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宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(21) ソル星域

2013-02-25 | Traveller
ソル星域 Sol subsector
 ソル星域の星々はまばらに点在していて、リム・メインからは離れています。このことがかつてのヴィラニ帝国の拡大を、そして前星間文明時代のテラが征服されることを阻みました。
 「地球人」がジャンプドライブを用いて星の世界に足を踏み入れてすぐに起きたヴィラニ人との接触は戦争につながり、宇宙史を大きく動かしました。この恒星間戦争の後、権力の中枢はディンジール(そして宙域の外)へと移ったため、テラは重要性を失いました。
 暗黒時代の間、星域のリムワード方面半分の世界は、OEU(古き良き地球同盟)の影響下にあり、星域が帝国に併合された後は、ここはソロマニ主義運動の基盤となりました。やがてテラはソロマニ自治区、そしてソロマニ連合の首都となり、ソロマニ・リム戦争では帝国軍の最重要目標とされました。歴史的要因や、戦争によって民間にも大きな被害が出たこともあり、現在でも星域内のいくつかの世界は反帝国的です。1050年代まで多発した騒乱こそ沈静化しましたが、ソロマニ党は一定の勢力を保ち、帝国からの分離を絶えず主張しています。
 現在のソル公爵は、マズン・トマス・フォン・リッターブルク(Mazun Tomas von Ritterburg)が務めています。彼は有能な統治者であり、熱烈な愛国者でもありますが、無愛想かつ言いたい事は遠慮なく言う性格のため、結果的に周囲の人々を遠ざけてしまっています。政治的盟友であるはずのアデアー大公との関係すら、ぎくしゃくしたものとなっているのです。
(※余談ですが、「マズン」はヴィラニ人に、「トマス」はソロマニ人によくある名前です)

 ソル星域には18の世界があり、総人口は737億人。最も人口が多いのはラガシュの210億人です。星域艦隊として、帝国海軍第97および第116艦隊が有事に備えて守りを固めています。




ヌスク Nusku 1822 A569943-F 高技・高人 G Im
 惑星ヌスクは、K5V型変光星の61キグニA(別名:ベッセル)から0.29AU離れた軌道を周回しています。ヌスクの空にはまばゆいほどの61キグニB(ヴィラニ名:アンラガル)がオレンジ色に輝いていますが、87AU離れたアンラガルはヌスクをより暖かくするには遠い存在です。また両者とも変光の度合いは大したことはありません。
 ヌスクは第三次恒星間戦争で地球人に征服された世界です。ここの住民は遺伝子的には多様ですが、文化の面では「人類の支配」以降ソロマニ文化に染まりました。暗黒時代のヌスクは独立星系として「人類の支配」時代の技術を多く保持しました。589年に帝国に加盟した後、ソロマニ主義運動がリム宙域まで広まると、ヌスクに設立されたソロマニ党は特に過激な活動を行い、党が政権を握ると厳罰を伴う法律を次々と制定しました。750年以降は「純血の」ソロマニ人だけが完全な市民権を持ち、他の住民は参政権どころか公民権も与えられませんでした。ヌスクの住民はヴィラニ人との混血が恒星間戦争時代から進んでいたため、極一握りの「純血の」ソロマニ人はソロマニ主義に忠実な政治エリートとなりましたが、そんなヌスク政府には腐敗がはびこりました。経済は停滞し、技術発展は途絶え、かつてのような活気のある文化は抑圧されました。しかしサミズデータ(samizdata)と呼ばれた出版物を惑星内情報ネットワークの秘密経路で流すことによって、多くの作家や哲学者が命脈を保ちました。
 リム戦争の後、ヌスクはしばらくの間帝国の軍事支配を受けましたが、1048年には3世紀前に崩壊した共和政府を再興させるための憲章制定会議(constitutional convention)が設立され、その数年後には民政に復帰しました。現在のヌスクは、ソロマニ政権以前の繁栄を取り戻しています。
 地元社会の変わった特徴は、極端な平等主義です。歴史的経緯から、ヌスクの住民はいかなる種類のエリートにも不信感を抱いています。その結果、裕福な人は自らの富を見せびらかすことを避け、政治指導者は謙虚さを有権者に示すことに全力を注ぎます。地元の帝国貴族ですらその振る舞いには気をつけていますが、外世界から来たメガコーポレーションの幹部は派手な生活様式に慣れてしまっているため、結果的にメガコーポレーション自体が地元住民の軽蔑の対象となっています。
 なおヌスクは、自発監視員(Free Monitors)の活動が活発な星でもあります。
(※サミズデータとは、「地下出版」と訳されるsamizdatから造られた単語で、主に検閲を逃れて秘密裏に複製・流通した書物や文書を指します。つまりsamizdatの電子版という意味です)

アジッダ Agidda 1824 A972979-C 工業・高技・高人 G Im
 アジッダは、地球人との戦いでヴィラニ人が失った最初の「領土」です(※バーナード星系に対しては第一帝国は領有権を主張していただけでした)。ヴィラニ人は-3400年頃に入植を始め、第二次恒星間戦争で地球連合領となるまでの数百年間は第一帝国の最辺境世界でした。
 惑星アジッダ自体は居住にはあまり向いていません。主星ロス154の引力によって惑星の向きは固定され、主星が時折光度を増して地表を焼くため、生命はほとんどありません。最も進化したものでも、海洋の浅瀬に漂うバクテリアの固まり程度です。そして空中の酸素比率は、機器の助けなしに人類が呼吸するにはあまりに少ないのです。
 しかし交通の要衝であるこのアジッダをめぐって、恒星間戦争でもソロマニ・リム戦争でも戦いが繰り広げられました。平和になった今では、歴史あるクリムゾン宇宙港にたくさんの商船が忙しく出入りしています。

テラ Terra 1827 A867A69-F NW 高技・高人・肥沃 G Im 軍政
 詳しくは前回を参照してください。

フェンリス Fenris 1830 AA98969-E N 工業・高技・高人・肥沃 A Im 軍政
 「プロキオン星系」の最初の役割は、第一次恒星間戦争直前に建設された地球人の海軍(※地球連合の結成は第一次恒星間戦争の後です)のための燃料補給基地としてでした。それから何十年もの間、プロキオンは地球連合の最前線(と同時に最終防衛線)の砦であり続けました。「人類の支配」期にはここは軍需産業の星となり、住民は軍関係者や退役軍人で占められました。
 暗黒時代の「平和な」時代にはその軍事的性格は一旦薄まりましたが、OEUに参加してからのフェンリスは軍の兵士や士官の供給元となりました。
 暗黒時代の末期には、フェンリス社会は様々な「ロッジ」によって統治されるようになっていました。ロッジとは同好会と互助会と秘密結社と政党と民兵の要素を全て併せ持ったような組織で、そのロッジが地元警察や星系軍を形作ったため、社会の軍事的色彩は濃いものとなっています。建前上は市民主権の議会制民主主義も、実際にはロッジの指導者的地位を手に入れた退役軍人によって操られています。
 恒星間戦争の記憶から、フェンリス市民と政府はソロマニ主義の熱烈な支持者となり、ソロマニ政権時代のフェンリス防衛軍は異常に巨大で、よく訓練されて、十分な装備を持っていました。リム戦争の最終盤での帝国軍への抵抗は特に激しいものでした。
 ロッジは依然として帝国への抵抗運動の核となっています。帝国当局はロッジの力を削ぎたいのですが、ロッジの存在がフェンリス社会にとって必要不可欠であるのも事実です。帝国は1096年から(※1105年まで)親帝国派ロッジの後援を試みましたが、残念なことに多くの民衆の怒りを買い、結果として内戦に等しい暴力の応酬が始まってしまいました。
 この星系ではソロマニ党は非合法のままですが、いくつかの秘密組織としては存在しています。
 フェンリスは反帝国暴動がいつ発生してもおかしくない世界です。旅行者は、ここがアンバーゾーンに指定されていることを常に念頭に置いて行動すべきでしょう。

ジャンクション Junction 1929 B975869-F 高技・肥沃 A G Im 軍政
 ジャンクションで注意すべきなのは大気です。窒素と酸素の混合大気は、気圧もテラとさほど変わりませんが、氷河期の只中にあるジャンクションには二酸化炭素が欠けています。そのため、目眩や呼吸困難、睡眠障害を引き起こすことがあります。住民はなるべく理想的な大気組成が保たれている居住区で生活し、その外に出る場合は十分な二酸化炭素を維持できるマスクを着用します。
 なおジャンクションは赤色矮星の主星に常に同じ側を向けているため、入植地は中間の薄暮帯に多く作られています。惑星の「熱帯側」や「寒帯側」に出向く際には、入念な準備が必要です。

イシムシュルギ Ishimshulgi 2021 E200478-7 真空・非工 G Im
 この惑星はかつては薄い大気といくつかの小さな海を持っていました。地球系企業のジェナシスト社(GenAssist)は、生態系を活性化させて農業に役立てようと窒素を土中に入れましたが、あまり効果は上がりませんでした。そこでジェナシスト社はバクテリアの遺伝子操作を試みましたが、そのバクテリアの異常増殖によってわずか数年で土中の窒素濃度は危険な水準にまで高まってしまいました。
 ジェナシスト社は必死に「解毒剤」となる生命体を創り上げましたが、今度はそれが酸素を土中に取り込むよう突然変異してしまったのです。そしてイシムシュルギの全ての大気は地殻に閉じ込められました。イシムシュルギの住民は密閉空間での生活を余儀なくされ、多くの人々はこの地を去りました。
(※他の設定との整合性から、この話は恒星間戦争末期~人類の支配期のものと思われますが、『Interstellar Wars』では西暦2170年(第四次恒星間戦争直前)の時点で既に真空世界となっているので、この設定の取扱いには注意が必要です。個人的には『Interstellar Wars』の設定の方をこちらに合わせた方がいいように思います)

プロメテウス Prometheus 2027 A785969-F S 高技・高人・肥沃 G Im 軍政
 恒星アルファ・ケンタウリを周回する、地球人初の星系外植民地となったこの惑星は、彼らにとって火の発見と同じくらい重大な意味を持ったことからプロメテウスと名付けられました。プロメテウスは、テラよりも濃い(そして呼吸可能な)大気と、より暖かな気候、大小様々な海を持っています。高緯度帯まで熱帯雨林はあり、赤道周辺の大部分は砂漠となっています。
 この星への最初の入植者は、-2468年に世代宇宙船(generation ship)で地球を旅立った欧州連合の人々でした(※到着したのは-2424年です)。その後、様々な国家や集団がジャンプドライブの開発とともにこの星に移住してきたことにより、プロメテウスは幾多ものテラ文化の第二の故郷となりました。テラ自身が「人類の支配」の間に恒星間文化に吸収され均一化されていっても、この星の住民は自らの民族文化の独自性を頑なに守り続けました。結果、アーミッシュ、マサイ、パールシー(※インドのゾロアスター教信者)、ロマたちは現在でもプロメテウスに存在します。
 同時に、プロメテウスは革新的な科学技術の中心地でもありました。事実、-2302年にプロメテウス大学のジェネヴァ・マッツィ(Geneva Mazzi)教授によって物理学は大きく進歩し、これは-2285年の中間子砲の開発に結びつきました。
 初期のプロメテウス社会は極端な自由意志論(libertarianism)に基づき、文化的寛容と個人の独立独歩を重んじていました。「人類の支配」が始まるとプロメテウスは一時的にソル星域における政治的中心の地位をテラから受け継ぎ、暗黒時代のテラ商業共同体やOEUの台頭まで守りました。暗黒時代を経ても、プロメテウスの気風は受け継がれました。
 しかしソロマニ主義運動によって長年の調和は崩れました。プロメテウス社会は画一的で抑圧的なソロマニ政権に苛立ち、いくつかの集団は地下に潜んだり、リム方面の新たな世界に移民していきました。またソロマニ党内の派閥争いで民族対立が煽られるなどして、世界は緊迫の度を増しました。
 戦後、プロメテウスは再び帝国の統治に戻りましたが、帝国情報部と陸軍は反帝国運動に目を向けさせないように地域や民族間の反目を利用したので、組織化された反乱よりもかえって民族同士の衝突が起こるようになってしまいました。帝国が今軍政を終えた場合に残るのはおそらく小国分裂状態の惑星であり、それを内戦にまで発展させないためにも帝国軍による統治がまだ必要とされて(しまって)います。
 希望の光はいくつかあります。(情報部や陸軍のやり方を批判していた)帝国偵察局はプロメテウスの旧連合海軍基地を接収し(元々この基地は帝国偵察局と同じような任務のために建設されたものなので好都合でした)、そこを拠点にして民族紛争を減らすべく、社会学の専門家などを派遣して活動を行っています。またオーセンティック運動も広まりつつあり、プロメテウスの人々がかつてのような政府を再建する可能性も芽生えてきています。名門のマッツィ物理学研究所からは政治的な教授陣が一掃され、ソロマニ政権時代には決して入ることのできなかった非ソロマニ人学生を惹きつけています。

ペラスペラ Peraspera 2028 B7A2536-D 高技・非工・非水 Im
 ペラスペラは10億年以上前のテラに似た環境です。平均気温50度の地表では生物は進化しておらず、大気は窒素、酸化窒素、二酸化炭素、様々な硫黄ガスの混合体で、呼吸には適していません。
レフリー情報:ここの奥地にはソロマニ連合軍の中間子研究基地が誰にも知られずにひっそりと佇んでいます。この研究基地が今現在稼働しているかどうかはレフリーが決定しますが、1114年の時点では密かに使用されていたようです。

ハデス Hades 2030 B432366-E 高技・低人・非工・貧困 G Im (フェンリスが領有)
 ハデス星系は長らくフェンリス政府に領有されていましたが、フェンリスが民政に復帰するまでは帝国海軍がこの地を管理することになっています。

ラガシュ Lagash 2121 A667A8B-F N 高技・高人・肥沃 G Im 星域首都
 そのヴィラニ語源の名にも関わらず、ラガシュは第一帝国によってほとんど入植されなかった世界です。拡張を続ける地球人を囲い込む前哨基地網を築くためにヴィラニ人入植地が造られこそしましたが、ヌスク陥落後はこの方面における第一帝国の影響力は弱まり、入植地は放棄されました。地球人の入植は第八次恒星間戦争の後に本格的に始まり、それ以来ラガシュはソロマニ世界となりました。
 ソロマニ系人口の多さがありながら、ラガシュは常にソロマニ主義に対して否定的でした。ラガシュはOEUの拡大期にはテラとしばしば衝突し、暗黒時代が終わるとすぐに、銀河核方向のヴェガンやヴィラニ世界と交易関係を築きました。ソロマニ政権時代にはソロマニ党ヴェガ派を支持したことからラガシュの地位は低く置かれ、さらに交易が絶たれたために、ラガシュ経済は長期に渡って低迷しました。
 その結果、ラガシュは帝国の統治を歓迎し、喜んで忠誠を誓いました。軍政からは速やかに解き放たれ、1032年には星域首都に指定されました。これにより帝国政府やメガコーポレーションによる開発が進み、住民は発展の受益者となれました。ソロマニ主義者による扇動はなくもないですが、地元のソロマニ党は穏健派であり、とても小規模です。
 今日のラガシュは繁盛しており、ヴェガ自治区方面との交易の重要な拠点ではありますが、一方でここからテラに向かうXボートが一旦ディンジール星域を迂回している事も含め、ソル星域で孤立したような位置にあるため星域首都としては機能的とは言えません。しかし帝国への忠誠心を考慮に入れると他に選択肢がないのも事実です。ラガシュ市民は星域首都であることに誇りを持っていますが、一方でソル公爵は実務を優先してしばしばテラに出向いて星域統治を行い、公爵不在の間のラガシュはヌスク伯に委任する手法を採っています。「問題地域」に目を行き届かせるためにはソル公はこれが最善だと冷静に判断した結果ですが、ラガシュ市民は不満に思っています。そのため、テラの民政移管後に星域首都を移すのではないか、という噂は根強いのですが、公爵はこれまで公式のコメントを拒否しています。
(※実際のところ移転の噂は杞憂に過ぎないのですが、自ら誤解を解こうとはしない公爵の性格が事態をややこしくしているようです)

エンバー Ember 2227 A412969-D N 工業・高技・高人・非農・氷結 G Im 軍政
 エンバーは連星の主星から23AU離れた軌道を回っているため、地表は完全に凍りついています。しかし主星の小さな方は閃光星で、時々通常の5倍の明るさで急激に輝くことがあります。それでも地表は凍ったままではありますが、その際にエタンとアセチレンが発生します。
 化学製品に欠かせないこれらの成分を採取するのは容易ですが、恒星がいつ輝きを増すかは予測できず、タイミングを間違えると炭化水素の沼にはまった上でそのまま凍らされてしまう危険もあります。

ディスマル Dismal 2330 C421542-E 高技・非工・貧困 G Im
 この乾燥した惑星の大部分は砂漠で覆われ、両極点付近にシダ植物の生えた小さな温帯が存在します。その狭間には熱帯のサバンナが連なっています。住民は原油採掘企業の労働者やエンジニア、地質調査員から成っています。生活や経済の基盤は脆弱で、原油の埋蔵量が多いことは判っていますが企業に十分な利益をもたらしていません。
 ソロマニ・リム戦争において、ガスジャイアントで燃料補給しようとした帝国海軍の巡洋艦1隻とソロマニ系海賊と思われる小船団による交戦を除いては、両軍からも全く無視されたほど、この星は重要性というものを欠いています。
(※ただしソロマニ連合はディスマル星系における戦時中のあらゆる艦船の活動を公式に否定しており、帝国側の報告書の存在は認めつつも、それはプロパガンダだと主張しています。ちなみに、問題の巡洋艦の航行記録はライブラリで公開されています)


【ライブラリ・データ】
イイリク Iilike 1429 A455969-F N 高技・高人 G Im 軍政
 -3800年頃にヴィラニ人によって入植されたイイリクは、第六次恒星間戦争の後からは地球人の入植が進みました。大部分の地球人入植者は、中東やアフリカ出身のイスラム教徒でした。そして「人類の支配」が始まる頃には、この星の文化はヴィラニとアラビアが入り混じったようになっていました。イイリクは暗黒時代の間は比較的繁栄した独立星系となり、OEUとディンジール連盟の間の緩衝国の役割を果たしていました。
 596年に帝国に加盟したイイリクは、やや変化したとはいえイスラムの伝統を継承しています。例えば、祈りはイイリクの空に輝く恒星ソルの方角に向けて行われ、住民はテラにある古い聖地への巡礼を一生に一度はしたいと考えています。古代からのイスラム暦は廃れてしまいましたが、休日や儀礼の日は主星タウ・セチや衛星群の周期に合わせて設定されました。女性には完全な公民権がありますが、地元社会には男性優先な側面が残っています。
 この星の大衆文化は堅苦しい傾向がありますが、近頃の富裕層の間には芸術分野の大きな発展が見られます。幾何学的な絵画や建築、散文小説、叙事詩、形而上的な哲学、といったこれらの開花は、前星間文明時代の上流アラビア文化に似ていますが、ヴィラニや他のテラ文化から流入した要素も持ち合わせています。
 ヴィラニの影響にも関わらず、イイリクはソロマニ主義を初期から支持していた世界の一つです。地元の親ソロマニ政権は穏健派であり、イイリクが帝国に征圧されてからもほとんど組織的抵抗を示しませんでしたが、反帝国感情は今も残っており、時折起きるテロ事件やソロマニ支持のデモ行進でそれを伺うことができます。それでも最近は民衆の意見は帝国に優しくなっていて、急進的なソロマニ主義の劇的な復活がなければ、近い将来自治を取り戻すことでしょう。

シリウス Sirius 1629 A000769-E 高技・小惑・非農 A Im 軍政
 シリウスはテラの空で最も明るく輝く星です。星系はA型恒星と約20AU離れた楕円軌道を周回する白色矮星から成っていますが、どちらも惑星や小惑星の類を持っていません。宇宙船が燃料補給できないため、恒星間戦争時代のシリウス星系はソル星域とディンジール星域間の交通の要所であり難所でした。
 現在のシリウス「ベルト」は、近隣星系から牽引されてきた氷を含む小惑星や、何十もの人工建造物から作られています。これらの居住複合施設や燃料補給ステーションは、ソロマニ政権時代に連合海軍と繋がりのあった企業が建設管理していたものです。
 シリウスの産業は宇宙船関連に特化しています。燃料補給や補修施設に加えて造船所もありますが、最近のシリウスの関心は造船ではなく「廃船」にあります。ソロマニ・リム戦争で酷く損傷したり、時代遅れとなった艦船がここに集められ、部品を取るために分解されています。船殻の金属は宇宙入植地の建設のために転用されたり、スクラップとして転売されました。また、いくつかの船は再生した上で売っています。シリウスは宙域の中で、(特に軍用や偵察局用の)古い部品や中古宇宙船の販売業者を見つけるのに最適の場所です。
 帝国はシリウスの戦略的重要性ゆえに、陸軍ではなく海軍と海兵隊による軍政を布いています。また、主な燃料補給ステーションの管理と船舶解体業務をLSP社に委託しました。しかし地元住民の多くはソロマニ寄りで、特に港湾労働者や船舶解体業者の間には顕著です。
 1100年に軍政は、ソロマニ党の扇動者に操られているとして地元労働組合の活動を妨害しましたが、これは反帝国感情を増大させ、様々な「事故」が起きたり、LSP社や軍の関係者が襲撃されたりするようになりました。この星を訪れる帝国市民には、宇宙港から遠く離れた入植地では行動に注意するよう、アンバー・トラベルゾーン指定による勧告が出ています。

カグカサッガンの戦い Battle of Kagukhasaggan
 ソロマニ・リム戦争の末期、カグカ(ヴィラニ名:カグカサッガン)星系(ソロマニ・リム宙域 2325)に進出した帝国の機動艦隊は、ガスジャイアントでの燃料補給中にソロマニ艦隊の待ち伏せ攻撃を受けました。燃料補給がまだなされておらずジャンプ不可能だったライトニング級巡洋艦バード・エンデバー(Bard Endeavour)は、味方の撤退の時間を稼ぐために単艦で盾となり、その英雄的行動により帝国艦隊の大部分は脱出に成功しました。しかしバード・エンデバーは激戦の末に、艦に残った乗員43名と共に惑星カグカサッガン2の大気圏に墜落して破壊されました。

自発監視員 Free Monitors
 ソロマニ連合の監視員(Monitors)は、ソルセックの秘密の情報屋です。ソロマニ・リム宙域の多くの占領世界で、監視員のネットワークは戦争と占領統治を生き残りましたが、今では全く異なる形に変化しました。
 それは緩やかな繋がりの反帝国ハッカーたちとなり、帝国貴族や軍部やメガコーポレーションの機密を、ジャーナリストや匿名ネットワークに流して、白日の下に暴露しています。基本的に自発監視員は情報の公開のみを目的としていますが、少数ですが旧来通りソルセック工作員と繋がりのある者もいます。
 プロメテウス星系が起源と言われている自発監視員は、ソル星域とハーレクイン星域で活発に活動しています。

ジェナシスト社 GenAssist
 地球人の拡大初期(※おそらくジャンプドライブ開発~第一次恒星間戦争の間)に設立されたジェナシスト社は、遺伝子工学の力で植民地化を推進しようとしました。
 まず植民地の食料供給に問題が出ないよう、地球や異星の植物の遺伝子操作を行いました。続いて、入植者の出生率と人口増加率を増やすべく、環境の厳しい不人気な植民地に毎年何千人もの幼児を「生産」する施設を建設し、そこで数人の人間と看護ロボットたちが新たな「試験管入植者」を手厚く育成しました(※人工受精とクローニングの両方を行っていたようです)。これにより、快適には住めないが資源が豊富な世界での労働力を確保することができ、地球連合全体の国力を引き上げることができたのです。
 また同社は、ウルサやエイプといった知性化動物の誕生計画にも大きく関わっています。
(※ちなみにジェナシスト社の手法は、「純血の」ソロマニ人による勢力拡大のためにソロマニ連合でも用いられています。ただしこのジェナシスト社の情報はソロマニ連合側の資料によるもののため、実績が誇張されている可能性もあります)

ヴィードバック Veedback
 ラガシュ出身のアンプ・ロックグループ「ヴィードバック」は、1104年にマキドカルン・レーベルから発売されたデビュー曲が大ヒットを飛ばし、一躍スターとなりました。
 今では何億人ものファンが、彼らの宙域規模ツアーを待ち望んでいます。
(※ヴィードバックの詳細については、JTAS23号のアンバーゾーン『ROADSHOW』を参照してください)

フォン・リッターブルク家 von Ritterburg family
 ラガシュのフォン・リッターブルク家は第二帝国時代から続く貴族の家系で、742年に皇帝パウロ1世によって爵位を剥奪されても、その後のソロマニ政権下にあっても帝国への忠誠を保ち続けた一族です。ソロマニ・リム戦争の後に一族の名誉は回復され、戦後初代のソル公爵が後継者を遺さずに1033年に亡くなったため、フォン・リッターブルク家が公爵の地位に就きました。
(※爵位を剥奪された理由は不明ですが、何らかの疑獄に巻き込まれたか、ソロマニ自治区成立で中央と音信不通になったからだと思われます)


【参考文献】
・Game 3: Azanti High Lightning (Game Designers' Workshop)
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・The Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Aliens Vol.2: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・Dismal Luck (Peter Arundel/Freelance Traveller #18)
・Wikipedia: はくちょう座61番星

宙域散歩(20) テラ

2013-01-26 | Traveller
「帝国の端(スピンワード)から端(リム)まで横断して、私は全ての人類の故郷であるテラに着いた。私は、私自身の『何か』をここで見つけることができると思っていたが……」
アキッダ・ラアギイル「かつて地球と呼ばれた星」
トラベラーズ・ダイジェスト誌 1108年


惑星テラ全図 1ヘクス=667km

テラ Terra 1827 A867A69-F NW 高技・高人・肥沃 G Im 軍政
 テラ星系は歴史的に重要な星系であり、リム方面の紛争の中心地でもあります。暴力事件は散発的に発生はしますが、治安は比較的安定しているため、旅行に向いた星系です。帝国内でもキャピタル(コア宙域 2118)、ヴランド(ヴランド宙域 1717)に次ぐ、(ソロマニ人だけに限らない)人気の観光地で、古びた都市や史跡、本物のソロマニ文化の香り、多彩で豊かな自然、美味と謳われるテラ料理は、多くの旅行者や学者を惹き付けています。
 他の星系では無視されるような惑星までも入植地が造られた、という意味では、テラ星系は珍しい存在です。宇宙探査初期において、入植地は太陽系(当時の呼び方ですが、今でもたまに住民からはこう呼ばれています)の至る所に確立されました。あらゆる惑星と衛星表面は探査され、ガス惑星ジュピターの深部でさえ危険を冒して調査されました。
 ちなみに、恒星ソルや惑星テラの数値を「1」とする単位系は、慣例的に帝国の様々な場所で使われています。


主星ソル:
 スペクトル型:G2V 質量:1.000 半径:1.000 光度:1.000
 構成:惑星9、小惑星帯1、空白軌道1、ガスジャイアント4

惑星構成:
 1マーキュリー   G30046A-E研究所
 2ヴィーナスG8B0168-E
 3テラA867A69-F NW   高人・軍政
60ルナF20076C-FN入植地・研究所
 4マーズF43056A-F軍事基地・入植地
 5小惑星帯F00066B-E入植地
 6ジュピター大型GG
(リング)YR00000-0
イオY210000-0
エウロパH200000-0
15ガニメデF300468-F軍事基地
25カリストY30016A-F研究所
 7サターン大型GG
(リング)YR00000-0
ヤヌスYS00000-0
ミマスYS00000-0
エンケラドスGS00268-F研究所
テティスYS00000-0
ディオーネYS00000-0
レアH10046B-ES
20タイタンY3A0168-E
25ハイペリオンYS00000-0
60イアペトゥスY100000-0
225 フェーベYS00000-0
 8ウラヌス小型GG
(リング)YR00000-0
ミランダYS00000-0
アリエルY100000-0
10ウンブリエルHS00269-E
15ティタニアH100168-E
20オベロンY100000-0
 8.5ネプチューン小型GG
(リング)YR00000-0
15トリトンY210169-E
20ネレイドYS00000-0
 9プルートーF10046C-FN研究所
20カロンYS00000-0

主要惑星テラ:
 軌道半径:1億4960万km(1.00AU) 公転周期:365.25日 衛星:1
 直径:12742km 密度:1.00 質量:1.00 重力:1.00G
 自転周期:23時間56分4秒 自転軸傾斜:23度26分21秒 温室効果:1.10
 地表平均気圧:1.00atm 大気組成:酸素・窒素の混合気体 呼吸可能
 水界度:71%(液体の水) 地表平均気温:15.0度(気象制御あり)
 総人口:195億人(1億人以上都市12、1000万人以上都市200)
  ロサンゼルス市:5億人(パウロ宇宙港/Aクラス)
  メディナ・アル=キターブ市:1億7000万人(AECO宇宙港/Aクラス)
  ラグランジュ市:1億人(ラグランジュ宇宙港/Aクラス)
  ロサンゼルス市・パウロ軌道宇宙港(Aクラス):2750万人
  AECO軌道宇宙港(Aクラス):1300万人


テラ Terra(Sol Delta) A867A69-F NW
 かつて「地球」と呼ばれていたテラは、ソロマニ人の母星であり、全ての人類の遺伝子的な故郷です。この地は地球連合、テラ商業共同体(Terran Mercantile Community)、OEU(Old Earth Union, 古き良き地球同盟)、ソル領域、ソロマニ自治区、ソロマニ連合の旧都であり、現在は帝国の軍事支配下に置かれています。ソロマニ・リム戦争による傷跡は、物質的にも精神的にもほぼ修復されました。今ではテラは、TL15の高品質なハイテク製品(特に電子機器)の主要な製造元で、医療などの一部分野ではTL16に到達しています。テラは栄光の都でこそなくなりましたが、次の世紀に向けて新たな役割を模索しています。
 「地球人」が宇宙に旅立ってから3500年が経過し、この惑星の自然は環境の変化や惑星改造によって、かつてとは大きく姿を変えました。サハラ砂漠は広大な農地となり、ロボットが耕作をしています。「人類の支配」時代にカッターラ低地へ新たな内海を造り、ナイル川の流れを変えたことにより、この地域により涼しい湿潤気候がもたらされたのです。-1500年頃には、天災と惑星改造の組み合わせによりシベリアで地中海とほぼ同等の面積が水没し、気候の温暖化も手伝って肥沃な緑地と化しました。宇宙開発前の時代と比べて海面は平均5メートル上昇し、巨大な防潮壁が沿岸部の多くの住民や史跡を保護しています。

 現在南アメリカ、カリブ海、アフリカ南部は、最も都会化され、工業化されています。気候の良いこれらの地域は、暗黒時代に北半球に代わって地上の繁栄の中心となりました。特に南アフリカは星系内で最も賑やかな金融街であり、ヨハネスブルグ市にはテラ証券取引所が置かれています(もっとも株取引の大部分は情報ネットワーク上で行われていますが)。北アフリカの地中海沿岸や西アフリカ沿岸部も大都市化が進み、アフリカ大陸全体で40億人が住んでいます。そして東アルジェリア地方の旧ジェリド塩湖のそば、メディナ・アル=キターブ市にはAECO(African-European Cooperative Organisation, アフリカ=ヨーロッパ協力機構)宇宙港が置かれています。
 50億人の人口を抱える南アメリカ大陸の沿岸部にもほぼ人が住み、都市群が切れて無人の海岸線があるのはティエラ・デル・フエゴ(※大陸最南端の諸島)とアマゾン川の河口ぐらいです。一方で内陸部では人はまばらで、土地の多くは自然保護区に指定されています。テラの首都はリオデジャネイロ市に置かれ、アンデス山脈のチチカカ湖のほとりには帝国総督公邸があります。これは876年にソロマニ連合の事務総長公邸として建設されたものをそのまま利用しています。
 北アメリカ大陸およびカリブ海地域には35億人が住み、その半分以上が旧メキシコやカリブ海に居住しています。かつては後進地域だったカリブ海は、今では惑星で最も人口稠密で繁栄している地方の一つとなりました。ボストン市からトリニダード市までアーコロジー群が連なり、理論上は都市から一歩も出ることなく端から端まで歩いて渡ることができます。この地域は企業活動が惑星上で最も活発で、アーコロジーでは企業家たちが忙しく活動しています。パウロ宇宙港(Paulo Starport)は北アメリカ大陸のロサンゼルス市南東にあり、惑星の交通の3分の2はこの港を通過しています。そして高速交通網は宇宙港からアメリカ大陸の各都市へ接続されています。ちなみに、この港は昔は「フェニックス宇宙港」と呼ばれていましたが、ソロマニ抵抗運動と同じ名前であるのを避けて、1040年に当時の皇帝パウロ3世の名前を採って改称されました(※フェニックスが地名であることを強調するために、フェニックス・メサ宇宙港(Phoenix-Mesa Starport)という呼ばれ方もされるようです)。
 ヨーロッパ地方には歴史保存地区が多く、古代の文化が守られた静かな地域です。テラ大学のキャンパスはこの地域に集中しており、主なものはパリ市、ベルリン市、ストックホルム市にあります。
 アジア地域には、中東からインドにかけて10億人が、東アジアには20億人が住んでいます。ここは歴史的に文化保存の意識が強く、今でも古代の言語や文化をそのまま守っている人もいます。偶然かはわかりませんが、メソポタミア地方とインド地方にはヴィラニ人が多く住んでいます。
 オセアニアはインドネシア、オーストラリア、太平洋の群島を含む広い地域で、30億人が住んでいます。浅瀬には巨大なアーコロジーが建設され、「高さ」1kmの水中都市も多くあります。またドルフィンの群れもこの地域に住んでいます。巨大ケルプ栽培や養殖漁業などでオセアニアはテラの食料庫となっているのと同時に、食料輸出の大部分もここで担っています。軍港として用いられているラグランジュ宇宙港(LaGrange Starport)が近くにある関係で、アリススプリングス市には帝国海軍と偵察局の星系本部が置かれ、砂漠地帯の多くは軍用地として確保されています。なおラグランジュ宇宙港は、オセアニアやアジア方面に向かう民間人も一部利用しています。
 テラ最後の辺境である南極大陸にもシャクルトン市が建設され、拡大が続いています。また空中や軌道上にも、富裕層が住むような豪華な都市があります。
 だいたいどの地域でも、人口が都心部に極端に集中しないように田園地方への人口分散の努力が続けられる一方で、どこに住んでいようともグローバル・データネットと反重力交通網の整備で住民が孤立化しないよう配慮されています。

 この3500年の間、人々の努力も虚しく、テラ文明は均一化していきました。宇宙旅行時代初期に話されていた何千ものの言語のうち、第一言語として生き残ったのはわずか8つだけです。最新の国勢調査では、70%以上の住民が(訛りの強いリム方言の)銀河公用語だけを話し、第二言語としても銀河公用語を解さない住民は約2%のみとなっています。大衆文化はその多様性を歴史の中に追いやり、かつて「民族」と呼ばれていた分類法も今では意味を持ちません。むしろスピンワード・マーチ宙域やアイランド星団(レフト宙域)の方が、前星間技術時代の民族文化に出会えるほどです。
 その一方で古い都市には、自分のルーツを見に来たソロマニ人や、オーセンティストの観光客のための(「食い物にする」とも言う)大きな歴史体験テーマパークが造られていて、「テラでは今も古代のフランス語や日本語やラテン語が話されている」と他星系で誤解されている一因ともなっています。またテラの人々は近代的な巨大アーコロジー都市と歴史的な街の混合体に住んでいますが、そのため観光客の中には、テラ市民が(外世界人には貴重なものに見える)古い建物を平然と住居やオフィスにしている日常的光景にショックを受ける人もいますし、惑星全体がテーマパークであると誤認してテラの一般市民に対して写真のためのポーズを取ることを要求したり、伝統的で風変わりな格好をしていないと文句を言ったりするなど、ちょっとしたトラブルが起こることもあります。

 外世界人や異星人も多くテラに居住しています。ヴェガンはテラの気候と高重力を不快に感じるためほとんど住んでいませんが、ヴィラニ人は言うに及ばず、アスラン商人もどこの大都市にもいますし、ハイヴはオーストラリア大陸東海岸の数十万エーカーの土地を購入するほどテラを気に入っています。ソロマニ党政権下での抑圧の時代でさえ、テラの人口の約8%は混血もしくは非ソロマニ人でした。

 定期的な人口爆発との戦い、第三次恒星間戦争時の核攻撃、前星間技術時代と暗黒時代における生態系の大異変、にもかかわらず、テラは美しく、生態学上も多様な世界のままです。遺伝子工学の発達は、いくつかの絶滅種を復活させ、ミニファントのような新種も創り出しました。以前のソロマニ連合政府はテラに莫大な資金を投じて、南アメリカ・アフリカ・南アジアの熱帯雨林やジャングルを再植林し、広大な自然公園や野生保護区を造り、気象制御システムで丁寧に管理しました。博物館や史跡(ピラミッド、万里の長城、ペンタゴン、TMCタワー(※暗黒時代のテラ商業共同体の施設だと思われます)など)にも修復のために資金が回され、ローマ市やニューヨーク市などの古都は大気汚染から歴史的な街並みを守るために巨大なドームで覆われました。これらの一部はソロマニ人優越思想の「物語」に沿うように歪められましたが、一般的にはテラの全ては敬意をもって扱われました。皮肉なことに、これらの投資の最大の受益者は結果的に帝国市民となりましたが。

 テラの軍政は、帝国から派遣された総督と官僚、そしてそれを支える帝国海兵隊の駐留軍から成ります。地方議会や大陸議会は選挙によって選出され、非軍事の地元官僚が末端の行政を担います。現在の総督は、1103年に赴任した帝国陸軍のスタニスラフ・ガサイ大将(General Stanislav Gasai)が務めています。46歳の彼は、1110年に迫った民政移管への土台作りに苦心しています。
 テラには地方警察はありますが、星系軍は組織されていません。1002年~1005年および1040年代のテラではゲリラ攻撃が頻発しましたが、反帝国組織の多くは駐留軍によって容赦なく壊滅させられ、その結果、1064年にはアンバー・トラベルゾーン指定が解除されました。テラがこのまま平穏無事であれば、1109年末で軍政は終了する予定です。
 圧制的な治安レベル9は、屋外でのあらゆる武器所持が禁止されることを意味します。
 軍政は非常に厳しい交通管制を敷いています。法律によって車両の手動操作は制限されており、車両の保有自体も厳密に管理されています。警察と救急と軍関係を除いた全ての飛行機(大部分は反重力車両)は、地域ごとの遠隔交通管制によって特定の空路(gravway)を通過するように定められています。
 テラにおけるロボットは、シュドゥシャム協定よりも厳しく管理されています。これは、テロ集団「テラの支配(Rule of Terra)」が家令ロボットや配達ロボットを改造して暗殺やテロ攻撃に用いていたことによる措置です。
 税制度は常識的ですが、商業や工業には多くの規制がかけられています。環境法は特に厳しく、土地利用、資源開発、廃棄物処理などあらゆる面で細かく定められています。
 テラ市民には表現、集会、宗教などの基本的自由が規定されていますが、その自由には例外が多く設けられています。例えば、反帝国的な言動や帝国貴族に対する侮辱表現、暴力の扇動やヘイトスピーチは法律違反となりますし、帝国当局は検閲の権利を有しています。ただしその制限下であれば政党活動は自由なため、1050年代から徐々に結成されてきています。有名なものでは親帝国派の「自由党(Freedom Party)」や、環境保護政党の「緑の地球党(Garden Earth Party)」、また帝国と連合の平和的な国交正常化や軍事基地の撤去を訴える穏健派ソロマニ党も存在します(※テラのソロマニ党は1095年に合法化され、穏健派、汎地球派、テラ派など非暴力的な4派閥が別個に活動しています。中でもテラ派は親帝国路線を採る特異な存在です)。

 ソロマニ主義の存在はテラの不安定要因であり続けていますが、ここ数十年でずいぶん落ち着きを取り戻しました。市民の間に軍政に対する敵愾心はなくはないですが、それでもリム戦争以前よりは社会は開放的になり、帝国の進んだ技術は広く利用できるようになり、そこらじゅうにビジネスのチャンスが見えてくるようになりました。大部分のテラの住民は帝国の存在を、厄介だがありがたいものと考えています。

ルナ Luna(Sol Delta-Ay) F20076C-F N
 衛星ルナはテラと同様に軍政下に置かれていますが、立法と治安維持以外の面では地元の官僚機構に権限が与えられています。そしてルナも1109年から11年にかけて議会制民主主義体制に移行する予定になっています。
 ルナはソロマニ人による惑星外活動の最初の目的地となり、後にいくつかの国家が植民地を築き、-2433年に一つの国家として国際連合に加盟しました。地球連合結成前のルナ企業はジャンプドライブの開発に関与し、恒星間戦争時代のルナは地球連合海軍の主要な造船所でした。
 しかし戦争の終結と地球連合の発展解消により、ルナ経済は不況に落ち込みました。ルナの造船所は守られましたが、民需への転換や、工業地域を含めて経済の多角化を強いられました。
 暗黒時代にはテラ星系内のほぼ全ての入植地が放棄されましたが、ルナだけは存続していました。ルナの造船所は再び軍艦の生産に回帰し、TMCの武装商船やOEUの軍艦を製造していました。そしてソロマニ連合建国後にソロマニ党が掲げた「ルナ経済を復活させる」という公約により、クラビウス素粒子研究所(Clavius Particle Research Laboratory)を含む研究施設や、軍施設が建設されました。ソロマニ政権の絶頂期には、ルナにパンステラー社(Panstellar)やSMI社(Solomani Military Industries)などの軍需民需双方の造船企業の本社が置かれました。その一方で、軍需産業が集中し、ソロマニ党にとって最も重要な地域だったにもかかわらず、ルナ市民は伝統的に民主主義を好んでいたので、強権的なソロマニ党はあまり支持されていませんでした。
 ルナ周辺空域では、ソロマニ・リム戦争末期に連合海軍と帝国海軍が激戦を繰り広げましたが、帝国海軍が制空権を確保するとルナの防衛隊は速やかに降伏しました。大気のないルナのドーム都市は軌道爆撃に対して完全に無力で、帝国軍の火力は圧倒的だったのです。
 戦後は、1010年代のソロマニ自由軍(Solomani Freedom Army)によるいくつかのテロ攻撃と、1080年の「ソロマニゲリラの秘密基地デマ」によるパニックを除けば、ここは帝国の手を煩わせることはありませんでした。
 現在のルナ経済は、鉱業、鉱石処理、科学研究を基盤とし、造船業は今では衰退しています。またルナは、テラ市民の伝統的な新婚旅行(honeymoon)先であり、コペルニクスのリゾート複合施設は行楽客たちを満足させています。
 8000万人の住民はドームや地下都市に主に居住し、ルナの三大人口密集地であるコペルニクス市、アルキメデス市、プラトン市は、モノレールや反重力ハイウェイで相互接続されています。
 アルキメデス市はルナで最も古い(※-2510年)入植地であり、鉱業や工業の中心地です。古代の縦坑がルナの地下数キロメートルまで続いています。
 プラトン市にはルナ大学の中央キャンパスがあり、学術や文化の中心地です。同大学は高エネルギー物理学や天文学の分野でテラ星系最高の学府と考えられています。
 コペルニクス市は行政機構の中心地であり、通商や旅行の起点となるコペルニクス地上宇宙港(Cクラス相当)があります。戦前は連合内で最も繁盛した宇宙港の一つでしたが、戦後はルナの軍需産業の縮小に伴い、ターミナル施設や着陸床や倉庫の3分の2は使われなくなり、犯罪組織や不法占拠者がそこに入り込む要因となりました。1103年の帝国海軍情報部の捜査では、LSP製品の海賊版製造工場がここで発見されました。
 約1割の住民は、虹の入江(Sinus Iridium)やアペニン山脈(Montes Apenninus)の鉱山、ファーサイド電波天文台(radio observatory Farside Station)、クラビウスの帝国研究所、テオフィルスの帝国海軍基地で働き、生活しています。クラビウスは近代的なハイテク工業地帯であり、GSbAGなどが電子機器や反重力製品、真空環境装備などの生産をしています。ここでの最も特徴的な製品は「大気封入フィールド」で、ドームの代わりに重力の網によって気体の流出を防ぐ装置です。さらに帝国海軍とナアシルカは共同で、最高水準の技術を持つクラビウス素粒子研究所を運営しています。旧ソロマニ連合科学技術省(Ministry of Science and Technology)の庁舎も入っていたこの研究所には、リム宙域最大の素粒子ビーム実験施設があり、かつては軍用の中間子ビームの研究が行われていました。現在の研究内容は最高機密扱いですが、反粒子ビームの研究や超高速度重粒子の生成を行っているかもしれません。
 ルナ大学が運営するファーサイド・ステーションは、(やや設備が時代遅れの)科学研究基地です。施設は前身も含めて3400年前から運営され、徐々に拡張されていきました。その巨大な分散構造体は、光や電波による「汚染」を避けるためにテラから見てルナの裏側の数千平方キロメートルを覆っています。ここでは、電波天文学や宇宙論や宇宙線の研究、軍用民間用の受動センサーの開発が行われています。ルナの裏側への開発や訪問は、ファーサイドの活動を邪魔しないために制限されています。
 以前のルナはソロマニ軍の軍事施設だらけで、その一部は帝国軍によって後に接収されました。危難の海(Mare Crisium)にあった海兵隊訓練施設を含め、ほとんどは今では放棄されましたが、テオフィルス・クレーターに300年前に建設された旧連合軍基地は唯一、帝国海軍ルナ基地として忙しく稼働しています。それ以外にソロマニ基地が存在するという噂もありますが、1080年の帝国海軍による徹底捜索で一つも発見されることはありませんでした。

マーキュリー Mercury(Sol Beta) G30046A-E
 一番内側の惑星は、昼は400度、夜は-180度という、太陽系で最大の温度差を持ちます。惑星間文明期のマーキュリーには巨大な太陽電池パネルが建てられ、そこから電力を供給された鉱山施設と、ソーラー帆船に推進力を与えるレーザー発射施設が運用されていました。その頃の主要な入植地は南極点に近いチャオ・メンフー盆地(Chao Meng-Fu crater)に築かれ、クレーターの影にあった氷を採取していました。他にも小さな宇宙港、採掘拠点、最初にこの惑星に降り立った宇宙飛行士の名を付けられたシュキ太陽天文台(Syuki solar observatory)がありました。
 現在では残った太陽電池パネルはわずかで、大部分の古い縦坑は掘り尽くされています。シュキ太陽天文台は天体物理学の学校として運用され、約1万人がここに居住しています。
 マーキュリーには、太古種族が約40万年前にこの惑星を探査したかもしれない考古学的な痕跡が残っています。また、OEUの鉱夫が340年に太古種族の遺跡を発見していた、とする資料を見つけたと研究者が1030年に発表しましたが、この資料の真偽については疑問符が付けられています。

ヴィーナス Venus(Sol Gamma) G8B0168-E
 惑星ヴィーナスは、超高濃度の二酸化炭素大気による不毛な世界です。温室効果により、平均気温は425度、地表気圧は90気圧以上と、地獄のような環境です。古代ソロマニ人は、この環境は自然に出来上がったものと考えていました。ところが-1688年に行われた探検で、太古種族の遺跡が発見されたのです。しかし遺跡は熱と腐食性大気によりひどく風化し、ほとんどの人工的な物品は変わり果てていました。
 学者の間では、太古種族はヴィーナスを惑星改造して人類(またはヴァルグル)の亜種の居住惑星にしようとしていたのではないか、そして最終戦争によって改造が中断された結果このような環境が出来上がってしまったのではないか、という説が唱えられています。
 962年、テラ大学考古学部と連合科学技術省は遺跡の詳細な調査を開始しました。これは惑星改造説の検証のための地質学的データを集めることも目的としていました。ソロマニ・リム戦争によって一旦中断されましたが、調査は帝国偵察局の支援で再開されました。その結果、かつてのヴィーナスが有史以前のテラと同様の環境であった証拠が発見されたのです。
 惑星上には誰も住んでいませんが、テラ大学と偵察局の50名ほどの考古学者などが、軌道ステーションで研究を続けています。ソロマニ人が宇宙に飛び出してから3500年が経過しましたが、この惑星はいまだに部分的にしか探査されていません。

マーズ Mars(Sol Epsilon) F43056A-F
 マーズには、浮き沈みの激しい歴史があります。この惑星にはまず科学的な、後に商業的な入植地が建設されました。これらは恒星間戦争時代の初期に繁栄して2500万人の人口を誇り、-2395年には地球連合に加盟しました。同時に、環境を改善する惑星改造計画も始められました。
 第三次恒星間戦争において、マーズはテラと共にヴィラニ艦隊によって包囲され、爆撃を受けました。-2222年に衛星ダイモスに大きな軍事基地が建設された際に一時的にマーズ経済は潤いましたが、その後は回復することはありませんでした。クーデターによる「人類の支配」の建国によってテラ星系は実権を失い、同時にマーズの重要性も失われたため、基地は-2200年には閉鎖されました。暗黒時代にはマーズ自体も実質的に見捨てられ、人口と工業力を失いました。
 転機が訪れたのは400年のことです。OEUは帝国の技術を手に入れ、中断された惑星改造計画を再開しました。その後、帝国、ソロマニ連合と統治者は移り変わりましたが、計画は続けられました。経済活性化と移住は惑星改造と並行して進められ、連合もダイモスを再び主要な海軍基地として再建しました。帝国軍によるテラ侵攻作戦の際には、ダイモス基地は帝国艦隊に果敢に抵抗しましたが、2週間の戦いの末に「クルミ割り(※小惑星を激突させる)」戦術によって基地はダイモスごと破壊されました。ダイモスの破壊によって生じた軌道上の「リング」の除去には、15年を要しました。
 戦後、マーズは軍政下に置かれましたが、惑星改造計画は帝国植民省が責任を持って民政移管の日まで続けています。元々の大気は非常に薄いものでしたが、将来は薄くても呼吸可能な大気になることでしょう。責任者のキャサリン・"キティ"・フォックス博士によれば、来世紀には本物の雨や雷を見ることができるかもしれないとのことです。
 帝国海兵隊の駐留軍はエリシウム平原(Elysium Plateau)にある旧ソロマニ陸軍基地に置かれ、惑星テラの外で発生する緊急事態に備えています。現在75万人がマーズに居住していますが、その15%が海兵隊員か海兵隊関係者です。

小惑星帯 Planetoid Belt(Sol Zeta) F00066B-E
 鉱業と科学研究のため、約3万個の小惑星からなるこのベルトには宇宙開発の早い時期に入植されました。ここは惑星の重力の影響が少なく、ソロマニ人によるジャンプドライブの開発に大いに貢献しました。
 現在230万人(点在する独立鉱夫10万人を含む)がここに住み、最大の入植地は小惑星ケレスにあります。また、湿潤さえしていれば無重力環境でも生きていけるドルフィンの小さな入植地も、小惑星キューピッドにあります。彼らは美術を探求しており、訪問者は歓迎されます。彼らの美術に興味を示せば、仲間になってここに住まないかと誘われるかもしれません。

ジュピター Jupiter(Sol Eta) Large Gas Giant
 太陽系で最も大きな惑星であるジュピターは、既知宙域内のガスジャイアントの比較基準として長年用いられています。ソロマニ・リム戦争の際には、大気圏上層とリング周辺は帝国艦隊とソロマニ惑星防衛艦による激戦の舞台となりました。ジュピターには多数の衛星がありますが(そのほとんどは小惑星でしかありませんが)、大きな2つの衛星は開発され、現在も有人施設があります。
 ソル星系内最大の衛星であるガニメデは、かつて主要な植民地でした。地球連合末期から第二帝国初期にかけて放棄された地下都市は、その時代を研究している現代の考古学者の興味を惹き続けています。ガニメデにはテラ大学が設置した、ガスジャイアントの研究を専門としているゼウス研究所があります。またケンジントン兵器試験センター(Kennsington Armed Forces Testing Center)は、リム戦争以前から新兵器の実験を行っていましたが、今では、ジュピターなどガスジャイアントの警備を担当する惑星防衛艦の戦隊と海兵隊の分遣隊が駐留するために改装されています。現在ガニメデの人口は3万人で、旅行者に対しては閉ざされています。
 衛星カリストには、ソロマニ連合軍の研究所がその氷の下深くにありました。その後テラ侵攻の際に、帝国海兵隊の特殊部隊による急襲によって無傷で研究所は帝国の手に渡りました。現在研究所は気象学の調査のために使われています。

サターン Saturn(Sol Theta) Large Gas Giant
 ソロマニ・リム宙域の中で最も美しいリングで知られるサターンには、燃料スクープ装置を持つ多くの宇宙船がその光景を眺めるためにわざわざ燃料補給に訪れています。その衛星には、いくつかの研究基地が置かれています。
 氷から成る衛星エンケラドスには、ホイヘンス天体物理学研究所(Huygens Astrophysical Outpost)があり、反物質の封じ込めに関する研究を行っています。研究所への接近は厳しく制限されています。
 衛星レアの地下にはカッシーニ基地があります。この基地は現在偵察局が使用していますが、宇宙港施設は第一次恒星間戦争の時に建設されたものです。ここでは小惑星帯から外側の空域の宇宙船の交通管制を取り仕切っています。
 ソル星系で2番目に大きな衛星であるタイタンには、濃い窒素の大気と液体炭化水素の湖があり、表面気温は-179度です。かつてのタイタンは化学製品の精製に関わる植民地で、農業肥料や生命維持に使われる窒素をルナやマーズや小惑星帯に輸出していました。「地球人」が初めて宇宙空間で戦争を繰り広げたのもこのタイタンをめぐってでした(※-2468年の「タイタン紛争」は、汎アジア連合と多国籍企業の軍同士が衝突したものです)。タイタンの古い窒素採掘ステーションは遥か昔に放棄されましたが、湖でメタンを基礎として進化した細菌を研究している科学的なドーム拠点が1つだけ残されています。どうやらタイタンの生命は自然発生ではなく、暗黒時代に放棄された入植地の「汚染」によるものであるようです。また、考古学者の中にはタイタンに太古種族の活動の痕跡があると考える者もいますが、今のところ何も発見されていません。

ウラヌス Uranus(Sol Iota) Small Gas Giant
 リングと特徴的な地軸の傾きを持つウラヌスは、遥か昔から研究者たちの注目を集め、やがてそれは衛星ティタニアやウンブリエルへの有人無人の小さな研究ステーションの建設を促しました。ここで集められた観測データにより、ウラヌスの謎が解明されていっています。

ネプチューン Neptune(Sol Kappa) Small Gas Giant
 ネプチューンの衛星で現在唯一有人なのがトリトンです。トリトンはルナと同規模の衛星で、非常に薄い大気を持ちます。ルヴェリエ鉱業団地(Leverrier Complex)はかつては重要な拠点でしたが、採掘量は低迷しており、テラの帝国総督は段階的に施設を停止するよう命じました。現在では数十人の技術者が建物の解体のために雇われています。予定では1118年頃に閉鎖は完了する予定です。
 なおウラヌスとネプチューンの衛星には小さな燃料補給ステーションがありますが、訪れる人はめったにいません。

プルートー Pluto(Sol Lambda) F10046C-F N
 古代テラの神話における死者の世界の支配者と同じ名を持つプルートーは、その名にふさわしい死の世界です。そんな寂しい世界に、海軍基地や研究所の関係者が9万人ほど住んでいます。研究所は元々ソロマニ連合軍が設立し、後に帝国海軍が接収しました。その研究目的は知られておらず、周辺1AU(約1億5000万km)以内は立入禁止となっています。帝国当局は立入禁止の理由を一切発表しておらず、噂では太古種族の技術を蓄積して研究を行っているのでは等囁かれています。
 またプルートーには、かつて連合軍の刑務所がありました。


【ライブラリ・データ】
帝国海兵隊テラ駐留軍 Imperial Marine Garrison, Terra

「朕に海兵隊と支点を与えよ、さすれば宇宙を動かしてみせよう」 皇帝ガヴィン

 1002年に帝国海兵隊連隊がラグランジュ宇宙港の穴だらけの駐機場に足を踏み入れ、日輪旗を掲げた時から、テラの占領統治は始まりました。その粘り強さで名高い海兵隊員は、この星における帝国の主権の象徴となりました。
 TL15で武装し、星系内空間全ての制空権を握っている駐留軍は、パウロ、ラグランジュ、AECOの各宇宙港に司令部を置き、テラを三分割して担当しています。総計で28000人になる駐留軍には、帝国海兵隊第2666、第4217、第4545、第5201、第5203連隊(兵力各3500名)が参加し、このうち最初に挙げた3つは103年前のテラ占領に参加した部隊で、駐留軍のシンボルとなっています。他に、惑星のどこへでも展開できる軌道対応部隊(Orbital Response Forces)として、歩兵中隊に加えて第66機甲騎兵連隊(1700名)の中から一個中隊が割かれています。部隊の人員は任期1年で交替となり(もう1年延長することもできます)、ここで1年でも務め上げた兵士は退役まで「テラ占領記章(Terran Occupation Badge)」を礼装の胸に付ける栄誉が与えられます。テラ自体が過ごしやすく楽しい世界ですし、敵国の旧首都の占領部隊にいた、という箔が付くため、テラ駐留軍は人気のある配属先です。また1068年からは、海兵隊員とテラの民間人との結婚も許可されています。
 元々駐留軍は「テラ占領軍(Terran Occupation Force)」という名称でしたが、時の流れとともに刺激的な名前はふさわしくなくなり、現在の「帝国海兵隊テラ駐留軍(IMGT)」に改められました。ただし一般的には単に「海兵隊」と呼ばれています。
 また、名前の変化とともに、部隊の性格も変わっていきました。1050年代になっても、テラは食料や水、電力供給が不足しており、住宅や公共施設の修繕も必要でした。そこで海兵隊の持つ輸送や工学の技能が必要とされたのです。例えば、1048年から1057年にかけて海兵隊第411戦闘工兵旅団はテラに配属され、ネパールの奥地やミシシッピ川水系、ジブラルタル海峡などで活躍し、地域住民から大いに感謝されました。今では災害救助も駐留軍の重要な任務となっています。
 海兵隊員による治安維持活動は頻繁に行われていますが、威圧的にならないように、1083年以降は反重力戦車やバトルドレスを持ち出すようなことはほぼなくなりました。しかし地域の治安状況によっては、つま先から首までを保護する戦闘用迷彩柄クロースを着用する場合もあります。なお、大規模な破壊活動に対しては駐留軍が、小規模の犯罪に対しては地元警察が対応しますが、ソルセックなどのスパイに対しては海兵隊では手に負えないため、海軍情報部が対処しています。
(※しかし28000という兵力はマーズ駐留部隊と比べても少ないですし、テラの設定に陸軍の存在が見え隠れしていますので、IMGT以外に帝国陸軍もかなりの数がテラに展開している可能性は高いと思われます)

ソロマニ自由軍 Solomani Freedom Army
 1002年にテラ星系で結成されたソロマニ系ゲリラであるソロマニ自由軍は、当初は活発に活動していましたが、1020年代には下火となりました。今でも時々ソロマニ自由軍の流れを汲むと自称する武装組織はいくつか出没しますが、恒星間規模に発展することはなく、組織同士での連携も図られていないようです。

テラの支配 Rule of Terra
 ソロマニ・リム宙域で活発に活動しているテロ組織である「テラの支配」は、1068年にソロマニ人の過激派学生によってテラとプロメテウス(ソロマニ・リム宙域 2027)で結成されました。彼らの目的は、武力闘争によって帝国占領下の星系を「解放」することです。戦略としては、テロを頻発させることで帝国がソロマニ系市民に対しての弾圧を強化し、それに憤った民衆の相次ぐ反乱によって帝国がこの地域の支配意欲を減らすだろう、と彼らは考えています。
 組織は恒星間規模ですが、比較的小さい方です。そのため、他のテロ組織が実行した攻撃や、単なる事故でも「テラの支配」が犯行声明を出す場合もあります。彼らは帝国軍部隊、官僚、メガコーポレーション、旅行者、地方政府指導者など、占領統治を支えているとみなしたあらゆる対象を標的とし、爆破、誘拐、ハイジャック、暗殺、情報戦など手段を選びません。1098年にラグランジュ宙港街で起きた、帝国陸軍兵士52名と民間人数名が犠牲となったテロ事件では、ロボットが運転する液体水素運搬トレーラーをハッキングし、ナイトクラブに突入させるという手口が使われました。彼らはこの30年間で700件以上のテロ攻撃に関与し、その多くはテラ、プロメテウス、フェンリス(同 1830)で実行されました。
 一方で帝国当局が彼らの活動に対する予測や対処を向上させた結果、1098年以降は思うようにテロ攻撃が成功しなくなり、1101年には副リーダーのジャック・ボウマン(Jack Bowman)がフェンリス行きの貨物船内で逮捕されました。現在200人以上のメンバー(もしくは共犯者)が、帝国刑務所惑星で長期服役しています。
 「テラの支配」の攻撃は市民の幅広い支持を得られていませんが、少数のソロマニ人はその反帝国武力闘争の姿勢に共感し、新たに組織に加入したり、資金や隠れ家の提供をしたりしています。「テラの支配」はソロマニ党からも支援を受けているように見えますが、実際には連合やソルセックが彼らの背後にいるという証拠はありません。彼らは「我々の崇高な目的に貢献しない者は同胞ではない」として、彼らの活動に否定的なソロマニ主義者ですら攻撃の対象としているのです。


【レフリー情報】
 一般には知られていないことですが、超能力研究所はテラに現存します。超能力弾圧(800年~826年)の際に、勅令によって帝国内65ヵ所の超能力研究所の活動許可は取り消されましたが、後にテラともう1ヵ所の超能力研究所だけは密かに撤回されました。
 ソロマニ連合結成前の833年、テラの超能力研究所は帝国海軍情報部の管轄下に置かれ、それからは密かに連合首都で超能力によるスパイ活動に従事していました。研究所の活動はテラ侵攻の際に中断しましたが、戦後は海軍基地の敷地内に拠点を移し、帝国海兵隊特殊部隊特別戦闘訓練所(Imperial Marine Commando special warfare training facility)や海軍心理戦研究所(Naval Psychological Warfare Institute)に姿を変えています。1040年の「フェニックス計画」の摘発にも、ここの関係者が関与していたと思われます。
 ここの超能力者の大部分は海軍情報部所属ですが、一部は偵察局情報課や海兵隊、帝国司法省に属しています。優秀なテレパシー能力者は防諜任務に割り当てられ、ソロマニ連合のスパイを摘発したり、内通者の疑いがある貴族や高級将校の内偵をしています。



(※帝国暦の西暦への変換は、4521を加えると目安となります。しかし厳密には1496年で1年のずれが生じるので注意してください)
(※テラの人口は、DGP版設定では425億3000万人、GDWのエイリアンモジュールやマングース版設定でも400億人と記されています。しかしこれはGDWのサプリメント10にある「ソル星域で最も人口が多いのはラガシュの210億人」と矛盾します。そこで今回は、HIWG版データやAM6記載の人口倍率1や、GURPS版の195億人(※表では180億ですが文中の数字を合計すると195億になります)設定を採用し、DGP版のその他の設定は独自に帳尻を合わせました)
(※ルナ、マーズの人口設定は元々それぞれ800万、750万となっていましたが、UWPの数値と合わないため、人口設定を誤植とみなしてUWPの方に桁を合わせました)



【参考文献】
・Book 6: Scouts (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・Game 5 - Invasion: Earth (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・Aliens Vol.2: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・The Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)
・Integrated Timeline (Donald E. McKinney)

宙域散歩(19) リム・メイン2 ヴェガ自治区

2013-01-13 | Traveller
 ヴェガ自治区は、エスペランス星域とヴェガ星域に跨って存在します。この両星域には帝国の星域公爵は置かれておらず、自治区領内の管理はムアン・グウィから行われ、それ以外の帝国領の管理は隣接するアルデラミン、コンコード、バナスダンの各星域公爵が分担しています。この地域には物流の大動脈であるリム・メインが横断しており、経済的に急成長を遂げています。また、ヴェガ自治区自体がソロマニ連合に睨みを効かせるためのものであり、この地域は軍事的にも非常に重要な拠点でもあります。帝国はさらにヴェガ星域内に兵站基地(ディーポ)(1911)を構え、不測の事態に備えています。
 ヴェガ自治区内に住んでいるのは大多数が知的種族ヴェガンですが、彼らは高重力を苦手としているため、ベレロフォン、フランダース、マーガンサー、シュルギアスの4星系はほぼ人類のみが居住しています。また、人工重力によってヴェガンの居住を可能にしようとする試みが、シトゥアン・サール(2144)で最近始まりました。
 現在、ヴェガンの最も有名な政治指導者は、守護者トゥフールのエムテャン・サトウィ(Emtyan Satowy)です。彼女は帝国駐在大使の経歴を持ち、種族に関係なく抑圧や収監されることのないジャーナリストの権利を訴える人物としても知られています。また、ヴェガン版トラベラー・ニュースサービスであるVFP通信社(Vegan Free Press)の共同創設者の一人でもあります。
 帝国のヴェガ自治区駐在大使は、アンソニー・カザ男爵(Baron Anthony Kaza)が務めています。彼はアデアー大公の盟友であり、大公が帝国外交使節団に所属していた時代の良き師でもあります。
 暗黒時代に両星域に広まったヴェガン文化は、ソロマニ自治区時代には一旦衰えたものの、ヴェガ自治区制定後には再び盛り返しました。現在ヴェガ自治区に加盟していない星系の中にも自治区への参加を求める動きはありますが、一方で800~900年代に移住してきたソロマニ系住民(の中でもソロマニ党支持者)はそれに反発を強めており、この火種がいつ暴発するか予断を許しません。ソルセックや過激派武装組織による秘密工作も行われているようです。


エスペランス Esperance 1116 A468878-F N 高技・富裕 A G Im
 エスペランスは人類とヴェガンが共に過ごしやすい環境にある世界です。重力はヴェガンが好む軽さですが、大気は人類にとって十分に濃く、そして多くの水があります。
 この星の歴史は-4300年頃のヴィラニ人の入植から始まり、「人類の支配」期には南アメリカ系ソロマニ人がやってきて、現地のヴィラニ人と入り混じりました。暗黒時代にはヴェガンが惑星最大のボリバル大陸のステップ地帯に植民地を築き、593年にエスペランスが第三帝国に加盟した頃には、この星は40国ほどの独立国家に分かれていました。その当時はボリバル大陸の中心部で栄えていた、人口の95%がヴェガンで占められるワオサン国(Waothan)がエスペランスの政治面や技術面でリードしていましたが、やがて祖先のヒスパニック文化を持ち続けた人類諸国にソロマニ主義が浸透していき、人類とヴェガンの間に対立が生じました。
 720年に人類諸国とワオサン国で戦争が起き、敗れたワオサン国のヴェガンはソロマニ人の支配下で二級市民扱いを受けました。ワオサン国はリム戦争後に独立を回復しましたが、新アルゼンチン国(Nueva Argentina)に代表される親ソロマニ政権の人類諸国とは相互の不信感により現在冷戦状態にあり、惑星の主導権を握るべく、絶えずスパイ同士の諜報戦や傭兵を用いた小規模紛争が繰り広げられています。このような危険な情勢により、トラベラー協会は惑星全土をアンバーゾーンに指定しています。また帝国は海軍基地をエスペランスに置き、事態が激化しないよう監視を続けています。
 なお、ワオサン国の統治者トゥフールは、アルデラミン公やソル大公、そして帝国皇帝にエスペランスのヴェガ自治区への加盟を請願していますが、異星人に統治されることを嫌う人類諸国との全面戦争に火をつけかねないため、請願を却下するようソル大公と海軍は共同でストレフォン皇帝に進言しています。
 ちなみにエスペランスには、ソロマニ・リム宙域最大のチョコレート製造企業のドク・ショコラトル社(Doc Xocolatl)の本社があります。創設者がソルセック高官の一族であったこともあってか、かつてはソルセックに操られたゲリラ部隊が化学兵器工場の隠れ蓑としてこの企業を利用し、1007年に帝国海兵隊の特殊部隊が巨大工場に突入するという事件もありましたが、1030年に新体制で復活した同社は、かつての栄光を取り戻しています。同社製品の「箱入りチョコレート・コインセット(boxed Chocolate Coyns)」は、キーラン新大公が就任式典で美味しそうに食していたことから、ソル領域で大ヒット商品となりました。
(※帝国でCoynというと、貨幣(Coin)ではなく、ドロインが通過儀礼として自らの社会階層を定める際に用いる36枚組の占術コインのことを指します。ですからこのチョコレート・コインも、そういったデザインをしているのでしょう)

マシャッドゥン Mashaddun 1117 C994210-D 高技・低人・肥沃・非工 Im
 この星はメガコーポレーションのSuSAGが所有していて、現地の動植物を調査しています。

ボスコーン Boskone 1214 E00016A-E 高技・小惑・低人・非工 G Im リュドミラが領有
 ボスコーン自体は「砂利のベルト(資源や氷が少ない、鉱業的価値のない小惑星帯の意味)」でしかありませんが、この地はアルファノール(0914)~ズィム・ジア・グウィ(1515)間(およびエスペランス星団方面)の通商路で燃料補給に立ち寄る星系として、毎週数百万トンの貨物が行き交う要衝です。
 戦後、帝国の様々な運輸企業は自社の燃料補給ステーションをボスコーン星系外周のガスジャイアントの衛星に建設し、それらはロボットや短期労働者によって運営されました。このルートを利用する巨大貨物船の多くは、ガスジャイアントで燃料スクープができなかったため、ステーション群は円滑な恒星間輸送のためには必要不可欠でした。
 しかし競争が激化すると、ボスコーン星系内での通商戦争は日常的となり、企業部隊同士の戦闘によってステーションは破壊されました。1050年には休戦状態が確立されましたが、緊張は高いままでした。
 1053年、近隣のリュドミラ政府はボスコーンの領有を宣言し、有料で全ての運輸会社に対しての安全を保証すると申し出ました。本来は通行税の徴収は帝国法で禁止されていますが、帝国商務省やメガコーポレーションは例外的にこの提案を受け入れました。これでようやく、ボスコーンは静かで退屈な世界になったのです。
 現在もボスコーンは恒星間交通で賑わっています。毎日何十隻もの巨大貨物船が様々な補給ステーションに立ち寄り、小規模運輸会社の船や自由貿易商船はガスジャイアントで燃料を補給して、星系を横断していきます。星系の大部分は無人ですが、小惑星帯にはこの星系唯一の「住民」であるリュドミラ星系海軍が駐屯し、中立の立場で哨戒任務にあたっています。
 なお、海賊や密輸業者が築いた秘密基地がここにあるという噂が絶えませんが、これまで何も発見されていません。

リュドミラ Ludmilla 1216 A45689D-E 高技 G Im
 リュドミラには少なくない数のヴェガンが居住していて、ヴェガ自治区への加盟問題は長年に渡って緊張の源となっていました。
 1104年に人類優先党(Man First Party)が第一党となって政権を握ると、その名の通りに人類を上とし、ヴェガンを抑圧する政策を採り始めました。人類優先党は人種差別やテロリズムへの直接的な肯定を慎重に避けてはいるものの、反ヴェガ系テロリストへの非難をしないなど、ヴェガンと人類の対立を煽っています。
(※なお新政権の対ヴェガン政策が、ボスコーン星系の「中立」の立場まで放棄するに至るのは1116年になってからです)
 人類優先党は、1067年にエスペランスの政治活動家グスタフ・マーフィー(Gustav Murphy)によって設立されました。この党は好戦的な人類至上主義を掲げ、ヴェガ自治区内の人類世界の帝国への再編入を主張しています。人類優先党はソロマニ党に似たイデオロギー政党ですが、人類優先党が人類であるのならば種族に関係なく党員として受け入れている点は異なり、公式にもソロマニ連合への支持を表明していません。しかし一部党員はソロマニ主義への共感を隠さず、中にはヴェガンへの暴力行為に関与している者もいます。

ヒエロニムス Hieronymus 1316 X530622-6 砂漠・非工・非農・貧困 R G Im
 ヒエロニムスは現在、未発達の文明の保護のために進入禁止星系に指定されています。水界も鉱物資源も無く、惑星自体に価値はありません。

レフリー情報:
 ヒエロニムス星系は、初期の偵察局による探査では完全に無人の世界として記録され、590年頃に帝国がエスペランス星域を設置した後も、訪れる人はほとんどいませんでした。
 しかし756年に、とある商船がヒエロニムスへの緊急着陸を迫られ、その際に原住民の人類と接触したのです。その船のカタンガ船長(Captain Katanga)によると、出会った人々は皆礼儀正しく、友好的でした。彼らは古語や古い発音を含めて大きく訛った奇妙な銀河公用語を話し、見るからにソロマニ人を起源としているようでした。そして驚くべきことに、彼らはテレパシーや念動力といった超能力を公然と使いこなしていました。カタンガ船長は原住民に危害を加えられることなく、船の修理を終えて無事に帰還しました。
 カタンガ船長の遭難は超能力弾圧以前の出来事でしたが、未知の超能力者集団の存在はリュドミラのソロマニ当局を慌てさせました。すぐさま探検隊が送り込まれましたが、原住民の痕跡すら発見することができませんでした。カタンガ船長の報告は旅行者の間で噂話として広まり、ソロマニ政府は以来ずっと星系を進入禁止星系として隔離しました。
 ソロマニ・リム戦争後に帝国がこの星域の支配権を取り戻すと、偵察局はヒエロニムスを再探査しました。すると今度は人類の集落を発見できました。住民に対する密かな調査により、かなりの数の超能力者が本当にいたことが判明しました。帝国当局は惑星の「浄化」を真剣に検討しましたが、最終的に偵察局の主張が通り、ガヴィン皇帝はヒエロニムスを進入禁止星系に指定しました。それ以来偵察局は、外部と集落との「不幸な」接触が行われないように警戒を続けています(そもそもテレパシーが当たり前のこの世界で、住民に感付かれずに接近することは潜入捜査官でも困難ですが)。
 偵察局による長期間の観察により、ヒエロニムスの人々は確かにソロマニ人で、集落は暗黒時代末期ないしはそれ以前から存在していることがわかりました。しかし正確な起源や、独特な文化が形成された理由は今もわかりません。


フランダース Flanders 1517 A755A86-F 高技・高人・肥沃 G Ve
 フランダースはヴェガ自治区の一部ですが、惑星の重力がヴェガンにとって快適ではないため、住民のほとんどは人類です。最初はヴィラニ人世界でしたが、「人類の支配」の間に主に西ヨーロッパ系ソロマニ人が移住した結果、フランダースはソロマニ人世界となりました。
 しかしヴェガンとは長年に渡って友好関係を築いており、現在のヴェガン統治も満足して受け入れています。

ベレロフォン Bellerophon 1519 A88A986-E 海洋・高技・高人 G Ve
 ベレロフォンはヴェガ自治区内で人類が主に居住している海洋世界です。いくつかの島と、干潮時に姿を現す岩礁を除いて、惑星表面は海で覆われています。惑星は過ごしやすい気候を持ち、広大な海は極端な気候を和らげる働きをしていますが、季節性の大嵐(現地語でヤズ・ユギョル)が小型艇や航空機に危険をもたらすこともあります。唯一の大きな衛星アンタイア(Antiea)の影響により潮の干満は非常に激しく、核融合炉が実用化された今でも、入植初期からある時代遅れの潮汐発電施設で住民は電力を補っています。そして海水中には金属成分が豊富です。
 ベレロフォンで最も印象的な海洋生物が「ダガダシ(daghadasi)」です。成熟すると全長2km以上にもなるこの生き物は、まるで動く島です。そしてベレロフォンの特徴的な生態系は、このダガダシを中心にして成り立っています。
 かつてのヴィラニ人は特にこの星系に価値を見出さず、ダガダシを狩って食料にしていただけでした。恒星間戦争時代には地球連合の海軍基地がアンタイアに建設され、その基地に食料や原料を供給するために、ギリシャ系やトルコ系の移民も惑星に定住しました。やがて冒険好きな者はダガダシの群れを追うようになり、遊牧民の社会を形成していきました。他の者は小さな島に都市を築き、段々と海上や海中にも都市が建設されていきました。海軍基地が閉鎖された頃には、ベレロフォンは近隣のヴェガン世界との交易で成功していました。惑星の輸出品は最初は水産物のみでしたが、やがてこの星の生態系を参考にして海水中から金属を抽出する技術が確立され、これらの輸出により大きく栄えたのです。
 暗黒時代の間、この星も衰退を避けられませんでしたが、ヴェガンとの文化的・経済的な結びつきは、先端技術を維持する大きな助けとなりました。ヴェガンの文化多元主義的な考え方の影響を受け、ギリシャ・トルコ系の言語や文化がそのまま守られました。
 第三帝国の台頭と、その後のソロマニ政権支配の間でも、ベレロフォンの日常生活にはほとんど影響がありませんでした。ベレロフォンの住民の大部分は純血のソロマニ人でしたが、過去のヴェガンとの文化的・経済的関係により、ソロマニ主義は根付きませんでした。それどころか、ベレロフォンはソロマニ党内でヴェガンの権利擁護を主張していた「ヴェガ派」の支持者でもありました。そのヴェガ派が権力闘争で敗れると、ベレロフォンはソロマニ連合からほとんど経済支援を受けられなくなり、住民も連合に対して形だけの支持をするようになりました。ソロマニ・リム戦争でも住民のわずかしか連合のために戦いを志願しなかったほどです。戦後、住民はヴェガ自治区への編入を受け入れ、統治機構のトップだけがソロマニ党官僚からヴェガン官僚に入れ替わりました。
 現在の住民は、浅瀬からそびえ立つ高さ2~3kmのパイロン型都市や海中都市に住んでいます。これらの都市に計20億人が居住し、それぞれの都市は自前で工業や食料生産を賄うことができます。惑星の中心地は、ペガサス地上宇宙港から一番近い(といっても375km離れていますが)フォカエア市や、首都コリンシア市などいくつもの超高層パイロン都市が立ち並ぶイサンドロス礁(Isandros Shallows)です。
 それ以外に、1000万人ほどの「海洋遊牧民」が都市部と異なった社会を構成しています。彼らは数千人規模の部族ごとに、核融合炉で動く大きな船、と言うより船上都市に住み、海上を放浪しています。彼らは居住船と同じ大きさのダガダシを、ミサイルとレーザー砲で武装した二人乗りの狩猟船(hunterfoils)の集団で狩っています。しかし遊牧民は、自分たちが生きるのに必要なだけのダガダシを狩るように、狩ったダガダシをなるべく無駄にしないように心がけています。肉はもちろん食べ、脂肪からは燃料と潤滑油を取り出し、繊維質で織物や紙を作り、骨に蓄積された金属分すら集めます。
 恒星間企業のシーハーベスター社は、ダガダシを研究し、生殖前段階の若いダガダシが希少な生化学合成物「PDPT-β」を産出することを最近突き止めました。この物質は癌細胞やウイルスを「一掃する」するような医薬品のために、幅広く応用が期待されています。しかしPDPT-βは現在のところダガダシ以外からは見つかっておらず、人工的な合成手段もありません。
 シーハーベスター社はダガダシを捕獲するために、工場船の小船隊を運営する許可を惑星政府から得ました。しかし近年、シーハーベスター社が許可された捕獲量以上にダガダシを狩り、それが遊牧民社会だけでなくダガダシを含むこの星の生態系にまで危機を及ぼしている、という抗議が遊牧民や外世界の(汎銀河生命友愛協会のような)環境保護活動家の間からなされています。最近では、海洋遊牧民とシーハーベスター社の間の緊張は、両者の激しい対立に繋がっています。シーハーベスター社は疑惑を否定し、問題を遊牧民や外世界人の「テロリスト」の責任だと主張しています。
 ベレロフォンには地方警察以上の軍組織はありません。武器類は都市部では所有できませんが、遊牧民や企業の船にはダガダシを狩るための軍用並の大型武器を保有する免許が発行されています(取得は簡単ではありませんが)。
(※このベレロフォンの詳細な設定は、『Adventure 9: Nomads of the World-Ocean(海洋世界の遊牧民)』を参照してください)
 「ダガダシ(古代テラのトルコ語で「山のような島」)」の名付け親は、エスメレイ・ウズンジャルシリ(Esmeray Uzunjarsili)というトルコ系地球人と言われています。化学者から自由貿易商人となった彼女は、船の故障で2ヶ月間、当時ヴィラニ帝国領だったベレロフォンでの滞在を強いられました。退屈しのぎに現地の生物を調査した彼女は、そのダガダシの体内にアルツハイマー病の特効薬の成分を発見し、後に億万長者となりました。

ムアン・グウィ Muan Gwi 1717 A456A86-F NW 高技・高人 G 自治区首都
 知的種族ヴェガンの母星であり、ヴェガ自治区の首都でもあるムアン・グウィは、410億(人類3億人を含む)もの人口を容れるために非常に都会化されています。地表には荒野は既に無く、海洋を含めて郊外は全て食料生産のために開発され、慎重に気象制御がなされています。
 大多数のヴェガンは、そびえ立つアーコロジー(完全環境都市)に住んでいます。惑星表面の開発の余地がなくなって以後も、反重力で支えられる高さ数キロメートルの超高層タワーや、海上の浮遊都市などがこの2世紀の間に建設されました。
 ムアン・グウィはリム宙域の主要な通商路上にあり、宙域内で最も忙しい宇宙港やXボート中継基地、巨大な(帝国軍とヴェガ軍共同の)海軍基地を誇ります。惑星周辺には5つの巨大軌道宇宙港が等間隔で浮かんでおり、6番目の宇宙港も建設中です。年間1億人の旅行者が宇宙港を利用し、無数の宇宙船(小型船から10万トン級の巨大貨物船まで)が常に出入りしています。また工業生産力も強大で、ヴェガンの産業複合体は優れた製品をリム宙域だけでなく、ソル領域全域、さらにアスラン諸氏族などにも輸出しています。またここには、1020年に設立され、異星文化学の研究で高い評価を得ているヴェガ大学や、有名なVFP通信の本社、さらに太古種族の遺跡も存在します。
 大公キーラン・アデアーは、領域首都をこのムアン・グウィに移転させる計画を練っています。これはリムにおけるヴェガンの重要性を考慮してのことですが、非人類の母星に帝国の行政首都を置いた前例がないため、この計画は人類に対する裏切りであるとソロマニ人やヴィラニ人の活動家の怒りを買い、伝統を重んじる貴族からは(第二帝国以来リム宙域の中心地である)ディンジールのような人類世界に首都を置くべきだと非難されています。
 ソロマニ・リム戦争以後、ヴェガ軍は予算の大部分をここムアン・グウィとムアン・イスラーの星系防衛に注ぎ込んでいます。惑星防衛艦の拡充、埋設中間子砲の設置、アーコロジーへの対核ダンパーや中間子スクリーンの連動防御システムの取り付けなどがなされ、最終的には自治区全世界でこういった防衛体制を築くことを目標としています。この受注の多くは自治区内企業が請け負いましたが、一部(それでも数兆クレジット規模)は帝国企業に流れました。当初はデルガドが落札したものの、1102年にデルガド製の対核ダンパーが品質試験で不合格となり、ムアン・グウィの守護者トゥフールは新たな入札の実施を決めました。デルガド以外に、LSPやインステラアームズはヴェガ系企業と手を組んで応札する構えを見せています。
 ヴェガ軍の防御一辺倒の姿勢は、帝国海軍全体の増強には必ずしも繋がらないため、一部の帝国海軍高官を苛立たせてはいますが、ヴェガ市民の安心感の醸成と領域首都誘致での利点の形成に大きく役立っているのも事実です。

ヴェガ(グウァトゥイ) Vega(Gwathui) 1720 A000786-E 高技・小惑・非農 Ve
 青白いA型恒星であるヴェガは、テラの夜空で5番目に明るい星です。この星系には惑星はなく、塵のディスクや、鉱物の豊富な2本の小惑星帯があるだけです。特に外側の小惑星帯は、炭素や氷の豊富な小惑星から成っています。この星系はヴェガンにはグウァトゥイと呼ばれていて、長らく彼らの鉱物資源の主要な産地でした。
 星系経済は今では多角化されていて、主力産業は造船、鉱業、超密集合金の製造です。2つの小惑星帯には計244基のスペースコロニーがあり、それぞれ数十万人の住民が住んでいます。その中で最大のヴェガン居住区であり、星系首都でもあるのがアズォン・ジー(Adzon Dzi)です。
 かつてのソロマニ政権下では、この星系はソロマニ党が運営する強欲な「ヴェガ工業集団(Vega Industrial Collective)」に支配されていましたが、戦後は一千年以上に渡って小惑星採掘と鉱石処理を担っていた敏腕な商業トゥフールである、ギョ・アシュイ(Gyo Ashui)が星系を管理しています。
 人口の99%はヴェガンですが、わずかながら人類の宇宙鉱夫も星系内で働いています。そのほとんどが渡り労働の帝国人ですが、数千人ほどが頑固にも旧VIC体制に忠実なソロマニ人宇宙鉱夫の子孫です。彼らは星系外縁に浮かぶ荒廃したオリヒメ(Orihime)などのコロニーで生活し、時折訪れる自由貿易商人と取引しています。
 ここでは時々、不審な船が星系外にジャンプしていくのが目撃されていましたが、1104年にヴェガンの惑星防衛艦が、その未確認船がソロマニ連合のインディペンデンス級哨戒艦(Independence-class Solomani patrol cruiser)であることを突き止めました。ギョ・アシュイの治安部隊は、不満を抱いているソロマニ人鉱夫と侵入者の間の結託を恐れ、警戒していますが、ヴェガ海軍はあえて静観しています。
 テラの歴史上の有名な水上艦からその名前が採られた、ソロマニ海軍のSM型インディペンデンス級1000トン哨戒艦(TL13)は、ジャンプ-4と4G加速の性能を持ち、主に国境や主要通商路(時に辺境の低人口世界)の警備、輸送艦の護衛、海賊対策、臨検などに用いられています。武装が全てレーザー砲なのは、地球連合時代から続くソロマニ人の「伝統」です。この船には通常の乗組員や砲手以外に、バトルドレスで武装した兵士を最大2分隊(16名)まで搭乗させることができます。ただし内装は簡素で窮屈なため、この船で赴く長期任務はあまり人気がありません。

ムアン・イスラー Muan Issler 1816 A354A86-F 高技・高人 G Ve
 ムアン・イスラーは「ヴェガン第二の母星」と呼ばれていました。惑星環境は多くの点でムアン・グウィと似ており(低重力・薄い大気・広大な砂漠)、ヴェガンにとって最初の星系外植民地となりました。
 かつてのムアン・イスラーは繁栄したTL10世界でしたが、やがてヴィラニ帝国とヴェガンの戦争が始まりました。ヴィラニ軍はムアン・グウィとムアン・イスラーを何年かけても攻略できず、作戦方針を転換しました。ヴィラニ艦隊は、ムアン・イスラーの鉄壁の防衛網の外から地表へ向けて核ミサイルを一斉射撃したのです。ほとんどのミサイルは防衛艦が防いだものの、ヴィラニ軍の弾薬はそれ以上に膨大でした。攻撃はムアン・イスラー上の全ての文明が消え去るまで続けられ、深度避難所や隔絶した荒地に逃げ延びた数千人を除いて約20億人のヴェガンが死亡しました。
 この残酷な事実はムアン・グウィに伝えられ、次の目標が自分たちであることが明白となりました。40年間ヴィラニ人と戦い続けたヴェガンは、あえなく降伏しました。
 ヴィラニ人の支配下となったヴェガンは、征服されたムアン・イスラーに徐々に移住し、荒廃した生態系を修復し、文明を再建する作業に着手しましたが、恒星間戦争時代にはまだ放射能汚染がひどく、まばらにしか入植はできませんでした。
 ムアン・イスラーの一件は、後にヴェガンが地球連合に加わる理由の一つとなりました(ただし最初は「人類」に対する警戒感はあったようです)。そして「人類の支配」と暗黒時代を通して、ヴェガン政府の主要なプロジェクトはこのムアン・イスラーを栄光の時代へと戻すことでした。そして彼らはやり遂げました。爆撃の傷跡は過去のものとなり、今では爆撃前の人口よりも多い125億人が住み、ヴェガンの工業と商業の騒がしいほどの中心地となりました。
 現在ムアン・イスラーは、首都ムアン・グウィと同様に、帝国で最も強力な防衛力を誇ります。彼らは、決して忘れていないのです。

アステルー・テュイ Asterr Tyui 1917 A666986-F 高技・高人・肥沃 G Ve 研究基地γ
 アステルー・テュイは薄暗い赤色矮星の軌道を周回している昼夜が固定された世界です。惑星の夜側では水分が寒さで凍りつき、昼側は乾燥しきっています。人類の移民は中間帯の湿潤地域に集まる傾向がありますが、ヴェガンにとっては昼側の方が快適でした。
 この星系は-5800年頃にはヴェガンの初期植民地の一つでした。第一帝国の支配下となると、リム・メインの繁盛した中継拠点としてヴィラニ人が入植しました。この世界ではヴェガンとヴィラニ人支配者の関係は緩やかなものでした。その後、地球連合、第二帝国、第三帝国と支配者は代わりましたが、その都度住民は時の支配者に忠誠を誓いました(ソロマニ連合時代には抑圧を受けましたが)。
 アステルー・テュイは、アウシェンヨ(Aushenyo)の存在で有名です。このトゥフールには数百万人が所属し、彼らのほとんどがスコリウム(Scholium)やテラ大学の分校の関係者です。
 一方、帝国はこの地に研究基地ガンマを維持しています。一般的な帝国研究基地と異なり、この研究基地は高人口世界にあり、その研究目的も広く知られています。ガンマ基地の科学者たちは、あらゆる植物や動物、特に人類やヴェガンの遺伝子を詳しく調べています。彼らの目的は遺伝子工学の研究ではなく、遺伝的変異の収集記録にあります。この事業は、帝国内外の人々全ての遺伝子サンプリングを含みます。ここで編纂されたデータベースによって、科学者は種の進化の歴史とその方向性の結論を出すことができます。
 アウシェンヨと研究基地の方向性は一致しているため、両機関は密接な協力関係にあります。ただ、ガンマ基地の事業は時折政治的論争の的となり、不満を持つ者が基地の破壊や任務の妨害を試みていますが、帝国の保安部隊はアウシェンヨ防護隊(Aushenyo protective forces)の支援も受けているため、基地への攻撃はめったに成功していません(一方で、ここの研究者が外世界に出張している際に時々災難に遭っています)。
 アウシェンヨは恒星間戦争時代からの長い歴史を持つトゥフールです。「記憶する者たち」ことアウシェンヨは、全ての知的生命の全ての記録を残すべく、銀河最大の歴史アーカイブを編纂しています。アステルー・テュイにある「アウシェンヨ・スコリウム」は、既知宙域全ての過去15000年間に及ぶ社会経済データや歴史資料の宝庫です。アウシェンヨの研究者(ヴェガンと人類)とは宇宙各地で出会うことができ、彼らは人生の全てをあらゆる事象の記録に捧げています。

マーガンサー Merganser 1919 A942786-F 貧困・高技 Ve
 マーガンサーはあまり居住に適した惑星ではありません。その高重力はヴェガンにとっては心地よくありませんし、薄くてほこりまみれの大気には二酸化炭素と硫黄化合物が多く含まれ、高温で乾燥しています。さらに地殻運動が活発なため、活火山の連山が定期的に灰の雲を吹き上げています。水界はいくつかの内陸海と湖ぐらいしかなく、地表には工業用金属や放射性物質の堆積物が異常に多く見られます。
 当初はディンジール(1222)のソロマニ党と密接な関係のあったマーガンサー鉱業社(Merganser Mining Corporation)によって開発が始まりましたが、ソロマニ・リム戦争後は、MMCの資産はヴェガ自治区への戦後賠償として国有化されました。現在マーガンサーの開発は、守護者トゥフールが直接手掛けています。
 大部分の住民はソロマニ人で、ヴェガ系鉱業会社やサービス産業で働いています。こういった場合種族間の緊張が心配されますが、労働者には高給が支払われているので、両者の関係は円満です。住民の3分の1は定住者で、残りは自治区外の帝国人を含む短期労働者です。彼らは実用優先の家屋に住み、安さと品数だけが魅力の複合型商業施設で買った、大量生産の衣服を身にまとっています。


【ライブラリ・データ】
シュルギアス Shulgiasu 2319 A758986-F 高技・高人・肥沃 G Ve
 シュルギアスには5500年以上に渡る、長く、そして輝ける歴史があります。第一帝国の下、1600年間この星はクシュッギ宙域(当時の名前)の首都であり、宙域で最も人口稠密な世界であり、リムのヴィラニ文化の中心地でした。ソロマニ人の移住は第九次恒星間戦争以後に始まりましたが、ヴィラニ人住民は決して同化されませんでした。ヴィラニの言葉と文化は、今日でもシュルギアスでは主流です。
 暗黒時代の間に、シュルギアスはヴェガン(特に近隣のムアン・クウォイェン(2218))と強い関係を樹立しました。この関係は暗黒時代による衰退を防ぎ、恒星間交易を保つ助けとなりました。-800年頃には、シュルギアスはヴェガン世界と人類世界(ラガシュ(2121)やガネーシャ(2518)やバナスダン(2920)など)の間の重要な仲介役となっていましたが、独自の「小帝国(pocket empire)」の建設には動きませんでした。それでもこの交易関係はリム宙域の再生に大いに役立ちました。
 しかし、ヴェガンとの関係の深さや強いヴィラニ文化によって、シュルギアスはソロマニ統治下では激しい弾圧を受け、第一帝国時代の多くの建造物や遺産が破壊されてしまいました。やがて帝国の下に戻った後、ヴェガンが帝国以上に地方自治に介入しないように見えたことと、ソロマニ支配の苛烈さでかえって非人類による統治をこの星の人々が容易に受け入れられたことから、1036年にシュルギアスはヴェガ自治区に加盟しました。
 ヴェガンからは、シュルギアスの人類市民は一つのトゥフールとみなされます。星系の名目上の統治者はヴェガンの守護者トゥフールですが、実質的には人類の官僚機構が統治しています。この星の重力と気候はヴェガンにとっては不快で、彼らはあまりシュルギアスには長居しません。結果的に人類の自治権はほぼ無制限となり、この星の繁栄を促進しました。
 現在、ソロマニ支配の間に失われたヴィラニ文化を回復する長期事業に、シュルギアスの人々は挑んでいます。歴史的建造物を再建し、伝統芸術を保護するために、公的私的を問わず資金が投じられています。また、ソロマニ政権下で宙域中に散逸した遺物を取り戻すべく、代理人(一部はフリーランスの)が各地に派遣されています。シュルギアスでは少数派のソロマニ系住民でさえ、地元愛に燃えて、もしくは贖罪意識から、この事業に熱心に取り組んでいます。

カリッカム Khalikkam 2418 B610664-C 高技・非工・非農 G Im ガネーシャが領有
 カリッカムは、ソロマニ政権時代にガネーシャから入植された、円熟した植民地です。現在、非暴力的な独立運動が活発に行われており、ガネーシャ政府にとっては不本意ながらも、ゆっくりではありますが交渉は進んでいます。

汎銀河生命友愛協会 Pan-Galactic Friends of Life
 汎銀河生命友愛協会は、ソロマニ・リム宙域の帝国領内で環境保護活動を行っている団体です。彼らの目標は、基金の調達、現地調査、メディアキャンペーン、不買運動や抗議活動を通して、絶滅の危機にある種や脆弱な生態系を守ることです。協会はラガシュで1073年に設立され、当初は環境過激派集団と思われていましたが、1090年代にフィリーン(2807)で絶滅の危機にあった朝鳴き鳥(dawnsinger)の保護活動で大いに尊敬を集め、会員を増やしました。協会は暴力に頼らず、星系政府やメガコーポレーション、さらには帝国に対しても臆することなく直言しています。


【参考文献】
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Adventure 9: Nomads of the World-Ocean (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)

宙域散歩(18) リム・メイン1 ハーレクイン星域

2012-11-30 | Traveller
 ソロマニ・リム宙域を語るなら、まずは「リムの玄関口」であり、「リム・メイン」の一方の端であるハーレクイン星域から。ここは(かつてほどではないにしろ)星間交通の要所であると同時に、数々の冒険の舞台となっています。GDW時代には『アルゴン・ギャンビット(The Argon Gambit)』『デス・ステーション(Death Station)』『逃避行/単独逃避行(Marooned/Marooned Alone)』『The Lost Village(JTAS24号掲載)』『A Body Swayed to Music(Challenge誌37号掲載)』といったシナリオが刊行され、ライブラリ・データやその後のサプリメントでも設定が手厚くサポートされています。古参ファンの方なら「チャンパ中央宇宙港(Champa Interstellar Starport)」(JTAS7号・タクテクス21号掲載)の名前に聞き覚えがあると思いますが、その惑星チャンパがあるのもここです。
 今回はハーレクイン星域に加え、リム・メインで接続された、シナリオ『Prison Planet(GDW版)』の舞台のニューカム星系を含むバナスダン星域の一部も採り上げます。


 ソロマニ・リム宙域の他の銀河核方向星域と同じく、ハーレクイン星域も元はヴィラニ人によって入植され、後にソロマニ人によって開発された星域です。700年から1001年まで続いたソロマニ党政権の間、この星域はテラとオールド・エクスパンス宙域の繁栄地域を結ぶ、非常に重要な位置にありました。しかし戦災によって宙域経済は不況に落ち込み、帝国統治下となってからは大規模交易の流れはハーレクイン星域をあまり経由しなくなりました。1002年に戦争が終わって以後、星域経済はかつてのようには回復しておらず、住民の多くは帝国に不満を持っています。
 戦後、帝国陸軍と海兵隊は各地で、隠匿した武器を引き渡す協定を調印して非暴力に転じさせるなどして、過激なソロマニ運動を根絶していきました。その結果、1047年から星域内における帝国軍による占領統治は徐々に解かれていき、1102年には完全に終了しています。
 それでもソロマニ党はハーレクイン星域の多くの世界でいまだに勢力を保っています。ソロマニ連合は公的には帝国内の地方ソロマニ党の活動との連帯を表明していますが、現実には支持だけに留まっています。稀に狂信的なソロマニ主義者による暴動は発生しますが、星域内に平和と安定は広まっています。
 現在の星域公爵は、「抵抗派」に属するハーレクイン公ドミトリー・オート=フィオンブレア(Dmitri hault-Fionbrea)が勤めています。老境にある彼は、星域内の民族問題を長きに渡る対話と暴力の抑制で解決しようと試みていますが、彼のお膝元である星域首都アルキイルキイ(ここはヴィラニ民族主義の温床です)の反ソロマニ派貴族からは、弱腰であると突き上げられています。また彼はいわゆる「お堅い」人物として知られています。
 おそらくハーレクイン公に対する最も厳しい批判者は、彼の妻であるコムネナ(Commnena)でしょう。かつては名門だった彼女の家は、混血人種だったためにソロマニ統治下の間にほぼ絶えてしまい、さらにソロマニ・リム戦争で祖父を失っているのですから。また、公爵家の跡取り息子であるエンキドゥ(Enkidu)は、まだ未成年ですが、思想面で母親の影響を受けていると言われています。

 ハーレクイン星域には33の世界があり、総人口は671億人です。最も人口が多いのはアオスタの170億人です。帝国海軍第293艦隊が、アルキイルキイ基地とユイ・ブラシール基地に駐留しています。


ガッデン Gadden 2506 D893200-8 低人・非工 G Im
 ガッデンは濃厚で汚染された大気を持つ、乾いた寒冷の惑星です。人口は1000人に満たず、政府組織もこれといった産業もありません。中緯度のツンドラ地帯にある惑星唯一の小さな入植地では、簡単に入手できるタングステンの鉱石を細々と採掘しています。ラッキー地上宇宙港(Lucky Down)はDクラスに分類され、原っぱにかろうじて宇宙船の補修「小屋」と燃料補給ポンプがある程度の代物です。また、惑星の大部分は未探査のままとなっています。
レフリー情報:ここには、鉱夫たちも知らない資源が眠っています。惑星上の植物の中には、戦闘ドラッグの原料になる化学物質を含む品種があるのです。もしも薬品の精製法を発見することができれば、それはSuSAGのような企業にとっては大きな利益となるでしょう。ただし現時点では、その成分が使い物になるかどうかもわかっていません。

スカラムーシュ Scaramouche 2509 A7C6503-9 非工・非水 R Im
 スカラムーシュの腐食性の大気には、塩酸の蒸気と有毒な化学物質が混じっており、酸性の海は工業用の漂白剤並です。惑星には塩素を呼吸するバクテリアや植物が生息していますが、高等な動物は発見されていません。
 この世界はかつてのヴィラニ人には無視され、暗黒時代の間に入植されたと考えられています。地元の伝承では、自分たちはイースター協定やディンジール連盟(※双方とも暗黒時代~第三帝国初期にかけてこの宙域に存在した小国家)やヴェガンを相手に暴れ、後にこの地に独立国を興したソロマニ系海賊団の末裔であるとしています。その起源の真偽はともかくとして、現在の住民はそのたくましさと自立心で知られています。
 資源の乏しさにも関わらず、彼らは機械技術で人口を支えられるだけの食料と工業力を得ています。多くの住民は、自前の核融合発電所と水耕栽培農地と鉱山を抱える地下都市に住んでいます。ただし、昔から自由貿易商人たちの母港であるブローガン地上宇宙港(Brogan's Down)を抱える、(地上宇宙港を持つ唯一の都市である)ティベリオ(Tiberio)だけは塩酸の海の岸辺に位置しています。
 スカラムーシュの住民は、ほぼ全てが純血のソロマニ人です。帝国の貴族支配に対する嫌悪感から、彼らはソロマニ主義の黎明期から熱心な支持者となり、ソロマニ・リム戦争の頃には、成人の15%が愛国心に燃えてソロマニ連合軍や商船艦隊に志願しました。
 戦争が終わっても、スカラムーシュの惑星防衛艦の小戦隊は降伏を拒否し、最後の1艦まで戦い続けました。その後長い間、進駐した帝国軍が統治を行いましたが、住民は帝国の支配をよしとせず、「古き良き日々」を求める反帝国暴動や小規模なテロ活動が頻発しました。住民の敵意のために、スカラムーシュはハーレクイン星域の中で1090年代末でも軍政が続いた数少ない星系となりました。
 1098年、総督暗殺を発端としたいわゆる「一斉蜂起(Unity Uprisings)」に対し、ティベリオ駐留部隊(海兵隊大隊と陸軍旅団の混成部隊)の指揮官兼代理総督のリンジイル・ウルシュカアン陸軍大将(General Ringiil Urshukaan)が容赦のない対抗措置を行った結果、ゲリラ攻撃は鎮圧され、蜂起の首謀者であるモラデヨ・デービス・アティヤー(Moradeyo Davis Atiyah)は逮捕され、この蜂起が星域全体に飛び火することを未然に防ぎました。
 しかし、ウルシュカアン大将に残虐行為などの疑いが浮上し、紛争終結後に総督に就任したチャンパ出身のローザ・ディミトリュー准男爵(Baronet Rosa Demetriou)は、駐留軍の縮小などを定めた和解案の中に、ウルシュカアン大将の告訴のための追加調査を含めています(一方ウルシュカアン大将は、疑惑をかけられたこと自体に抗議して自ら退役しました)。
 1102年の民政移管後、駐留軍は緊張緩和のために撤退を開始しました。しかしそれ以後、スカラムーシュの政府は非常に不安定な状態が、時には無政府同然となることが続いています。地元のソロマニ党は、有力な政治指導者たちが一斉蜂起の際に殺害されるか収監されたために、複数の派閥に分裂して内紛を起こしました。そしてそれに取って代わる政治勢力は出て来ませんでした。党派間の暴力と犯罪は日常のものです。
 現在、組織化された反帝国ゲリラ部隊の存在は無いように見えますが、将来的にこの混乱した世界にソロマニ主義テロ集団やソルセックが基地ないしは訓練キャンプを建設するのではないかと、帝国の情報部は警戒しています。なお「一斉蜂起」以来、トラベラー協会はこの星をレッド・トラベルゾーンに指定し、帝国も進入禁止指定をいまだ解いていません。
(※この星の進入禁止指定の解除とレッドゾーン指定のアンバーへの格上げがなされるのは、1107年088日のことです(その時期に駐留軍の撤退も完了しています)。元となったGDW版『The Solomani Rim』が1108年設定であるため、一般的な星図でここがアンバー指定されていることと矛盾はしていませんが、紛らわしいため修正を施しました。余談ですが、理由は不明ながら帝国では慣例的に準男爵位は男女で呼び方の区別をしないようなので、女性であるローザ卿が"Baronet"と書かれているのは誤植ではありません)
 1103年にウルシュカアン元大将は、アルクトゥルス星域、バナスダン星域、ソル星域を商圏とするラマルク・ミネラルズ社(Lamarck Minerals, LIC)の社長に就任し、わずか2年で同社の経営の立て直しに成功しています。しかし元々このラマルク社自体が、贈賄や暴力沙汰の話題が絶えない、あまり評判の良くない企業であるのも事実です。

ミスカトニック Miskatonic 2603 A487863-9 富裕 G Im アルファーが統治
 この星系は当初はヴィラニ人植民地でしたが、後に放棄されて、暗黒時代の間に隣接するアルファー星系(2703)のソロマニ人によって再植民地化されました。現在でも母星との関係は非常に良好で、今ではかなりの自治権を持ってはいるものの、公的にはアルファーの保護領のままとなっています。
 ミスカトニックは低重力ですが、水と自然に溢れた世界です。技術面では少し遅れていますが、人々は友好的ですし、惑星の資源は豊富です。一方で治安レベルは3と低いのですが、別に住民が公然と小銃を携帯しているのではありません。大多数の住民は大地主で、自分の土地を凶暴な害獣から守るために重火器を必要としているのです。
(※Challenge誌37号の記述によれば、時期は不明ですがソロマニ主義者による反乱がここでかつて発生したらしいです)

ビータス Beatus 2608 A688989-E 高技・高人・肥沃 G Im
 この星を統治する伯爵家では、風変わりな継承方法が採られています。家を継承するのは女性に限られますが、女当主の死後に長女が自動的に継ぐのではありません。当主の長男の妻が新たな女伯爵となるのです。

フィリーン Phireene 2807 A469895-D 高技・富裕 G Im
 フィリーンはスコットランド系のソロマニ人によって入植され、今でも儀礼用の衣装などに先祖の文化を見ることができます。
 この星のオトバ宙港街(Otoba startown)の裏の支配者は、「マザー・ショム(Mother Shom)」です。犯罪組織の元締めである彼女は、宙港街の全ての賭博場や、合法な商取引から違法な麻薬取引までを取り仕切り、酒場や歓楽施設から上前をはねています。彼女は太っていてかなり短気な一面もありますが、上流階級の作法や身なりを的確に身に着けていますし、彼女を出し抜こうとする目論見はたいてい死を招きます。
 マザー・ショムは、宙港街で最も大きくて豪華なカジノ複合ホテルである「ゴールデン・ランタン」のスイートルームに住み、そこから通信機器でビジネスの指示を出しています。建物の周囲は子飼いの「警備員」(と言っても凶悪犯やチンピラの集まりですが)によって厳重に守られ、対立組織を寄せ付けません。
 フィリーンの司法当局は、彼女の活動を渋々黙認しています。彼女自身が決して犯罪に「直接には」関与しておらず、また彼女の組織が宙港街における犯罪の横行や薬物の氾濫をある程度抑えているのも事実だからです(両方とも長い目で見れば彼女のビジネスにとっては良くないので、宙港街内のトラブルには「警備員」がすぐに乗り出してきます)。そして彼女には、星系の内外に有力な多くの「友人」がいるのです。
 マザー・ショムを捕らえて有罪判決を下すことは司法当局の悲願ではありますが、彼女は帝国法も犯さないよう注意を払っているため、帝国でさえも彼女に対しては動くことができません。
(※フィリーンは隣接するアンバー(2808 B777464-D)を領有していますが、設定には「比較的最近フィリーンから入植された」としかありません)

アオスタ Aosta 2902 A453A26-F 高技・高人・貧困 G Im
 しばしば「ソロマニ・リムの玄関口」と呼ばれるアオスタ星系は、ディアスポラ宙域やオールド・エクスパンス宙域とソロマニ・リム宙域を結ぶ物流の拠点として位置しています。アオスタ自体は住みにくい惑星で、主星の引力によって自転を固定され、バクテリア以上に進化した生命を持たず、寒冷で乾燥しています。さらに小惑星帯も含めて鉱物資源も少ない星です。つまりアオスタの人々は、資源なしに外世界との交易のみで自活していかなくてはならないのです。しかしこの不利な条件にも関わらず、彼らは長年に渡ってとても成功しています。
 アオスタの社会は、資本主義と共産主義が奇妙に交じり合っています。ここでは従業員が会社を所有し、厳しい法律によって利益は平等に分配されます(仮に重役であっても、給与や配当は新入社員と同じです)。法律は外世界資本の企業がアオスタの従業員に株式を譲渡することまでは求めていませんが、大部分の企業はより良い労使関係を築くために地元の慣習に従っています。よって、メガコーポレーションに勤務しているアオスタの住民は、宙域内のどの支社よりも気前の良いストック・オプションを得ています。また一部のメガコーポレーション従業員は、宇宙船の現物で配当を受け取っているので、アオスタ出身の自由貿易船長は宙域中の至る所で見ることができます。なお、アオスタでの商業活動に対する規制は非常に少ないです。
 アオスタでは、コンピュータのネットワークによって支えられる、あらゆる社会階層が参加する直接民主制が運用されています。地方規模の物事は電子議会(electronic town meeting)で、惑星全体規模の法律は住民投票で決められます。一方で、政府機構自体は非常に小さく、民間企業と多くの業務を契約することで運営されています。
 アオスタの企業は、革新的で、積極的にリスクを取り、常に利潤を求めることで知られています。一方で激烈な競争社会ゆえに、裏取引も辞さず犯罪まがいの手も使う、という悪評もあります。外世界からの訪問者は、あらゆる契約書の細かい字の部分までちゃんと読んでいる者のみに大きな可能性が開けている世界であると思い知ります。

アルキイルキイ Arkiirkii 2905 A66A8AD-F NW 海洋・高技 Im 星域首都
 この海洋世界はハーレクイン星域の首都であり、ハーレクイン公の居住地です。大多数の住民は、潮の満ち干きの激しさを避けて海中か空中の都市に居住しています。惑星唯一の地上宇宙港は、最大大陸の中心にある最も高い休火山の頂上にあります。ここは満潮時でも水没せず、昼季の暴風の影響を比較的受けない数少ない地点です。
 -4900年頃にヴィラニ人によって入植されて以来、約6000年に渡ってこの星系はヴィラニ文化を守り続けてきました。そのため、ソロマニ政権下ではこの星は占領統治の形で支配され、住民は大規模な反乱こそ起こしはしませんでしたが、惑星の広大な海と暴風を利用して反体制派の住民はソロマニによる抑圧から逃れていました。一方で連合は惑星上に軍事基地を建設し、戦争時には重税を科し、生産力を供出させました。
 その間、帝国貴族のオート=フィオンブレア侯爵家はこの地に在り続け、1世紀以上隠遁を続けました。やがて帝国がリム宙域に「戻って」来ると、反体制派住民を率いていた女侯爵シャナ(Shana)は、帝国に対する忠誠を示すために世に出てきました。代々続いた揺ぎない忠誠心と、ソロマニに対する住民の抵抗が皇帝に認められ、彼女にはハーレクイン公爵の称号を与えられ、星系は星域首都となりました。それ以来、オート=フィオンブレアの一族はこのアルキイルキイでハーレクイン星域の統治を続けています。
 比較的脆弱な海中都市には何よりも「安全」が求められるため、アルキイルキイは非常に厳格な規律を持つ階級制社会です。生活のあらゆる局面で規則が定められ、人間とロボットによる大規模な警察と広範囲な市民監視システムが、「清潔」で「静か」な犯罪のない社会を作っています。一般的には軽犯罪とみられる行為(泥酔や風紀紊乱等)でさえ重い罰金を科せられ、懲役刑には重労働が付き物です。さらに重犯罪者を当局に通報しなかったことが証明されると、犯人本人だけでなくその関係者も処罰対象となります。そして死刑となった重犯罪者の資産は、臓器バンクや医学研究用に売られた自身の肉体の売却益も含めて、犯罪被害者の家族への弁済に回されます。
 戦後、アルキイルキイ市民はソロマニの支配下で受けた屈辱を許す気はありませんでした。絶対君主制の星系政府は、ソロマニ政権時代に制定された人種差別的な法律の数々を、立場を逆にして延長したのです。遺伝子検査は義務であり、少数派である純血のソロマニ人市民は所有できる資産や就くことができる社会的地位に制限が課せられ、異民族間での結婚や性的関係を持つことは重罪とされています(罰則は強制的な不妊化から長期の禁固刑までです)。さらにこの「制裁」は外世界からの訪問者にも適用され(ただし公爵宮殿は宇宙港の内部にあるため、治外法権の対象となります)、ソロマニ系であることを明かした、もしくはソロマニ風の名前を持っている外世界人は、遠回しに嫌がらせや差別を受けるかもしれません。
 この政策は親帝国のソロマニ人貴族ですら不愉快に感じるほどで、アデアー大公は外交団を通じて制裁を緩和するようハーレクイン公ドミトリーに圧力をかけましたが、彼は「オート=フィオンブレア家を守ってくれたアルキイルキイに恩義がある」として拒みました。また、帝国が傘下世界の内政に介入すべきではないと考えているディンジール公は、ハーレクイン公を支持しています。

ユイ・ブラシール Huy Braseal 2910 A255989-F N 高技・高人 Im
 120年間に及んだ第一期探査の末期、帝国偵察局は当時帝国国境外であったソロマニ・リム宙域の探査に着手しました。その際、偵察局はとても資源が豊かな小惑星帯を発見しました。その外側の軌道には小さな惑星が周回しており、こちらは特に鉱物資源は豊富ではありませんでしたが、氷塊で覆われていました。資源と水の両方を兼ね備えた星は開発が容易であり、帝国は420年頃にこの星系を併合して採掘の許可を与えました。
 星系内での活動の拠点となった氷の惑星にはユイ・ブラシールという名前が付けられ、入植地は物凄い勢いで発展しました。ソロマニ自治区初期には星系の人口は約10億人に達し、地元の製造業と造船所は宙域内で最も繁盛していました。ソロマニ党政権下で星域首都となったユイ・ブラシールには大きな海軍基地が建設され、オールド・エクスパンス宙域方面への主要な通商路が通る重要な星系となりました。
 その全てはリム戦争で終わりました。包囲戦によって造船所などの施設に多くの被害が出て、いくつかの入植地は破壊されました。
 現在、ユイ・ブラシールには帝国海軍基地があり、見た目は繁栄しています。しかし星間流通網の変化によって星系の経済は以前のようには回復しておらず、ゆっくりと衰退している社会は内向きに、排他的になっています。
 このような状況では、この星が親ソロマニ感情の温床となるのは避けられませんでした。惑星上の一部地域は既にソロマニ党によって支配されています。帝国の情報部は、この星系の広大な小惑星帯がソロマニ活動家や工作員の隠れ家となっていると考えていて、帝国海軍と星系政府が共同で星系内のパトロールを実施し、帝国の防諜部隊が活発に活動していますが、その任務は困難を極めています。
(※ユイ・ブラシール基地には20万トンのコキラック級弩級戦艦(Kokirrak-Class Dreadnought)で構成される戦艦戦隊(BatRon)が配備されています。通常コキラック級は国境沿いの1宙域で3~5戦隊しかなく、ソロマニ・リム宙域では他にシュルルシシュ、ムアン・グウィ、ディンジール、テラの各海軍基地にしか配備されていません。よってこの星系が帝国海軍の重要拠点であることが伺えます)

ヤノーシュ Janosz 3008 A564978-B S 高人・肥沃 G Im
 ヤノーシュは、いくぶん乾燥したテラ型の惑星です。総人口は10億人をわずかに上回り、それぞれ100万~1億人以上の人口を抱える32もの主権国家に人々は分かれています。そのうち29国が帝国の傘下にありますが、残る3国はソロマニ・リム戦争を経ても帝国に加盟せず、独立したままです。その中の1つであるクロラリー国(Cloralie)は、帝国の介入を避けるために、国内でのソロマニ運動を兆候の段階から情け容赦なく弾圧することで独立を維持しようとしています。
 一方で、帝国参加国の中にはクロラリーと対照的な手法を採っている安定した国もあります。インテネバック(Intanevac)は、首都アルゴンにAクラス宇宙港を持つ国家です。星系外から沢山の人々が訪れる関係で、アルゴンの治安レベルは4程度に低下しています。インテネバックは個人の高度な自由が保証されている議会制民主主義国家で、政治的にも宗教的にも寛容であることが広く知られています。そのため、現地のソロマニ党は合法政党であり、選挙で親帝国派の政党と戦っています(ただしインテネバックのソロマニ党は、すぐに暴力に訴えるという話もあります)。
 ヤノーシュにおける政治の複雑さと、その多い人口や産業の発展性は、メガコーポレーションや外世界資本の企業の魅力的な進出先と捉えられています。また、帝国の情報部は、ソルセックが連合の利益のためにヤノーシュのいくつかの国家の内政を巧妙に操っているのではないかと考えています。
 1104年末、宇宙鉱夫が小惑星帯にて戦争時に破壊されたと思われるソロマニ連合の救命艇を発見し、艇内を捜索すると冷凍睡眠中の2体の遺体と1人の生存者がいました。しかしその生存者は、身元が確認される前にアルゴン地上宇宙港の偵察局基地から姿を消してしまったのです。
 逃亡した人物は、連合陸軍特別奇襲部隊(Confederation Army Commandos)所属のヘンリク・サルバドーリ大佐(Colonel Henryk Salvadori)と特定されました。彼は先の戦争中にインスラ(オールド・エクスパンス宙域 0607)の重要な生命維持装置を破壊して何百万人もの市民を殺害した、「インスラの虐殺者(Butcher of Inthra)」の悪名を持つ指揮官です。サルバドーリは今もヤノーシュのどこかに潜んでいると思われ、帝国司法省(Imperial Ministry of Justice)は戦犯である彼に50万クレジットの賞金をかけ、彼を捕まえるか、逮捕に繋がる情報を求めています。ただし、惑星内のソロマニ党支持者が彼を援助している可能性もあります。
(※ここはホビージャパン版では「ジェイノス」と訳されていた星です。余談ですが、インテネバックは『アルゴン・ギャンビット』の舞台、インスラはグランドツアー第12話で訪れています)

シャパム Shapam 3009 C232533-C 高技・非工・貧困 G Im 研究基地α
 シャパムは500年頃にチャンパ(3109)から入植が始まり、583年のチャンパの民主化革命によって貴族など上流階級の亡命先となった星です。その後、亡命者がチャンパに帰還しない約束と引き換えに、シャパムは独立を果たしました。現在では、先人のインフラ投資が実ってチャンパよりも技術レベルは上回り、リム・メインを行く低ジャンプ宇宙船の燃料補給拠点として、そして何よりもソロマニ・リム宙域の富裕層のための贅沢なリゾート惑星として有名となっています。
 シャパムは、美しい輪を持つガスジャイアントの小さな衛星です。世界そのものは不毛ですが、氷の山、クレーター、火山は自然の美しさを備えています。
 3つあるドーム都市のうち、最大の人口を抱えているのがザナドゥ・エ・シャナプア(Xanadu et Shanapour)で、その空にはいくつかの重力制御された城が飛んでいます。わずかな例外を除いて、最高級品揃いのシャパムの物価は天文学的な高さです。星域内で最も格の高いホテルやレストランやカジノの全てがここにはありますし、娯楽施設として体験型ホロ映画や低重力スキー場なども整備されています。宇宙港からはガスジャイアントのリングに向けて観光用の小艇が発着しており、リングの氷にレーザーで彫刻された巨大な歴代皇帝像を眺めることができます。
 しかし多くの観光客にとって、シャパムを訪れる理由は風景でも高級ホテルでも料理でもありません。シャパム政府は他の星系では不道徳と考えられていることを大目に見ていて、むしろ助成金さえ支給しているのです。賭博、麻薬、売春、淫靡な格闘技イベント、慰安用ロボットの販売または貸し出し、バイオ技術やサイバー技術による肉体改造手術…双方が合意の上で、金になり、帝国法を犯さない限りは、シャパムでは全てが合法です。
 地元警察は、訪問客用のリゾート区域を主に守っています。犯罪を検挙し、違法武器を取り締まり、プライバシー法を振りかざして外世界からのパパラッチを帝国の著名人から遠ざけています(この星でのご乱行が世に知れ渡ると困る人は多いのです)。
 一方でシャパムの寡頭政府は、土地を帝国研究基地アルファに有償で貸し出しています。研究基地は1043年に、ザナドゥ・エ・シャナプアの反対側にある氷海の無人島に建設されました。精鋭の偵察局保安派遣隊(IISS security detachment)が、施設の周囲20km以内の立入禁止区域を警備しています。研究基地の関係者は必ず小さな専用宇宙港で出入りし、リゾート区域で「交流する」ことは許されていません。なお、この基地が何を研究しているのかは不明で、様々な噂が上がっています。
(※シナリオ『逃避行』で出てくる「ハーレクイン公爵夫人のスキャンダル」は、ここで撮られたもの…らしいです)

カーライル Carlyle 3101 B9B5865-C 高技・非水 G Im パルヌーが統治
 戦前のカーライルはソロマニ主義運動を熱心に支持していましたが、ここを占領した帝国当局は、駐留軍に統治させるよりもパルヌー(3101)の親帝国政権に委任する方を選びました。元々カーライルとパルヌーは関係が良好だったため、この措置はうまく働きました。現在でもカーライルはパルヌーの信託統治下にあります。
(※ちなみにパルヌーはオパール(3202)にも科学研究拠点(scientific outpost)を置いて統治しています)

キレンヌル Kilennur 3208 B5958BE-B 肥沃 G Im
 世襲の帝国貴族であるキレンヌル侯ファルケンブルグ(Marquis Valkenburg of Kilennur)は、同時にこの星唯一の合法政党の「帝国忠誠党(Imperial Royalists)」の党首でもあります。ソロマニ活動家が激しく非難しているこの支配者一族は、最も過酷なソロマニ党独裁政権よりも専制的な、腐敗した政治を行っているのです。
 侯爵と側近グループは、かなりの不正収入と引き換えに、市場の独占取引や資源の開発契約などをシャルーシッド、LSP、デルガドといったメガコーポレーションと結びました。その収入の一部はセキュリティ強化と武器購入に回され、侯爵が誇る私設軍や秘密警察の装備を充実させました。
 キレンヌル政府は、帝国と強力な後ろ盾であるハーレクイン公(キレンヌル侯の遠い親戚なのです)への忠誠を強要しており、大多数の民衆には嫌われています。しかし、異議申立ては今まで何度も挫かれています。反体制派は外世界の反帝国活動家などとの連携を模索していますが、専制政治を打倒して「自由共和国」を築こうという運動は、冷酷な支配体制の前では今は噂レベルに留まっているのが実情です。
 なお、キレンヌルの南大陸にはドロイン社会(オイトリップ)が存在します。ここのドロインは今でも現地ではヴィラニ語のヌギイリ(Nugiiri)と呼ばれていますが、これは宇宙各地に散らばるドロインたちが一つの種族であると判明していなかった頃の名残りです。523年に当時のハーレクイン公爵が、南大陸におけるドロインの自治権を正式に認めていて、現在のドロイン集落には小さなCクラス宇宙港と自前の農場や工場があり、数隻の宇宙船を運用しています。キレンヌル侯との関係も落ち着いており、毎年彼らの代表は中央宇宙港まで税を納めに出向いています。
 キレンヌルの人々の間には様々な民間伝承があり、いくつかは妖精の国にまつわる古代テラのお伽話に類似しています。愚かな人間がドロインの住む土地に入り込み(攻め込み)、そして二度と戻って来なかったという類のものです。

パグリアッキ Pagliacci 3209 C754733-6 農業・肥沃 G Im
 パグリアッキは後進の農業世界です。惑星表面のほとんどは無人で、未踏の地となっています。約6500万人の住民は、宇宙港と政治機能がある最大都市ディオン(Dion)を中心として数百km以内の農業入植地に集まっています。ここはソロマニやハイヴの領域に向かう宇宙船が時折燃料補給に立ち寄る程度で、星域経済においてはほとんど目立たない存在です。
(※ここの生態系についてはシナリオ『逃避行』にて詳細に書かれています)


【ライブラリ・データ】
ニシナシャ Nisinasha 2812 A9EA987-E W 海洋・高技・高人 G Im
 ガスジャイアントの衛星であるニシナシャは、遥か昔、よりガスジャイアントに近い軌道を巡っていた頃に潮汐力で歪められて楕円形をしています。しかし大気は球形なので、極点付近はほぼ真空となり、赤道付近ではとても高い気圧となっています。
 第一帝国時代には「ニシナシャ星域」の星域首都として栄えましたが、ヴィラニ系人口は「人類の支配」を経て徐々に減少していきました。ソロマニ自治区の時代には、ヴィラニ文化を根絶しようとした原理主義的なソロマニ党政権が恐怖政治で支配しましたが、結局、混血の住民はソロマニ・リム戦争に呼応して反乱を起こし、帝国軍を解放者として迎え入れました。戦後は速やかに自治を回復し、リム・メインの流通の要所として復興していきました。
 この星系の官僚機構は非常に効率的で、周辺からもお手本とされるほどです。また、優秀な卒業生を輩出しているニシナシャ大学に代表される、充実した教育制度も有名です。
 ニシナシャを代々統治している、由緒ある貴族のガマルキッドゥン伯爵家(Count Gamarkhiddun)は、長年バナスダン(2920)のオート=タゴール公爵家(Duke hault-Tagore)との確執が続いています。伯爵は、ソロマニに対する反抗の恩賞としてニシナシャこそがかつてのように星域首都となるべきで、バナスダン公はただの成り上がり者だと考えているからです。宙域公爵のディンジール公は、その対立を終わらせるために両家の跡継ぎ同士の縁組みを検討するよう、双方に圧力をかけています。
(※ガマルキッドゥン家は、872年に一旦ニシナシャを離れている「亡命派」貴族で、その家系はおそらく第一帝国時代から続いています。一方でオート=タゴール家は、ソロマニ・リム戦争終結までは(バナスダンの大統領とはいえ)平民だった上に、戦争時の功績で侯爵(後に公爵)位まで授与されているのですから、ニシナシャ伯からすれば「成り上がり」に見えるのも無理はありません)

ニューカム Newcomb 2913 D441443-6 非工・貧困 G Im 刑務所
 7つの衛星を持つニューカムは、なんとか居住に適する世界です。濾過マスクを用いて呼吸できる汚れた薄い大気を持ち、惑星の大部分は砂漠です。住民のほとんどは、Dクラス宇宙港を持つ人口12000人の小さな都市、サークル市(Circle city)に住んでいます。政治制度は、選挙によって市議会(city council)を構成する議員が選ばれ、その議員の投票で市長(mayor)が選ばれる形式が採られています。大多数の住民は代々この地に住んでいて、帝国当局も含めて外世界人に対してよそよそしい態度を取ります。また、地元の名士たちはソロマニ人意識が強い傾向があります。
 この星には帝国の刑務所が存在します。約100年前に倒産したオリオン冶金社(Orion Metallurgy Corporation)が運営していた鉱山キャンプを改築して、当初はソロマニゲリラやテロリストを収容し、現在では普通の刑事犯も収められています(政治犯はここには収容されていません)。
 囚人は鉱山で働き、採掘された鉱石はサークル市に運ばれて宇宙港から輸出され、その利益は賃金ではなく刑務所の維持費に回されています。採掘現場の安全対策は特になされておらず、囚人たちは放射線と高濃度の粉塵にさらされています。
 刑務所は周囲1000kmを砂漠で囲まれた、危険な動物の徘徊する無人地帯にあるため、刑務所自体の警備は軽いものです。ただし月に一度、帝国の軍艦がパトロールを兼ねてこの星を訪れています。


(※現在発売中のマングース版『The Solomani Rim』は、travellermap.com掲載のT5仕様のUWPをそのまま引用してしまったらしく、惑星規模やテックレベルの数値がかなり異なっています。今回はオリジナルのGDW版『The Solomani Rim』に数値を合わせ、貿易分類を手作業で記入しています)


【参考文献】
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Adventure 8: Prison Planet (Game Designers' Workshop)
・Adventure 11: Murder on Arcturus Station (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: Death Station (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 4: Marooned (Game Designers' Workshop)
・Traveller News Service: 088-1107 (JTAS #7/Game Designers' Workshop)
・Casual Encounter: Mother Shom (JTAS #19/Game Designers' Workshop)
・Amber Zone: The Lost Village (JTAS #24/Game Designers' Workshop)
・Amber Zone: A Body Swayed to Music(Challenge #37/Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Alien: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Starships (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)

宙域散歩(17) ソロマニ・リム宙域・概要編

2012-11-04 | Traveller
 コア宙域編を終えて次はどこに向かうべきか。順番からすればマッシリア宙域なのですが、実はここはほぼ全ての公式資料の和訳が『ナイトフォール(Knightfall)』で済んでしまっていて、残っているのはあの「人類の支配」の首都だったカッグシュス星系(の周辺の通称「ハブ・ワールズ」)と、グランドツアー第11話の舞台になったシウォニー星域、あとDGPの独自設定過ぎて頭を抱えるピルグラ星系(『ナイトフォール』で訪れるダトルムナ星系と場所がかぶってるんだけど…)のみ。どれもわざわざ紹介するには微妙なところなのでパス。他は、ザルシャガル宙域やディアスポラ宙域やオールド・エクスパンス宙域は資料のほとんどが1127年以降の荒廃した時代のものばかりだし、ダイベイ宙域も資料が少なすぎるし、イレリシュ宙域やデルファイ宙域は資料すらないし。
 となると、資料なら膨大にあるあそこしかないか…。

 前置きが長くなりましたが、今回からいよいよ「人類の故郷」ソロマニ・リム宙域の紹介を始めます。第三帝国の冒険の舞台で双璧を成すこの宙域は、もう一つの帝国最辺境であるスピンワード・マーチ宙域とは全く違う雰囲気と活気に満ち溢れています。


 ソロマニ・リム宙域は、広大な帝国の3%ほどに過ぎない星系群ですが、帝国の全人口の約1割強がこの宙域に住み、貿易額の実に40%がここで産み出されている、高度人口密集かつ経済先進地域です。ヴランド宙域やコア宙域ほどの歴史はありませんが、それでも数千年の(ある意味では30万年以上の)歴史があり、宇宙の歴史上で重要な役割を果たしてきました。
 その積み重なった「過去」について語り始めると膨大な量となってしまうので、それについては別の機会にするとして、今回は「現在」について語りたいと思います。

 現在のソロマニ・リム宙域を語る場合、絶対に欠かすことのできない要素は「ソロマニ主義」です。マギス・セルゲイ・オート=デヴロー(64年生~141年没)によって提唱された「ソロマニ仮説(Solomani hypothesis)」は、宇宙各地に存在する「人類」の起源がテラ(1827)であったとする学説で、588年にテラが帝国に編入されて研究が進んだことによって、その正しさが証明されました(ただし人類のテラ起源説は第二帝国時代から半ばプロパガンダ的に唱えられていたこともあって、特に驚かれることもありませんでした)。ソロマニ主義者たちは、このソロマニ仮説を自分たちの都合のいいように解釈し、ソロマニ人の優越性を掲げているのです(ソロマニ仮説自体には人種間の優越性に触れている部分はありません)。
 このソロマニ主義は、ある意味でソロマニ・リム宙域の状況を簡略化しました。どこの宙域でも色々な勢力の思惑や信条が複雑に絡み合うものですが、この宙域では「ソロマニ主義を肯定するか、否定するか」の二択しかありません(ただし、肯定派同士否定派同士が味方同士であるとは限りません)。このソロマニ主義をめぐって様々な事件が、時として戦争が起きているのです。

 現在のソロマニ・リム宙域は、大きく分けて3つの勢力が星々を領有しています。

ソロマニ連合 Solomani Confederation
 ソロマニ連合は、ソロマニ主義を元に「宇宙は優越人種であるソロマニ人によって支配されるべきである」と(派閥によって程度の大小はありますが)主張している国家です。かつてソロマニ連合が帝国の一自治区であった時代にはソロマニ・リム宙域のほぼ全域を支配していましたが、ソロマニ・リム戦争後は宙域内の7割以上の星系を帝国に「奪われた」格好となっています。この失われた「ソロマニ圏」の領地を、そして何よりも自分たちの故郷であるテラを奪還することが連合の悲願です。
 現在ではホーム(アルデバラン宙域 1009)を実質上の首都としているソロマニ連合は(正式な首都は今でもテラです)、かつての「地球連合」を模した行政組織を作ってはいますが、実際はソロマニ党による一党独裁国家です。ソロマニ全軍の指揮権も持つ行政の長である事務総長(Secretary-General)は、法的にはソロマニ党の最高評議会(High Council)と同格とされていますが(※事務総長は最高評議会の議長も兼ねます)、その権限は限られたものです。
 ソロマニ軍は大きく海軍と陸軍に分けられ、それぞれの最上位将官は最高評議会のメンバーでもあります(※他に最高評議会には各省の長官も名を連ねています)。ソロマニ海軍は平時は星域単位で運用が行われ、戦時のみ連合海軍として結集します。帝国の偵察局や海兵隊の役割も、ソロマニ軍では海軍が担います。一方ソロマニ陸軍は色々な星系に駐屯しています。また、国境付近などの重要星系には祖国防衛隊(Home Guard)と呼ばれる軍組織が置かれていることもあります。
 そして、ソロマニ連合にはもう一つ重要な組織である、ソロマニ治安警察こと「ソルセック(SolSec)」があります。ソルセックは「ソロマニ主義を外敵から守る」ための、言わば秘密警察的な組織で、国内の治安維持から国外の諜報活動まで行っています。ソルセックは一般市民の中から監視員(Monitor)を選び、文字通り周囲を監視させてソルセックに報告させています。同時に軍にはソルセックから政治士官(political officers)が送り込まれています。そして、一般市民の中に紛れ込んだ秘密工作員が、ソロマニ主義にとって危険と判断された対象の排除を行います。暗殺だけではなく、拉致や社会的地位の失墜など、排除の手段は様々です。これによって市民は(表面上は)党や国家への忠誠を誓うようになるのです。
 しかしソルセックが守るのはあくまでソロマニ主義です。えてして市民を弾圧するように動きがちではありますが、どの組織の下にも置かれてないソルセックは、軍を含む行政機構のチェック役でもあるのです。
 連合に加盟している各星系には帝国以上の自治権が与えられていて、それぞれの星は平等とされています(そのため、ソロマニ連合には星域首都という概念はありませんが、重要な行政組織などが集中する星が帝国の星図で「星域首都」として記載されています)。そして星系間を旅行する際には、ソルセックが発行したパスポートが必要となります。また帝国と異なり、国内で恒星間組織を結成することも可能なので、ある恒星間組織が別の組織と対立しあっていることもありえます。ソロマニ・リム宙域内だけでも、ジャルダン、ククルカン、牛飼座近傍星団(Near Bootes Cluster)、テティス・ラピュタ共同体(Thetis-Laputa Coalition)といった組織があります。国内だけでなく、ソロマニ党内すら様々な派閥が入り交じっていて、ソロマニ主義で統一されているとはいえ連合は一枚岩ではないのです。
 ただ忘れてはならないのは、連合市民の多くも戦争よりは平和を望んでいることです。正式な国交こそありませんが、国境を越えた経済や文化交流は着実に行われています。帝国も国境侵犯がない限り、ソロマニ連合を黙認する姿勢を取っています。

帝国 The Imperium
 リム宙域の12星域を統治下に置いている帝国は、その他の宙域と同様に貴族制による支配を行っています。ただしあくまでここは占領地なので、治安回復のためにいまだに軍政が布かれている星系も多くありますが(軍政の星系には貴族が置かれません)、帝国政府は徐々に自治権を回復させています。ちなみにテラ星系は、1110年に軍政が解かれることになっています。
 宙域内の貴族は、主に3つの派閥に分けられます。スレイマン女公に代表される「抵抗派(Resistance Houses)」は、ソロマニ自治区成立後も領内に残って帝国への忠誠を保っていた一族です。彼らは現実主義で実利を重んじ、リムの諸問題の平和的解決を目指しています。アルクトゥルス公やアスカロン侯が主導する「亡命派(Exile Houses)」は、一度自治区から帝国中央に脱出して戦後に戻ってきたグループです。彼らは急進的かつ好戦的で、ソロマニ連合との再戦を主張しています。「新興派(New Houses)」は、自治区時代に絶えてしまった貴族の領地を引き継ぐべく戦後に任命された貴族たちで、彼らの主義主張は急進的から穏健的まで様々です。強いて言えば「野心的」であるのが共通点です。
 ソロマニ党以外の政党が非合法である連合に対し、現在の帝国内でもソロマニ党の活動は合法です(ただし星系政府や軍政によっては非合法化されている場合もあります)。もちろん暴力や破壊活動が伴わない範囲内で、ですが。帝国内のソロマニ党員は当然大なり小なりソロマニ主義を掲げ、「征服者」である帝国に対して反発的な立場を取りがちですが、ソロマニ連合政府としては、これらの「同胞」に対して声援は送るが、経済的・軍事的援助は行わない、という態度を取っています。確かに彼らは有事には味方となってくれるでしょうが、煽って呼び込んだその有事が必ずしも連合やソロマニ主義にとって利益になるとは限らないからです(ただしそんな消極的に見える姿勢が過激なソロマニ主義者の不満を呼んでいるのも事実です)。
 現在の宙域公爵はディンジール公爵ロバート・オート=ボードゥアン(Duke Robert haut-Beaudoin of Dingir, またはRobert Stephanos Beaudoin)が務めていて、彼は現ソル大公キーラン・ランゴス・アデアー(Archduke Kieran Langos Adair of Sol)がソロマニ・リム宙域にやって来るまで(※ソル大公は領域首都をエクセター(ディアスポラ宙域 2729)からリム宙域内に移転させる計画を進めています。この遷都は1112年に完了する予定です)、宙域最高位の貴族として統治を行います。

ヴェガ自治区 Vegan Autonomous District
 帝国領内のヴェガ星域とエスペランス星域に存在するヴェガ自治区は、群小種族ヴェガン(Vegan)が高度な自治権を持って統治しています。帝国は通常、国内に恒星間行政組織の結成を認めていませんが、ヴェガ自治区はソロマニ・リム戦争後の国境の監視と宙域の安定化を目的として、例外措置で1004年に設置されました。
 自治区の中央政府は、試験によって選抜された官僚によって統治されています。彼らは「聖約の守護者(Guardians of the Sacred Covenant)」と呼ばれるトゥフール(後述)で、他のトゥフールを監督し、仲裁することを人生の道と考えています。
 なお自治区内は帝国の市民や貨物が自由に通ることができますし、人類も多く居住しています。


 ソロマニ・リム宙域に主に住んでいるのは人類、それもソロマニ人です。ソロマニ人の故郷であるテラが近いので当然と言えますが、ヴィラニ人の故郷であるヴランド宙域ですら人種間の混血が進んで「純血のヴィラニ人」に滅多に出会えないのに対し、ソロマニ・リム宙域では今でも「純血のソロマニ人」が多く存在します(ただし自分が純血のソロマニ人だと主張している人が本当にそうなのかは別の問題です)。次に多いのが俗に「帝国人(Imperials)」と呼ばれる混血の人類です。また数は少ないですが、第一帝国時代から住むヴィラニ人に加え、ジェオニー人(Geonee)やスーラット人(Suerrat)といった群小人類も居住しています。
 ジェオニー人はシウォニー(マッシリア宙域 1430)を母星とし、ヴィラニ人が初めて遭遇したジャンプドライブを「用いた」小柄な人類です。彼らは太古種族の宇宙船のジャンプドライブを複製して宇宙に乗り出したため、現在では「主要種族」に数えられていません。スーラット人はイレリシュ(イレリシュ宙域 2907)出身の人類で、猿人に似た外見をしています。こちらは世代間宇宙船で恒星間航行を実現していましたが、やがて両者ともにヴィラニ人に征服され、彼らの一部はリム宙域で恒星間戦争に関わりました。

 人類以外では、距離的な近さからアスランやハイヴの姿を見かけることがあります(宙域内に昔から移住しているアスランもいます)。逆にヴァルグルやククリーはあまりいません。ヴァルグルも遺伝子的にはテラが故郷なのですが、彼らはあまりテラに郷愁を抱かないようです。宙域の帝国領内のヴァルグルは、主に帝国の官僚として赴任してきた者です。

 宙域内の群小種族は、何といってもヴェガンの存在が大きいです。帝国と友好関係にあるヴェガンは、ムアン・グウィ(ソロマニ・リム宙域 1717)を母星とする知的種族です。「ヴェガ人」という名前はテラから見てムアン・グウィの方角にある明るい恒星の名前から付けられたもので、彼らは自身を「テュイ(Tyui)」と称しますが、他種族と交流する際は主にヴェガンを使います。
 ヴェガンは平均身長2.2メートルほどの、酸素を呼吸する恒温生物で、2本の腕と2本の足を持ちます。彼らの平均寿命は200年以上です。母星の低重力の影響で、体の大きさの割に人類より頑強ではなく、0.5G以上の環境では何らかの対策なしに生きることができません。彼らは砂漠気候で進化したので、熱の発散のためにひょろっとした体型となり、足は砂地に沈み込まないように幅広く広がり、目は砂塵から守るために透明な目蓋の膜で覆われるようになっています。また主星の赤さに適応したため、赤外線を見通すこともできます。手は3本の触手になっています。
 ヴェガンは人類と比べて、あまり感情を持ちません。怒りや恐れといった強い感情はめったに出さず、富や権力というものにもそれほど興味を示しませんが、好奇心は旺盛です。
 ヴェガン社会はトゥフール(tuhuir)という役割に分けられます。それぞれのトゥフールは特定の仕事(政治や軍事、商売や芸術など)に従事し、それ自体が言わば哲学的な「道」でもあります。それぞれのトゥフールは世襲制ではなく、ヴェガンは50歳頃に成人の時期を迎えると、自分の道を求めて放浪の旅(イッリシュテョシュン(irrishtyoshun))に出ます。そして時間をかけて自分のトゥフールを選択し、大人として社会に迎えられます。一旦選んだトゥフールは生涯変えることはありません。しかし実際には、半数のヴェガンが親と同じトゥフールを選択する傾向はあります。また、0.5%のヴェガンはそのまま一生「放浪者(pilgrims)」となります。彼らは他者から軽蔑されますが、時として偉大な革新者となり、新たなトゥフールを築くこともあります。
 トゥフール同士が対立するということはあまりありません。「ヴェガンの誓約(Vegan Covenant)」で抑制されているからです。これは全てのヴェガンの最低限の権利や道理を定めた言わば憲法のようなもので、1万年前からあると伝えられています。原本こそ残っていませんが、ヴェガンの言葉の変化に応じて何十回と翻訳され、改定されてきました。ヴェガンには人類における宗教のような概念はありませんが、この「誓約」が彼らにとっての聖典のような役割となっています。

 またこの地域の特色として、「知性化種(uplifted species)」の存在があります。恒星間戦争の頃から、ソロマニ人は軍事利用のためにテラの動物に遺伝子改良を施し、知性を与えました。有名なものではドルフィン、エイプ、ウルサ、ミニファントが挙げられます。彼らは帝国では知的種族として平等な市民権を得た反面、ソロマニ連合では二級市民扱いです。それでも連合内のドルフィンは、自分たちに知性を与えてくれたソロマニ人に感謝し、ソロマニ主義を奉じて、ソロマニ以外の人類や異星人よりも自分たちが優秀だと考え、宇宙の全ての海に植民地を作るべく、星系政府や祖国防衛隊に勤めています。さすがにソロマニ党に入ることはできませんが、ソロマニ主義者の多くはドルフィンに対してはあまり差別的な待遇をしませんし(優秀な部下程度には見ています)、ソロマニ党の中にも少数派ですがソロマニ人とドルフィンの平等を求める「ドルフィニスト派」が存在するほどです。
 そんなドルフィンは学名をTursiops galactisといい、ソロマニ・リム宙域だけでなく宇宙各地の海洋世界の様々な分野で活躍しています。元々のイルカの寿命は20年程度でしたが、遺伝子改良の結果50~60年程度生きることができるようになりました(さらに抗老化薬による延命も可能です)。彼らは水中を平均時速40キロ程度で泳げて、無呼吸で30分間は耐えることができ、水深200メートルまで潜ることができます。また彼らは肉食で、1日に15キログラムの魚を食べます。
 ドルフィンは完全なる平等の文化を持ち、私有財産の概念すらありません。個人の持ち物は全て「公共物を借りた」と考えるのです(そのため、他種族の所有物を勝手に「借りて」しまうトラブルがよく起きます)。彼らは15~20人程度の大家族の単位で生活し、大家族同士の交流は行われますが、お互いがあまり近くに住むことはありません。また人類のような大きな社会構造を作ることもないため、ドルフィン移民のみの星系は政治形態コードで0(無政府)と分類されます。
 ドルフィンは海中のみで生きるように体ができているため、海の上での活動を支援するために様々な装備が開発されました。代表的なのはトラベルスーツ(通称Tスーツ)で、ドルフィン版の宇宙服といった感じです。Tスーツの内部はとても湿っていて、さらに反重力ベルトと内蔵通信システムが動きと会話をサポートします。また「手」を持たない彼らは、元々は人間用に開発されたウォルドー(Waldos)という義手を愛用しています。TL9のウォルドーはTスーツに装着して舌と頭の動きでぎこちなく操作していましたが、TL12以降のウォルドーは手術によって神経と直接接続され、脳による直感的な制御が可能となっています。
 ドルフィンと人類は友好関係を築いていますが、問題となるのは会話です。人類はドルフィンの言語を肉声では理解できず、一部のドルフィンは銀河公用語を学んだものの、発声器官の大きな違いにより適切な発音をすることが困難でした。解決策として、手話に加えて両者が共に発声や聞き取りが可能な音を組み合わせたデルフィン語(Delphinese)が生み出されました。人類社会と隔絶した極一部のドルフィン以外は、今ではこのデルフィン語を理解することができます。また、コンピュータによる同時通訳も利用されています(TL10から利用可能です)。
(※ドルフィンの誕生時期については、恒星間戦争時代という設定と、第二帝国時代のジェナシスト社(GenAssist)によるものという設定が混在しています。ただしジェナシスト社自体は恒星間戦争時代に設立されています)

 他には、ウガルップ星系(0502)のグルンガン(Gurungan)が(有名ではないですが)知られています。グルンガンは蛸のような6本の手足を持つ水棲知的種族ですが、知性を持つのは女性だけです。グルンガンの男性は女性に寄生する小生物に過ぎず、グルンガンは「性が2つある」という概念を理解することができません。彼女たちには、人類の男女が全く別の種族に見えるのです。
 余談ですが、グルンガンとドルフィンは非常に仲が悪いです。ドルフィンの発する音波が、聴覚しか持たないグルンガンの癇に障るからです。


 人口が多く、経済が活発なソロマニ・リム宙域には、500年頃から750年にかけて多くのメガコーポレーションが進出してきました。しかしソロマニ自治区や、その後のソロマニ連合の「独立」政権下では、非ソロマニ人を雇用する帝国企業は活動に大きな制約を受け、やがてソロマニ圏から撤退していきました(その資産は接収されて国有化されました)。
 1002年にソロマニ・リム戦争が帝国の実質的な勝利に終わると、荒廃した占領地の復興と再統合のために帝国政府は大規模な開発援助計画を組み、帝国のメガコーポレーションは再びこの地に戻って来ました。彼らは星系政府と連携し、活発な雇用と多額の寄付によって、人々の心を再び帝国に惹きつけています(それに対しソロマニ連合は(特にヴィラニ系企業を)「帝国の覇権の手先」として非難しています)。例えば、ゼネラルプロダクツやスターンメタル・ホライズンが建設した運動競技場や歌劇館に市民が集い、何億人もの学生がナアシルカやシャルーシッドの提供する奨学金で学んでいます。

デルガド貿易 Delgado Trading, LIC
 997年に設立されたデルガドは、ソロマニ・リム戦争によって今日のメガコーポレーションの地位を築きました。この数十年内でも、ヴェガ自治区へ対核ダンパーや中間子スクリーン技術を供与する数兆クレジット規模の契約をまとめ、大きな利益を得ていました。しかし品質管理の問題で、ライバル社であるLSPやインステラアームズの追い上げを許しており、ヴェガでの取引の維持がデルガド重役の最大の関心事となっています。
 またデルガド社内には、リム戦争中にテラからソロマニ連合領に持ち出された古代の遺物を正当な所有者の依頼によって「返還する」部門があり、連合内で密かに特派員による情報網を張り巡らせています。
 なお軍需から鉱業、燃料精製、出版、古物商、さらには玩具製造まで幅広く手がけるデルガドは、従業員に対するきつい待遇で知られています。もちろん(一部とはいえ)優秀な従業員には好待遇で応えていますし、利益の追求という面では優れているのも否定できません。
(※旧来は「Delgado Trading」が会社名でしたが、GURPS版以降では「Delgado」になっています(ややこしいことに、マングース版の『The Spinward Marches』だけTradingまで表記)。今回は正式社名を「デルガド貿易」、通称を「デルガド」と解釈しました)

ゼネラルプロダクツ General Products, LIC
 同社は安くてそれなりの品質の宇宙船の建造で知られています。リムにおいてはエレクトロニクス産業の巨人であるナアシルカとの戦略的提携で、宇宙船や産業用ロボットのためにコンピュータや航空電子工学(avionics)技術の提供を受けています。
 ゼネラルプロダクツは他の宙域では苦戦していますがリム宙域では順調であり、それゆえに不祥事の芽は根こそぎ絶とうと常に心掛けています。

GSbAG Geschichtkreis Sternschiffbau AG
 「当社の源流となる会社は-2438年にテラの衛星ルナで創設され、ソロマニ人によるジャンプドライブの開発も当社によるものです」…という広報はあまり世間では信じられていません(※ちなみに、公的文書に最初にGSbAGの名前が出てくるのは、-334年のシレア連邦海軍との造船契約によるものです)。
 テラ起源を主張する割に本社はリム宙域外にあるGSbAGですが、それでもリム宙域内の多くのAクラス宇宙港に造船所を構え、豪華ヨットや急使船(couriers)の主な建造業者です。現在GSbAGは、かつて高品質で知られた「メイド・イン・テラ」ブランドの宇宙船を帝国の上流階層に向けて売り出そうと計画しており、造船所をテラの3つの宇宙港のどこに建設するか検討しています。

オルタレ・エ・シェ Hortelez et Cie, LIC
 銀行や保険や金融投資のメガコーポレーションであるオルタレ社は、星系政府への融資や大規模開発の受注を行っています。同社はソロマニ・リム宙域の戦後復興において最前線で活躍し、宙域を財政的に支配しています。同社の支社はリム宙域内のヴェガ自治区を含む帝国領内全ての高人口世界に置かれ、営業所はほぼ全星系にあります。
 帝国領内でも存在するヴィラニ系企業への偏見は、オルタレ社に同業者のジルンカリイシュに対するわずかな優位性を与えています。
 オルタレ社は他宙域では傭兵斡旋も手がけていますが、ソロマニ・リム宙域ではイチバン・インタステラー社との競合を避けるために手控えています。
 ちなみに同社は、「情報収集活動」にフリーランスの人材を雇う傾向があります。

インステラアームズ Instellarms, LIC
 インステラアームズはリム宙域のAクラス宇宙港の多くの星系に支社を持ち、企業や星系政府の保安業務に傭兵の派遣を行ったり、兵器の販売をしています。
 同社は、ソロマニ・リム戦争時に鹵獲されたTL10~13のソロマニ軍の小銃、弾薬、補給物資、戦闘車両を帝国から買い上げる契約を結びました。これらの武器は再整備され、ソロマニ軍の識別コードを取り除かれた上で、帝国各地の地上軍や傭兵部隊や治安警察に売却されました。ところが皮肉なことに、これらのソロマニ軍兵装の高品質さが評判を呼んでしまい、需要に応えるために同社はその複製品を作るようになりました。
 やがて帝国とソロマニ連合との関係が安定してくると、連合内の牛飼座近傍星団は、本物のソロマニ軍の兵器を購入するよりも、インステラアームズ製の複製品を輸入した方が安いことに気が付き、国境を越えた取引が始まりました。他の帝国系メガコーポレーションと異なり、インステラアームズは皇族が株式を持っておらず、反帝国国家への(複製品とはいえ)武器供与という行為に対する心理的ハードルが低いのです。

LSP Ling-Standard Products
 多角経営を行っている鉱業会社であるLSPは、戦後のリム宙域で活発に活動を行いました。LSPは資源や市場への接近を確実にするため、賄賂や軍との契約を利用して地元の有力者や独裁者などと関係を持つことを好みます。時としてそうした方針が民間人の抗議やテロリストの攻撃を呼びますが、多くのLSP施設は要塞のような建物と、いかめしい傭兵部隊によって守られています。
 さらにLSPは、数世紀前のソロマニ党政権によって接収された自社資産を取り戻すために、多くのリム世界で弁護士を立てて法的措置を取っています。

マキドカルン Makhidkarun
 メディアや娯楽産業を本業とするこのヴィラニ系企業の食品部門は、テラやガイア産の珍しい高級食品やワインなどの輸出におけるシャルーシッドの独占に穴を開けようとしています。一方で、反ヴィラニ感情や、電子製品部門がリム宙域の市場に不正な手法で進出しようとしたこともあり、他宙域での名声に反して同社はリムではあまり人気がありません。

ナアシルカ Naasirka
 このヴィラニ系のエレクトロニクス企業は、ソロマニ・リムで着実にシェアを拡大しました。また同時に、リム宙域におけるゼネラルプロダクツの下請けも行っており、仕事を容易にするために、多くのナアシルカの工場はゼネラルプロダクツの造船所の近くに置かれています。なおナアシルカの電子機器は、反ヴィラニ感情が残っている星系ではゼネラルプロダクツの名義で販売されています。
 ナアシルカはシュルルシシュ(0214)にロボット研究所を持つなどしていますが、加えて、大学のコンピュータや数学や人工知能といった研究に直接資金を提供しています。同社は優秀な卒業生の取り込みを強めるために、高等教育に多額の寄付を行っているのです。中でもテラ大学に新設されたナアシルカ・エンジニアリングセンターは、同社の気前の良さの代表格です。
 最近では若いヴェガン科学者の獲得を目指し、科学的な専門知識を持つトゥフールとの合弁事業をムアン・イスラー(1816)で開始しました。

SuSAG Schunamann und Sohn AG, LIC
 SuSAGのリム宙域への進出は、小国家イースター協定(Easter Concord)が帝国に加盟する直前の425年に、工場用地としてイニドゥ(2406)を取得したことから始まりました(現在でもイニドゥは同社の宙域本部です)。
 SuSAGの全ての部門はリム宙域で活発に活動していて、同社の営業所は帝国領内の全てのAないしBクラス宇宙港で見ることができます。また、SuSAGはリム内のいくつかの企業を買収しています(その中で最も大きなものがシーハーベスター社です)。
 同社の帝国外事業部は、ヴェガ自治区内だけでなく、ソロマニ連合内の何十ものの世界で事業を行うために、ペーパーカンパニーや秘密の子会社を運営しています。ただしソロマニ連合内でも超能力ドラッグの製造は違法ですので、それが目的ではありません。ソロマニ連合のバイオテクノロジー(特に遺伝子操作)技術はある地域では帝国よりも優れており、この技術への接近を図るためなのです。これらの子会社とSuSAGの関係は、「ソロマニ企業を所有している帝国企業」という悪評と法律問題を避けるために秘密にされています。
 他にもSuSAGには、ソロマニ連合への化学兵器供与やソロマニ主義政治犯への人体実験などの悪い噂がつきまとっています。

シャルーシッド Sharurshid
 数千年前はこの地を統治していたシャルーシッドですが、現在のリム宙域におけるシェアは大した規模ではありません。しかし、テラ産の贅沢品の貿易に関しては別です。テラで作られた飲料(コーヒー等)、酒類(ワイン、ウイスキー、ビール等)、タバコなどは、ほぼ全てがシャルーシッドの宇宙船によって輸出されています。一方で帝国の支配階層向けの極少数のとても高価なビンテージ品に関しては、帝国偵察局の船に委託して運ばれています。
 なお、シャルーシッドのブローカーは、手強いが誠実な交渉人として名高いです。

スターンメタル・ホライズン Sternmetal Horizons, LIC
 LSPのライバル企業であるスターンメタル・ホライズンは、惑星上でも小惑星帯でも、ソロマニ・リム宙域最大の鉱業会社です。同時に、一般車両のパワープラントから核融合発電所、合成食品製造機械、生命維持装置といった分野の主要な製造元でもあります。よって、リム宙域の高人口世界やアーコロジーの多くは、スターンメタル製品に生命を預けていると言っても過言ではありません。リム宙域の広告で親しまれている『スターンメタルおじさん(Uncle Sternmetal)』のキャラクターは、同社の信頼性と優秀なサービスの象徴でもあります。真面目で不正を働かない企業、という世間一般の評価は、本業の鉱業分野においてもLSPより有利な契約を得る助けとなっているのです。
 ソロマニ・リム宙域のインフラへの高いテロ攻撃の危険性により、同社は重要な発電所や生命維持システムを守る緊急対応チームを組織し、訓練しています。

テュケラ運輸 Tukera Lines, LIC
 旅客・貨物輸送で帝国最大手企業であるテュケラ運輸は、他の宙域と同様に主要通商路の独占を目指しています。しかしリム戦争以降、同社はソロマニ・リム宙域内におけるシェアを確保することに苦戦しています。シャルーシッドや宙域企業(ソラー輸送やエウム・シャオ・グウィなど)の牙城を崩すためにテュケラは手段を選ばず、貴族社会に張り巡らせた人脈や、冷酷な社内諜報部門であるヴィミーン(Vemene)を活用しています。
(※1105年設定のマングース版原文では、手段として「皇族との近さ」が挙げられていたのですが、先々代皇帝ガヴィンの曾孫であるデルファイ・アナクシアス両公マーガレット・イェティリナ・アルカリコイが、テュケラ一族のアレクヴァディン伯爵ブライン・トゥルーラ・テュケラ(Count Blaine Trulla Tukera of Alekvadin)との結婚後にテュケラ姓を名乗るのは1110年のことです。1120年設定のGURPS版に影響された勘違いと思われますので、独断で「貴族社会の人脈」と変更しました)

ジルンカリイシュ Zirunkariish
 ヴィラニ系投資銀行である同社は、ソロマニ連合の歴史書で頻繁に非難されています。これは、ジルンカリイシュの創業者一族の末裔であるアンティアマ妃とザキロフ皇帝との結婚に端を発します。ソロマニ主義の陰謀論者は、このヴィラニ系企業が帝国を影からいまだに操っていると主張し、帝国の公人や政策にジルンカリイシュの不透明な資金が流れているという「創作物」を出版し続けています。
 一方でジルンカリイシュはその遵法精神の高さだけでなく、密接に帝国政府と協力する安定した金融機関としての高い評判を得ていて、同社はウルティマ星域やアルバダウィ星域の発展途上惑星の開発においても大きな役割を果たしています。
 ジルンカリイシュはヴィラニ系企業の類に漏れず、ソロマニ主義活動家の標的になりがちであり、リム宙域で活動する同社の幹部社員には必ず1人以上の護衛が付けられています(仕事先の危険度に応じて護衛の人数は増やされます)。

 また帝国の宙域内企業としては以下のような会社が活動しています。

エウム・シャオ・グウィ Ewm Shao Gwi
 ヴェガ自治区内の貿易を一手に担うこの会社は、数千年前にヴェガンが宇宙に進出する以前から商業のトゥフールとして活動していた伝統を持ちます。エウム・シャオ・グウィの目的はビジネスの成功ではなく、言わば哲学的に利益の分配と資源の再分配を追求しています。
 同社は母星ムアン・グウィで旗揚げしましたが、現在ではムアン・イスラーに会社の基盤を置いています。エウム・シャオ・グウィは、ヴェガ自治区内全域と境界から6パーセク以内の一部の帝国領星系を商圏としています。

イチバン・インタステラー Ichiban Interstellar, LIC
 イチバン社はソロマニ・リム宙域で最古と言われる(その歴史は第二帝国時代から…と同社は主張しています)傭兵斡旋企業です。イチバン社は、傭兵の募集から給与の支払い事務、兵装の販売から補修、その他あらゆる傭兵に関するサービスを、傭兵部隊の指揮官や依頼人に提供しています。また宙域最高の軍事・政治両面の情報部門の専門家を取り揃えています。
 イチバン社は兵器や装備の製造部門を極わずかしか持っておらず、それらは他社(主にインステラアームズ)から購入して、契約した傭兵部隊(または傭兵個人)に転売しています。
 ちなみに昔からイチバン社には、機械もしくはバイオ技術で人体を強化した「サイバーニンジャ部隊」があるという未確認の噂があります。
(※イチバン社の大株主であるタンクレディ家は、アンタレス・ホールディングスなどを所有する帝国の名門貴族です)

シーハーベスター Seaharvester, LIC
 シーハーベスター社は、海洋の天然資源開発を専門とする企業です。同社は934年に創業され、養殖漁業、深海採掘、海中金属抽出の分野でTL13~15の技術を持っています。生化学部門では、海洋生物から薬品や栄養食品や化粧品に役立つ生成物の抽出も行っています。さらにシーハーベスター社は、狩猟用から養殖用まで、様々な水棲生物のクローンを星系政府の依頼で提供する事業も手がけています。
 同社は1099年にメガコーポレーションのSuSAGに買収されましたが、独立した子会社として営業を続けています。この買収により、SuSAGはいくつかの重要な医薬用物質、特にPDPT-βという幅広く用いられている抗生物質を独占的に確保することができるようになりました。

ソラー輸送 Solar Shipping
 テラに本社を置くソラー輸送は、ソロマニ・リム宙域の帝国領側で旅客と貨物の輸送事業を営んでいます。かつては宙域全体で運行を行っていましたが、ソロマニ・リム戦争後にソロマニ連合領側の通商路を放棄せざるを得なくなりました。その通商路はソロマニ輸送(Solomani Shipping)が引継ぎ、両社は相互乗り入れ契約を結んでいるため、国境で分断された2社はまるで一つの会社のように利用が可能です。


 ソロマニ・リム戦争の後、ヴェガ自治区の設置の効果もあってか、リム宙域の情勢はかなり安定はしています。しかし宙域が内包する民族主義の問題がある以上、様々な活動家が跋扈しているのも事実です。反帝国テロ組織「テラの支配(Rule of Terra)」などだけではなく、反ソロマニを掲げる過激な団体もあります。戦争時にテラに隠匿した軍事物資を用いてソロマニ系ゲリラが蜂起を試みようとした「フェニックス計画」の発覚以後、帝国はこうした過激派の取り締まりに力を入れています。
 こうした問題に対し、力ではなく寛容さで臨もうとする人々もいます。「オーセンティスト」と呼ばれる人々が推進するオーセンティック運動(Authentic movement)は、988年にソロマニ人の人類学者ヨハン・クラム(Johann Kramm)(946年生~1005年没)よって書かれた『信ずべき体験(The Authentic Experience)』を原典としています(この書籍の各言語翻訳版は現在マキドカルンから発行されています)。クラムは宇宙全ての文化に価値を見出し、多様性の素晴らしさを説きました。それに賛同した人々が、オーセンティック運動を始めたのです。
 最初コア宙域で広がりを見せたオーセンティック運動は、既にクラム本人が見届けることができなくなった1010年頃には、戦争で荒廃したソロマニ・リム宙域にも広がっていました。当初はソロマニ主義運動の隠れ蓑となる恐れから帝国当局に警戒されたオーセンティック運動でしたが、1050年頃には(特に亡命派の帝国貴族の支援もあって)リム宙域で大きなうねりとなっていました。
 今では、軍政下にも関わらずテラやディンジールといった歴史ある星を訪れる旅行者の多くがオーセンティストとなっています。一方で、運動が最近あまりにも商業化しているのではないかと、一部の支持者が苦言を呈しています。


【ライブラリ・データ】
ソル大公キーラン Archduke Kieran Langos Adair of Sol
 1102年にソル大公位を継承したキーラン卿は、1064年にソル領域首都であるエクセター(ディアスポラ宙域 2729)で誕生しました。ソロマニ系貴族であるアデアー家は、元々マッシリア宙域の男爵家に過ぎませんでしたが、彼の曾祖母であるアリエル・アデアー女男爵(Baroness Arielle Adair)がソロマニ・リム戦争において海軍大提督として帝国軍を勝利に導き、その功績でソル大公となったのです。
 彼はリベール(ディアスポラ宙域 1109)のオミクロン大学で政治学を学んだ後、帝国の外交使節団の一員としてリーヴァーズ・ディープ宙域やダーク・ネビュラ宙域を回り、ソロマニ連合やアスランの文化や政策、そして彼らとの付き合い方を学びました。その後、アスランの母星であるクズ(ダーク・ネビュラ宙域 1226)に帝国の代理公使(charge d'affaires)として赴任しましたが、父であるエティエンヌ大公が病に倒れたために帰国して父の名代を勤め、前大公の死去後にソル大公となりました。
 新大公はまず就任後2年間はディアスポラ宙域とオールド・エクスパンス宙域の経済活性化に努め、現在は政策の焦点をソロマニ・リム宙域に当てています。その手始めとして、領域全体の安定と繁栄を考えて、領域首都のリムへの移転を計画しています。
 穏健改革派と目されるアデアー新大公は、ストレフォン皇帝と親しい間柄です。しかし帝国貴族院(Moot)からはあまり好ましく思われていないようです。また、テュケラ運輸のやり口を嫌っており、両者は対立関係にあります。
 ちなみに、大公は現在独身です。
(※ソル領域(もしくはソロマニ人)には貴族を苗字で呼ぶ風習があるため、「アデアー大公」という呼び方は間違ってはいません)
(※マングース版『The Solomani Rim』では、アデアー大公は1105年現在、ディアスポラ宙域の首都であるリベールに「座している」ことになっていますが、リベールが領域首都であるとは記載されていないので、エクセターを領域首都とするGURPS版設定との両立は可能と判断しています)

ディンジール公ロバート Duke Robert Stephanos Beaudoin of Dingir
 ディンジール公の長子として誕生したロバート卿は、テラ大学で軍事学を学んだ後、帝国海軍中佐として勤めました。1095年に父の願いで退官し、2年後にその父の死去を受けてディンジール公爵となりました。
 野心家であった新公爵は、就任後すぐに、宙域公爵となるべく政界工作を始めました。周囲への雄弁な説得と、そして少しの陰謀を駆使して、1098年に宙域公爵であったコンコード公を不信任投票で失脚させ、自らが取って代わることに成功しました。しかし翌年に「元宙域公爵」が失意のあまりに自殺したため、宙域の貴族社会に苦い記憶を残してしまいました。
 それでもロバート公の手腕は確かで、社会不安を抑え、宙域海軍の組織改革などで成果を挙げています。彼は宙域公爵就任の際に多くの敵を作ってしまいましたが、その政敵ですら彼の実績は(渋々ですが)認めています。



 これだけでもまだこの宙域のほんの一部でしかないほどに、このソロマニ・リム宙域は隅から隅まで奥深く設定がなされています。次回からは1星域規模に焦点を絞って紹介をしていきたいと思います。


【参考文献】
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Adventure 9: Nomads of the World-Ocean (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Aliens: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)
・Traveller Wiki