に広がる小帝国を一時は築きましたが、やがて拡大し過ぎた彼らは大規模な内戦に突入し、滅亡しました。各地に広がったサイエ文化は跡形もなく消え、サイエの存在は彼らが征服した種族の神話伝承の中に封じられました。
 次にディープに人類が足を踏み入れたのは、ヴィラニ人と「地球人」が衝突した恒星間戦争の末期から「人類の支配」(第二帝国)の時代にかけてで、ディープはソロマニ人によって探査され、いくつかの世界に植民が行われましたが、多くの世界は無人のままでした。やがて第一帝国の負の遺産を抱えた第二帝国も崩壊して暗黒時代が始まると、孤立したわずかな最先端地域を除き、恒星間政府と通商は失われました。
 《略奪者》がこの宙域に現れたのは、そんな時代でした。彼らは初めは数隻の宇宙船をかき集めた小規模な海賊団に過ぎませんでしたが、やがて後進世界の略奪などを繰り返すことで小帝国化していきました。最盛期にはダークネビュラ、マジャール、ソロマニ・リム、アルファ・クルーシスの各宙域にまで襲撃範囲を広げていた《略奪者》たちでしたが、-1118年のヤロスラフの戦いを境に衰退に転じ、アスラン国境戦争(-1120年~380年)の開戦によって強大なアスランとの交戦リスクを避けるようになったこともあり、周辺宙域に数々の伝説を残した彼らは次第に消えていきました。「ブラックジャック」デュケイン("Blackjack" Duquesne)、「淡紫の」ウー・ルー(Orchid Wu Lu)、「乱暴者」アリソン・マードック(Alison "Hellion" Murdoch)といった著名な《略奪者》たちは、後に多くの(史実より美化された)書籍やホロドラマを生み出しました。
 暗黒時代が終わりに近づくにつれてスピンワード方面からアスランが、100年頃にはトレイリング方面から第三帝国がこの宙域に進出してきました。両者の船は探査と征服を繰り返し、380年のフトホルの和約によって緩衝地帯が設けられるまで衝突を続けました。
 現在のディープはいくつもの勢力に分断された宙域となっています。アスラン、およびアスランの従属国は宙域のスピンワード/リムワード方面の端に存在します。帝国は緩衝地帯を挟んでコアワード/トレイリング方面にあります。ソロマニ連合に属する星系はファールナー星域の一部に広がっています。しかしディープの中心部は独立しているか、もしくは宙域の2大国家であるカレドン公王国かカーリル合集国の影響下にあります。ディープを取り囲む列強国の影響はなくはないですが、この辺境宙域には外部干渉からの自由を謳歌する、面白くも危険な伝統が染み付いています。


【知的種族(人類)】
アヤンシュイ人 Ayansh'i
母星:ゴースト(3115)
 太古種族によって樹林溢れるゴースト星系に持ち込まれた彼らは、第二帝国期に他の人類との「接触」を果たしています。そしてその後の暗黒時代を経ても彼らの文化はほとんど変化せず、87年に帝国偵察局が再接触した際には来訪を歓迎した、と記録されています。
 平均体重70kg程度と痩せ型の彼らは、目の95%を虹彩が覆っているので、母星の照らすわずかな光の中でも良好な視界を得ることができます。また彼らはヴィラニ人以上の250年の寿命を持ち、双子出産は普通のことです。これらの特徴は自然進化によるものではなく、太古種族による遺伝子操作の可能性が考えられ、実際彼らは他の人類と交配することができません(ただし彼らはこれらを「我らの先祖が選んだこと」と主張し、現在も学術調査を許可していません)。
 彼らは独自の言語を保有していますが、それは他の人種の前ではめったに話されません。彼らは自分たちの言語の秘密を守るために、他の言語を非常によく学びます。そのため訪問客に対しては、訛りのない訪問客の自国語で応対しています。
 アヤンシュイ人の美術は帝国では非常に高く評価されており、ダイベイ宙域を通じて帝国中に輸出されています。彼らはめったに母星の外には出ませんが、顧客の熱心な説得に折れて星系外で作品制作をすることもあります。有名なものでは、ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵庭園の造園や、ソル大公所有の『季々の笏(The Scepter of Seasons)』、キャピタル(コア宙域 2118)の皇宮の『クシウム・マタリ(K'sium Matari)』を手がけています。なお作品が完成し次第、必ず彼らは速やかにゴーストに戻ります。
 アヤンシュイ人の遊牧社会には、アヤタ(Ayata, 生活界)とインチャタ(In'chata, 精神界)の2つの概念が存在します。アヤタの全てはインチャタの現れとみなされ、女性の預言者(Oracle)とパツァイター(Patza'itah, 預言者の弟子)のみがインチャタを解釈することができます。一人のパツァイターにはイノシャン(Inoshan)と呼ばれる非常に訓練された護衛が一人付けられ、共に中央の儀礼用の建物に住むのですが、この一組が全てにおいて双子の兄妹(や姉弟)であるのは興味深い点です。
 各部族では自治がなされ、先祖から受け継いだそれぞれの猟場を支配します。部族は十数家以上の家族からなり、最上位家の最高齢の双子が部族を統治します。部族は伝統的に狩人かつ採集人で、いくつかの仮小屋を猟場に散在させています。これらの仮小屋はサジターティウス樹の上に大枝などで居住空間を築かれ、世界の大型生物から身を守っています。また、部屋の「壁」には部族の記録として彫刻が施されています。
 預言者が部族間のどのような問題でも解決するため、アヤンシュイ人の間には戦争どころか部族対立すらありません。猟場を巡る狩人同士のいさかいは起きますが、これは部族の長によって速やかに止められ、預言者に仲裁が委ねられます。そのような文化のため、アヤンシュイ人には狩人以上の「軍人」はいません。

ハッピルーヴァ人 Happirhva
母星:レジャップール(1218)
 太古種族によって30万年前に、乾燥気候のため居住にはあまり適さないレジャップールに移住させられたハッピルーヴァ人は、生き残りのための絶え間ない戦いを強いられました(※さらに言えば、レジャップールは太古種族の最終戦争の際に隕石爆撃の標的となっています)。その教訓から彼らは、科学技術や文明を開発しないようにする風習を築きました。実際、彼らが約250年前にカレドンの影響下に入った頃でも、その文明はTL3に留まっていました。
 外世界からレジャップールへの入植が始まった頃、ハッピルーヴァ人には2つの集団が形成されていました。「大地の民」を意味するハップラーニ族(Happrhani)と、「草原の民」を意味するハッピジョム族(Happijhom)です。前者は後者より人口こそ少なかったのですが、より文化的でした。
 ハップラーニ族は惑星の肥沃な地域で数々の農業集落を形成し、砂漠のオアシスや湖の周辺にも井戸を掘って入植していました。TL3の文明は繁栄していて、平和的な生活様式をしています。
 一方、ハッピジョム族は惑星の広大な草原地帯や砂漠地帯に住む遊牧民です。一年のほとんどにおいて、大草原は騎乗獣ジェダーハイ(jhederhai)や食用草食動物ハージャンキ(herjhanki)を容易に養うことができます。しかし、最大100日間の冬季には大草原は不毛となるため、遊牧民は他の土地に餌を求めて移動しなくてはなりません。それは時として、ハップラーニ族の住む肥沃な土地も対象となります。この季節性の「移動」は対立を定期的に引き起こしてはいますが、ほとんどの場合において両者は共存できています。時折起こる事件や衝突を除けば、「移動の季節」は交易の、祭典の、そして異部族間結婚の季節であり、文化や友情の交流を図る時期です。
 レジャップール出身者の宗教的信条は様々で、変化に富みます。一部の遊牧民は「空の神」に対する畏敬と不信を持っていますが、この「神」は異星人類学者によれば太古種族の隠喩ではないかと考えられています。また彼らは水面を病気と死を呼ぶ不浄のものと考えていて(実際この星のわずかな水界は淀んでいます)、「空の凶神」である外世界人による灌漑を「自然の摂理に反する邪悪な魔術」と見て反発しています。
 一方でレジャップールのどんな人々も、人生に対する考え方は類似しています。野蛮ではありますが、外部との競争に際しては協力し、勇気と名誉を美徳とし、良き家族や民衆や種族への献身を重んじます。彼らは冷酷な殺害をせず、死刑囚にすら自らの潔白を証明する戦いの機会を与えます。
 ハップラーニ族は独特の口語および書き言葉を発達させました。この言語は遊牧民たちとの公用語にもなっていますが、遊牧民は部族ごとに相互理解のできない方言を使用しています。また、多くのハップラーニ族(特に兵士や農園に雇用された者)はカレドン訛りの銀河公用語を解します。
 一方で外世界人はいくつかの単語を俗語として取り入れた以外には、わざわざ地元言語を学びませんでした。地方港ではハップラーニ語に対応した翻訳機が利用可能ですが、様々な遊牧民方言に対応したデータはわずかか、全くありません。

イルサラ人 Iltharan
母星:ドレシルサー(1826)

「諸君がイルサラ文化を知っているのなら、『イルサラ人』という単語が多くの方言で『海賊』と同義語になっていった事に驚きはしないであろう。そしてそれが当のイルサラ人にとっては誇りの表現である事にも驚かないであろう」
ダフィド・ジュガシヴィリ教授による、シレア大学の比較知的種族学講義より

 母星の名を取って「ドレシルサー人」とも呼ばれるイルサラ人は、地表の9割が海に覆われたドレシルサーのわずかな土地をめぐる争いから、活発で好戦的な種族となりました。惑星上の3つの孤立した小さな大陸でそれぞれ別の民族集団が文明を築き、お互いに争いと混乱の長い歴史を持ちました。そもそも「イルサラ」というのは、他の2大陸をも制した民族(そして国家)の名前なのです(※人類系種族としてのイルサラ人と一民族としてのイルサラ族を区別しやすくするため、民族名としては「高イルサラ族」(High Iltharans)という表記も使われます)。
 一方、征服されたアカカード族(Akakhad)とトリング族(Tring)はイルサラ帝国(Iltharan Empire)に吸収されましたが、民族としての独自性は完全には失われませんでした。ちなみに、-850年頃にイルサラ帝国の軍艦がガージパジェ(1124)に不時着しましたが、この時の生存者の子孫がクトリング族(K'tring)です。生存者の大多数がトリング族であったことから、現地語でこの名が付きました。
 太古種族によって人類が持ち込まれたドレシルサーは、他所から離れていたためにヴィラニ帝国、人類の支配(第二帝国)、アスラン氏族に取り込まれることはありませんでした。3つの民族に分かれたドレシルサーの人類は互いに戦争を続け、銀河の歴史に関わることはありませんでした。
 第二帝国の衰亡によって始まった暗黒時代、リーヴァーズ・ディープ宙域には《略奪者》が横行しました。そのような中、ドレシルサーに不時着した《略奪王》イザナク大提督から核融合とジャンプ技術を手に入れたイルサラ族は、得た知識をドレシルサーの征服に用い、-1000年までにアカカード族とトリング族を「イルサラ帝国」に取り込むと、ジャンプ-1宇宙船を発進させました。
 その後のイルサラ帝国は、自分たちより遅れた文明の星々を素早く征服し、征服するには人口の多すぎる世界には略奪に向かいました。無人世界は、例え環境が良くても無視されました。-890年から-100年までイルサラ帝国は無敵を誇りましたが、やがてソロマニ人系国家であるカレドン公王国や、この宙域にやって来た第三帝国との戦いの果てに滅亡しました。
 現在イルサラ人は、リーヴァーズ・ディープ宙域内に点在しています。多くの世界ではソロマニ人や他の種族と比べて少数派ではありますが、旧帝国の中心部だったいくつかの星系では今でも多数派です。彼らの攻撃性は今も衰えることはなく、中には祖国を滅ぼした者たちへの復讐のためにテロリズムや海賊行為に走る者もいます。
 成人のイルサラ人男性は身長約2メートル、体重95キログラムが平均的な体格です。大部分の人類と同様に、女性は男性より背が低く、軽いです。皮膚の色は薄い青銅色から乳青白色(milk-pale)で、眼の色は一般的に青、灰色、榛色(アカカード族は茶色の眼が多い)です。髪の色は茶褐色か黒で、体毛は濃い傾向があるので成人男性は常に顎髭を伸ばします。またイルサラ人はドレシルサーの低重力(0.5G)と寒冷気候(平均気温マイナス2度)に適応しています。
 イルサラ人は人類の根源種にかなり近く、特に問題なく他の人類(特にソロマニ人)と交配することができます。ただし一番の違いはこの生殖に関することで、イルサラ人は基本的に不妊症ですが、代わりに長い寿命を持ちます。イルサラ人は誕生から18標準年ほどで成熟しますが、100歳頃までは老化を感じさせません。そして適切な医療を受けていれば150標準年程度は生きます。そのためイルサラ人の数は、理想的な状況下でもゆっくりと増加する傾向があります。母星ドレシルサーの人口は最盛期でも1億人に過ぎず、イルサラ帝国の滅亡による荒廃期から現在までも、惑星人口はほとんど変化がありません(※現在の人口は930万人ですから、爆撃によって人口は1割以下になったようです。そして皮肉なことに、ガージパジェのクトリング族の人口は母星よりも多い3700万人にまで達しています)。
 イルサラ人の出生率の低さと寿命の長さ、そして特殊な老化曲線は、他の人類との精神面での違いも生み出しました。イルサラ社会は年功序列で、50歳未満の「若者」は見習い、単純労働者、従卒といった扱いです。若者は厳しい鍛錬の対象であり、彼らの意見は通常無視されます。75歳ぐらいになるとようやく指導的な立場になれます。
 この影響で、イルサラ社会は非常に保守的となりました。前星間技術時代のドレシルサーの歴史の中で社会が破綻するような事態はほとんど起こりませんでしたが、同時に文明の歩みは非常に遅かったのです。科学的発見、技術革新、芸術や建築の新様式、といった全てにおいて、発達するのに長い時間が掛かりました。考古学者はドレシルサーの農耕文明が5万年前に誕生したと考えていますが、イザナク大提督がドレシルサーを発見した時でも最先端文明はかろうじて無線と電気を開発した程度でした。
 宇宙に出て「接触時代」を迎えたイルサラ人は、他の文明から物品だけでなく芸術家や科学者や技術の専門家も略奪するようになりました。以後1000年間に渡ってイルサラ帝国は「寄生文明」でしかなく、自分自身の社会を維持するためにいくつもの他の文明を食い物にしていました。イルサラ人が他文明を虐待こそしていても、虐殺に至らなかったのはこうした理由があったようです。当然のことながらこの手法は効率が悪く、イルサラ帝国がより優れた文明と接触すると、変化を拒んだ彼らは滅亡に向かって落ちていくしかありませんでした。
 イルサラ社会は非常に軍国主義的です。高イルサラ族が「軟弱で平和主義的」だと捉えているアカカード族やトリング族ですら、大部分のソロマニ人やヴィラニ人よりは攻撃的で、厳しく統制されています。また、若者はより好戦的な傾向があります。
 多くの人類とは異なり、イルサラ人は父権的社会ではありませんでした。産業化前の時代でも女性には男性と同等の社会的・政治的権利がありました。これはイルサラ人の不妊症の影響で女性の人生において出産育児に費やす時間が少なく、その分だけ社会活動に回すことができたからです。
 イルサラ社会の中核にあるのは職業ギルドです。子供たちは国によって一般教育が与えられ、成人すると見習いとしてギルドの一つに所属します(通常は親の片方もしくは両親が所属していたギルドに属します)。ギルドは訓練と仕事を提供し、同時に構成員としての規律を求めます。またギルドは男女を引き合わせ、育児を手伝い、他の社会福祉事業も担います。こういったギルドの存在により、イルサラ人には企業の概念は発達しませんでした。
 また、軍隊も一つの「最も大きく最も由緒ある」ギルドでした。イルサラ社会は伝統的に軍隊が統治していましたが、その軍隊は代々上級将校を輩出する特定の家系によって導かれていました。しかしイルサラ帝国が没落してからは、軍隊は富や栄光を得る機会を失い、実権は官僚機構に移りました。今や最上級将校からなる「支配階層」は表看板に過ぎません。


【知的種族(非人類)】
ダーフィガッサク Derfi'gassak
母星:オークニー(2919)?
 オークニー(2919)及びメイデン(2920)に住む群小種族ですが、彼らがオークニーを母星として進化したのか偵察局は未だに断定しきれていません。それだけ、彼らについてはわずかしか判っていないのです。
 偵察局による帝国暦110年の第一期探査では彼らは発見されず、ようやく180年に偵察局の船が接触しました。その後、隣接するメイデン星系に彼らの植民地が発見され、これは世代間宇宙船によって植民されたことが判明しました。
 ダーフィガッサクは平均全長150cm未満の小柄な種族で、黒い肌と白い髪を持ちます。6本の手足が身体から出ていて、そのうち4本が長くなっています。彼らは道具を使う際はどの「腕」でも使うことができます。彼らには目がないように見えますが、「腕」にはとても敏感な感覚器官を備えていて、周囲全ての動き、匂い、音を感じることができます。また、彼らの「口」は身体の下部にあります。男性は筋肉質で、女性は痩せている傾向があります。
 オークニーの熱帯雨林環境に適応したため、彼らは何も着用しない狩猟文化を持ちます。また彼らの平均寿命は短いのですが、これはオークニー土着の巨大捕食生物によるものです。乳幼児死亡率の高さから来る「短命」が、彼らに早い性的成熟を促したと偵察局は考えています。
 彼らの言語は音楽に似ていて、喉頭音と舌打ち音から成り、これがオークニーの濃い大気と密林に響き渡っています。しかし偵察局は彼らの言語の翻訳に成功していません。

フオスキーキール H'Oskhikhil
母星:ストーム(1404)
 惑星ストームの偏心軌道は、フオスキーキールの生涯を「貪欲に捕食する幼体」と「文化的だが捕食される成体」に分けました。このことは、彼らが比較的最近まで永続的な技術社会を構築できなくしていました。
 成体が幼体に捕食されないように「防護住居」を築くようになったことで、彼らの文明は始まりました。フオスキーキールの成体の一部は、暑い近日点季の間は極地の涼しい洞穴に移り住み、出産期を生き残ることができていました。このことから学んだ彼らは、防護住居に空調を施しました。文字は数百年前に開発され、彼らは口伝されていた歴史と業績を住居の壁に忙しく書き記しています。
 フオスキーキールの成体の身体は直径1.5m、高さ0.5mの膨体で毛皮に覆われ、周囲に様々な大きさの12肢の触手が並んでいます。これらは全て足の働きもします。
 一方幼体は高さ1mの管状体で、そこから茎状に飛び出た2つの目と掴むための4本の触手と4本のしっかりとした足が突き出ています。幼体には毛皮はありませんが、単純な道具を使う程度の知性があります。幼体も成体もストームの通常より高濃度のオゾン大気に適応しています。
 近日点季による気温上昇は幼体の出産を引き起こすため、成体は涼しい環境にいることでその工程を先送りすることを望みます。なぜなら出産は成体の死を伴うからです(そして親の死骸は生まれた幼体の最初の食料となります)。
 彼らは声を発していないように見えますが、実際には超音波域で複雑な会話を交わしています。また可聴域は人類の音声の領域まであるので、彼らの一部は銀河公用語を学び、外世界からの訪問客との通訳になっています。
 幼体のフオスキーキールは動くものは何でも攻撃して捕食しようとします(幼体は群れで行動するので仲間は例外です)。それが成体であろうと、動物であろうと、人類であろうと。そして彼らには、獲物を殺す武器として道具を使用する以外には知性は見られません。
 一方、成体は友好的で平和的です。初めて出会う者に対しては用心深くなりますが、訪問者が自身や生息地への脅威ではないことがわかれば、彼らは友人になろうとします。
 成体のフオスキーキールは本能的に好奇心が旺盛で、新たな技術を素早く吸収します。このことにより彼らはこの300~400年ほどで急速に技術水準を向上させることができました。そしてあと数十年もすれば、彼らは自力で宇宙に飛び出していくことでしょう。
 フオスキーキールの成体は要塞と霊廟を兼ねたような大きな石の建物に住んでいます。これらの建造物は彼らが次世代に文化と技術を受け渡すための、守りが固く空調の効いた避難所です。ストームの各地には何百万ものこういった建物が点在し、全て合わせて80億人の成体が現在住んでいます。
 それぞれの建物の中で一番知的な者が指導者に選ばれるため、フオスキーキールの社会は封建的技術主義に分類されます。最も技術的に進んだ建物の指導者がその地域の指導者となり、地域の建物同士は互いに協力し合います。そして地域指導者は惑星全体の問題を話し合うために会合を持ちます。会合を主導する者は、出席者の中から最も知的な者が選ばれますが、その指導力はその会合の間のみで発揮されます。
 成体のフオスキーキール同士で争うことがなかったので、彼らは軍隊を持ったことはありません。幼体から身を守るために唯一有効な手段が防護住居の建設だったこともあり(それは幼体と戦うよりも効果的でした)、最大の脅威を退けた彼らにはそれ以上の力は必要なかったのです。

ジアージェ J'aadje
母星:ガージパジェ(1124)
 ジアージェは小柄(平均身長1.5m、平均体重60kg)で機敏な、大きな目と金色の皮膚を持つ二足歩行知的種族です。ジアージェは互いに友好的で、外世界人に対しても親切に応対します。ジアージェのTL4文明は技術発展をあまり重視せず、代わりに詩や舞踏といった芸術を重んじています。上品で繊細な芸術とそれを支える技量には高い商業的価値があり、外世界でも高値で取引されています。
 ただしガージパジェには長い闘争の歴史があり、彼らをひ弱な種族と決めつけるのは早計です。

ラングルジゲー Languljigee
母星:ラジャンジガル(1721)
 母星の塩素環境で進化した三本足の知的種族である彼らは、行動的で活力にあふれています。環境は技術を進歩させるには向いていませんが、それでも彼らは知的で賢いです。TL3の文明を持つ彼らと交易する人類の貿易商人はあまり多くはありません。
 1080年に彼らはダカール・コーポレーション(Dakaar Corporation)の支配下に入り、地元の様々な希土類や放射性物質の採掘作業における奴隷的な労働力として使用されています。

ルーシャナ Lhshana
母星:ルーシャミ(2111)
 雑食採集生物から進化したルーシャナは、身長1.2mほどの三角体型に優れた操作能力を持つ触手が付属しています。触手にはそれぞれ感覚器が付いており、聴覚、嗅覚、味覚に加え、赤外線域の視覚にも対応しています。口は腹部に位置して食物摂取のみに使用され、呼吸は触手の根本にある開口部から行われます。
 非攻撃的で静かな種族である彼らは、カレドン公王国の商業探査隊(merchant explorers)と598年に接触した頃には2000年の歴史を持つTL9の文明を築いていました。まず前文明期のルーシャナはサイエの支配下に置かれ(サイエの活動や風習の記録はルーシャナの民間伝承や神話の中に遺されています)、そして暗黒時代には人類の《略奪者》の接触も受けています。これらの要因により彼らの技術進歩は後押しを受けましたが、一方で彼らは宇宙には関心を持たず、宇宙飛行技術は開発していませんでした。

ポリフェミー Polyphemes
母星:フタリェア(1226)
 ポリフェミーは原始的な狩猟採集社会を形成しています。飛び出た耳と大きな一つ目、屈強な体を持つ、大きな体格の二足歩行種族です。彼らは最近になって人類の貿易商人と接触したため、まだ詳しいことはわかっていません。

サイエ Saie
母星:リフトディープ星域かリフトリム星域のどこかの赤色矮星星系?
 3700年前に滅亡した非人類種族サイエの文明については、ほとんどわかっていません。彼らが残した痕跡は極わずかで、グレンシエル(1912)にある「ジュラの墜落痕(Crash Jura)」、ヴィラニ人による記録、イン=ツァイやルーシャナの神話伝承から得られる程度のものしかありません。
 集められた数少ない証拠から、サイエは肉食の捕食動物から進化した直立二足歩行種族だと考えられていますが、彼らの母星どころか、姿形がどうだったかすら判明していません。彼らは謀反を企んだヴィラニ総督から極秘裏にジャンプ技術を入手し、現在のカレドン星域あたりを中心にして小帝国を築いたようです。彼らは好戦的で内部のいざこざも多く、征服惑星には数百名程度の統治者や兵士しか置いていなかったと思われます。そして最終的にサイエの小帝国は、破滅的な内戦の末に自分たちもろとも消え去りました。
 カレドン公王国の者に限らず考古学者たちは、この謎めいた種族の詳細を追い求めていますが、これまで誰も決定的な証拠を手に入れられていません。

トリェトライ Tlyetrai
母星:ホア(0310)
(※非人類の群小種族であること以外には資料が存在しません)

ヴィルシ Virushi
母星:ヴィルシャシュ(2724)
 「戦車の血を引くケンタウロス」「考えるブルドーザー」などと仇名されるヴィルシですが、実際は穏やかな巨人です。彼らはとても礼儀正しく、柔らかな声で話します(※ヴィルシは高圧大気に適応した発声をするので、人類には弱く静かに聞こえるのです)。彼らは母星でも最大の生命体だったので他の動物は脅威とならず、群れを作らずに生きていくことができました。彼らの社会は家族を中心とした「協力体(cooperative)」以上には発達せず、結果的に個々の自由を重んじた牧歌的なものとなりました(※よって彼らは帝国にコンピュータや経済学を教わるまで高度な文明を築けませんでした)。ヴィルシは納得さえすればどのような仕事でも喜んで協力してくれますが、反面、彼らに命令して仕事をさせるのはほぼ不可能です。
 ヴィルシは確かに個人主義的ですが、これは我が儘だからではなく、お互いの違いを尊重しあう礼儀正しさから来ているものです。しかしその静かで穏やかな性格にも関わらず、彼らは友人や家族を守るためなら戦いを厭いません。とはいえ大抵は理性的に非暴力的な解決法を探して交渉を試み、戦いになっても敵が引き下がってくれれば争いの拡大は好みませんが。また、ヴィルシは痛みに対して無関心と言っていいほど非常に強く、身体を傷つけた程度で彼らを怒らせるのはまず無理です。
 地球人の目には「サイとケンタウロスの混血」に見えたヴィルシは、全長3メートル、肩までの高さが1.8メートル、体重は1トンもある、これまで遭遇した知的種族の中で最大級の体格を持ちます。彼らの母星の高重力・高圧大気・伴星からの重度の放射線が、彼らをこのように進化させたのです。硬い皮に覆われた身体には、樹木のように太い4本の足と、人類ほどの大きさで驚くほどに器用な一対の上腕と、かなり屈強な一対の下腕が付いています(つまり腕は4本です)。さらに彼らの体重を支え、身を守る強力な武器となる長く太い尾が付属します。ヴィルシの目は眩しい日光下の環境に適応したので、薄暗い環境を苦手とします。また、聴力は高濃度大気に適応しているので、一般的な大気下ではうまく機能しません(人類の声は彼らの可聴範囲ぎりぎりに入っています)。彼らは草食で、基本的に人類の倍以上の量を摂取します。
 ヴィルシは母語としてヴィルシ語を話しますが、大部分のヴィルシは銀河公用語を話せます(ただし気を抜くと人類の可聴域を下回る聞き取りづらい声を出してしまいます)。ヴィルシは母星以外でもよく見られる種族で、他者に奉仕するような職業に就くことが多いです。特にその器用さから医者としては優秀で、ヴィルシの外科医の腕前は既知宙域各地で有名です。ストレフォン皇帝の侍医団にヴィルシの外科医が含まれていることからも、その優秀さはわかるでしょう。一方でその大きさと強さがありながら命令と争いを嫌う性格から、軍隊の中にはいられません。

イン=ツァイ Yn-tsai
母星:不明(少なくともツァネシ(1711)ではない)
 イン=ツァイは七本指で二足歩行の知的生命です。彼らは身長およそ1.9メートルで、白か灰色か金色の柔らかい毛で覆われています。髪は長く伸ばされ、自身の社会的地位を表すために精巧に編まれます。肉食動物から進化したと思われる彼らは、低い気圧を好みます。
 563年にカレドンの探検隊がツァネシでイン=ツァイと初めて接触した時点では、彼らはTL3の封建的で(肉食動物らしからぬ)極端に平和主義的な社会を構築し、「空の向こうから来た訪問者」を非常に恐れていました。これはサイエによる悲惨な内戦の影響と考えられ、彼らの不信と恐怖を解きほぐすのに数十年を要しました。
 カレドン公王国の商人や科学者や探検家が(渋々)受け入れられた結果、彼らの技術水準はこの数世紀で向上しましたが、戦争や宇宙旅行に関連する技術の受け入れは未だに避ける傾向があります。
 現在の一般的な説では、イン=ツァイはサイエに隷属していたどこかの種族の末裔と考えられていますが、太古種族によって別の星から持ち込まれたとする説を唱える学者もいます。

ヰスライ Yslai
母星:イスライアト(0221)
 群小種族のヰスライは、身長1メートル、体重40キログラムほどの小柄な体型をしています。外見はテラ原産のキュウリのようで、同様に緑色をしています。彼らは手を兼ねた3本指の4本足で器用に歩くことができます。
 彼らは性を持たず、数年に一度、自分自身を「発芽」させることで繁殖します。ただしこの発芽は、周辺の食物や資源が十分に豊富である時のみ起こります。発生した「芽」は数週間で独立し、6~8年後には発芽が可能となる成熟期を迎えます。
 彼らの唯一の食べ物は、イスライアトのみで育つ特別な植物を発酵させた泥水のようなもので、アスランには匂いがきついものの食べられないことはありませんが、人類には吐き気を催す上に有毒です。
 ちなみに、星図に記されたイスライアト領内全ての星系名はアスラン語によるものです。ヰスライの言語はアスランにも人類にも表記や発声が不可能であり、高級翻訳機なしでは意思疎通が困難です。
(※これは非公式設定です。現時点で公式にはイスライアトの群小種族は何も設定されていません)

(この宙域の国家・企業等についてはこちらを、ライブラリ・データについてはこちらを参照してください)

宙域散歩(23.5) リーヴァーズ・ディープ宙域(国家・企業・団体)

2014-06-04 | Traveller
【国家(主要国)】
カーリル合集国 Carrillian Assembly
 カーリル合集国はリーヴァーズ・ディープ宙域で2番目に大きい人類統治の独立国です。正規加盟星系に加えてヤルーファール(2228)を属領として持ちますが、ここへ対しては直接統治は行っていません。
 合集国は519年、当時ドレシルラー星域とファールナー星域のいくつかの世界の衝突が大規模な戦争に拡大する恐れがあった際に、帝国がこの地域をアスランとの緩衝地帯として維持しようと対立の平和解決を「望んだ」ことから、その歴史は始まりました。和平会議はカーリル(2330)のブレア・ロックという小惑星で行われ、各星系間の通商や防衛に関する取り決めが調印されました。首都をカーリルとする新国家が誕生し、中央議会はそのままブレア・ロックに置かれました。その後、後進世界だったカーリル・ベルトは合集国で最も人口が多く、活力ある世界に発展しました。
 合集国は500年間に渡ってディープ宙域のトレイリング方面の安定に貢献してきました。その間彼らは領内の通商と発展の促進に専念し、勢力圏の拡大はしようとはしませんでした。しかし1090年代に、領土拡大を訴える排他主義的な急進改革勢力である進歩党の勢力が増し、1103年には若手海軍士官によるクーデター未遂事件で当時のコリン大統領が暗殺されました。ジュザーク提督(Admiral Juzark)は戒厳令を宣言し、首都を管理下に置きました。
 この危機の間に海軍、保守党、進歩党による譲歩合意がなされ、ジュザーク提督の退任と同時に、合集国最高裁判所(Assembly Supreme Court)の首席裁判官(Chief Justice)であるダルドリーム氏を大統領に据えることとなりました。
 ダルドリーム「大統領」には議会制民主主義への復帰が期待されていましたが、実際にはそうなりませんでした。ダルドリーム大判官(High Justice Daldreem)は憲法条文を様々な口実として戒厳令を続けた、カリスマ的ではありますが冷酷な指導者であったのです。彼は進歩党が掲げる拡張政策と、保守党が掲げる中央集権政策に同時に乗り出し、現在ダルドリームとその取り巻きは完全に議会を掌握しています。
 1109年、イルドリサール(2326)で発生した暴動は、悪名高き「宇宙港の虐殺」にまで拡大しました。それ以来この星は騒乱状態に陥っています。
 1110年、自由党の党首ハーレイ・リビドン(Halley Libidon)は合集国議会においてダルドリーム大判官に「信任投票」を求めました。それに対しダルドリーム大判官は議会を解散し、代議員を「イルドリサールのテロリストから保護する」ことを目的として自宅軟禁しました。リビドン党首はそれ以降、合集国の民主主義回復を訴えて遊説を続けていましたが、1113年に欠席裁判でイルドリサール叛徒への支援の罪で有罪判決を受けました。彼は逮捕を逃れ続けていますが、同時に彼の首にかけられた賞金額も増え続けています。
 1114年、報道機関は公共情報局(Office of Public Information)の統制下に置かれ、カーリルの3つの報道機関を除いて全て公式に閉鎖されました。

イスライアト支配圏 Islaiat Dominate
 非人類群小種族ヰスライは、リーヴァーズ・ディープ宙域とエアリーアシーウ宙域に跨って31の世界を統治しています。
 彼らは拡大初期のアスランから-1227年にジャンプドライブを入手し、速やかに自らの国家を拡張していきました。しかし《略奪者》の領域と接触した彼らはエアリーアシーウ宙域方面への拡張に転じました。現在はアスランの属国として、リーヴァーズ・ディープ宙域に大きな影響力を保持しています。
 なお、領域内の星系は意図的に技術水準が低く抑えられています(※と、資料にありますが、宙域内の他星系と比べて極端に低いわけでもないので、首都イスライアト(TL13)との技術格差が固定するように新技術の開発が抑制されているのかもしれません)。

カレドン公王国 Principality of Caledon
 カレドン星域及びスコティアン・ディープ星域の大部分を支配するカレドン公王国は、リーヴァーズ・ディープ宙域で最も大きな(人類統治の)独立国家です。しばしば「商業王国」と呼ばれ、その貿易規模と富で有名な公王国は、カレドン(1815)の貴族ジェミスン・ダンダス(Jamieson Dundas)によって-102年に建国され、公王国内戦(309年~328年)と王朝危機(1024年)の時代を除けば、比較的安定していました。
 現在の公王国がある地域は、恒星間戦争の末期に入植が始まりました。主に西ヨーロッパ系の地球人移民たちは、ヴィラニ帝国の「吸収」を続けて膨張していく地球連合に危惧を抱いた、政治的な一団でした。彼らは、衰退する第一帝国が抱えていた「重荷」を地球連合が支えきることはできない、と思っていたのです(そしてその正しさは後に証明されます)。
 著名な銀行家であったチャールズ・スチュアート・スコットに導かれ、彼らは両勢力から遠く離れた新天地を求めて探検を行い、やがてカレドンと周辺の数星系に入植しました。しかし植民星の荒々しい環境下で苦闘を続ける日々の中で、やがてジャンプドライブ技術は失われていきました。
 暗黒時代末期、とあるシレア人貿易商人と接触したことにより技術水準は回復し、それからまもなくして、いわゆる《略奪者》の海賊行為や無法を阻止する存在として公王国は興りました。
 高度技術時代を迎えたカレドンは、封建的社会への回帰を選択しました。世襲貴族は指導者として個人の忠誠を集める存在ですが、貴族は普通の一市民から全く手の届かないほどではありません。国家に顕著な貢献をした個人には、王権者たる公王から貴族の称号(士爵(ナイト)、男爵(ロード)、辺境伯、子爵、伯爵)が与えられます。世襲の公王は専制君主ではなく立憲君主として統治し、その権力は3つの立法府(貴族院、上院、下院)によって監視されます。各星系政府には地方法を制定する権限が持たされ、公王国政府は主に恒星間の外交、戦争、通商を担います。
 近頃の公王国では、貴族の間にある程度の派閥争いが起こっています。目下であるはずの男爵が玉座を求めて目上の伯爵を打倒した、という前例がある関係で、貴族たちはより安定した支持基盤を得る方向に走り、時として対立貴族家との暴力抗争にまで発展します。それによる治安の悪化は私兵の増強を招き、政治工作や扇動が増えたことにより、それほど遠くない将来に新たな危機を迎えるかもしれません。

和諧同盟 Union of Harmony
 人類国家である和諧同盟は、リーヴァーズ・ディープ宙域とダークネビュラ宙域に跨って21の世界を統治しています。この国は暗黒時代から続いた旧「天的聯盟(Celestial League)」の星系が再結集して、856年に結成されました。歴史的経緯によって和諧同盟はソロマニ連合と強い関係を持ち、ここ160年間に渡ってアスランとの紛争を最小限に抑え込めた理由となっています。
 和諧同盟は首都ギュスターブ(0737)に強力な中央政府を置き、そこから直接に加盟世界を統治しています。現在和諧同盟は、トレイリングおよびリムワード方面への進出を狙っていると噂されています。
 ちなみに、和諧同盟はしばしば「非人類種族ウレーンの治める神聖ウレーン国(Ulane Hierate)」と誤ってライブラリに記載されています。これは俗に『ウレーンの偽情報(Ulane Hoax)』と呼ばれる悪戯によるものです。1108年091日、ワリニア(ダイベイ宙域 0507)のダイベイ大学でコンピュータを学んでいた学生の小集団がXボート網に侵入し、偽のデータをXボートで帝国中に広めたのです。これにより各地のライブラリ上でアスランの首星クズの座標が書き換えられるなどされましたが、彼らを最も有名にしたのが「神聖ウレーン国」に関する詳細で巧妙な偽の記述でした。
(※なお、犯行に加担した学生たちは1117年までに全員が逮捕され、後に重い実刑判決を受けました。帝国当局は公式に偽情報を全て除去したと発表しましたが、頻度は減ったとはいえ誤ったデータを目にしてしまう可能性は残っています)


【国家(中小国)】
カーター技官国 Carter Technocracy
 カーター(1839)は元々植民地としてジェファーソン(1840)を領有していましたが、1027年に隣接するグリフィン(1839)が宇宙船建造技術を回復したことから両政府は交渉の機会を持ち、技術と通商における共有の合意に達しました。そして5年後、「カーター技官国」の旗の下にこれらの協定を正式に調印しました。
 現在のこの国は、加盟3星系で最も聡明と見られているカーターのカルヴァン・トマージュ大統領(President Calvin Tomage)によって導かれています。また、ソロマニ連合とは通商と技術提携の面においてのみ国交を維持しています。
 カーター技官国は、国境を拡大することには現在のところほとんど関心を持っていません。

ダンキニー連合 Confederacy of Duncinae
 ダンキニー連合は、公王国内戦(309年~328年)による避難民によって結成されました。そのため現在でも「母国」とは経済や文化交流で密接な関係を持っています。
 首都をダンキニー(1624)に置く連合は、各加盟星系の地方自治権が強い、ゆるやかな統治を行っています。なお、ダンキニー連合は刑務所星系のコベントリー(1723)を管理していますが、正式な加盟星系には数えていません。
 1108年にトーマス・バーナム提督(Admiral Thomas Birnham)を中心として海軍の一部が決起した、俗に言う「08年反乱(Rebellion of '08)」が発生しましたが、政権は短命に終わり、失脚した彼はコベントリーに追放されました。
 現在連合は「マクベス号事件」によってマールハイム大公国との緊張が増しています。事件後の1114年038日に行われた連合評議会議長(President of the Confederacy Council)選挙は、強硬派のロジャー・ヴェイン前マールハイム大使(Roger Vane, the former ambassador to Marlheim)が当選し、大公国に対して厳しい姿勢を採っているからです。

ディエンバッハ管理区 Dienbach Grÿpen
 帝国暦200年代にリーヴァーズ・ディープ宙域に進出した第三帝国は、ナイトリム星域の大部分の星系を併合しました。しかしオークニー(2919)及びその植民地であるメイデン(2920)に住む知的種族ダーフィガッサク(Derfi'gassak)は極度の外世界人嫌いのため、帝国への併合どころか接触すら拒みました。
 その時点から両星系は帝国偵察局によって進入禁止星系として隔離され、カギシュ(3019)の偵察局基地から見守られています。ダーフィガッサクは、これ以上の領土の拡大も帝国加盟も望んではいないようです。

オケアヌス領 Domain of Oceanus
 オケアヌス(3130)の政府は893年、拡大する人口に対応する農産物供給源を求めてメッカ(3129)に入植を行いました。その後、1063年に地殻が不安定となったオケアヌスで大災害が発生してほとんどの産業は壊滅し、世界は荒廃しました。
 現在、帝国は領内に安定を取り戻すために両世界で援助活動を行っています。

グラリン政府 Gralyn Assembly
 ドリンサール・ループ上にあるこの国には、グラリン(1735)、その衛星アスコアポイ、ボタニー・ベイ(1734)、そしてクテアリー(1733)にあるグラリン入植地が加盟しています。同時にこの国は、農業世界のアイキー(1634)を運営するアイキー開発信託社(Aikhiy Development Trust)をヴェニス(1534)と共同経営しています。
 -2000年頃、第二帝国の探検隊はアスコアポイにて原住民のドロインと接触し、両者には友好関係が結ばれました。その後-1893年までにアスコアポイには大使館や研究施設や交易所を兼ねた小さな入植地が建設され、-1780年には人類の人口は1000人になっていました。しかし第二帝国の崩壊により入植地は孤立し、退避命令を嘆願しに中央へ向かった偵察艦すら帰ってきませんでした。
 この頃からドロインにとって人類の存在は、収益源だったものが資源を浪費するだけの厄介者となってしまいました。さらには自分たちに牙を剥いて入植地を拡大し続けるのではないか、とも疑われました。解決策として選ばれたのは、衛星アスコアポイが周回する惑星クラルン(人類の発音ではグラリンと訛ります)への移住でした。クラルンはドロインには寒すぎる惑星ですが、人類には許容範囲内でした。かくして人類はグラリンに移り住み、定期便が両星を結び、ドロインの技術支援で人類は入植地を拡大していきました。
 暗黒時代の終わり頃、グラリンとアスコアポイは《略奪者》たちに対抗するために共同で惑星防衛艦網を構築しました。これは非常に効果的で、《略奪者》を迂回させるだけでなく、アスランの入植も阻みました。
 第三帝国時代のグラリンは、帝国とアスランの緩衝地帯であることを活かし、両勢力間の交易で利益を得ています(※同時にドリンサール・ループは帝国とソロマニ連合間の密輸ルートでもあります)。
 ボタニー・ベイにはグラリンの流刑植民地が693年に建設されましたが、その300年後にはグラリン本星の人口密度を低減させるために移民が始まりました。アスランの入植星系でもあるクテアリーには727年に入植が始まっています。アイキーを巡ってはヴェニスとの対立が先鋭化したので、両政府は1073年に開発信託会社を共同で設立して紛争を回避しました。
(※国名を「Gralyn Union」とする資料もありますが、それは『Traveller: The New Era』の帝国暦1200年の世界の話です)

ダグラス大公国 Grand Duchy of Douglass
 ダグラス大公国を代々治めているダグラス家は、公王国成立以前はカレドンの支配貴族でしたが、ダンダス家との権力闘争に敗れて現在のダグラスに亡命しました。その後、帝国暦103年に公王国との間に協定が結ばれて周辺2星系とともに独立国となりました。そういった経緯から、隣接するカレドン公王国とは緊密な政治面・経済面での協力関係を持ちます。ただいかに大公国が自治を喧伝していても、実際には属国として公王国の制御下にあることは否めません。通貨こそ独自のものを使用していますが、ダグラス軍はカレドン軍との一体化が進んでいて、実質的にカレドン軍の指揮下にあります。

マールハイム大公国 Grand Duchy of Marlheim
 マールハイム大公国は拡張主義的な全体主義国家です。首都はマールハイム(1230)に置かれ、現在の元首はユパール・ユガルド・ズダーラク女大公(Grand Dutchess, Yparu Ygald Zdarlaku)です。
 -300年頃にマールハイムとその植民地ペンダン(1231)のみで建国された大公国でしたが、次第に貴族が《略奪者》たちと癒着を始め、《略奪者》の時代が終わった400年代後半には元《略奪者》が貴族となっている有様でした。最後の「大公」が538年に後継者を遺さずに亡くなると、元《略奪者》の貴族たちが国を五分割して「縄張り争い」を続けました。
 932年、ユセフ・ズダーラク(Ysef Zdarlak)主任中尉が「自国」の元首を暗殺し、その後は権力と陰謀と金銭を駆使してマールハイムを統一しました。937年005日に自ら「マールハイム大公」に即位すると、出身の治安部隊を動かしてズダーラク家の独裁体制を固め、戦時体制を続けるために近隣星系を次々と征服していきました。最近では1101年にレストロウ(0926)を併合し、1114年にはエマリーン(1133)に侵攻しています。
 外交関係では、亡命した政敵を匿ったとして帝国やカレドン公王国やダンキニー連合を強く非難し、特に1113年にミラク(1127)で発生した「マクベス号事件(MacBeth Affair)」以来、大公国はダンキニー連合と断交し、連合からの全ての通商を封鎖しています(※また政敵にでっち上げた罪状の中に「アスランとの密通」を挙げ、国内に居た少数のアスランに対して弾圧も行ったので、反アスラン的な政策も採っていると思われます)。
 暗黒時代が明けた頃のマールハイムでは、銀河公用語の文法や《略奪者》の俗語だけでなく古代サイエやアスランの単語をも取り込んだ「カダール語(Kdaar)」が話されていました。しかしズダーラク家の独裁体制が確立すると、大公国政府は言語局(Linguistic Bureau)を設置して、新たに「マールダール語(Marldaar)」の普及を促進しました。これはカダール語を統治の都合に良いように改変したもので、「個性」や「異議」といった単語は存在せず、「反体制派」や「改革者」といった単語には侮蔑的な意味が付加されました。ただし大公国の支配階層は銀河公用語を流暢に話せます。

カーン世界連盟 Khan World League
 連盟はカーン(0817)から厳しく統治される《略奪者国家》の生き残りの一つです。隣接するイェディダー(0616)も連盟の一部でしたが、1031年に反乱を起こして離脱しました。また連盟は、ヘルンネ(0917)の帝国偵察局基地から監視されています。
 ちなみに連盟では《略奪者》の俗語から派生した独特な言語(言わば「カーン語」)を公用語としているので、銀河公用語での意思疎通に支障が出る可能性があります。

コラス統治領 Kolan Hegemony
 コラス(2313)を中心として、クラット(2315)、ロック(2214)の3星系は、実質上帝国の一部ではありますが、ナイトリム星域の帝国当局(※カレドン星域の帝国領はナイトリム星域から統治されています)からは行政的に独立しています。これはアスラン国境戦争末期からの長年の取り決めです。
 コラスはその当時《略奪者国家》の生き残りの一つで、現領土に加えてガッシュ(2116)、ジェリム(2416)、メル(2414)も傘下に収めていました。帝国はコラス領を宙域進出のための優れた橋頭堡として利用し、コラス領に自治権をもたせる形で条約が調印されました。時は流れて、ガッシュは統治領からも帝国からも離れ、ジェリムとメルは帝国が直接統治するようになりました。また、最近ではロックも統治領から離れようとしている模様です。それでもコラスは伝統に則って自治を強調し、領地を支配しています。
 なお、コラス出身の帝国軍人は優れた兵士としての高い評判を得ています。

ランヤード入植地 Lanyard Colonies
 この入植地はソロマニ連合市民によって995年に入植された星系群で、彼らは農産物や水産物の輸出のために連合の支援を受けていました。それぞれの星系には、その星を治めた最初の知事の名が付けられています。
 星系統治は、1008年まではそれぞれの世界の知事に任されていましたが、以後ソロマニ連合はこの星団をリーヴァーズ・ディープ宙域進出の前哨拠点と捉え、干渉を強めていきました。それは1096年に頂点に達しましたが、現在では連合の影響力は象徴的なものに落ち着いています。

清浄派同盟 Purity Union
 ピューリティ(2440)に入植が行われたのは、827年にソロマニ連合内の厳格な宗教集団「清浄派修道会(Order of Purity)」によってでした。当時彼らは隣接するアクウシル星域(ダークネビュラ宙域)でソロマニ当局の弾圧に遭っており、当時タラシスと呼ばれていた新天地に逃げ延び、星系名を今のものに変えました。
 883年、信仰を巡る議論の末、当時の修道会の長は異端信徒を極寒の世界であるアカスタス(2239)に追放しました。同時にこの流刑星の名をパーガトリィ(煉獄)と変え、人々を信仰に忠実にさせるために「煉獄」への恐怖心を利用するようになりました。
(※ソロマニ連合は宗教を否定はしていないので、弾圧に遭ったのは教義がソロマニ主義と相容れなかったか、治安維持上の理由が考えられます)

トリェトライ政府 Tlyetrai Assembly
 -75年に群小種族トリェトライは、母星ホア(0310)から亜光速船でルイワイウアー(0209)とトゥリン(0409)に入植を果たしました。以来何世紀もの間、植民地との交流は亜光速船のみによって細々と行われ、植民星は自治を謳歌していましたが、1086年にホアのトリェトライはようやくジャンプ能力を持つ宇宙船を入手し、技術水準で劣るルイワイウアー植民地の「再統合」を行いました。しかし「統一国家」を維持するその宇宙船は既に壊れ始めており、この国の先行きは不透明です。
(※一方、ホアとTLが同じであるトゥリン植民地は抵抗に成功して独立を守りました。現在トゥリン政府は防衛力を強化しており、その一環で外世界からの宇宙船は地表への直接着陸は許可されないため、必ず軌道宇宙港に停泊しなくてはなりません)


【企業・団体】
カレドン・ベンチャーズ Caledon Ventures, Ltd.
 カレドン(1815)に本社を置くカレドン系貿易会社の同社は、若い企業ながらもリーヴァーズ・ディープ宙域各地に積極的に交易を拡大していきました。アスラン系企業(特にトラサヤーラヘル)が独占しているエア星域各地の市場に風穴を開けるべく交易所を設置し、またその一方で数隻のA2型自由貿易商船による探査・通商任務を実施して、新市場の開拓によって会社を発展させています。

カーリル運輸 Carellines Ltd.
 冷徹で活発な貿易企業として知られるカーリル運輸はカーリル(2330)を本社とする国営企業で、利益のためなら「経費」を度外視する社風です。彼らの活動は海賊行為すれすれでありますが、リーヴァーズ・ディープ宙域独特の「緩い」統治情勢が彼らの業績向上を助けています。

ダカール・コーポレーション Dakaar Corporation
 ダカール(1821)に本社を置く同社は、ダカール星系自体の所有者でもあります。傘下企業には、ダカールのランサナム鉱山や他星系の鉱物資源開発を担う「ダカール・ミネラルズ」、小船団を運用して貿易を行う「ダカール・トレーディング」、リーヴァーズ・ディープ宙域の多くの世界で貨物の買い手と売り手を結びつけている「ダカール・ブローカーズ」、自社探査組織である「ダカール・サーベイズ」があります。
 ディープの独立星系に本拠を置く大企業にありがちなことですが、同社は業績向上のために非倫理的で不道徳な、明らかに非合法な活動にも手を染めています。「逮捕されそうにないなら、試す価値はある」という経営方針を持つ、かつての《略奪者》にも匹敵する悪辣な企業なのです。

スコティアン・ディープ貿易社 Scotian Deep Trading Company
 スターリング(1415)に拠点を置いていた貿易企業であるSDTCは、874年に交易所を建設したレジャップール(1218)でのジャイヘ貿易により急速に拡大し、1024年の王朝危機の際にはキャンベル卿(後のエドワード公王)を支援することによってスコティアン・ディープ星域内における権力と名声(経営者のロバート・アームストロングは、この功績により男爵位を授けられています)を得ました。
 しかし1108年のレジャップールでの反乱をきっかけに業績は傾き、1113年末にカレドン・ベンチャーズによる買収を受けて同社は吸収合併されました。

メデル・メガマート Medel's Mega Mart
 ジェリム(2416)に本社を置く帝国企業のメデル・メガマートは、リーヴァーズ・ディープ宙域とダイベイ宙域に展開する大型倉庫店の安売りチェーン店です。同社はシェイマス・メデルによって815年に創業され、帝国領内の大部分のA・B・Cクラス宇宙港世界、および非帝国の人口1億以上のAクラス宇宙港世界に合計約300店舗を出店しています(※創業300周年の1115年に300店目をカイスネス(リーヴァーズ・ディープ宙域 1217)に出店する見込みです)。
 同社の仕入先は基本的に地元世界からですが、星系外の高TL商品も一部取り扱っています。地元企業がないような世界では貨物船を借りて外部から商品を仕入れ、複数の宇宙港があるような世界では複数店舗を出店していることもあります。

ヴィルヘルム工業 Vilhelm Industries
 916年創業のヴィルヘルム工業は5世代に渡る家族経営企業で、現在の取締役会長兼最高経営責任者はウィリアム・モーガン・ヴィルヘルム2世(William Morgan Vilhelm II)です。彼はジェリム(2416)経済界の重鎮でもあります。
 同社はTL10~13の宇宙船の製造を主とし、同時に各地の不動産も多く取得しています。同社の活動範囲はリーヴァーズ・ディープ宙域とダイベイ宙域ですが、帝国領内だけでなく独立星系やソロマニ領も含まれています。
 この50年で同社は経営を多角化させ、数々の有望な中小企業を買収しています。また最近では、海軍武官のウィリアム・モーガン・ヴィルヘルム3世伯爵(※2世の末子ですが、海軍への功績により伯爵号を授与されています)とのパイプを通じて、帝国海軍から多くの契約を受注しています。
(※伯爵になるには皇帝の決裁が必要なので(男爵までなら大公の権限で授与できる)、よほど大きな功績を挙げた可能性もありますが、おそらくは知らずに設定を盛り過ぎたのでしょう。海軍の頂点ともいえる宙域艦隊提督も貴族界では男爵級の人事に過ぎないので、武官として勤続20年程度のウィリアム3世氏には士爵あたりが適切ではないかと思われます)

カレドン・ハイランダーズ Caledon Highlanders
 公王国海兵隊大佐だったウィリアム・フレーザー卿(Colonel Sir William Fraser)が退役直後の1098年に結成したこの傭兵部隊は、リーヴァーズ・ディープ宙域に加えて隣接する帝国やソロマニ領内でも、高い戦闘技術を持つ部隊という評判を得ています。
 しかし財政面に不安を抱える彼らは、現代戦に向いた装備(特に砲門や機甲車両)を十分に整える事が難しく、交戦相手が自分たちより技術面で劣るような勢力と多く契約しています。ただ幸運にも、ディープ宙域ではそういった状況は一般的です(※彼らはTL13で武装しています)。彼らは地元軍の最先鋒として戦う傍ら、徴兵された新兵や地元民兵の訓練も担当しています。
 ちなみに部隊の礼服は古代地球のスコットランド連隊(Black Watch)の流れを受け継ぎ、伝統的なキルト装束となっています。一方、野戦服は一般的な迷彩模様です。

テアーレイコイ Teahleikhoi
 リーヴァーズ・ディープ宙域で名高いアスラン傭兵部隊であるテアーレイコイ(「夕暮れの兵士団」などの意味)は、ウータア星域に本拠を置いています。約150年前に結成されたこの傭兵部隊は、イヤールア氏族(Iyhlua clan)の未婚女性が経営する企業の下にあります。
 同社の活動範囲はダークネビュラ宙域とリーヴァーズ・ディープ宙域で、アスラン氏族同士の戦争だけでなく、アスラン以外の恒星間政府とも契約していますが、これにより同社は氏族の影響力を広げているのです。
 テアーレイコイはラーレアフテア・ハリャワオウャ製の宇宙船を13隻保有しており、この高性能な船によって恒星間に展開する部隊の柔軟な機動性や制宙権や補給が支えられています。
(※名をTehleikhoiとする資料も存在します)

ラーレアフテア・ハリャワオウャ Larleaftea Hryawaowya
 最良のアスラン系造船会社としてリーヴァーズ・ディープ宙域中で有名な同社は、ロアア(0736)に造船所を構えており、その造船所には数々のアスラン氏族や企業が様々な用途(通商、探査、軍事など)の宇宙船を求めて訪れています。

トラサヤーラヘル Tlasayerlahel
 アスラン四大メガコーポレーションの中でも最大手であるトラサヤーラヘル(直訳すると「恒星間商社」)はイェーリャルイホ氏族の影響下にあり、同社の経営はイェーリャルイホ氏族の女性に委ねられています。氏族男性は経営方針を会社に示しはしますが、日々の管理はより適正のある女性によって行われています。
 トラサヤーラヘルは当初、イェーリャルイホ氏族領内の運輸を担うために設立されましたが、氏族の拡大に伴って同社も成長しました。現在ではアスラン領内全宙域の主要世界間の貨物や旅客の輸送を担っています。
 リーヴァーズ・ディープ宙域の成熟市場を求める同社は、カレドン系企業と激しく競争しています。


【参考文献】
・Ascent to Anekthor (Gamelords)
・Pilots Guide to the Drexilthar Subsector (Gamelords)
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 6: Night of Conquest (Game Designers' Workshop)
・Journal of the Travellers' Aid Society #12 (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #16 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Alien Race Vol.4 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・Traveller20: The Traveller's Handbook (QuickLink Interactive)
・Into the Deep #1,#2,#3,#4 (Brett Kruger)
・TAS-Net Library Data
・Traveller Wiki

リーヴァーズ・ディープ宙域 ライブラリ・データ

2014-06-04 | Traveller
イザナク大提督 Grand Admiral Izanak
 ドレシルサー(1826)の群小種族イルサラ人の歴史の中で、最も重要な役割を担った《略奪王》(Reaver warlord)です。
 -1030年、強力な敵との戦いに敗れたイザナクは逃亡先のドレシルサー(1826)に着陸しました。彼はドレシルサーの3民族の中で当時最も遅れていた(といっても初期工業文明に達していた)イルサラ族を選んで、技術提供と引き換えに船の修理を手伝わせました。
 8年後、修復を済ませて星々の世界へ帰っていったイザナクのその後は、誰も知りません。

イルサラ帝国 Iltharan Empire
 群小種族イルサラ人は、-1030年に母星ドレシルサーに逃亡してきた《略奪王》イザナク大提督の船から核融合炉とジャンプドライブの技術を入手し、当時TL4~5程度だった技術水準を飛躍させました。その20年後には彼らは宇宙に飛び出し、そして彼ら自身の拡張主義的志向も手伝って、ドレシルサー周辺の星系を次々と併合していきました。
 しかし、誕生したばかりのカレドン公王国と遭遇・交戦したことで拡大の勢いは止まり、続く300年間は宙域に進出してきたアスランと第三帝国の狭間で没落していきました。それでも彼らは好戦姿勢を捨てず、暗黒時代の終わりとともに増加していった星間物流への襲撃をやめなかったので、イルサラ帝国と第三帝国は直接対峙することとなりました。
 最終的に、250年には当時イルサラ帝国領だったダンキネー(1624)、ラナルド(1526)、フルトン(1524)の反乱を公王国政府が支援し(※この3星系は元々カレドンからの植民星でした)、帝国軍の支援を受けたカレドン軍がイルサラ軍を次々と破って星々を解放していきました。そして268年、帝国海軍によるドレシルサー爆撃によってイルサラ帝国は終焉を迎えました。

ヴィルシャシュ Virshash 2724 DA86954-6 S 高人・肥沃 G Im
 群小種族ヴィルシの母星であるヴィルシャシュは、連星の片方から強力な放射線が降り注ぐ高重力惑星です。これらの影響で、ヴィルシは屈強な体に進化しました。
 ここはかつての第一帝国の勢力圏からは遠く離れていたので、ヴィラニ人の接触は受けませんでした。第三帝国加盟後に赤道の大きな島に宇宙港が建設されたのを除いては、ヴィルシャシュの風景は恒星間戦争末期の地球人探検隊が最初に見たものとあまり変わっていません。
 宇宙港は当然ながら帝国当局の管轄内にありますが、それ以外の土地は典型的なヴィルシ気質の「無秩序」の中にあります。非ヴィルシの訪問客に関する諸問題を解決するものを除けば、ここには法律制度は存在しません。しかしながら偵察局は小さな保安捜査部局を運営し、独立裁判所を経て、犯罪者を帝国の刑務所に送り込んでいます。これは帝国によるヴィルシへの親善の証で、大切な市民であるヴィルシを苛立たせないことは費用をかけるに値すると考えているからです。

宇宙港の虐殺 Starport Massacre
 イルドリサール(2326)で1109年に発生した事件のことです。
 この星は200年以上前からカーリル合集国の鉱業植民星として繁栄してきましたが、ダルドリーム大判官が合集国の実権を握って以降、新関税法施行による重税や基幹産業の国有化など抑圧的な政策が採られ、人々の不満は高まっていきました。
 そして1109年148日、宇宙港周辺で抗議活動を行っていたイルドリサール市民に対して合集国平和維持軍(Assembly Peacekeepers)が発砲して、デモ参加者314名が死亡しました。これをきっかけにイルドリサール全体で反乱の火の手が上がりました。
 ダルドリーム大判官はアスラン傭兵のテアーレイコイをも動員してイルドリサールに侵攻し、宇宙港といくつかの都市を制御下に置きましたが、惑星の大部分は傭兵部隊カレドン・ハイランダーズと契約した「イルドリサール愛郷戦線(Ildrissarian Patriotic Front)」の勢力下にあって、情勢は未だ流動的です。
(※「平和維持軍」とはカーリル合集国軍の総称のようです)

王朝危機 Dynastic Crisis of 1024
 カレドン公王国のコリン公王(Prince Colin)が後継者なく死去したことに伴い、1024年に発生した内戦のことです。第二次公王国内戦とも呼ばれます。
 王座を巡ってエドワード・キャンベル男爵(Edward, Lord Campbell)とデイビッド・マクスウェル伯爵提督(Admiral David, Earl Maxwell)の両派に分かれて戦いが始まり、財界の支援を受けたキャンベル卿が最終的にはダンバートンの戦い(Battle of Dunbarton)で勝利して、1025年004日にエドワード公王として即位しました。一方、敗れたマクスウェル伯は公王国領外のジェルメーヌ(2019)に逃れました。

ガージパジェ Gaajpadje 1124 E667874-4 低技・肥沃・富裕 G Na
 群小種族ジアージェの故郷であるガージパジェには、遠く離れた東大陸と西大陸、そしていくつかの群島や孤島が浮かんでいます。雑食の狩猟・採取動物から西大陸で進化したジアージェは、やがてガージパジェ中に広がって文明を築きました。
 彼らはクデンシャール(Ku'densharll)と呼ばれる芸術に秀でた指導者を中心とした社会を構成しましたが、その影響範囲は1都市程度に限られたために都市国家が分立しました。そして戦いと和平の繰り返しの末に、西大陸の港町リジュジャ(Rijudjya)を形式上の首都とする都市国家連合の条約が調印されました。
 ガージパジェのあるエア星域は歴史的に星間交流が乏しい地域でした。ジアージェの伝承の中には第一帝国期のヴィラニ人探検隊との接触を示唆するものも含まれますが、継続した交流は行われませんでした。ヴィラニ人に続いてリーヴァーズ・ディープ宙域に足を踏み入れた地球人は、いくつかの入植地を宙域内に築きましたが、ガージパジェを訪れることはありませんでした。暗黒時代のこの宙域には《略奪者》が横行しましたが、ガージパジェの周辺はアスランの勢力圏が近かったので、避けて通られました(後に台頭してきた第三帝国も同じ理由で近寄りませんでした)。
 しかし-850年頃、一隻の軍艦が東大陸の山岳に不時着しました。乗組員はイルサラ人の兵士で、交戦後のミスジャンプでガージパジェに墜落してしまったのです。艦を修復する技術が失われて故郷への帰還を断念した彼らでしたが、定住するには十分な知識は残っており、男女比の面でも人口拡大に支障はありませんでした。
 やがてクトリング(K'tring)と呼ばれるようになった彼らは、無慈悲で軍国主義的な文明を築き、軟弱で下等とみなした東大陸のジアージェ都市を1000年以上かけて征服し尽くしました。しかしジアージェより上とはいえ彼らの当時の技術では、ガージパジェの広大な海を横断して西大陸に攻め込むことはできませんでした(ただし一部のクトリング族は海を渡って、西大陸のジアージェ都市にスラム街(ゲットー)を構築しています)。
 状況が一変したのは1050年頃です。人類国家のカレドン公王国系企業であるカレドン・ベンチャーズ社は、新たな市場を求めてガージパジェの調査を始めました。過去の伝承や記録になかった人類文明クトリングの存在には衝撃が走りましたが、彼らには商売先としての魅力が乏しく、一方でジアージェの美術品は人類世界のどこに持って行っても高値が付くことが期待できました。
 1108年にカレドン・ベンチャーズ社は商業使節をリジュジャに送り込み、貿易協定の調印に成功しました。ところが調印を祝う宴が催されていたその夜、東大陸のクトリングは(ガージパジェでは新技術の)滑空輸送機による奇襲をリジュジャにかけました。彼らは、西大陸のジアージェが外世界との交易で新たな資源と武力を手に入れる前に征服を試みたのです。しかしこの攻撃は、商業使節の乗組員が宇宙船を自力で奪還したことで失敗に終わりました(※TL6の軍隊ではA2型商船一隻でも歯が立ちません)。
 現在、リジュジャにはCクラス宇宙港の建設が進んでおり(※1120年までには完成しているようです)、今後の交易の拡大が期待されます。また、クトリングの方もソロマニ連合(もしくはアスラン)と接触したと噂されています。ジアージェとクトリングの両者が宇宙に目を向けたことで、この惑星は新たな時代を迎えたと言えるでしょう。
(※ガージパジェがTL4評価なのは、帝国の第二期探査でクトリング文明の存在が見落とされたからのようです)

コベントリー Coventry 1723 X565733-2 低技・農業・肥沃 R G Cd 刑務所
 コベントリーは、隣接するダンキニー連合が管理する刑務所星系です。約350年前に収容が始まって以来、ここは政治犯や刑法犯といった「好ましからざる者」を人道的に扱う場として効果的に運営されています。
 地軸の傾きによって季節変動が極端であるのを除けば、コベントリーはかなり過ごしやすい惑星です。よってここに収監されること自体が重罰というわけではありません。しかし連合海軍はガスジャイアントの衛星に監視所と2隻の10000トン駆逐艦を配備し、厳重な監視体制を敷いています。ガスジャイアントに立ち寄っての燃料補給は許可されていますが、速やかに星系外に出ることが求められます。当然コベントリー自体への着陸は禁止されていて、無許可で接近すると発砲されます。
 「08年反乱」の首謀者であるトーマス・バーナム提督が1110年に収監されて以降、監視所は戦闘機や小艇の発着能力が増強され、人員も増やされるなど、保安体制が強化されています。バーナム提督の奪還計画の噂はいくつもあり、それらが結実しないようにするためです。

ジャイヘ Jaihe
 レジャップール(1218)原産のジャイヘ(現地語でジャイヘブレク(Jaiheblek))は、人気のある温かい飲み物に加工される植物です。846年からSDTC社によって現地からの輸出が始まったジャイヘですが、1108年のハッピルーヴァ人蜂起(revolt of the Happirhva)以降は入手が困難となっています。

ジュラの墜落痕 Crash Jura
 グレンシエル(1912)のジュラ高地(high plateau of Jura)にある墜落痕は、初期ジャンプ技術で造られたサイエの宇宙船の残骸と考えられています。推定で約3700年前からあるこの遺構は、サイエに関心を持つ多くの考古学者や歴史家を惹きつけ、カレドン公王国と帝国の研究者同士が遺構への接触を巡って論争する事態にもなりました。結局宇宙船は、最終的にカレドン(1815)の研究所に移されました。
 宇宙船の中からは、サイエの従属種族(イン=ツァイやルーシャナなど)の美術品の他、破損こそしていましたがサイエの軍事基地で用いられたと思われる水晶の鍵(crystal key)が見つかっており、注目を集めています。

ストラスモア伯爵ジェームス・リード提督 Admiral James Reed, Earl of Strathmore
 -136年生、-56年没。出身はカレドン(リーヴァーズ・ディープ宙域 1815)。
 ストラスモア伯爵提督は、初期のカレドン海軍の偉大な提督です。イルサラ帝国に対する彼の勝利は、誕生したばかりのカレドン公王国がリーヴァーズ・ディープ宙域の勢力図を塗り替えるきっかけとなりました。
 金物屋の息子として生まれ、青年士官時代に《略奪者》討伐において数々の功績を挙げた彼は、-90年に艦隊提督に就任すると-86年の「ヴィクトリーの戦い」にて大勝利を収めました。この輝かしい勝利の後、-64年に退役するまで彼は艦隊を指揮して公王国に貢献しました。今では「公王国海軍の父」の一人として尊敬されています。
(※この設定だと、彼が「ストラスモア伯爵」の称号を得たのはヴィクトリーの戦いの後と考えるのが自然でしょう)

デイビッド・マクスウェル伯爵提督 Admiral David, Earl Maxwell
 マクスウェル伯爵提督はコリン公王の死後、エドワード・キャンベル男爵とともにカレドンの玉座を求めました。1024年に内戦が始まるとマクスウェル軍は戦闘において優位に立ち、そしてマクスウェルは自身を「デイビッド5世」の地位に就かせました。
 しかし同年後半のダンバートンの戦いで彼の艦隊は破られ、彼を支持する最後の砦であるロブ・ロイ(1917)にて敗北が決定的となるまで指揮を執りました。その後の彼は逃亡生活を送り、スカイー(2018)を経てジェルメーヌ(2019)に亡命しました。
 そして彼の子孫は今も、自分こそが公王国の正当な統治者であると主張し続けています。

天的聯盟 Celestial League
 現在の和諧同盟の前身である天的聯盟は、-2000年代に築かれた中国系ソロマニ人入植地を起源に持つウータア星域とエアコイ星域のいくつかの世界から構成されていました。暗黒時代の間もジャンプ技術を維持し、時折《略奪者》の艦船の供給源ともなりました。
 フトホルの和約が締結されるまではアスランとの絶え間ない紛争が聯盟を強く結びつけていましたが、その後まもなく内部抗争によって分裂しました。856年に和諧同盟として再結集するまで、かつての加盟世界は何世紀もの間、戦争によって苦しみ続けました。

ドリンサール・ループ Drinsaar Loop
 リーヴァーズ・ディープ宙域の3星域(エアコイ、ドリンサール、ドレシルサー)に跨るドリンサール・ループには、23の星系が含まれています。この星団のトレイリング端にあるドリンサール(2032)は、人類がこの近辺を探査する際に玄関口となった星系で、現在ではかつてほどの重要世界ではないものの、その名前は星団の名称に残されています。

ドレシルサー Drexilthar 1826 B46969D-7 S 非工・富裕 A G Cs
 ドレシルサーは奇妙な惑星です。水界の量はその低重力に対してあまりに多く、古代期の大規模な惑星改造が疑われています。海にしか生息していない土着の生命体は原始的で、大部分の生命は既知宙域各地から太古種族によって持ち込まれたものです。
 主要な3大陸は回帰線帯に位置し、全体的に寒冷なこの惑星の中でも一年中快適に過ごせます。しかし赤道地域でも氷山が流れ込んでくるため、遠洋航海は非常に危険です。
 ここを故郷とするイルサラ人が近代化する前の陸地の多くは密生した樹林に覆われ、そこはオーロクス(※家畜牛の祖先)やマストドン(※象の一種)や剣歯虎が支配していました。その後のイルサラ人の文明の進歩は生態系に多少の影響を与えましたが、それ以上に帝国による286年の核攻撃は生態系に深刻な影響を与えました。
 ドレシルサーの住民は極端に軍国主義的で、攻撃的で、政権に従順で、弱者への同情や慈悲の心を持ち合わせていません。この文化は、政府が実施する厳しい軍事訓練によるものです。ドレシルサーの人々こそが銀河で最も優秀な人類であると教えられ、外世界人は弱虫だと軽蔑されます。地元の過大な治安警察と外世界人への差別により、トラベラー協会はこの星系にアンバー・トラベルゾーン指定をしています。しかしこの星の宙域史における存在感もあってか、少なくはない訪問客は監視付きで惑星内を歩き回ることが許されています。
 ドレシルサーは先進技術の入手に非常に関心を持っていますが、技術移転はダンキニー連合、カレドン公王国、帝国、カーリル合集国の間の暗黙の了解によって禁じられています。
 この星系の帝国偵察局基地はガスジャイアントの衛星に建設され、専門家がドレシルサー社会を詳しく調査しています。また小惑星帯がドレシルサーのすぐ外側の軌道にある関係で、この惑星は流星が落下しやすい環境にあります(年1回の頻度で直径2~3メートル程度の物が落ちてきますし、古代イルサラ文明の一つが隕石激突で滅んでいることも確認されています)。よって偵察局基地は、ドレシルサーに警告を発するための「全天監視」の機能も兼ね備えているのです。

風霊獣 Windstalkers
 グレンシエル(1912)のアネクトール山を訪れる狩人や登山者の間で語られる話として、到達できないような高い岩棚の上から獰猛な「風霊獣」が吠えて、登山者の死を予告するというものがあります。話に出てくる四足獣はグレンシエルの生物形態である六足獣とは異なるため、一般的には虚構と退けられています。
 しかしそれでも、何人かの者は間違いなく何かを見たと確信しています。

フタリェア Htalrea 1226 E767610-0 低技・農業・肥沃・非工 Na
 未開発の原始世界であるこの星は、貴重な香水の元となるリッス(risth)(体重200kgほどの獰猛な襲撃型動物)の原産地です。この香水はアスラン商人の大きな興味を惹き、フタリェアの主要な輸出品となりました。
 1109年にカレドン・ベンチャーズ社は交易目的で原住種族ポリフェミーに接触し、1113年にはトラサヤーラヘルの独占市場を崩すためにこの地に交易所を建設しましたが、その翌年、トラサヤーラヘルの報復に遭って交易所は破壊されました。

「ブラックジャック」デュケイン "Blackjack" Duquesne
 彼は-1120年から-1100年頃に存在したとされる悪名高い《略奪者》です。多くの民話や伝承が彼と宇宙船スカイラーク・デュケイン号について伝えていますが、彼についての歴史資料は驚くほど少ないのが実情です。

ブルーレ Bruhre
 ブルーレはダイベイ宙域を起源とする非人類知的種族です。彼らはがっしりとした六本足生物で、硫黄分を多く含む大気を苦にしません。例えばローレン(2311)の汚染大気でも呼吸可能で、むしろ「故郷に比べたら無味無臭」程度にしか感じていません。人類には有毒なローレン原産の動植物も、彼らには美味となります。
 ブルーレの生活に深く結びついた儀式や作法は、複雑で不可解に見えます。彼らは生涯のあらゆる面において、一つ一つの発言や行動にすら厳しい戒律と習慣の下で生きています。
 彼らはとても偏狭な種族でもあり、部外者にも自分たちを同じやり方を求めます。よって、ブルーレは一般的に他の主流帝国文化からは外れた存在です。
(※ブルーレの母星の場所についての公式設定はこれまで存在しませんでした。T5設定でコルヴェ(ダイベイ宙域 1729)であることになりましたが、他の設定との兼ね合いを考えると問題があるように思います)

マクベス号事件 MacBeth Affair
 1113年187日にマールハイム大公国領のミラク(1127)で発生した暴動の後、ダンキニー連合籍の商船マクベス号の乗組員が、関税法違反、無許可通商、大衆扇動、大公国治安維持局員(Ducal Security officers)への襲撃など17件の容疑で逮捕されました。
 大公国当局の公式見解では、マクベス号の乗組員が現地法に反して暴動を誘発したとしています。一方で企業側の調査員は、暴動がマクベス号への嫌がらせに対する現地市民の反発から起きたものだ、とする証拠を発見したと主張しています。

マット草 Matweed
 マット草は、スカイー(2018)の海上に厚く絡み合って浮かぶ植物です。適切に処理されれば優秀な食品となりますが、残念なことにその花粉は人類の8割に危険なアレルギー反応を起こさせます。

ヤリザメ Lanceshark
 ヤリザメはメル(2414)原産の、小さな雑食性水棲生物です。その味の良さは発見後すぐに知れ渡りました。
 ヤリザメは回遊性生物で、彼らの移動距離はその生涯でメルの半球ほどにもなります。繁殖率は高く、現地の「筏集落」が群れのそばで捕獲を続けていても群れ自体に全く影響を与えないほどです。

ヤロスラフの戦い Attack on Jarslav
 多くの歴史家が《略奪者》の衰退のきっかけと指摘するのがこの戦いです。-1118年、《略奪者》たちとオピリョク防衛連盟(Opljiok Defense League)がヤロスラフ(ソロマニ・リム宙域 0123)で激突し、《略奪者》たちは全軍の3分の2を失う大敗を喫しました。
(※オピリョク防衛連盟の実態については長らく公式設定が存在しなかったのですが、マングース版『The Solomani Rim』ではその名前こそ直接出てこなかったものの、「略奪者と戦ったのは『テラ商業共同体の支援を受けたディンジール連盟』」と記述されたため、恒星間共同防衛条約の類ではないかと思われます)

ラジャンジガル Lajanjigal 1721 DAB6583-3 低技・非工・非水 G Na
 不気味な黄緑色のもやに覆われたラジャンジガルは、人類にはとても厳しい環境です。防護措置なしでは大気の腐食性塩素によって、あっという間に死んでしまいます。しかしこの星は腐食性大気に適応した多彩な生物の宝庫であり、知的種族ラングルジゲーの故郷でもあります。
 知的生物学者以外には特に興味を持たれなかったラジャンジガルでしたが、30年ほど前にダカール・コーポレーションの調査によって、様々な希土類や放射性元素が豊富な世界であることが明らかになりました。しかし従来の鉱業技術では、惑星の大気の影響で法外な費用がかかることもわかりました。
 そこでダカール社は、腐食性大気の中でも問題なく働ける原住民ラングルジゲーの「雇用」を実施しました。一方的な宣言にラングルジゲー側が抗議した際に、2つの集落を艦載艇でミサイル爆撃するという、とても穏やかとは言えない手法によってでしたが。
 降伏したラングルジゲーは事実上の奴隷労働力となり、過大な生産目標と厳しい処罰が与えられました。外世界のいくつもの団体がダカール社の高圧的なやり方に抗議しましたが、ラングルジゲーがダカール社に抱く恐怖心と外世界人に対する不信感から、支援はうまくいっていません。
 ダカール社が所有するDクラス宇宙港相当の小さな軌道施設には、武装小艇、異種大気戦訓練を受けた傭兵小隊、技術者や現場監督などの職員が詰めています。運送業者は定期的に鉱石を運ぶためにこの星を訪れますが、それ以外の来訪者はほとんどありません。

「乱暴者」アリソン・マードック Alison "Hellion" Murdoch
 「乱暴者」マードックはフトホルの和約(380年)以降の有名な《略奪者》です。様々な創作物で知られる彼は、393年にチャニング准将(Commodore Channing)が指揮するカレドン軍によってブラックウィドウ号と共に撃破されました。
 彼が奪い取った財宝の多くは、今も見つかっていません。噂では一部は愛船と共に失われたが、多くは彼だけが知る秘密の隠れ家に残されている、とのことです。そして財宝の存在は、えてして詐欺師たちが撒く餌の材料にもなっています。
(※ちなみに、かつて出版されたシナリオ『Hellion's Hoard』(今はJTAS Onlineで読めるそうです)はデーンロウ(1136)を舞台にしていて、そこに秘宝があったりなかったりするのかもしれません)

リッスセント Risthscent
 フタリェア(1226)原産の動物であるリッス(Risth)の香腺から採れるこの香水は、人類やアスランだけでなくジアージェなど様々な種族の間で高い需要があります。
 なおリッスは森林地帯の洞窟や岩地を住処とするので、狩猟するには徒歩で捜索するのが最適となります。
(※シナリオ『Trading Team』の表紙に描かれているのがこのリッスだと思います)

レヴィー肉 Leviemeat
 レヴィー肉はスカイー(2018)のレヴィーから加工される、人気のある食品です。レヴィー(「レヴァイアサン」の略)は深海に生きる巨大生物で、体重は最大100トンにもなります。
 狩りは6隻一組の小さな潜水艇によって行われ、仕留めた後に潜水夫によって装着される空気袋によって地表まで引き上げられます。それはとても危険な仕事で、レヴィーの尾の一撃で潜水艇ごと作業員がバラバラにされるだけでなく、仕留めた後でも大型の清掃生物と肉を争うこともあるのです。

レジャップール Rejhappur 1218 B651613-A 非工・貧困 A Na
 800年から875年にかけてのカレドン公王国における商業探査の拡大や、アスラン系企業との取引の開放は、エア星域やフリャロアア星域方面への通商路や通信網の整備を促しました。特に833年にダンマーロウ(0921)に公王国の属領地が設立されたことで、その必要性は強まりました。
 846年に惑星レジャップールの衛星クラシュラマル(Krashlamar)にあった小惑星鉱夫用のDクラス宇宙港がCクラスに拡張されると、レジャップール星系ではダンマーロウ方面と公王国間の流通量が増していきました。その頃カレドン系企業のSDTC社(Scotian Deep Trading Company)は宇宙港の管理権を獲得し、レジャップール本星の開発を見据えて探査をはじめました。そこで彼らは、原住種族ハッピルーヴァ人(のハップラーニ族)が時折収穫して飲料に加工していた自生植物ジャイヘ(ジャイヘブレク)に目をつけました。
 874年に交易所がカルダナウィの町(town of Kaludnawi)に建設され、当時の経営者ジェームズ・ダンバー(James Dunbar)は外世界人とハップラーニ族との友好関係を維持するために、地元民といくつかの貿易協定に調印しました。その後住民たちはジャイヘの耕作を続けました。ダンバーや彼の後継者たちの下でレジャップールにおける同社の存在は不動のものとなり、この世界はSDTCの主要な収入源となると共に、次第に発展していきました。
 1024年の王朝危機の際に勝者となったキャンベル卿を支援したことからSDTC社は宮廷内でも発言力を増し、男爵位を与えられたロバート・アームストロング最高責任経営者は、この権力をレジャップールでの社の影響力拡大に利用しました。アームストロング卿の管理下で、同社のジャイヘ農園(プランテーション)がハップラーニ族の耕作地に取って代わり、大規模な灌漑や最新農業技術の導入でジャイヘの収穫量は以前の20倍になりました。ハップラーニ族にとっても農園は良い「就職先」となり、賃金を受け取ると同時にハイテク装置の運用などから技術と知識を得ていきました。
 しかし農園は不幸ももたらしました。教育と技能を得ていったハップラーニ族でしたが、依然として自分たちが外世界人の雇い主の下に置かれたままであることに気付きました。さらに、人口を増やしていた外世界人たちは地元民を無知で野蛮だと見下し、地元の文化や宗教的伝統を蔑ろにしたので、これは両者の摩擦に繋がりました。
 本当の問題は、ハップラーニ族の居住地域だけでは手狭になったジャイヘ農園を、遊牧民ハッピジョム族が住む草原の方まで拡張していったことでした。土地を奪われた遊牧民の抗議活動は激化しましたが、1059年の「シンブラの戦い(Battle of Simbula)」でSDTCの傭兵部隊が10倍の遊牧民連合を破り、入植地の安全を確保しました。
 その後、ハップラーニ族で構成される「ルヴァッカ(現地語で「支援」の意)部隊」が設立され、外世界人将校の指揮下で通常任務に割り当てられました。同時に傭兵部隊への依存度も減らすことができましたが、いくつかの外世界人部隊はカルダナウィやダンバー地上港(Dunbar Shuttleport)といった重要施設に残されました。
 シンブラの戦いを経て、SDTCの拡大はたがが外れたようになりました。ハッピジョム族は肥沃な土地からますます追い出され、農園で安定した仕事を得るのと引き換えに遊牧生活をやめるよう推奨されました。しかしそれに従ったのは少数の人々だけでした。
 破滅のきっかけは、1098年に草原地方のナハワイジョム(Nahawaijohm)に建設された新入植地でした。1103年までここには遊牧民の襲撃が相次ぎ、傭兵やルヴァッカ部隊を回したもののナハワイジョムは4度も炎に包まれました。
 SDTCの数々の失策により、1105年にはレジャップールはもはや制御不能に陥っていました。それでもSDTCの新経営者のパーシバル・ジャメイスン卿(Sir Percival Jameison)は、尊大にも「遊牧民共を再び支配下に収める」と決心していました。彼は武力によって更なる土地収用を進めようとしましたが、これは彼自身の死刑執行状に自分で署名したようなものでした。
 彼らはなぜ地元民が激怒しているのか理解できていませんでした。ハッピジョム族はおろか、SDTCの支配下に組み込まれたハップラーニ族ですら、外世界人が持ち込んだ「何もない所から水が湧き出す」灌漑装置は「邪悪な魔術」に見えていて、決して納得はしていなかったのです。それに外世界人が地元民を軽んじていたことも加わり、次第に地元民の心情は遊牧民寄りに傾いていきました。
 1108年、パジナウィ(Pajnawi)の農園を視察に訪れたジャメイスン卿は、カルジャキ(Kaludjaki)の草原居住者に対する容赦無い焦土化作戦に抗議する群衆に直面しました。暴徒に苛立った彼は駐屯部隊に鎮圧を命じましたが、これが大きな誤算でした。ルヴァッカで構成されていた部隊は反旗を翻し、56時間後にはジャメイスン卿一行を含めたパジナウィの外世界人は全員殺されていました。そしてその情報は燎原の火のようにレジャップール中に広まり、ルヴァッカ部隊はほとんど反乱を起こしました。地元民はルヴァッカを支持し、パジナウィと同等の虐殺が各地の集落で繰り返されました。傭兵と企業側の残り少ないルヴァッカ部隊だけでは、防御拠点に逃げ込んだ外世界人が救出されるまで持ちこたえることは極めて難しいことでした。
 結局、この1108年の反乱とその後のカレドン公王国による介入は、SDTC社の没落に直結しました。現在では公王国軍の撤退と併せて、星系の新たな統治者となったカレドン・ベンチャーズ社の守備隊が置かれ、ジャイヘ輸出の再開が検討されています。

ロジャー・マクスウェル Roger Maxwell
 ジェルメーヌ(2019)に亡命中であるマクスウェル家の現在の当主で、「公王ロジャー1世」を僭称している人物です。中年の彼はアルコールや薬物の中毒者で、己の快楽のために玉座を求めていると一般には知られています。


【参考文献】
・Pilots Guide to the Drexilthar Subsector (Gamelords)
・Double Adventure 6: Night of Conquest (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #16 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Alien Race Vol.4 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Into the Deep #1,#2,#3,#4 (Brett Kruger)
・Candles Against The Night (Keven R. Pittsinger)
・TAS-Net Library Data
・Traveller Wiki

宙域散歩(番外編3) ソロマニ・リム戦争概史

2014-03-03 | Traveller
「……人類の最たる理想と称されていたソロマニの気高き名が、今や偏狭な人種主義の同義語と成り果てた事は残念である。開放的な社会を建設する方法を銀河に教えたのはソロマニ人であった。しかし自治区の我が同胞たちは、尊敬する祖先の素晴らしき成果を穢してしまった。自由を愛すると主張する彼らは、他者を抑圧する自由と引き換えに自らの自由を売ったのだ」
「『テラの守護者』たるマーガレット2世の名において、本日を以ってソロマニ自治区憲章を取り消し、そして我々の直接統治下に置くために必要なあらゆる措置を取る事を政府の全機関に命ずる」

――帝国暦940年292日の緊急勅令


 自力でジャンプ航法を開発して銀河系に飛び出した「地球人」はすぐに、悠久の歴史を持つ『同じ人類』のヴィラニ人が治める「星々の大帝国(ジル・シルカ)」と接触し、やがて恒星間戦争(Interstellar Wars)が始まりました。地球連合(Terran Confederation)を結成し、幾多の戦いの末にヴィラニ帝国を打倒した地球人は、それに替わる「人類の支配(第二帝国)」を打ち立てました。この頃から、地球出身者以外が大多数となっていた「地球人」の呼び名は(諸説ありますが)「ソルの人」を意味する「ソロマニ人」に変わりましたが、そのソロマニ人の進歩性をもってしても数千年の間に積み重なった停滞と腐敗は拭い去れず、わずか400年で新国家は崩壊してしまいました。その後1700年間続いた暗黒時代は、ソロマニ人のクレオン・ズナスツ(Cleon Zhunastu)が率いる「シレア連邦」が勢力を拡大し、国号を『帝国(第三帝国)』と改めた帝国暦0年に終わります。

 帝国暦102年にマギス・セルゲイ・オート=デヴロー(Magis Sergei haut-Devroe)によって発表された『ソロマニ仮説(Solomani Hypothesis)』は、宇宙各地に存在する「人類」が太古の昔にテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)から何らかの目的でばら撒かれた、とするもので、その説の正しさは588年にそのテラ星系が第三帝国に編入されてから考古学的研究が進んで証明されました。ソロマニ仮説自体に人種間の優劣を論じた部分はありませんが、帝国内乱(604年~622年)の時代にヴィラニ人貴族や企業が勢力を盛り返したこともあり、第二帝国以来宇宙各地の指導者層として君臨していたソロマニ人たちは、彼らに対抗するためにソロマニ仮説と過去の歴史を根拠としたソロマニ人優越思想、俗に言う『ソロマニ主義(Solomani Cause)』に染まっていきました。内乱を終わらせたアルベラトラ帝の時代には宮廷内のソロマニ主義派は最盛期に達します。
 しかしアルベラトラの子で666年に即位したザキロフ(Zhakirov)は、679年にヴィラニ人貴族のシイシュギンサ家から令嬢アンティアマ(Antiama Shiishuginsa)を后に迎えて人種間の融和と帝国の安定を図る一方、ソロマニ主義者を宮廷から一掃しました。当然ソロマニ主義者の不満は高まったので、彼らをなだめるためにザキロフの子であるマーガレット1世(Margaret I)は704年に、テラを中心として半径50パーセクを『ソロマニ自治区(Solomani Autonomous Region)』(通称「ソロマニ圏(Solomani Sphere)」)として制定し、ソロマニ主義者たちをそこに封じ込めました。ちなみに自治区領は「半径50パーセク以内の帝国領内」とされていたはずでしたが、自治区政府は「半径50パーセク以内」と拡大解釈して帝国領外だったアスラン氏族の居住星系をも領土に含めてしまい、後々まで続く緊張の源となりました。


テラから半径50パーセク以内の『ソロマニ圏』
(必ずしも当時の自治区領土を表したものではない)

 その後2世紀の間、ソロマニ主義者たちはリムワード方面の自治区内で自治を謳歌し、帝国は彼らを無視してスピンワード方面の植民・開発に勤しみました。860年頃に自治区中の星系でソロマニ主義政党の「ソロマニ党」が次々と政権を握り、871年045日の自治区全ソロマニ党大会(Solomani Party Congress of the Solomani Autonomous Region)で「自由ソロマニ諸邦連合憲章(Charter for Confederation of the Free Solomani States)」が決議され、自らを「人類唯一の正当な恒星間政府」とする『ソロマニ連合(Solomani Confederation)』の「建国」が宣言された際も放置されました。古の偉大な地球連合を模した(と言ってもソロマニ党独裁の)ソロマニ連合は、独立国を標榜はしていましたが、帝国から見れば自治区内の統治機構改革に過ぎず、自治区時代と変わらず帝国との通商や技術交流や徴税は行われていたからです。それでもソロマニ圏で帝国貴族の政治的影響力が完全に失われたことと、自治区が引き起こす度重なるアスランやハイヴとの「国境紛争」に巻き込まれることを嫌った帝国は、トムトワ2世(Tomutova II)の時代にソロマニ圏内全星系の海軍と偵察局基地を閉鎖しています。それによって生じた力の空白は、ソロマニ圏の植民地海軍(Colonial Navy)が「国軍」に昇格することで埋められました。

 帝国がソロマニ問題に本腰を入れ始めたのは皇帝マーガレット2世(Margaret II)の治世の920年頃からでした。その頃、帝国宮廷には自治区内の非ソロマニ人たちから、ソロマニ主義に基づいた差別政策の不当さを訴え、自治区からの離脱を求める嘆願が相次いでおり、帝国政府としても無視することはできなくなっていたのです。帝国は外交攻勢や軍事的圧力による介入政策を採り始めます。ソロマニ軍に経済封鎖された非ソロマニ人星系に帝国海軍が「人道支援」に向かうなどして、摩擦と緊張は増していきました。またこの頃からソロマニ・リム宙域の群小種族ヴェガンや、オールド・エクスパンス宙域のヴィラニ人たちが散発的ながら抵抗運動を開始し、それが徐々に組織を拡大していったのは、後の戦争の発端とも言える出来事でした。
 940年、事務総長セルジオ・ボルドーニ(Sergio Bordoni)を首班とするソロマニ連合政府は、704年憲章違反となる帝国による「内政干渉」への抗議を正式に行い、領内に展開している帝国軍の全面撤収を求めました。それに対応してマーガレット2世は、同年292日を「選んで」ソロマニ自治区の廃止を命じ、領土の再統合のためにあらゆる手段を取ると宣言しました。ちなみにこの日はソロマニ人の暦で5461年3月15日にあたりますが、この「3月15日」というのはテラ星系が帝国に編入された日であり、奇しくもザキロフ皇帝とアンティアマ妃が結婚した日でもあるのです。
 当然ソロマニ連合は抵抗の姿勢を見せ、930年代後半から続く帝国海軍とソロマニ「私掠船」の小競り合いはさらに増加しました。マーガレット2世は準備が整っていないソロマニ連合との戦争も視野に入れていましたが、945年に彼女が病死したため中止され、後継者となった孫のスティリクス(Styryx)は軍事よりも外交を(そして何よりも趣味を)好んだので、戦争計画は先送りされました。970年代後半にスティリクス帝は(周囲に促されて)ソロマニ連合との全面衝突に備え始めましたが、スピンワード・マーチ宙域で第三次辺境戦争(979年~986年)が勃発したため(※ゾダーン軍は帝国の目がソロマニ方面に向いている隙を狙って攻勢をかけた、とも言えます)、帝国の注意と資源はそちらに振り向けられることとなりました。その間、ソロマニ側は将来的に戦争は不可避であると認識し、軍備拡張を続けていました。
 982年のソル領域大公オヴァール(Archduke Ovalle of Sol)による領域首都移転騒動(※自領が戦火に包まれる夢を見た大公が遷都を命じたものの、まもなくして大公が死去して中止となった一件)や、第三次辺境戦争の「敗戦」を受けた989年クーデター(スティリクス帝の退位)といった帝国の政治的混乱に乗じ、ソロマニ連合はソロマニ圏全てにおける完全なる自治、つまり事実上の独立要求を帝国に突きつけました。新皇帝ガヴィン(Gavin)を戴いた帝国はそれを宣戦布告と捉え、ソロマニ・リム戦争(ソロマニ側での呼称は「ソロマニ解放戦争(War of Solomani Liberty)」)は990年に正式に開戦されました。

 戦争の初期段階ではソロマニ軍にとても有利に戦況が進みました。帝国軍は質でソロマニ軍を上回ってはいましたが(※当時の帝国軍はTL14、ソロマニ軍はTL13で編成されていました)、境界線沿いに広く展開していたために密度が足らず、練度や士気の面でもソロマニ軍に劣っていました。ソロマニ軍はディアスポラ宙域やダイベイ宙域で過去半世紀に帝国に併合された世界だけでなく、ソロマニ圏外の世界をも占領していきました。
 しかし993年、オールド・エクスパンス宙域の旧領回復を目論んだ大規模侵攻が現地のヴィラニ人を中心とした強烈な抵抗に遭い、大損害を出して撃退されたあたりから戦線は膠着状態に陥りました。ソロマニ軍部は軍隊の再建のために領土拡張を狙った開戦当初の計画を断念し、オールド・エクスパンス宙域を捨てて戦線をまとめたかったのですが、(現地ソロマニ党政府からの要望で)連合政府の命令により資源や戦略的価値のない世界までも「広く薄く」守らされ、戦争の主導権を握り続けることができなくなりました。消耗戦で失われた人的資源を補う徴兵によって連合内の物流や生産にも悪影響が出始め、徐々に補給も滞っていきました。それでも連合市民は、情報操作が行われていたとはいえ、献身的に戦争を後方で支え続けていました。一方で帝国は持ち前の工業生産力でソロマニ軍を量的にも上回り始め、スピンワード方面の情勢が安定化したこともあり、998年には戦略的な優位を確保することができました。
 新任の帝国軍最高司令官アリエル・アデアー大提督(Grand Admiral Arielle Adair)は、かつてのヴィラニ帝国が犯した誤ちを繰り返す気はありませんでした。懲罰されただけの「地球人」は後にヴィラニ帝国を打倒しました。ならば、今度こそ「ソロマニ人」は帝国旗で押し潰されねばならないのです。帝国軍最高司令部は、ソロマニ主義の拠り所である首都テラを攻略すればソロマニ連合は崩壊する、との結論を出しました。

 それ以降帝国軍は、ソロマニ圏の中心部へ向けて2つの集中戦力が平行してひたすら前進し、そこから散開した分艦隊がソロマニ軍や星系を孤立化させて各個撃破していく戦略を展開しました。ソロマニ軍は帝国分艦隊への戦術的勝利を時折収めはしましたが(例えば1002年の「カグカサッガンの戦い」のように)、帝国軍全体の前進を押し留めることはできませんでした。地上部隊も死に物狂いで帝国軍に抵抗しましたが、不足した補給は愛国心では補えず、孤立した部隊が生き残る道は断たれました。
 1001年のヴェガン区域(エスペランス・ヴェガ両星域内でヴェガンが多く居住する星系群)の解放によって、帝国はリム宙域攻略に必要な橋頭堡と造船力、そして戦後の統治拠点を得ることができ、それはソロマニ軍に決死の賭けを強いることとなりました。少数の地球連合が多数のヴィラニ帝国を破った故事に倣い、ソロマニ軍は残る艦船を一つの「ソロマニ連合艦隊(Solomani Grand Fleet)」に集め、それをソロマニ海軍最高の名将イワン・ウルフ(Ivan Wolfe)に託しました。また地上戦力もキダシ(ソロマニ・リム宙域 0528)、ガシッダ(同 1127)、ディンジール(同 1222)といった重要星系のみに集め、最後の決戦に備えました。その結果、無防備となったソロマニ・リム宙域の多くの世界では降伏や非ソロマニ人による政権転覆が相次ぎ、他宙域と違って帝国軍との凄惨な地上戦が避けられて、皮肉にも帝国による戦後復興の大きな助けとなったのです。
 ヴェガン区域から進出してきた帝国海軍を叩くべく、イワン・ウルフ率いる連合艦隊はまず、ラガシュ→ヌスク→アジッダと先に進軍してきた帝国第17艦隊に対して「アジッダの戦い」で勝利すると、素早く転進して1002年初頭にはディンジールの帝国第1艦隊との戦いに挑みました。しかしウルフ大提督の誤算は、敗走した第17艦隊が予想よりも早く再編を済ませてディンジールに駆けつけたことでした。後背を突かれたソロマニ連合艦隊は壊滅し、ウルフの旗艦を含めた生き残りの艦船は牛飼座星団(カペラ・ジェミニ星域)まで逃げ延びるしかありませんでした。
 テラへの道は、帝国軍に対して開かれました。

 連合の最先端世界ゆえに帝国軍と同等の装備を整え、かつ膨大な防衛戦力を抱えるテラ攻略のために、ソロマニ艦隊の残党狩りを中断して大戦力が集められました(その結果、ウルフの麾下により多くの戦力が再結集することとなりました)。テラ防衛よりも艦隊再建を優先させたウルフの方針もあって、大した抵抗もなくテラ星系に到達して惑星上の軍事基地や衛星ルナを攻略した帝国軍は、帝国史上最大の三軍合同作戦を展開しました。数に優る帝国軍はまずソロマニ軍のモニター艦やバトル・ライダーの戦隊を殲滅しましたが、1700隻もの惑星防衛艦が帝国軍にテラ軌道上からの安全な降下点を確保させまいと一撃離脱戦法による抵抗を続けました。しかしソロマニ軍の奮闘も虚しく、帝国海軍は海兵隊を降下させるのに十分な制空権の確保に成功しました。
 1002年095日に海兵隊第4217、第4545、第6701連隊が地表に向けて降下し、テラ攻略戦(作戦名『放蕩息子(Prodigal Son)』)は開始されました。最初の作戦目的はテラの三大地上宇宙港の確保でした。105日にはオーストラリア大陸のラグランジュ宇宙港を第4217連隊が陥落させ、第4545連隊は連合精鋭の第101反重力化降下猟兵師団との2週間に及ぶ激しい戦いの末に北アメリカ大陸のフェニックス・メサ宇宙港を制圧し、倒壊しかけた管制塔に日輪旗を掲げました。アフリカ大陸のAECO宇宙港も同様に陥落しました。
 それに続いて多数の帝国軍兵士が地表に降下し、帝国海軍が惑星防衛艦を掃討したので軌道上から火力支援も受けられるようになりました。北アメリカ大陸に降り立った帝国軍は、大陸南西部を抜けて中央平野を横断し、工業化の進んだカリブ海や産業の中心である中南米の都市群に向かいました。
 テラの地表各地で戦闘が激しくなるにつれ、テラ攻略戦に参加した約200師団(傭兵も含めて推計200万人)の兵士は、約180師団のソロマニ正規軍やドルフィン部隊やイハテイ傭兵との交戦だけでなく、精鋭ソロマニ特殊部隊に支援された何千ものゲリラ部隊(大部分はテラの一般市民)による補給線寸断などの恒常的な妨害活動にも悩まされたため、戦闘の犠牲者は極めて多くなりました。最悪のものでは、AECO宇宙港からの補給線を断たれてスペイン戦線で孤立した5万人の第713反重力化歩兵軍団が、2日間の戦闘で生存者1000人足らずとなってしまった例も存在します。それでも大西洋を越えた反撃と軌道からの絶え間ない爆撃によって流れを変えた帝国軍は、ソロマニ陸軍第124反重力化機械化歩兵軍団を包囲殲滅してヨーロッパ・アフリカ方面での戦いを終えました。さらに、環太平洋地域のアーコロジー周辺で発生した反重力戦車戦は、集結したソロマニ軍の敗北に終わりました。
 戦闘の最後の数週間は厳しい掃討戦となりました。孤立しつつも生き残ったソロマニ正規部隊が帝国軍を釘付けにし、ゲリラたちが再起の日のために武器庫を隠匿していたからです。最終的に、ファラロン山(※サンフランシスコ沖に同名の「島」がありますが、地殻変動で「山」になったのかもしれません)に立て籠っていたソロマニ軍が降伏し、山頂に帝国旗が掲げられた1002年313日をもって組織化された戦闘は終了し、ついにテラは陥落しました。

 結果的に帝国はテラを占領はしましたが、さらにソロマニ領へ進出し、残るソロマニ軍(※再結集したウルフ艦隊に加えて、アスラン国境方面の第二線の艦隊もまだ残っているのです)を駆逐するだけの戦力や補給物資が失われたため、最高司令部はソロマニ軍との休戦を模索し始めました。ソロマニ軍側としても残存戦力を再編成する時間が必要だったため、それは渡りに船でした。これ以上無駄に人命が失われることを嫌ったウルフ大提督は、牛飼座星団などの穏健派を味方に付け、徹底抗戦とテラ奪還を主張して更迭をもちらつかせる政府強硬派をなんとか説得しました。何よりも経済面での疲弊が限界だったこともあり、双方は無期限休戦に同意しました。休戦条約は、ソロマニ連合艦隊司令イワン・ウルフ大提督と帝国軍最高司令官アリエル・アデアー大提督が実際に顔を合わせて、スメード・プラネット(ソロマニ・リム宙域 2433)にて調印されました。

 歴史学者たちは、ソロマニ主義やソロマニ連合を崩壊させる目的でのテラ侵攻には、戦力を浪費した割に得られたものが特になかった、と指摘しています。帝国はソロマニ主義が独裁政党に押し付けられたものと捉えていましたが、実際にはソロマニ人たちは「血の繋がり」で帝国に抗していました。もはやソロマニ主義は彼らの文化であり、生活様式でした。自分たちは帝国人ではなく、独立した民族と考えていたのです。聖地テラが失われてもソロマニ連合が崩壊しなかったのは、ソロマニ人にとっては必然のことでした。
 しかしながら、ソロマニ・リム戦争全体としては帝国の勝利と考えられています。新たな「国境」は帝国軍の進撃が停止したリムワード・ギャップ(※テラから見てリムワード方面に広がる星のまばらな地帯)沿いに引かれ、帝国はソロマニ圏の25%を再併合した上で新領土やソロマニ連合を監視する目的でヴェガン区域に「ヴェガ自治区」を1004年に設置しました。ソロマニ主義が色濃く残る星系では帝国軍が統治を担い、その後100年をかけて徐々に自治が回復されていきました。なお、リム方面艦隊大提督アリエル・アデアー男爵は戦時の功績によって1003年にソル領域大公に叙せられ、イワン・ウルフ大提督も1004年から1012年までソロマニ連合事務総長となって、両者とも戦後復興に努めました。


(※GDW版エイリアンモジュール6(とそれを原本としたマングース版)では、マーガレット2世によるソロマニ自治区廃止の勅令が出た日を「950年292日」と誤り、それを西暦換算して「5471年3月13日」としています。しかし945年に死去したマーガレット2世が950年に勅令を出せるわけもなく、誤差の10年の間に閏年が2回入るので、独自に「3月15日」と修正しました。このことから、帝国によるテラ併合は「帝国暦588年206日(西暦5109年3月15日)」、ザキロフ皇帝の結婚は「帝国暦679年229日(西暦5200年3月15日)」となるはずです。また、マングース版エイリアンモジュール5にてテラ陥落の日が「11月9日」となっていますが、これも帝国暦の「313日」をそのまま変換してしまったもので、おそらくは「3月22日」が正しいと思います)


【参考文献】
・Invasion: Earth (Game Designers' Workshop)
・Supplement 8: Library Data (A-M) (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #13,#18 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Ground Forces (Steve Jackson Games)
・Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)

宙域散歩(22) リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺

2013-03-27 | Traveller
 この地域はかつてのヴィラニ帝国の最辺境でした。第八次恒星間戦争後のエンスラル条約によって支配権が地球人の手に移ってからは、多数の地球人入植者が押し寄せ、現在ではこの星域の住民の大部分は混血か純血のソロマニ人となっています。
 暗黒時代のこの地域は、マジャール宙域方面からやって来る「略奪者たち(リーヴァーズ)」に脅かされていましたが、リム宙域の人々は小国家を建設して団結し、略奪者に対抗しました。その略奪者たちの脅威が去った後、ディンジール連盟やOEUの加盟世界がリム・メインを通して商業活動を活性化させて暗黒時代を抜け出し、やがてそれらの小国家は500年代後半には帝国に吸収されました。
 ソロマニ自治区時代においては、この地域のソロマニ主義への支持は強いものがありました。加えてアルバダウィ星域は、ソロマニ・リム戦争の際に資源を供出した上に、戦後は帝国による復興が後手に回ったり、重要星系が長く軍事支配下に留め置かれたために星域経済があまり回復しておらず、住民を今もソロマニ寄りにさせてしまっています。また国境が近いこともあり、海賊行為の多発も問題となっています(※ソロマニ連合領内に根城を置く海賊が帝国領内で無法を働いた後、国境を越えて逃げてしまうために手が出せないのです)。
 現在のアルバダウィ公爵はガイアのアレクサンドラ・ステファノス(Duchess Alexandra Stephanos)が務めています。現宙域公爵兼ディンジール公爵のロバート・オート=ボードゥアンの母親でもある彼女ですが、現在は高齢ゆえに体調を崩していて、退位も近いと思われています。彼女の後継者には、政治思想が近い息子のイワンが予想されていますが、彼は今帝国海軍のコリドー艦隊に勤めています。また公爵府廷臣の間からは、シャルーシッド子会社の有能な経営者である、娘のイレーナを推す声も挙がっています。


イラシュダア Irashdaa 0524 A689869-F S 高技・富裕 G Im 軍政
 イラシュダアは大部分が海で覆われた、過ごしやすい世界です。人々は世界の三大諸島に建設されたアーコロジーに住んでいます。また海中にはドルフィンの小さな集落もあります。
 かつてこの星に住んでいたヴィラニ系住民は、地球人の支配下に置かれて以後も、血が交わることはほとんどありませんでした。しかしヴィラニ文化はほぼ失われてしまい、今では銀河公用語の地元方言に大量のヴィラニ語由来の単語を残すのみとなっています。
 この星はソロマニ主義を熱烈に支持していましたが、警察国家的な地元政府の残虐行為や人種間暴力によって、960年頃から社会混乱は増していきました。帝国の軍事支配も1世紀続きましたが、現在ではだいぶ落ち着きを取り戻しており、10年以内には民政復帰がなされることでしょう。
 現地の人々は非常にのんびりとしています。3~4時間の労働の後に、3時間ほどゆっくりと時間をかけて食事休憩を取ってから、また3~4時間ほど働く、というのはここでは当然のことです。また星系人口の約3割は「有閑階級」で、彼らに対しては星系政府が中流の生活を営むのに十分な最低所得を保証しているので、野心のない人々は働かずに収入を得ています。大抵の世界ではこういった気前の良い福祉制度は失敗しますが、イラシュダアの豊富な資源とハイテク経済は、彼らを支えるのに十分です。しかもこの制度によって、イラシュダア社会はストレス性の病気とは無縁であり、芸術家も多く誕生しています。星系外各地の裕福な人々がイラシュダア美術を鑑賞するなどのためにこの星を訪れることもあって、観光業も急成長しています。
 そしてイラシュダアは、アルバダウィ星域におけるオーセンティック運動の中心地です。ヴィラニ系のオーセンティスト住民は、自分たちの先祖の文化を調査し、古代の習俗を復活させています。

キダシ Kidashi 0528 A457A69-E N 高技・高人 A G Im 軍政
 キダシは巨大ガス惑星ウムガルシャアムの最も大きな衛星です。キダシはウムガルシャアムの引力によって自転を固定されていますが、ガスジャイアントは赤色矮星の主星の近くを周回しているため、キダシの地表に熱を供給するには十分です。そのためキダシは薄い大気とかなりの海を持っています。しかし、大部分の水は恒久的な積氷となって地表を覆っています。
 -3700年頃にキマシャルグル(反体制派ヴィラニ人)によって入植されたキダシでしたが、寒冷だったためにヴィラニ人口はあまり多くはありませんでした。第八次恒星間戦争後に地球人の入植が始まり、-2200年までにはヴィラニ系住民は完全に吸収されました。それ以来キダシはソロマニ人世界でした。
 暗黒時代になるとキダシはTL7に後退し、星系経済も縮小の一途を辿りました。孤立したこの間に、新しい習俗、政治制度、宗教的な信条が確立されていきました。特に入植者たちの起源であるテラについては史実よりも美化された「神話」が作られたので、OEUの貿易商人が250年頃にやって来た時、住民は宗教的な熱情で歓迎したほどです。このようなキダシがソロマニ主義を熱狂的に支持しないわけがありませんでした。
 キダシ星系はソロマニ政権時代に大きく開発されました。小惑星帯では採掘活動が行われ、先端技術産業が惑星キダシで花開き、人口は急増しました。900年頃のキダシには、星域で最も大きな(連合全体でも指折りの)造船所がありました。さらにソロマニ連合海軍の兵站機能も併せ持っていたため、ソロマニ・リム戦争では帝国軍の攻略目標の一つとなりました。
 1001年後半に行われたキダシ侵攻作戦は大規模なものとなり、両軍で50万人の兵士と800万人の民間人が爆撃と市街戦によって死亡しました。さらに1002年前半に反乱鎮圧のために核兵器が用いられ、加えて200万人が犠牲となりました。帝国軍は目前に迫ったテラ侵攻のための貴重な教訓を学びましたが、その代償として帝国に対する反感は今も強いままです。
 キダシは今も帝国の軍事支配下に置かれています。駐留軍は100万人以上の帝国陸軍兵士に加えて海軍や傭兵などから成り、修復された広大な造船所は宙域最大級の帝国海軍基地の一部となっています。住民からの断続的な抵抗に直面しているため、軍による法執行は特に厳しいものがあります。ソロマニ党は非合法ですが、ソロマニ自由軍や黒不死鳥団(Black Phoenix)が関与するテロ行為は時折発生し、民衆の非暴力的な抵抗(ストライキ、デモ行進、帝国への非協力)はほぼ日常的です。宇宙港周辺や大都市ではテロリストの掃討が進んだために治安は安定してきていますが、首都ニューコバチ市でさえ帝国軍兵士がバトルドレスを装着し、反重力化装甲車両で危険に備えています。
 一方でキダシは、国境を越える通商路上の主要な星系の一つでもあります。軍政下の世界のため海軍が税関や交通管制を取り仕切っていますが、どちらの方に向かう不定期貨物船にも、スパイ、亡命者、武器などが隠されているのが常であり、言うまでもなくこれらはこの星の緊張緩和には何の役にも立っていません。
(※コバチことアールパード・コバチ(Arpad Kovacs)は、第N次恒星間戦争期に地球艦隊を率い、第一帝国の降伏(-2219年)に立ち会った提督です)

ヨーク York 0624 C8A2263-F 高技・低人・非工・非水 G Im イラシュダアが領有
 ここには、偵察局とイラシュダア大学が共同で管理している科学研究拠点が置かれています。

ウェイプー Weipu 0719 X543000-0 貧困・未開 R G Im
 ウェイプーは薄い大気、点在する湖と小さな海、広大な樹林から成る、涼しくて綺麗な惑星です。しかしこの星は植民地化や遠隔操作ロボットによる開発、それどころか惑星探査すらもされていません。ウェイプーは鉱物を多く含んだ温泉で進化した、金属を食べるバクテリアによって支配されているからです。厄介なことに、このバクテリアは生態系の根本を担っているため、これを滅ぼすことは土着の生命を一掃することと等しいのです。
 第二帝国時代、この星の植民地化を考えていたホアツィン(0617)から派遣された探検隊は、探査装置が有機物の影響で腐食しているのを見つけました。植民計画は断念され、世界は危険地帯と宣言されました。しかし暗黒時代の間、警告用の人工衛星は交換されることなく、故障していきました。
 その後、事情を知らない海賊団がここに基地を建設しようとしましたが、持ち込んだ機材が不可解に故障していったことから、慌てて近隣のシュトラールズント(0618)に逃げ込みました。そこで判明したのは、ウェイプーのバクテリアは人類の腸内でも生きることができる、という事実です。「感染者」は鉄、銅、亜鉛の欠乏で次々と死んでいったので、結局、隔離したステーションを真空にして、流行を根絶するしかありませんでした。それ以来ずっとウェイプーは進入禁止星系となっていて、海軍による定期的なパトロールが実施されています。
 かつてソロマニ連合の遺伝子省はバクテリアの兵器利用を検討し、820年に厳重な防護措置を備えた研究所を建設しました。しかしこの研究は後にソルセックによって中断させられ、施設は破壊されました。今もSuSAGとスターンメタル・ホライズンが研究所の「再建」を二代に渡ってアルデラミン公爵に陳情し続けていますが、周辺世界の圧力団体はバクテリアが近隣世界に広まるかもしれないという恐れから、これに反対しています。

ガイア Gaea 0722 A986986-E 高技・高人・肥沃 G Im 星域首都
 かつてアピシャルンと呼ばれていたこの世界は、独特な生態系を持っています。それは個々の種ではなく、生物圏全てがです。
 -3700年頃に入植したキマシャルグル派のヴィラニ人は、この新世界が異常に「友好的」であることに気づきました。土着の動物は容易に飼い慣らすことができ、植物は早く育つ上にどれも食用に適していました。外世界から持ち込まれた動植物は簡単に生き残り、この星の生態系に問題なく溶け込みました。さらには、鉱業や工業による汚染や生息地破壊に対してすら適応したのです。生物学が発達していなかったヴィラニ人には、アピシャルンのこの現象を説明するのは困難でした。
 地球人による征服の後、現地の生態系が他の地球型惑星よりも複雑であることを科学者は発見しました。ある意味この星は一つの巨大な生物とも言える存在であり、初期の地球人入植者は「大地の心」の存在を認めて、この星にガイアと名づけました。数千年に渡る人類の居住にもかかわらず、今も生態系は多彩で活発なままです。
 アピシャルンは第一帝国辺境で非常に人口密度の高い世界でした。やがて地球人移民がやって来ましたが、周辺星系とは異なり、ガイアではソロマニ人が多数派とはなりませんでした。その結果、銀河公用語の現地方言は古代ヴィラニ語に強く影響されており、多くの地元習俗は起源を第一帝国時代までさかのぼることができます。また地元のヴィラニ文化はガイアの生態系に対する宗教めいた敬意を含んでいます。
 ソロマニ自治区成立後には「急進的な」非人種差別政策を掲げる穏健派ソロマニ党政府が設立されましたが、913年にソルセックが支援するクーデターによって純血主義派政府に入れ替えられました。新政府によってソロマニ主義が押し付けられ、ヴィラニ文化の抑圧や、混血人種の選挙権剥奪などに無駄な労力が割かれました。
 ガイアには連合遺伝子省の研究所も建設され、主にガイアの生態系の研究をしていました。950年頃、カーラ・ボクスマン博士(Doctor Karla Vauxman)は研究所内でガイアの高等動物の遺伝子を抽出して遺伝子組み換え人間を作る研究を行っていましたが、実は創り出した混合種を政治犯のヴィラニ人女性に出産させていたのです。博士の行為はソロマニ主義の基準でも非倫理的であり、結局ソルセックによって中止させられ、研究データと混合種そのものは全て破棄されました…が、何体かは生き残ったと噂されています。
 リム戦争末期、星域に侵攻してきた帝国軍に呼応して、ステファノス率いる人民戦線が(帝国軍の支援を受けて)純血主義派ソロマニ党政府を打倒しました。1001年に星域が「解放」されると、ガイアはその忠義に報いて星域首都に指定され、その後速やかに民政に移行しました。
 ガイアはおそらく、星域内の経済問題に関係なく、アルバダウィ星域で最も親帝国的な世界でしょう。小規模のソロマニ主義運動はあることはありますが、ほとんどの住民の支持を得ていません。しかしキダシ(0528)のソロマニ過激派は、ガイアの「利敵政権」に抗議するために時折この地でテロ攻撃を仕掛けています。

トノパー Tonopah 0723 A866ADB-D 高技・高人・肥沃 G Im
 ヴィラニ帝国時代にはシカシュという名の重要世界だったこの星には、第八次恒星間戦争の後にテラの北アメリカ地方から様々な集団が入植しました。その中には、世俗化が進んだテラに見切りをつけてやって来たモルモンという大きな宗教集団がありました。
 暗黒時代になるとトノパーは恒星間交易を失い、略奪者たち(リーヴァーズ)の襲撃を受けるようになり、文明は衰退しました。しかし、モルモンの教えは勤勉と連帯と「賢明な生活」を力説していたので、トノパーは周辺の他星系よりも早く再建していきました。
 -1100年頃にトノパーがディンジール連盟に加盟した際、教会組織はそのまま星系政府になりました。多くの住民は無宗教もしくは無神論者でしたが、誰も社会を導く存在にはなれませんでした。
 その頃、トノパーにはアスランのイハテイが入植しました。発展途上の教会政府は荒野地域の開拓と惑星防衛のために人的資源を欲していて、アスランは土地と引き換えにそれらの仕事に従事することで「良き隣人」となったのです。
 やがてトノパーはディンジール連盟と共に帝国に加盟しました。星域にソロマニ主義運動が広まった際には、教会はあらゆる知的種族の入信を認めていたこと、そしてアスランとの長年の共存関係から、ソロマニ主義には否定的でした。一方でソロマニ主義はトノパーの無宗派層に浸透し、トノパー社会は分断されるかに見えました。しかし780年に起きたソロマニ過激派による一連のテロ事件によって、ソロマニ主義の評判は地に落ちました。教会政府はソロマニ自治区に対し、ソロマニ主義への「支持」と引き換えにこの星の全ての住民の権利を保証することを認めさせ、その結果ソロマニ主義者はトノパーで居場所を失いました。それ以来トノパーはソロマニ連合の静かだが忠実な構成員となりました。
 現在のトノパーは帝国傘下に戻り、占領軍は撤収し、教会政府が再び自治をしています。ソロマニ主義運動は平和的に行われており、穏健派ソロマニ党は議会や教会指導部の中で少数派を形成しています。
 しかし現在では人類とアスランの間に摩擦が生じています。アスランはソロマニ政権時代に小さいながらも抑圧を受け、その経験が彼らに惑星統治へのより大きな発言権を求めさせています。一方教会は下層階級のアスランたちの改宗を試み始めていて、これらのことがアスランの誇りを傷つけ、異種族間の諍いの増加に繋がっています。
(※なおトノパーはアカミン(0721 B662765-D)を領有しています)

アルサティア Alsatia 0924 E53216D-F 高技・低人・非工・貧困 Im セバスタが領有
 アルサティアの前哨基地はセバスタ政府によって維持されています。この前哨基地は、セバスタの独裁者の面子を立てること以外には特に役立っていませんでした。現在、セバスタの贖罪省(Ministry of Penance)は、流刑植民地として前哨基地を拡張することを検討しています。

フォーマルハウト Fomalhaut 1024 B8C8469-F 高技・非工・非水 A G Im 軍政
 フォーマルハウトはテラから見える明るい星です。まだ惑星系は若く、形成期にあるので、主要惑星フォーマルハウト・プライムはかなり危険です。窒素と窒素化合物の混合大気は呼吸不可で、海は弱硝酸溶液から成ります。そして地表は常に流星の爆撃を受けています。
 ソロマニ政権時代のフォーマルハウト・プライムは、刑務所惑星でした。ここに流された囚人の大部分は、ソロマニ主義に反対意見を述べたか、ソルセックに歯向かったソロマニ人の政治犯でした。彼らは最低限の装備での自活を強いられましたが、何とか機能する社会を建設し、自給自足経済すら発達させていました。
 リム戦争の後、帝国軍はフォーマルハウト・プライムを占拠し、囚人を開放しました。元囚人はソロマニ主義を拒絶していましたが、かといって帝国に対する愛着もありませんでした。加えて残念なことに、当時の帝国駐留軍の指揮官は鈍感で独裁的な男でした。住民との間には溝が深まり、帝国支配に対する数十年間に及ぶ抵抗が始まりました。
 現在もフォーマルハウト・プライムは帝国の軍事支配下にありますが、帝国の使節団は住民の敵対心を和らげる事業に取り組んでいます。TL15産業の確立と宇宙港の拡張によって地元経済は好景気となり、事業への追い風が吹いています。とはいえ住民の反帝国感情と惑星の危険な環境を考慮して、フォーマルハウト・プライムにはアンバー・トラベルゾーン指定がなされています。
(※1109年にこの星系でとある発見がなされるのですが、その顛末については『Rim of Fire』を参照してください)

スイシュレシュ Hsuishlesh 1120 A644986-F N 工業・高技・高人・肥沃 G Ve
 この星への本格的な入植は比較的遅く、第九次恒星間戦争の後からでした。-2275年に結ばれた地球人とヴェガンの同盟条約により、スイシュレシュはヴェガン領に属することになり、この合意は「人類の支配」と暗黒時代を通して守られました。ヴェガンの入植は-2270年から集中的に行われた一方で、人類の入植はソロマニ政権時代までありませんでした。
 スイシュレシュは特に居住に適した惑星ではありません。原生の光合成植物は乏しく、大気は薄いだけでなく、酸素もほとんどありません。惑星を訪れる人は、常にフィルタ付きの酸素吸入器を着用しなくてはなりません。ヴェガンにとっては快適な寒冷気候のこの星の大部分の水分は凍結していて、一年中液体の水が得られるのは赤道周辺だけです。住民はその赤道地帯に集まる傾向があり、ドーム都市か地下都市に居住しています。スイシュレシュは特に重要な天然資源を持っていませんが、小惑星採掘などで地場産業に供給する程度には十分な量があります。
 スイシュレシュの重要性は、その場所です。リム・メイン上にあるこの星系は、リム方面とヴェガ自治区方面を低ジャンプで行き来する宇宙船にとって、主な中継点です。スイシュレシュの宇宙港は宙域で最も忙しいほどではありませんが、様々な種類の商船や貨物船を常に見ることができます。
 他のヴェガン世界と同様に、スイシュレシュもソロマニ政権下で抑圧を受けました。しかし世界そのものが人類にはそれほど魅力的ではなかったため、多くのソロマニ人入植者はリム戦争の後この星を去りました。現在の人類人口は約5%ほどで、親帝国的です。ソロマニ党はここに小組織を置いてはいますが、ほぼ無力な存在です。
 スイシュレシュは新たな哲学の故郷でもあります。1080年頃にシャナ・ハイリャン(Shana Hailiang)という名の人類女性が提唱した「タオ=グウィ(Tao-Gwi)」は、ヴェガン社会の徳義を元としています。彼女が唱えた教義は、ヴェガンのトゥフールと同様に、人類も自らの「道(タオ)」を放浪の旅で見つけることを訴えています。ハイリャンの支持者はヴェガンの言語を学び、人類の言語では表現しきれないヴェガン哲学を会得しています。
 ハイリャンは70歳を越えていますが、精力的にリム宙域の帝国領内を旅して、教えを広めて回っています。タオ=グウィは今はスイシュレシュの中に限られていますが、ヴェガ自治区やその周辺の人類の興味を惹き始めています。

ガシッダ Gashidda 1126 A36A969-E N 海洋・高技・高人 A G Im 軍政
 ガシッダは小型の割に濃い大気を持つ世界です。寒冷気候により海洋の多くは凍っていますが、赤道地方にのみ年中凍らない海が存在します。そしてガシッダには、人類の食用に適した多くの海洋生物(特に大ウナギに似たギキの卵は星域各地で珍重されています)を含む、豊かな生態系があります。ガシッダの都市は点在する島々の上と海中に、赤道で輪になるようにたくさん建設されています。ガシッダの大きな宇宙港は島嶼部の首都ニュー・モンドゥルキリ市にあり、星域最大の帝国海軍基地とLSP社の造船所が併設されています。
 -3500年頃にキマシャルグルによって最初に植民されたガシッダは、第一帝国がディンジールを手に入れた後に帝国統治の中心地となり、-3300年頃から星域首都となりました。第八次恒星間戦争の後、地球連合に割譲されたガシッダには大量の地球人移民が押し寄せました。様々な民族から構成された移民団の多くは、インドや東南アジア系の人々でした。やがて星域内の他星系と同様に、ヴィラニ文化は徐々に失われてソロマニ化が進んでいきました。
 ガシッダは地球人による征服の後、以前のような重要性を失いました。ガシッダの衛星に古くからあるヴィラニ海軍基地ですら、「人類の支配」の間に放棄されました。暗黒時代の間は自給自足で耐え抜き、ディンジール連盟には準加盟星系として参加しましたが、停滞したガシッダ社会は恒星間社会にあまり関わりませんでした。
 この状況は、ソロマニ主義の出現によって一変しました。一般大衆に人気の出たソロマニ主義は、急増する愛郷心と結びつきました。やがて伝統的な支配階級を選挙によってソロマニ党が追い落とし、新政府は多くの社会改革と工業化を実施して、低迷した星系経済を活性化させました。新しい造船所が建設され、ガシッダは軍民両方の艦船の一流の製造元となりました。ソロマニ連合が結成された頃にはガシッダは活力にあふれた世界となり、有力な指導者を何人も輩出して、新国家を導く星系の一つとなりました。ガシッダはソロマニ・リム戦争の間も愛国心で連合を支え、降伏を拒否して長期の爆撃と包囲戦の末に帝国に占領されました。
 現在、戦争の傷跡は癒えたかに見えますが、帝国統治への敵対心は強いままで、暴力事件は日常のものです。1030年までに帝国陸軍はゲリラの掃討を終えましたが、今も16万人の帝国陸軍所属の水軍部隊が撤退期限を設けずに駐留しています。ソロマニ党は非合法ですが、住民の多くは党への支持を続けています。それに取って代わる親帝国の政治団体を創る試みは、失敗に終わりました。
 さらに、多くの住民が信仰するいくつかの(似非も含む)宗教団体は、テラに対する神秘的な畏敬とソロマニ人の優越性を結びつけ、狂信的な集団暴行と組織化されたテロリズムに走っています。帝国による鎮圧の試みは、殉教者を増やしただけでした。
 近年、ガシッダ社会は「ソーマ」という強力な麻薬によって蝕まれています。ソーマの使用者は主に宗教的な恍惚感を激しく体験しますが、大量に使用すると、肉体は短時間狂ったように筋力を得、痛みを感じなくなり、やがて死に至ります。帝国当局はこの麻薬の製造元を追い、流通網を破壊することに苦戦しています。その間にも中毒問題の広がりと、突発的な暴力事件が引き起こされています。(自決を前提とした)暗殺者の血液中にソーマの痕跡があることから、反帝国宗教団体が儀式で薬物を用いている疑惑も持たれています。
 ガシッダの宙港街と主な海中都市における組織犯罪は、明らかにソルセックの旧諜報網と結び付いているソロマニ主義集団の影響下にあります。彼らは違法薬物をばら撒き、貨物潜水艇を乗っ取り、総会屋となって「金融抵抗活動」という名の企業恐喝を行い、資金洗浄もしばしば行っています。
 帝国軍は定期的に主要都市に巣食うテロ集団や犯罪組織を急襲していますが、数々の社会不安とテロ攻撃の危険性から、ガシッダはアンバーゾーンに指定されています。

ディンジール Dingir 1222 AA89A98-F NW 高技・高人 G Im 星域首都
 ディンジールは宙域史で最も重要な世界です。ここはキマシャルグル派ヴィラニ人によって-3500年頃に入植されて彼らの都となり、第一帝国に吸収された後の-2382年、地球人の挑戦に即応するためにクシュッギ属州の州都が遷されました。第八次恒星間戦争の後には地球連合の艦隊総司令部が置かれ、「人類の支配」建国直後の極短い間は首都でした。暗黒時代にはディンジール連盟の中核を担い、その後帝国とソロマニ連合が星域首都とし、ソロマニ・リム戦争を経て宙域首都となりました。
 ディンジールの特徴の一つは、その圧倒的な大きさです。直径16000kmを越える大きさゆえに、海洋比率は高くても総陸地面積はテラと同等なのです。さらにそれぞれの大陸は小さく分散しているので暖流が極地まで到達し、氷冠がありません。ディンジールの小さな大陸と広範囲に広がる諸島群はほぼ全て温暖湿潤気候で、農業や居住に適しています。ただし持ち込まれたテラ原産の動植物によって、土着の生物は取って代わられました。
 ヴィラニ帝国領としての長い歴史がディンジールにはありますが、現在の住民はほぼ全てが混血、もしくは純血のソロマニ人です。まだ親ソロマニ感情は存在しますが、ここ数十年の間に帝国情報部はソロマニ党の支持基盤を根こそぎ破壊しました。生き残ったソロマニ党組織は穏健的で、政府の非効率性や腐敗を糾弾する程度なので、帝国は黙認しています。また、この星には地球連合海軍総司令部があったことから、長きに渡る軍事的な伝統文化があり、(特に海軍の)軍人は住民から非常に尊敬されています。
 ディンジール政府は公式には様々な「国家」から成る連邦制で、多くの国は暗黒時代初期の民族分布図を引き継いでいます。これらの国家(という名の地方行政区)は地方自治権を保持していますが、星系統治は-1200年頃に設立された超国家的理事会である「人民連盟(League of Peoples)」が担っています。古代テラの国際連合のように国家間の軍事衝突を避けるために創られた人民連盟は、網の目のような条約を駆使して徐々に各国家の政治機能を掌握していきました。現在では地方ごとに文化や法律の多様性はありますが、人権問題、通商、防衛、外交は人民連盟の管轄です。
 ディンジールはXボートや主要通商路の結節点にあたり、偵察局基地(※惑星ディンジールの衛星サルムウにあり、帝国情報部の宙域本部も併設されています)や海軍基地もあるため、かなりの経済収益を得ています。繁栄は、過激なソロマニ主義運動を弱体化させることに大いに役立ちました。忙しく稼働している3基の巨大な軌道宇宙港は、元々の軌道宇宙港がソロマニ・リム戦争で全て破壊されたため(※犠牲者も多数出ました)、全て前世紀に再建設されたものです。
 ディンジールは高重力世界なので、1G加速程度の宇宙船の離着陸に支障が出ることがありますし、地元住民以外には住み心地が良くないため、メガコーポレーションの事業所の多くは軌道宇宙港に置かれています。高重力は観光客への訴求力の面でもマイナスに働きがちですが、多くの都市で4000年以上前の古代ヴィラニ建築様式や古いソロマニ建築様式の記念碑的な建造物を見ることができ、宙域内で最も素晴らしい博物館や美術館の数々があります。中でも「恒星間戦争記念館」は、第二帝国時代の戦艦の外殻の上半分を広大なドームとして地面に埋め込んだ作りになっています。他にも空を覆うようなブリカの空中都市(grav-city of Blyka)など、環境順応の手間も苦にならないほど魅力的な観光地の数々は、特にオーセンティストの観光客を惹きつけています。


【ライブラリ・データ】
ホアツィン Hoatzin 0617 A967986-E 高技・高人・肥沃 G Im
 不思議なことに、ホアツィン星系には金属成分が欠けています。鉄すら不足しており、ここでは貴金属とみなされます。現地通貨は金属硬貨を用いず、ステンレス鋼やチタン合金の「宝石」は、現地の富裕層の間ではおしゃれと考えられています。金属を星系外から大量に輸入できるようになった今では、ホアツィンの関税法は完全に時代遅れとなっているのですが、住民は伝統を守り続けています。
 低い金属含有量によって惑星学的にホアツィンは変わった挙動を引き起こすのですが、居住自体にはあまり問題がありません。惑星の一部地域は地質学的に不安定で、頻繁な地震と火山噴火に苦しめられます。しかし多くの土地があるこの星では、危険地域を避けて都市を建設することができました。
 ホアツィンには-4000年頃からヴィラニ人の入植が始まりましたが、惑星の極端な金属不足は大規模入植を阻みました。地球人の入植が始まったのは第九次恒星間戦争の後で、その多くは南アメリカ系の人々でした。
 入植地は暗黒時代に工業用重金属の輸入が止まり、大きな打撃を受けましたが、ホアツィンの人々は、石、堅木、陶器などの代用物でどうにか間に合わせました。
 300年頃、イースター協定の探査船がホアツィンと再接触しました。そこで彼らは、民主的かつ開放的で、重工業に頼らず、素晴らしい手仕事をする、繁栄したTL7社会を目撃しました。それから数世紀の間、ホアツィンは贅沢品(動物の毛皮、珍しい木材、小美術品など)を輸出していました。発展は遅いものでしたが、社会は安定していました。
 ソロマニ政権時代のホアツィンにはソロマニ主義が押し付けられた一方で、近隣星系のアルクル(0518)とフリオーソ(0717)を取得し、ホアツィンで新たな産業を開発するために鉱山植民地を建設しました。さらにシュトラールズント(0618)と緊密な関係を結び、産業用素材を手に入れました。ホアツィンの人々はソロマニの支配者に苛立っていましたが、この間に高度経済成長を成し遂げました。ソロマニ・リム戦争後は帝国に忠実な世界となり、工業化路線を継続しました。
 現在のホアツィンは非常に対照的です。「旧市街」に属する大部分の都市や街は暗黒時代の古い生活様式を守っています。建物は低く造られ、都市は田園地方の広範囲に無計画に広がっています。ビジネスや政治、社会生活の全てはゆっくりとした速度で行われます。建築物や車両などあらゆる物は実用性と美術性の両方を重視して設計され、代わりの利かない所のみで金属が用いられます。
 一方、「新市街」は工業化されていて、発展こそしていますがごみごみとした場所です。利益を重んじ、「貴金属」は使い捨てにされています。多くのホアツィンの人々は新市街には住みたくないと思っていて、新市街で働く場合でも長距離通勤を選びます。産業の中心地である新市街には移民が多く、旧市街の住民が嫌うソロマニ主義の温床ともなっていて、両者間の緊張はリム戦争後からずっと問題になっていました。また多くのソロマニ人実業家はリム戦争の後もここに残留し、何割かは帝国に馴染もうとはしませんでした。過激な抵抗活動の支援こそしていませんが、より巧妙に反帝国活動に関与している疑いがあります。

シュトラールズント Stralsund 0618 B0007BE-E 高技・小惑・非農 Im
 シュトラールズントは明るく輝くA型準巨星アルデラミン(ケフェウス座α星)の軌道上にある小惑星帯です。巨星星系によくあるように、アルデラミンは惑星を持っていませんが、小惑星帯は商業的価値の高い鉱物資源を豊かに含んでいます。
 独裁者トルーマン・チャン(Truman Chang)による厳格な支配体制は、ソルセック由来の「技術」を持つ治安部隊や傭兵によって支えられています。またLSP社との間に採掘と鉱石精製に関する独占契約を結んでいるため、外世界の宇宙鉱夫は受け入れられておらず、星系政府所有の惑星防衛艦がLSPの管理下にない探査船を追い払っています。

フリオーソ Furioso 0717 A9C5761-D 高技・非水 G Im ホアツィンが領有
 フリオーソは工業で用いられる重金属が豊かな、極寒の世界です。ここは近隣のホアツィン星系(0617)の一地方として統治されていて、住民はホアツィン共和政府の正式な市民として認められています。産業は鉱業と製造業に特化して営まれています。
 水素とメタン、アンモニアから成る大気と、硫酸で出来た海を持つこの星には、変わった生命が存在します。アイス・クロウラー(Ice Crawler)は、テラの芋虫のような体型をした全長3メートル、5対の脚を持つ生命体です。そして11本目の「脚」は体の後方に伸びています。多数の指は、氷の表面で滑らないためのものです。そして前方の4本の脚で岩を砕き、胴体の先端部にある口(頭にあたる部分はありません)に放り込みます。アイス・クロウラーは水素やメタンを呼吸し、炭素や珪素を食べる生き物ですが、体内で岩から珪素を取り出す際に「有毒な」酸素が発生します。彼らは酸素を特別な器官に溜め込み、大気中の水素と化合して、身の危険を感じた時に前脚の開口部から噴射します。この可燃性ジェットは防護服に損傷を与えるほどの威力です。
 この武器は、天敵のアイス・スパイダー(Ice Spider)から身を守るために進化したものと考えられています。アイス・スパイダーは全長1メートルほどの捕食性の肉食動物です。彼らは群れで狩りを行い、その知性はイルカやチンパンジーと同等の、知的生命手前の段階と異星生物学者は考えています。
 なおこれらの生物は人間(や彼らの行先を邪魔するもの)も捕食するため、非常に危険です。その攻撃性とフリオーソの猛毒大気によって長期間の調査活動が難しいため、まだ彼らの生態はよくわかっていません。

マヌエル・アルバダウィ Manuel Albadawi
 -2339年生、-2267年没。出身はテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)。
 第八次~第九次恒星間戦争で地球連合軍を率いて大勝利を収めたアルバダウィ提督は、ソロマニ連合の「アルバダウィ海軍兵学校(Albadawi Naval Academy)」や帝国領のアルバダウィ星域にその名を遺しているように、ソロマニ主義者だけでなく一般的なソロマニ人の間でも英雄として語り継がれています。中でも彼が青年期と晩年を過ごしたイイリク(ソロマニ・リム宙域 1429)ではより熱烈的です。多くの歴史家(特にソロマニ連合の)は、アルバダウィ提督を恒星間戦争時代で最も偉大な指揮官と考えています。

オート=ボードゥアン家 haut-Beaudoin family
 帝国貴族としてのオート=ボードゥアン家は、582年にディンジール連盟が帝国に加盟した際にセバスタ(ソロマニ・リム宙域 0923)の伯爵として登用されたのが起源です。同家はソロマニ政権下でも帝国への忠誠を保ち続け、ソロマニ・リム戦争では危険を冒して帝国海軍に馳せ参じました。当のセバスタ伯(現当主ロバート公の祖父)は戦死してしまいましたが、これまでの忠義への恩賞として相続人にディンジール公爵の地位が与えられました。
 現在のオート=ボードゥアン家は、ソロマニ・リム宙域公爵家でもあります。オート=ボードゥアン公爵家の継承者は代々帝国海軍での軍歴を積んでおり、現公爵の後継者であるエリカ(Erika haut-Beaudoin, Erika Chandos Beaudoin)も現在ディアスポラ宙域海軍に勤めています。彼女は(帝国貴族には珍しく)海軍情報部でソロマニ情勢研究員の経歴を持ち、ソル大公府と海軍の橋渡し役にもなっています。

キマシャルグル Kimashargur
 第一帝国は領土の拡張や科学技術の発展を抑制することで、国家の安定を図りました。しかしその方針に不満を募らせていた一部のヴィラニ人は、辺境に自分たちの理想を求めました。このキマシャルグル(ヴィラニ語で「第一の徳(Virtue of the Foremost)」)運動は-3700年頃に興り、-3500年頃にはディンジール(ソロマニ・リム宙域 1222)を中心として現在のアルバダウィ星域からソル星域にかけて「小帝国」を築いています。100年後にはそれは第一帝国に併合されましたが、開明的なキマシャルグル派ヴィラニ人の存在は、後の地球人との戦いに少なからず影響を与えました。

エンスラル条約 Treaty of Ensulur
 第八次恒星間戦争の休戦条約を、締結された星の名前を取ってエンスラル条約と呼びます(ただし現在ではその星はオウデュ(ソロマニ・リム宙域 0921)と改称されています)。この条約によってディンジール星域を含む第一帝国の辺境領を得た地球連合は、帝国中央への足掛かりを得たのです。
(※「エンスラル」の綴りは、『Imperium』では「Ensular」、『Supplement 10』では「Enulsur」、GURPS版では「Ensulur」と変遷しています。今回は綴りはGURPS版を採用し、読みをインペリウム版に近づけました)

ヴァンサラの真理 Vanthara Truth
 ソロマニ政権以前のガシッダ(ソロマニ・リム宙域 1126)で、救世主のごとくソロマニ主義を説いた哲学者ヴァンサラ・ノイ(Vanthara Noy)の名を冠した「ヴァンサラの真理」は、ソロマニ主義の精神的会得と人類の故郷であるテラ(同 1827)の崇拝を教義としている、ガシッダの反帝国宗教団体です。
 1090年に、帝国はテンジン導師(Master Tenzin)の逮捕に踏み切りましたが、マカラ海中アーコロジーで暴動が発生し、ソロマニ闘士が大学、核融合炉、潜水艇ドックを占拠する事態になりました。帝国陸軍による「シードラゴン作戦」は市民の犠牲を最小限にして都市を奪回し、海中特殊作戦の模範的好例となりましたが、テンジンの死によって更に流血の暴動が発生しました。


【ボードゥアン家とステファノス家の関係をめぐる私的考察】
 冒頭で記した通り、宙域公爵のロバート公は両親が共に星域公爵という珍しい(かどうかは不明ですが)血縁関係にある…と断定しました。根拠をまとめると、

  • 1120年当時のアルバダウィ星域公爵はイレーナ・ステファノスという女性。彼女はガイアの反ソロマニ活動の指導者であったステファノス家の血筋と、ソロマニ政権以前のアルバダウィ公爵家(※735年に唯一の後継者がソロマニ運動に身を投じたために貴族としては断絶)の血筋を両方共受け継いでいる。(『Rim of Fire』)
  • ロバート・ステファノス・ボードゥアンは、ディンジール公爵ウィリアム・ボードゥアンとレディ・アレクサンドラ・ステファノスの長子として1057年150日に誕生。(『Nobles』)
  • 1105年当時のアルバダウィ星域公爵はアレクサンドラ・ステファノスという女性。彼女にはイワンとイレーナという子供がいる。(マングース版『The Solomani Rim』)

 レディは爵位を持たない貴族女性への敬称ですから、「アレクサンドラ・ステファノス」が同一人物であるのはほぼ間違いないでしょう(近い場所に同姓同名さんがいるのはフィクションとしてはややこしすぎますし(笑))。逆に、爵位を持っていないということは、アレクサンドラは本来はステファノス家を継ぐ存在でなかったからこそボードゥアン家に嫁いだのではないか、という推測が成り立ちます(※余談ですが、ステファノス家の女性がライラナー公爵のキルガシイ家に嫁いでいる設定もありますが、距離が遠すぎるため「たまたま同姓」説もあります)。
 ところがロバートを出産後にステファノス家の方で後継者問題が発生して、色々支障が出るので泣く泣く離婚して公爵位を継承したか、単に夫婦関係のもつれで離婚した後にたまたま公爵位を継承したかはわかりませんが、とにかくアレクサンドラは後に「旧アルバダウィ公爵家の子孫」の男性と再婚して二子をもうけた、と読み取れます。
 なおイレーナがアルバダウィ公爵家を継いでいるということは、コリドー艦隊にいるイワンは第五次辺境戦争で戦死してしまったのかもしれません。
(※マングース版『The Solomani Rim』には、ロバート公は「66歳」という記述があります。『Nobles』によれば父ウィリアム公は1097年没で、ソロマニ人の寿命が大体100年程度ということを考えると、ウィリアム公は980年代~1002年生まれと仮定できます。さらに、祖父セバスタ伯がソロマニ・リム戦争開戦後に悠長に子作りをしていたとも考えにくいので、980年代末~990年代前半の可能性が一番高そうです。となると、1057年というのは貴族の家が長子を持つにはちょっと遅すぎで、むしろ「ロバート公は1039年生まれ」の方が理に適っているように見えます)


【参考文献】
・Imperium (Game Designers' Workshop)
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Journal of the Travellers' Aid Society #17 (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)