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宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

蘇る「ガシェメグ宙域」

2016-06-19 | Traveller
 ご存じの方もおられると思いますが、Travellermapに描かれたグシェメグ(Gushemege)宙域のXボート網は『The New Era: 1248』の帝国暦1248年設定のものです。本来、HIWG(History of the Imperium Working Group)内部で起こされた設定があったはずなのが失われ、それを補うかのように載せられているわけです。
 しかしそもそも帝国暦1248年設定は「一度『大崩壊(Collapse)』で全てが灰になってから蘇った」宇宙像なので、「安定した大帝国」が存在する黄金時代(帝国暦1100年代初頭)とは重要星系の位置付けは当然異ならなくてはなりませんし、Xボート網も違ったものになっていなくてはおかしいのです。また、1248年に「第四帝国」領外となる2星域に関しては当然ながらXボート網が全く敷設されていない、という問題もあります。

 無いものは自分で作る、という手もありますが、公式に公開されているものを使うのが一番楽でしょう。オールドファンの人にはご存知だと思いますが、このグシェメグ宙域は別設定が存在します。西暦1991年、マーク・ミラーからお墨付きを貰って、日本独自展開が『RPGマガジン』誌で行われた「ガシェメグ宙域」がそれです。
 この日本版「ガシェメグ宙域」は、サプリメント『Atlas of the Imperium』を底本にして独自にUWPとXボート網と少ないながらも星域設定が起こされ、1991年4月号から10月号にかけて7星域分が掲載されました。後に予定されていた単行本で全星域が載ったかもしれませんが、結局立ち消えとなりましたが(まあ出たとしても買ったかと言われれば…(苦笑))。

 では、現存する7星域分のXボート網を再現してみましょう。UWPについては日本版を再現するには手間が掛かり過ぎるので(カタカナで書かれた星系名をアルファベットに「復元」するのは無理ですし)、HIWG版のデータをそのまま使用します。


 宙域外に出るルートは他宙域設定との兼ね合いを考えて一旦削除し、連載段階で隣の星域と噛み合っていない航路は(どうしてこうなった…?)独自に補正しています。

 設定が起こされなかった残る星域はどうするか。やはり自分で作ってもいいのですが、ファンサイトjtas.net(現在はドメイン失効により閉鎖)に掲載されていたXボート図を継ぎ接ぎしてみようかと思います。
 jtas.net版のXボート網は「AクラスBクラスの宇宙港が固まる星団」があると妙に各駅停車ならぬ「各港停船」したがる癖があるのですが、それも味だと考えて下手に均したりせずにそのまま採用しました。
 ということで、日本版とjtas.net版のXボート網を合成したものがこれです。



 この宙域図の制作にあたり、以下の補正を施しています。

  • 日本版設定とjtas.net版設定で接続が噛み合わない部分は、妥当と思われる範囲で修正を施した。
  • 周辺宙域との接続部分は、周辺の「公式」(コリドーとレフト宙域はDGP及びマングース版、ダグダシャアグ宙域はHIWG版、イレリシュ宙域は(いつの間にか出来ていた)T5SS版)設定に合わせた。ただし座標3240から通じる航路はHIWG版設定にはないが、これがないと途方も無い迂回を強いられることと、T5SS版やjtas.net版に存在することから設けた。座標3211に通じる航路も、HIWG版設定では座標3212に通じるように見えるが流れを考慮して補正を行った。
  • HIWG版UWPに存在する明らかな誤植を修正した。同時に、『Atlas of the Imperium』では高人口世界ではないのにHIWG版UWPでは高人口世界となっている星系の人口を8に減らした。
  • HIWG版UWPと『Atlas of the Imperium』で何故か名前が変わっている高人口世界の2星系は、『Atlas of the Imperium』に合わせた。
  • 『Atlas of the Imperium』では高人口世界とされている座標0237の星系は、『Challenge』誌69号に「高人口世界ではない」設定が掲載されてしまっている(単純にHIWG版UWPを引き写したと思われる)以上、高人口世界に補正するのは適切ではないと考えてそのまま残した。
  • Xボート航路の「飛び越え」(α星系からβ星系へ飛ぶXボート航路の真下にγ星系が存在してしまう問題。60の倍数の角度でジャンプ-2以上の線を引くと発生する場合がある)については、「星域首都の星系」「Aクラス宇宙港の星系」「基地のあるBクラス宇宙港の星系」「Cクラス宇宙港以上の高人口星系」は停泊、それ以外は飛び越す、と定める。
  • 座標2202と2305の間は日本版設定では航路がないが、HIWG機関紙『AAB Proceedings』第13号(1991年)によると航路が存在するため、この部分だけでも失われたHIWG版設定を再現するものとする。
  • 星域首都の位置はHIWG版設定を採用する。ただし『メガトラベラー』以降の宙域首都の位置交換(2224⇔1015)に伴い、座標1013を星域首都とする設定は過剰となるので削除(宙域首都と星域首都が同一でないといけないという設定はないが、見た目がややこしいので…)。
  • 星域首都をXボートが通過しない2星域に関しては、日本版・jtas.net版共に元来別の星系を星域首都とする航路設定のため、星域首都に繋がる航路を追加する。座標0230から0529・0530の両星系に航路を引くことによって0630から0428までXボートが各駅停車する理由も作れる(※Xボート航路は原則として交差させないので、最短距離に航路を引くことができなくなる)。一方、0725から0724の1本だけにしたのは日本版設定から見た目を大きく変更させないため。

 これで別に何かしようというわけでもないのですが、そこそこ様になったものが出来上がったので公開しました。自分だったら「飛び越え」が発生しないようにしながらジャンプー3~4を基本とする航路を引くと思うので、他の人の癖を見るというのは新鮮かつなかなか良い勉強になりますね。

特別企画:GURPS Traveller 17年の歴史を振り返る

2015-12-01 | Traveller
 ご存じの方も多いかと思いますが、2015年12月31日をもってSteve Jackson Gamesが取得していた「トラベラー・ライセンス」が失効し、これまで販売されていた全製品が絶版となります。最後に製品が発売されたのが2006年のことですから、9年間もライセンスを更新し続けていたというのは驚異的としか言いようがありません。

 『GURPS Traveller』が世に出たのは1998年。この年、『Marc Miller's Traveller』(T4)を展開していたImperium Gamesが活動を終了したのと入れ替わるようにして、刊行が開始されました。旧来のシステムを捨てて汎用システムであるGURPSを使用するこのシリーズは、当初賛否両論も多かったのですが、後にGURPSらしい極めて質の高いサプリメント展開がなされたことで好評を博しました(GURPSでは遊ばずに資料だけいただく、というのが主ではあったと思いますが)。確かにGURPSは癖の強いシステムではありましたが、キャラクターに付いた「有利/不利な特徴」の要素はロールプレイの手助けと同時に「異星人らしさ」を表現する面でも有効的であったことは書き記しておきたいと思います。その一方で、宇宙港クラスやTL数値の意味合いが変更されたのは、仕方ないとはいえ混乱を呼びましたが…。

 この"GT"の特徴はシステムだけでなく、宇宙設定にもありました。旧来のOTUを継承しつつも「『反乱(Rebellion)』が起きなかった帝国暦1120年」という新機軸を打ち出しました。『メガトラベラー』から『Traveller: The New Era』にかけての「エキサイティングさ」を求めた設定が必ずしもファンには評価されてなかったことを見て取ってか、「大事件の起きない安定した恒星間帝国」を舞台にしたのです。SJGが独自に展開していた「Traveller News Service」は帝国暦1130年047日付で更新を終了しましたが、これから先もこのGTU(GURPS Traveller Universe)では大事件が起こることはなく、仮にストレフォン皇帝が死を迎えても無事にシエンシア皇女が皇位を継承して、アルカリコイ朝は続いていくことでしょう。
(※とはいえ「エンプレス・ウェーブ」の設定を考えると、数十年後には銀河核方向で異変が起こり始めるはずですが…)

 では、発売年代別にGURPS Travellerに限らず、SJGから発売されたトラベラー関連の全製品を簡単に振り返ってみたいと思います。なお、発売日順には必ずしも並んでいないのでご了承ください。


【1998年】 T4の終焉、GTUの幕開け
GURPS Traveller
 伝統の黒表紙にあの「This is Free Trader Beowulf,」から始まる、トラベラーが戻ってきたことを告げる基本ルールブック。キャラクター作成(および変換ルール)、装備品、宇宙船解説(デッキプラン付き)といった必要最低限のものを押さえつつ、全体の半分を占めるのはライブラリ・データを含めた設定解説、という一冊。『メガトラベラー 帝国百科』があれば十分とはいえ、ありがたい資料でもあった。
 ちなみに初版・第2版共にソフトカバー版・ハードカバー版が存在し、後に「トラベラー25周年記念版」も発売された。またPDF版に「Classic」とあるのは、ルールがGURPS第3版対応だからだと思われる。

Alien Races 1 Zhodani, Vargr and other races of the Spinward Marches
 主要種族のゾダーン人とヴァルグルに加え、グォークナイル宙域(※スピンワード・マーチ宙域から2宙域ほど核方向にある)のドラカラン(Drakarans)と、ゾダーン領内のクロトー(Clotho)の2群小種族を解説。GURPS版準拠だが超能力の追加ルールもあり。

Behind the Claw The Spinward Marches Sourcebook
 スピンワード・マーチ宙域の全星系の設定を(1120年とはいえ)網羅した唯一無二の資料集。スピンワード・マーチを冒険の舞台に選んだレフリー必携の一冊。

【1999年】
Alien Races 2 Aslan, K'kree and Other races rimward of the Imperium
 主要種族のアスランとククリー、菌糸と動物が共同で知的生命となった「知性デヴィ(Devi Intelligence)」、水棲知的種族イニクス(Inyx)の設定を収録。

Far Trader Profit and pitfalls among the stars
 交易ルールから金融・企業経営、はたまた星系内移動まで網羅した商人サプリメントだが、最大の功績は世界物流指数(World Trade Number)の導入により、Xボート網とは違う「星間交易の流れ」を可視化したこと。

First In Exploration and contact among the stars
 偵察局の設定、装備、GURPS対応上級星系作成システムを収録。

Star Mercs Military and Mercenary Campaigning
 GDW版『傭兵部隊』のGURPS版といった趣きのサプリメント。傭兵にまつわる全てがこの一冊に。

【2000年】 クラシック版、合本にて復刻開始
Alien Races 3 Hiver, Dryone, Ancients and other enigmatic races
 主要種族ハイヴとドロイン(および太古種族)、ハイヴ領外のダイソン球に住む"相続者たち"(Inheritors)、ククリーと敵対してハイヴと同盟を結んだリスカインド(Lithkind)を収録。

Ground Forces Furious action in the Marines and Army
 地上で戦う海兵隊・陸軍の設定、装備を網羅。この本によって初めて明らかになった設定も多い。

Rim of Fire The Solomani Rim Sourcebook
 ソロマニ・リム宙域の、全星系ではないものの多くの星系の設定を収録。マングース版にはない情報もあるため、この宙域を舞台にしたいなら必携の書。

Starports Gatways to Adventure
 これまでありそうでなかった「宇宙港」に焦点を当てたサプリメント。数々の新設定やサンプル宇宙港のデッキプランもありがたいが、「宇宙港キャンペーン」という新たな遊び方を提唱した功績は多大。

【2001年】
Alien Races 4 16 Intelligent races from across space
 仲良くなれそうなものから存在を知られるとパニックになりそうなものまで、帝国内外の様々な群小種族を解説。

Modular Cutter Workhorse of the Imperium
 帝国の縁の下の力持ちである小艇について解説。モジュール式が採用されており、様々な用途に合わせて組み換え可能なのが特徴。小さいながらも60ページに及ぶデッキプランの数々は、見ているだけでも楽しい。

Planetary Survey 1: Kamsii The Pleasure World
Planetary Survey 2: Denuli The Shrieker World
Planetary Survey 3: Granicus The Pirate Paradise
Planetary Survey 4: Glisten Jewel of the Marches
Planetary Survey 5: Tobibak The Savage Sea
Planetary Survey 6: Darkmoon The Prison Planet
 このシリーズは1冊32~48ページの中に1つの星系の詳細情報やシナリオフックを詰め込めるだけ詰め込んだもの。1がコア宙域、2と4がスピンワード・マーチ宙域、3と5と6がコリドー宙域で、綿密に設定が組まれているだけに他の星への設定の移植は難しいかもしれない。なお『Denuli』はGDWから出ていたシナリオ『Safari Ship』(未訳)の後日談であり、当然ながらネタバレを含むので扱いには注意。

【2002年】 Traveller20刊行開始
Heroes 1: Bounty Hunters WANTED! REWARD!
 ならず者を追う「賞金稼ぎ」に関する設定とNPC集。1と銘打ったものの出たのはこれだけであった。

Best of JTAS, Volume 1  The Journal's Finest!
 SJGが展開していた会員制オンライン誌「Journal of the Travellers' Aid Society」から一部記事を書籍化。ささやかではあるが、現時点で「人類の支配(第二帝国)」の設定が掲載されている商業出版物はこれのみ。

【2003年】
Humaniti The infinite Variety of Mankind in space
 太古種族によって宇宙各地にばら撒かれ、それぞれ独自に進化した「人類」を解説。異星人よりも異種族な、バラエティ豊かな人類像を描いた。

Starships Construction, Combat and Adventure
 待望の海軍サプリメント…となるはずだったが、結局宇宙船設計ルールのみを収録。細かく読めば設定の宝庫ではあるのだけど…。

【2004年】
Sword Worlds The Day After Ragnarok
 題名通りのソード・ワールズ人やソード・ワールズ連合を解説したサプリメント。注目点は、後にも先にも類を見ない「星域全星系の惑星図」。平穏な1120年設定だからこそ出来る「政情不安な占領地」的な冒険に向いた世界観を提供した。

Flare Star
 元は1981年にMarischal Adventures社から発売されたリーヴァーズ・ディープ宙域を舞台にした「スコティアン・ハントレス号」4部作シナリオが(※このシリーズ5作目がGDWから発売された『侵略の夜(Night of Conquest)』)、後にSJGの『SpaceGamer』誌に掲載されたもの。それをGURPS版にリメイクして無料PDFで復刻。

【2005年】 FFE、メガトラベラーからCD-ROM版復刻開始
Nobles Lords of the Stars
 縁遠いようで身近な「貴族」について、国政を動かす大貴族家から末端のナイトまで徹底解説。また、帝国の裁判制度や貴族院、行政組織の設定も網羅するなど貴重な一冊。

Psionic Institutes
 ここからGURPS基本ルールが第4版に移行。題名通りに超能力研究所に関する設定を収録。PDF版のみの販売。

【2006年】 『New Era: 1248』登場
Interstellar Wars One World Against Thousands
 GURPS第4版対応に伴い、宇宙設定を帝国暦以前の「恒星間戦争時代」に変更。地球連合・ヴィラニ帝国両陣営の詳細設定や戦争全史を網羅した超一級の資料集でもあった。ここから新展開が期待されていたがGURPS自体が斜陽だったこともあって、これが最後の刊行となった…。
 余談だが、第4版移行の最大の利点は「宇宙港クラスがABC表記になった」ことであった(笑)。

【アクセサリー類】
Cardboard Heroes, Set 1: Soldiers of Fortune
Cardboard Heroes, Set 2: Imperial Marines
Cardboard Heroes, Set 3: Zhodani
 1982年、SJGが自社展開していた「Cardboard Heroes」規格の駒セットを、GDWのライセンスを取得して販売していたもの。切り取って折り曲げるだけで完成する簡易駒だが、利便性はなかなかのもの。この後ヴァルグルが発売される予定だったようだが、3作品で打ち切られた。

Science Fiction Player Characters, Set 17
 1987年に出された「Cardboard Heroes」のトラベラー風セットだった、らしい。

Droyne Coyn Set
 2000年に発売されたドロインの通過儀礼で用いられるコインセット、のペーパークラフト。上記AR3やエイリアンモジュール、『黄昏の峰へ』などと併せて使用したいところ。

Deck Plan 1: Beowulf-Class Free Trader
Deck Plan 2: Modular Cutter
Deck Plan 3: Empress Marava-Class Far Trader
Deck Plan 4: Assault Cutter
Deck Plan 5: Sulieman-Class Scout/Courier
Deck Plan 6: Dragon-Class System Defense Boat
 2000年~2002年にかけて発売された、「Cardboard Heroes」規格かつGURPSルール準拠で「1ヤード=1メートル」幅の「ヘクス」が引かれたデッキプラン。全部広げるとベオオルフ級でも結構な場所を取るものであった。

GM's Screen
 2002年にようやく発売。ゲームマスター用スクリーンに「Brubek's」のフロアプランと「Cardboard Heroes」のシートが付属していた。ちなみに「Brubek's」とは、帝国各地のBクラス以上宇宙港に店舗を多数展開している酒場チェーン店のこと。詳細は『Starports』を参照。

Traveller T-shirt
Brubek's T-shirt
IISS patch
Imperial Sunburst patch
 こういうグッズも販売していた(※ただ、patchに関しては本当に発売されたか調査中)。

Starship Forms
 宇宙船設計用紙セット…が発売される予定だったが中止になったようだ。


 そのほとんどが現在でも一線級の資料群だっただけに失われるのが惜しいのですが、さすがに9年も新製品が出ない状況で続けろというのも酷であり、残念ではありますが「その使命を終えた」のでしょう。本家がT4で迷走した後でOTUを立て直し補強したその功績は多大であり、いつまでも読み継がれるべき作品群だと思います。
 制作や出版に携わった皆さん、お疲れ様でした。

追記:現在では版権移管により、Far Future EnterprisesにてCD-ROM版販売が、Warehouse 23にてPDF版単品売りが再開されています)

宙域散歩(番外編5) 「人類」総まとめ(2024年改訂)

2015-02-04 | Traveller
 30万年前、太古種族は何らかの理由でテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)原産の「人類(Humaniti)」の祖先を運び去り、少なくとも90の世界に拡散させました。移住先で絶滅したものも少なくはないですが、40以上の世界でそれぞれ人類は生き残り、独自の進化と発展を遂げました。太古種族の遺伝子操作を受けたもの、そうでないもの、また後に人類自身の手で遺伝子操作を受けたもの等々、今では人類は多様性に富んだ種族となりました。
 以下に挙げたものは、そんな数々の人類をまとめたものです。


◎:マーク・ミラーが「公式」と認めたとされるリストに載っている32種族
○:それ以外で出版物等公的な資料に掲載されている種族
△:公的資料には存在だけが記され、非公式設定で詳細が補われた種族

【主要人類】 Major human races
 自力でジャンプドライブを開発した人類はヴィラニ人、ゾダーン人、ソロマニ人の3種。(異論はあるものの)そのような種族は『主要種族』と分類される。

ヴィラニ人 Vilani ◎
母星:ヴランド(ヴランド宙域 1717)
 人類に限らず、現存する知的種族の中では最も早くジャンプ航法を開発し、巨大な「星々の大帝国(ジル・シルカ/第一帝国)」を打ち立てた。外見はソロマニ人と大差はないが(ただし主星の影響で日に焼けている)、特有の長寿遺伝子を持ち、純血のヴィラニ人であれば平均寿命は130年に及ぶ(150年以上生きるのも珍しくはない)。ヴランドの動植物はヴィラニ人には消化が難しかったため、磨り潰しを基本とする独特の食文化を持つ。

ゾダーン人 Zhodani ◎
母星:ゾダント(ゾダント宙域 2719)
 長身(2m)で浅黒い肌を持ち、歯の本数が28本とソロマニ人やヴィラニ人よりも少ない。決して排他的ではないが、肌の色が似た種族ほど彼らに受け入れられやすい傾向はある。約6500年前にジャンプドライブを開発して広大な恒星間国家を築いた彼らは、超能力を基盤とした身分社会を構成している。そのため領土問題も含めて第三帝国とは敵対関係にあり、数度の辺境戦争を戦った。

ソロマニ人 Solomani ◎
母星:テラ(ソロマニ・リム宙域 1827)
 ヴィラニ人との接触直前にジャンプドライブを開発し、その後の恒星間戦争に勝利して「人類の支配(第二帝国)」を建国した。その時代に宇宙各地に広まった彼らの文化や風習は、暗黒時代を経て第三帝国の時代となった今でも生活の隅々に影響を与えている。
 ちなみに、今や「純血のヴィラニ人」は名門貴族家ぐらいにしか見られないが、「純血のソロマニ人」はソル領域やソロマニ連合内に多く在住する。また、スピンワード・マーチ宙域のソード・ワールズ人やガルー人はソロマニ人の血を強く残す「民族」である。

「帝国人」 (Imperials) ○
 第一帝国の成立から1万年が過ぎ、ヴィラニ人を始めとする人類はソロマニ人やその他の人類と混血を繰り返し、今や特定の人種とは言えなくなっている。帝国市民の中にはそういった自らの種族を「帝国人(ホモ・サピエンス・インペリアリス)」だとする者もいるが、あくまで俗称に過ぎない。


【群小人類】 Minor human races
 宇宙各地で独自に進化、もしくは太古種族による遺伝子改良が施された人類のうち、自力でジャンプドライブを開発できなかったもの。彼らの多くは母星のみ、もしくはその周辺星系でしか見ることはできない(が、宇宙各地に広まった種族も存在する)。
 なお、現存が確認された群小人類は46種であり、そのうち30種以上はヴィラニ帝国と接触を果たしている(※しかし、公式設定や位置関係的に明らかにヴィラニ人と接触していない種族が既に13種以上あり、この設定の説得力は揺らいでいる)。

アザンティ人 Azhanti ◎
母星:イラレ(アンタレス宙域 2315)
 高温環境で生き残るために進化して、痩せ型の反面頭蓋は大きく、無毛となった。大気中の硫黄分を濾過する気管を持った影響で女性でも声は低い。老化速度は遅くも寿命は短いが(70年前後)、「神の与えた試練から逃げる」として寿命延長措置は拒む。一方で好奇心は旺盛で挑戦心に富み、恒星間社会に積極的に飛び込んでいる。

アットーン人 Attorn ○
母星:ジェプトーレム(シータ・ボレアリス宙域 1517)
 一般的な人類よりも毛深く、著しく青みがかった肌をしている。

アナクンドゥ人 Anakundu ○
母星:ワロー(ヴィラニ名:ヌイヤ)(オールド・エクスパンス宙域 0512)
 主星の強烈な輝きと雪原からの反射によって、成人で2~4時間程度の睡眠時間で生活するようになった種族。ただし睡眠が必要ないわけではなく、不眠の影響と思われる精神疾患などで彼らの寿命は(ヴィラニ人との接触以前は)約50年であった。寿命を延ばす「魔法の」薬をもたらしたヴィラニ人に感謝し、恒星間戦争ではヴィラニ軍の夜襲部隊や工作員として地球人を苦しめた。
(※T5設定には盛り込まれなかったため、ヌイヤ星系がどこかは今のところ不明)

アヤンシュイ人 Ayansh'i ○
母星:ゴースト(リーヴァーズ・ディープ宙域 3115)
 痩せ型で暗視能力を持ち、ヴィラニ人以上に長寿(250年)の種族。最も特徴的なのは、双子出産が通常である点。彼らの芸術は帝国内で高く評価されているが言語は秘匿されており、外世界人との会話のために外世界の言語を非常によく学んでいる。

アンスウェリン人 Answerin ◎
母星:アンスウェリン(ヴランド宙域 0431)
 外見はソロマニ人やヴィラニ人と大差はないが(連星の光の影響で肌が黒くて目蓋が進化している程度)、「恐怖」を精神病と捉えて克服した種族。また体内物質の分泌により、1分間肉体を強化することができる。その結果、第一帝国の時代から優秀な海兵隊員として重用されている。彼らは元々寿命が短く(70年程度)、母星では動物を狩る側に回れなかったので菜食文化を発展させた。

イッスグル人 Issugur ◎
母星:パーシニア(フォーイーブン宙域 3018)
 パーシニアの広大な台地に農業集落を築き、主星と雲海を崇める原始的な種族。台地は元々居住に向いておらず、栄養事情などにより人口は数十万人程度。他文明からの「汚染」を防ぐために、現地政府によって彼らの居住地域への立ち入りは(宇宙船での接近も含めて)制限が設けられている。
(※資料ではパーシニアの位置は「最寄りのゾダーン拠点から6週間かかる」とあり、確かにフォーイーブン宙域の座標3018はその条件をジャンプ-2なら満たす。ただしフォーイーブン宙域自体にそもそも公式設定はないので、3018は一例に過ぎない。いずれにせよ、この宙域以外にパーシニア星系は存在しそうにない)

イラドレ人 Irhadre ◎
母星:チャナド(リシュン宙域 0935)
 砂漠環境で水分を確保するために、見た目によらず体脂肪率は高い。また、砂嵐の中では視覚・聴覚が役に立たないため、代わりに触覚・嗅覚を発達させた。やや好戦的な種族ではあるが、通常は言葉による喧嘩で収める。痛みや苦しみを表に出すのは弱いことと考え、病人や負傷者を気にかけることはない。また、成人の儀式によって自由民となるか奴隷となるかが決まる文化を持ち、成人人口の半数が奴隷である。

イルサラ人 Iltharan ○
母星:ドレシルサー(リーヴァーズ・ディープ宙域 1826)
 海洋世界の数少ない土地を巡って争いを続けたため、軍国主義と略奪を好む種族となった。長寿かつ老化が遅く、社会は非常に保守的。不妊傾向も特徴として挙げられる。暗黒時代には宙域内に小帝国を築くが、崩壊後の現在は周辺国の警戒下に置かれている。

イルリア人 Ilurian ○
(※ライトニング級巡洋艦の中でも「ハイ・ライトニング」の名を冠する9隻の艦には、接頭語として群小人類の種族名を付ける命名法則があり、第6366号艦にこの名前がある)

イレアン人 Yileans ◎
母星:ガシカン(ガシカン宙域 2732)
 群小人類の中では最も巨大な、約400星系を傘下に持つ恒星間国家「ガシカン第三帝政(Third Empire of Gashikan)」を治める種族(※ガシカン帝政自体は-1784年から続くが、第三帝政は1078年樹立)。母星ガシカン星系の環境の影響で身長1.8mの割に体重が50kg程度、暗青色の肌を持つ。歴史的経緯によりヴァルグルを激しく憎んでいる。

ヴェックス人 Vexx ○
母星:コンディオル(スピンワード・マーチ宙域 0901)
 小柄で青白い肌を持ち、勤勉で友好的な種族。1000年前にゾダーン人と接触して技術革新が起きたが、帝国暦207年に原子力事故を起こして壊滅的な打撃を受けた。現在では地下都市で細々と生活し、宇宙にはほとんど関心を持たなくなった。
(※公式設定とはいえシナリオ『Tripwire』にしか登場しない人類であり、第一次辺境戦争以前の正史と矛盾を起こすなど彼らの設定にはいくつか疑問点があるため、扱いには注意が必要)

ヴラズドゥメクタ人 Vlazhdumecta ◎
母星:ファー・フロンティア宙域のおそらくゾダーン領内
 ファー・フロンティア宙域における人類の多くは、約6000年前にゾダーン人と接触して宙域中に拡散した彼らの子孫である(混血は進んだが)。身長は男女とも1.9m程度だが、女性の方が若干軽量。体毛は髪を含めてほとんど無い。老化速度が遅い代わりに寿命を迎える直前に急速に老化するのが特徴。また、人類にしては珍しく発情期が存在する。

ウルニシュ人 Urunishani ◎
母星:ガシャギ(ヴィラニ名:ウルニシュ)(アンタレス宙域 0727)
 種族としての詳細は不明。彼らの住むウルニシュ星系は、『ソロマニ仮説』以前は人類全体の故郷の最有力候補と考えられていた。
(※T5設定でオッグェンガン(アンタレス宙域 0124)から変更された模様。ただしUWP上では、オッグェンガンに3千数百万人が移住?している一方で、本星のはずのガシャギには数名程度と不自然な人口差がある)

カーゴル人 Kargol ○
母星:カーゴル(レオニダエ宙域 1205)
 テラのネアンデルタール人の子孫である彼らは、薄暗い赤色恒星の光に適応して赤外線を視る大きな目と、母星で快適に過ごすための遺伝子工学技術を発達させた。毛深いので寒さに耐性がある反面、暑さには弱い。惑星カーゴルの生命体は昼夜問わず活動するので、彼らもそれに合わせてまとまった睡眠を取らずに細かく居眠りをする。

カッグシュス人 Kaggushus ◎
母星:カッグシュス(マッシリア宙域 0402)
(※現地の硫黄大気に適応しているらしいが詳細は不明。『Traveller: The New Era』にてカッグシュス星系が解説されたが、彼らについては記載がなかった)

カッシルダ人 Cassildan (Cassilldan) ○
母星:アムベムシャン(アンタレス宙域 0216)
 低重力環境に適応したため、ソロマニ人より長身(平均2.1m)の種族。第二帝国期に地球人と接触し、605年にはテラのレバノン海岸に面したティルス地方に入植を行った(現在のニュー・カッシルダ市)。男女問わず「スカスラ(Scathra)」と呼ばれる武術に通じ、彼らの文化の一部となっている。
(※『Solomani & Aslan』に挿絵のみが掲載されたのが初出。後に『Traveller Chronicle』誌11号にて言及があり、『Traveller5 Core Rulebook』において母星の設定が付加された)

カファド人 Cafadans (Cafadi) ◎
母星:カファド(コリドー宙域 3135)
 惑星カファドの寒冷気候から生き延びるために彼らは地下洞窟生活を営み、その結果小柄な身長と厚い脂肪層、そして高度な暗視能力を得た(さらに開所恐怖症も)。頭上の氷層を「天獄」と捉えた彼らは技術の進歩に背を向けたが、洞窟絵画から発展させた独自の芸術によって知られるようになった。

ククン人(ランシア人) Kukhunen (Lancians) ◎
母星:ククン(グシェメグ宙域 2207)
 ソロマニ人よりは長身(1.9m)でやや痩せている。ククンの動物の肉は彼らには消化できなかったので菜食主義者となった。後に「ランシア文化圏(Lancian cultural region)」を築くほどに芸術的な創造性に長けて平和主義である一方で、内には暴力性を秘めた種族。

クラエダの民 Ne Kraeda ren Kelva
母星:「スピンワード・マーチ宙域国境から2宙域離れた」バエラ星系
 身長2.15m、体重98kgと大柄。複数世界に広がっているらしいが詳細は不明
(※現在はティルデー(ファー・フロンティア宙域 2218)を母星とする(FASA版設定の隙間にねじ込まれた)非公式設定が起こされている)

ゲーナン人 Ghenani ○
母星:ドレナルク (ヴァンガード・リーチ宙域 0822)
 太古種族に改造された惑星に持ち込まれた人類。高重力と高密度大気に適応し、強風に耐えられるよう短足で筋肉質の肉体を得た。色白で頭髪すらなく、温暖気候故かのんびりとしていて、最低限以上の衣服を身に着ける文化も持たなかった。
 現在彼らはゾダーン人と友好関係にあるが、神話に刻まれた歴史的経緯から超能力には嫌悪感がある(※-3000年頃に不時着したゾダーン人らしき者が超能力でゲーナン人を支配しようとして失敗したらしい)。彼らの悲願は宇宙進出だが、あくまで自力でジャンプドライブを開発しないと意味がない(つまり「主要種族」になりたい)と考えている。

ケデプ人 Kedepu
母星:ケデパー(スターズ・エンド宙域 1005)
 外見は少々小柄なぐらいで特徴はないが、人類の中でも特異と言える学習欲を持つ。彼らにとっては知識を得て、それを他者と交換して更に知識を得ることこそが人生の全てなのだ。
 ジュリアン保護領加盟国の一つと接触した彼らは、そこから新技術を仕入れては研究を行い、その結果を納めるという傍から見ると奇妙な共生関係を築いている。

サアンシャカセの遊牧民 Saanshakase nomads ○
母星:サアンシャカセ(レイ宙域 2036)
 サアンシャカセにはTL3の排外的な遊牧民族が住んでいて、彼らの聖職者階級は超能力を有している(よって超能力弾圧下の824年以降はこの星は進入禁止となった)。太古種族によって持ち込まれ、口伝によれば少なくとも5万年前に文明を築いた彼らだが、種としてはホモ・サピエンスよりも古いものから分化していることが研究で明らかになっている。

サーゲシュ人 Thaggeshi ◎
母星:サーゲシュ(ヴランド宙域 2530)
 ソロマニ人ほどではないにしろ、群小人類には珍しく肉体や外見に多様性のある種族。-9100年頃に原始サーゲシュ人はヴィラニ人と接触し、その後はヴィラニ帝国と一体となった。祖霊や自然を崇拝し、特に胎児は神と交信しているという考えを今でも持っている。

ジアッド人 Ziadd ◎
母星:ゼダ(ダグダシャアグ宙域 0721)
 テラのネアンデルタール人を太古種族が大幅に遺伝子改良した種族。男女ともソロマニ人より大柄で、ゼダの高重力と汚染大気に対応した骨格と器官を備えている。攻撃的傾向が強く、個人や集団の名誉を重んじる性格。社会身分は強さに比例する。

ジェオニー人 Geonee ◎
母星:シウォニー(マッシリア宙域 1430)
 高重力環境に適応し、小柄でずんぐりとした筋肉質な種族。ヴィラニ人と接触する前からジャンプドライブを用いていたが、後に太古種族の宇宙船から解析されたものと判明した。一方で彼らは、自分たちこそが太古種族の直系子孫と考えており、発掘ジャンプドライブも「先祖が開発したもの」として群小種族に(どころか人類に)分類されることを認めていない。ちなみに「Geonee」とは彼らの言葉で「古き者たち(old ones)」を意味する。
 ジェオニー人の商人は現在、帝国中のどこでも見受けられる。ジェオニー社会で女性は「命ある資産」と考えられており、常に男性の「保護下」に置かれて社会進出は許されず、いまだに誘拐婚の風習もある(※ただしこれは第一帝国期のヴィラニ人はやめさせていたらしい)。

シェラ人 Shela ○
母星:シェラギョーテ(ディアスポラ宙域 1620)
 外見など詳細は不明。第一帝国期に発見されたが、帝国暦217年に太古種族遺跡絡みの侵入禁止措置が(研究機関を除いて)採られたこともあり、今もTL3(※旧設定ではTL5)文明が維持されている。

シダイト人 Sydite ○
母星:クウル(現地名:ソパター)(レイ宙域 3026)
 肉体労働のために太古種族によって遺伝子改良されて4本腕となった(と考えられている)かなり大柄な種族(身長2~2.5m、体重130kg)。優秀な整備士や兵士となる素質を持つが想像力は乏しいので、慎重な作戦よりも単純な力押しを好む。帝国社会では「醜く不器用な野蛮人」扱いされることが多く、そのことに憤慨している。
(※母星に別名があるのは、Judges Guild版レイ宙域の「シディミク人」の設定が取り込まれたため)

シレア人 Syleans ◎
母星:キャピタル(旧名:シレア)(コア宙域 2118)
 これと言って大きな特徴はないが、強いて言えば左利きとアルビノの多さが特徴。現在ではシレア本星でも少数種族に過ぎないが、帝国内各地に共同体を築いている。

スーラット人 Suerrat ◎
母星:イレリシュ(イレリシュ宙域 2907)
 「類人猿のような」外見をし、イレリシュの赤道に広がる樹林地帯の環境に適応した種族(そのため足で物を掴むことができる)。僅かな光の下でも活動が可能だが、代わりに強い光を苦手とする。樹林とともに生き、動物と意思を通じて飼い慣らすことが非常に得意。彼らはヴィラニ人の到来以前に亜光速宇宙船で周辺星系に広がっていたが、やがて第一帝国に征服された。
(※ちなみに、イレリシュの赤道地帯は「イレリシュの反乱(418年~435年)」が鎮圧された後に見せしめとして焼き払われた)

スワンフェー人 Swanfeh ○
母星:不明
 暗黒時代にどこからともなくカールトン(ゲイトウェイ宙域 2720)などに移住してきた群小人類。外見等の詳細は不明。かつては30もの世界を支配したが、技術後退とともに競争に敗れて力を失った。現在、カールトンを中心とした「スワンフェー自由世界(Swanfei Free Worlds)」という国家があるが、人口こそ彼らが多数派なものの、その実態は「近隣の海賊たちが合法的に商売をするための隠れ蓑」に過ぎない。

ダーミン人 Darmine ◎
母星:イシャグ(ザルシャガル宙域 1323)
 低酸素環境で生きるために肺や血管が発達し、放射線保護のために黒い皮膚を持つ(ただしそれが遺伝子操作によるものか自然淘汰によるものかは不明)。第一帝国による征服を経て第二帝国期に宙域内に拡大した彼らの文化や言語(カドリ語(Kadli))は、暗黒時代を乗り越えて「ダーミン文化圏(Darmine cultural region)」を築き上げた。

タパーズマル人 Tapazmal ◎
母星:ドライカン(レフト宙域 3134)
 (おそらく太古種族による遺伝子操作によって)出生率の低い種族だが、灼熱の地上を避けて高山生活を送る彼らには資源の節約の面で逆に役立った。近隣星域のロースカルス人の襲撃を受けていた彼らは後にヴィラニ人の保護下に入り、ソロマニ人の下で周辺数星系に拡大した。平和を尊ぶ彼らの芸術(特に構造建築)は、帝国内で非常に高く評価されている。

ダリアン(デイリーエン)人 Darrians (Daryen) ◎
母星:ダリアン(デイリーエン)(スピンワード・マーチ宙域 0627)
 細身で金色の色素、尖った耳が特徴の種族。禁欲的で異民族・異文化に寛容な哲学を持つ(※その寛容さ故に混血も進み、純血のダリアン人は現在2割強)。好奇心が強くて学問を重んじたため、一部の科学技術では帝国を凌駕するほどである。

ディンチア人 Dynchia ◎
母星:メラントリス(レオニダエ宙域 0806)
 高い身長(2.2m)と細身の体に青白い肌、そして長い手足共に6本指であるのは、太古種族の遺伝子操作によるものと考えられている。心理面でも操作があったようで、彼らは性差別を考えることができず、絶対的な男女平等社会を築いている。同族同士の戦争は行わないが、決闘によって一族や個人の名誉を守ろうとする。ちなみに彼らの製造するレーザー銃は既知宙域で最高水準の品質である。

ハッピルーヴァ人 Happirvha ◎
母星:レジャップール(リーヴァーズ・ディープ宙域 1218)
 乾燥世界に移住させられた彼らは絶え間ない争いの教訓から、科学技術の発展を避けて今もTL3の文明を維持している。農耕民族のハップラーニ族と、遊牧民族のハッピジョム族に分かれて生活しているが、太古種族による最終戦争の記憶から両者ともに「空の凶神」を恐れている。

ハネン人 Hanen ○
母星:シャカマシュ (グシェメグ宙域 2716)
 見掛けは一般的な人類と大差はないが、水中で体温を保つために皮膚は厚く、皮下脂肪も多い。また体毛がある者は少数派である。水辺や水中を好む彼らは当然泳ぎが得意で、長時間息を止められる。

ハルカ人 Halkans ◎
母星:ハルカ(トロージャン・リーチ宙域 0510)
 アルビノのように見えるが、実際には暗い恒星光に適応したもの。211年(※-50年説もあり)のフローリア人との接触後に彼らの農奴となるも、900年代に解放がなされる(が、貧困はそのままなので市民権のある小作人になっただけであった)。

フィオリ人 Fiorin (Fiorani) ◎
(※ライトニング級巡洋艦の第6350号艦にこの名前がある)

フローリア人 Floriani ◎
母星:フローリア(トロージャン・リーチ宙域 0213)
 太古種族による遺伝子操作により、頭脳に特化したバーナイと肉体に特化したフェスカルの2支族に分化した。頑強なフェスカルは一見バーナイに従属しているように見えるが、両者は不可分の共依存の関係にある。一方バーナイは保守的で創造性に欠けるが、他文明技術の模倣にかけては一流の腕を持つ。

マルニャー人 Mal'Gnar ○
母星:マルニャー・エル(ビヨンド宙域 2803)
 元々寒冷気候に適していたネアンデルタール人を改造し、より低重力環境に適合させた種族。身長は男女とも2mに達し、一般的な人類と比べて手足が長いのが特徴。環境適応によってメラニン色素を失ったため、桃色の肌に白い髪、そして皆青い目をしている(が、アルビノの発生はソロマニ人より稀)。
 彼らの文明は1万年前に鉄器技術に到達した後、今に至るまで変化していない。狩猟採集を基本とする非常に厳格な身分社会であり、掟破りは良くて追放刑である。村落が各地に散らばっていて、千人規模の町は存在しない。医療技術が原始的なため、平均寿命は50歳未満とされる。
 ちなみに猟師や司祭は、羽毛と布で作られた「滑空服」を身に着ける。これは彼らと共に生きるチャーパーの模倣と思われる(※帝国ではこれが誇張され、マルニャーは翼人であるという誤解が広まった)。
(※長らく設定競合により非公式扱いだったが、マングース版で設定が整備された)

ムーリッシ人 Murrissi △
母星:オツァハテァ(フロホーイ宙域 2008)
 太古種族は彼らに土木工事をさせたかったのか、分厚い鱗のような皮膚と穴掘りに適した大きな爪を与えた。その特異な外見から「骸骨人(Skeletors)」とも呼ばれる。人類にしては極めて長寿(300年以上)だが、その分時間感覚も数倍長く、数日間連続で働いても平気な反面、待ち合わせにも平気で数日遅れる。その結果、文明の進歩も極めて遅かった。
 -740年頃にアスランと接触した彼らは進んで臣従し、今はトローヱァエァウィ氏族(序列4位)で優秀な「女性」として扱われている。

メネサ人 Menetha ◎
母星:デネブ宙域?
(※現時点で公式設定は存在せず、「ククリーに滅ぼされた人類かもしれない種族」とした非公式設定が起こされている)

ラムーラ・テグ人 Lamura Teg ○
母星:シクェク(ヒンター・ワールズ宙域 2907)
 同じ星の知的種族ラムーラ・ガヴ(Lamura Gav)とともに、太古種族の遺跡から共同文明を築き上げた種族。生物学的には全く異なる彼らだが、宇宙や自然に敬意を払う共通の哲学を熱心に奉じている。

リバート人 Liberts ◎
母星:ヌリア(ヒンター・ワールズ宙域 0824)
(※T5設定ではリベール(ディアスポラ宙域 1109)のリベール人とヌリアのヌリア人(Nullians)は別種族とされたが、いずれにせよ詳細設定は今のところ存在しない。なお、原典とされる資料には「オールド・エクスパンス宙域の」ヌリアと記載されている)

ルリアニ人 Luriani ○
母星:ダラムー(レイ宙域 0821)
 太古種族の大規模な遺伝子操作で水かきや潜水能力(最高1時間・深度500mまで)を得、海洋世界に適応した種族。音楽の分野で評価は高いが、非常に感情的で気まぐれな側面もある。彼らが「悲痛の年(year of woe)」と呼ぶ過去の大量虐殺事件によって、ヴィラニ人を今も恐れ、不信の目で見ている(※ただしこの事件はルリアニ人の口伝によるものであり、第一帝国も意図的に資料を抹消しているので詳細は不明。とはいえ何かしらの蛮行はあったようだ)。

ロンニ人 Ronni ◎
母星:ロンニ(ヴランド宙域 1803)
 外見等は不明。ヴィラニ人との接触後もジャンプ技術には興味を持たず、星系内開発を行っただけで満足した平和的な種族。

ハイヴ連邦内の群小人類たち Minor human races in Hive Federation ○
母星:ハイヴ連邦領内スピンワード方面
 ハイヴ連邦を構成する170以上の種族のうち、数種族は人類である。彼らは遺伝子的には帝国人と大差はないが、帝国社会とは大きく異なるハイヴ流の習慣や思考様式を受け入れている。


【人類亜種】 Variant human races
 太古種族ではなく人類自身によって遺伝子改良などが施された、もしくは環境に適応して姿を変えた人類。
(※T5設定では遺伝子改良人類(Human Chimera)に改められた)

アケロン人 Acheron ○
居住地:ナッパ(ソロマニ名:アケロン)(ディアスポラ宙域 0932)
 恒星間戦争の時代に、惑星アケロンの厳しい環境に適応するために遺伝子改良された人類。人類の基準から見れば容姿は醜いが、代わりに屈強な肉体と耐放射線性を得た。彼らは幼少期に限らず死亡率が高いことから迷信深く、運命論者でもある。
(※アケロン星系はGURPS版設定のみにあるため、「第二帝国時代の星系名」だとして設定の摺り合せが行われた。また、帝国皇帝への忠義を強く誓ったことと、とある功績によりライトニング級巡洋艦の第6357号艦に人類亜種ながら名を冠した)

イズィル人 Iziri ○
居住地:イズィル(アストラル・クァドラント宙域 1126)
 恒星面爆発によって無線通信が困難なイズィルの環境に合わせ、ソロマニ連合遺伝子省が設計した入植者。発声と聴力は超音波の範囲に達し、数キロメートル離れていても(時間差を抜きにすれば)会話が可能。

ウー人 Wuan ○
居住地:ウー(マジャール宙域 0203)、及びウー技術協会(WTA)加盟星系
 暗黒時代に遺伝子改良や管理生殖や訓練などによって産み出された人類。「労働者型」は単純労働に適するように集中力と持久力が高められ、「管理者型」は寿命延長と記憶力や分析力の強化が施されている。
(※ウー星系周辺には日韓系資本の企業が入植し、ピンインでWuは「呉」なので、ウー人の外見は東アジア系の可能性が高い)

オトライ人 Otrai ◎
居住地:オトライ(グリマードリフト・リーチ宙域 0329)
 ソロマニ人と同じ外見をした(肌の色が濃い程度だがソロマニ人の範疇に収まる)、惑星の有毒大気を濾過して現地の生態系に馴染むように人類の支配期に遺伝子改良された人類。彼らは宗教や精神性を極めて重んじ、平和主義である。

ジョンカー人 Jonkeereen ○
居住地:ジョンカー(デネブ宙域 1324)、及びデネブ領域各地の砂漠星系
 元来はヒララディ(グシェメグ宙域 2438)へのスーラット人植民計画の妨害(※スーラット人は「イレリシュの反乱」に関わったので当時の帝国政府に警戒されていた)のために、帝国植民省がSuSAG社に委託して創り上げた種族。その必要がなくなった後に用途が変更され、ジョンカーなど砂漠星系への植民試験に用いられるようになった。遺伝子操作によって、高温乾燥環境への耐性と目を保護するための保護膜を得ている。
(※なおTraveller20の設定では、過酷な砂漠環境に適応した「サアンシャカセの遊牧民」を基にジョンカー人を創ったとされている)

シレンヌ人 Silenne ○
居住地:シレンヌ(タッチストーン宙域 0139)
 何千年も大裂溝で隔離されてきた先住民は、軽い毒性のある生態系に適合し、それを無害化する臓器を得た。

スカニア人 Scania
居住地:アキヴァ(ダグダシャアグ宙域 0935)
 高重力の海洋世界の開発のために、ソロマニ系遺伝子工学企業が人類を改良した種族。平均的な人類よりも男女ともにやや大柄で筋肉質。外皮から油分を分泌し、泳いだ後も乾いたままでいられる。彼らを更に改良して水陸両棲にしたのがアクアン(海棲)人(Aquan)で、喉と背中に鰓を持ったため肉声による会話ができなくなり、代わりに特殊な手話が発達した。

セレナイト人 Selenite ○
居住地:ヴェルスカー(アルファ・クルーシス宙域 1530)、及び宙域各地の低重力世界
 元々は地球人が太陽系内を植民地化する際に、低重力環境に適応するよう遺伝子改良を施した人類(当時の技術では惑星改造よりも遺伝子操作の方が容易だったので)。-2222年にヴェルスカーの植民に用いられた後、宙域各地にも彼らの入植が進んだ。自給自足を重んじ、やや外世界人嫌いの傾向がある。

ネイイキ人 Neiikhi
居住地:モリアン・カーマ(ダグダシャアグ宙域 1905)
 名前の由来はモリアン・カーマ原産の蜘蛛の名から。軌道ステーションの無重力環境に適応したため、身長2.25mの華奢な肉体となった。高放射線環境からくる深い暗青色の肌は彼らの誇りだが、絶えず抗癌剤を服用する必要がある。
(※軌道ステーションの建設は322年なので、適応進化ではなく突然変異による新種か?)

ネクシー人 Nexxies ○
居住地:ネクシーン(スピンワード・マーチ宙域 3030)
 海中鉱石を回収するために採掘企業が帝国植民省の協力を得て産み出した、現時点で最も「新しい」人類。志願した労働者に遺伝子改良手術を施した「アルファ型」に加え、始めからネクシー人として生まれるように遺伝子が設計された「ベータ型」の育成が現在進んでいる(※1105年時点で最高齢でも10歳)。水陸両棲となり、ネクシーンの海から体を守るために目や耳には保護膜が、皮膚には鱗が付け加えられた。

ヒイダモ人 Hiidamo ○
居住地:ヒイレヴ(コア宙域 1635)
 第一帝国初期に入植したヴィラニ人は、強烈な恒星光に加えて二酸化硫黄混じりの低圧大気、という過酷な惑星環境に適応すべく特別な「交配」を数千年間繰り返し、やがて黒革のような皮膚と大きな肺や耳を得た人類亜種となった。
(※マングース版設定では「第一帝国期に遺伝子操作を受けた」とあるが、当時のヴィラニ人は遺伝子そのものを知らないため不可能である。よってDGP版設定に差し戻した)

フェルヴォーレ人 Fervoriani ○
居住地:フェルヴォーレ(アルファ・クルーシス宙域 2511)
 恒星間戦争末期に、フェルヴォーレの汚染大気に適応するために地球人を遺伝子改良して誕生した人類。民族意識が強く、ソロマニ連合領内にあってもソロマニ主義を拒絶し続けている。

マーマン(人魚)人 Mermani ○
居住地:パイドロス(アルファ・クルーシス宙域 1006)
 海中生活に適するようにSuSAGの研究施設が遺伝子操作で産み出した人類。体毛はなく、手足に大きな水かきがあるのが特徴。

モーロック Morlock
居住地:クスグルル(ダグダシャアグ宙域 2525)
 クスグルルの地下都市に住んでいたヴィラニ人は、暗黒時代に資源枯渇と技術後退によって暗闇で生きていくことを強いられた。やがて暗視能力を得たが光過敏症や広場恐怖症にもなり、再接触後は古代テラの物語の地下種族と同じ俗称で呼ばれるほどの人類亜種となった。食事面も含めて地下環境に適応しすぎてしまったため、もはや彼らは他の星で生きていくことができない。


【絶滅種】 Extincts
 太古種族による拡散後に絶滅した種族。

オストロフニク Ostrovnik ○
母星?:971-852(トロージャン・リーチ宙域 2814)
 太古種族によって移植された「可能性がある」ため、ここで紹介する。
 現地の生物では補えない蛋白質を摂取するために人肉食の文化を持っていたが、帝国偵察局がそれをやめさせたことで絶滅したのではないかと考えられている。
(※「オストロフニク」はTraveller Wiki内でつけられたと思われる名称で、その意味や出処は不明)

クラ人 Khulan ○
母星:クラ(ヴランド宙域 1919)
 -9309年にヴィラニ人によって発見された時には既に滅亡していた。彼らの発見によって、ヴィラニ人は自分たち以外の人類の存在を初めて知ることとなった。

タニー人 Tanny ○
母星:タニー(マッシリア宙域 1238)
 -9000年代にジェオニー人が初期探査を行った際、彼らの遺跡を発見した。

ハラッパー人 Harappan ○
母星:ハラッパー(ソロマニ・リム宙域 3028)
 ハラッパー星系には約5万年前まで青銅器文明の人類が居住していたと考えられているが、活発化した火山活動による氷河期の到来で絶滅してしまった。

ミヤヴィン人 Miyavine
母星:メドゥーマ(ダグダシャアグ宙域 2124)
 TL4文明を築いた彼らは-18700年頃に絶滅したと考えられているが、その原因は彼らの遺伝子に「時限爆弾」を太古種族が仕込んだとする説が有力。

ロースカルス人 Loeskalth ◎
母星:不明(グシェメグ宙域)
 ヴィラニ人からジャンプドライブを入手後に小帝国を築いた好戦的な種族。-4300年頃にヴィラニ人によって滅ぼされる直前に、小惑星を宇宙船に改装して大裂溝の彼方へと旅立って行った。彼らについては考古学的な痕跡も含めて詳細な記録がほとんど残されていない。

デルファイ宙域の群小人類 Minor human races in Delphi Sector
 現在のデルファイ宙域には太古種族の遺跡は何故か一つも存在しないことから、考古学者の間ではデルファイ宙域内に存在した(かもしれない)人類は最終戦争に巻き込まれて全て消滅してしまったと考えられている。


【真偽不明】 doubtful
 宇宙各地には「自称」や「推定」の群小人類もいて、特にスピンワード・マーチ宙域では、帝国暦-1300年頃のダリアン人による探査で発見されていないにも関わらず群小人類を名乗る「民族集団(Ethnic Group)」がいくつか存在する。研究が進めば真偽もはっきりするだろうが、現時点では疑問の残るものをここに列記した。
 なお、×印は「公式設定にはあるがUWPには記載がない」、つまり帝国偵察局が群小人類であることを否定している「民族」である。

イェティワヤーの先住民 indigenous human in Yetiuaya ×?
居住地:イェティワヤー(ダーク・ネビュラ宙域 2340)
 アスラン氏族の軍艦によって厳重に封鎖されたこの星系には太古種族の遺跡があり、(数万人の?)群小人類が居住している可能性が高い、と帝国の研究者は考えている(一方、ソロマニ連合は地球人入植者の子孫だと主張している)。

イルドゥ人? Irdu ○
母星:イシルドゥ(コリドー宙域 0338)
 現地の放射線の影響により、念動力を持つよう進化したと考えられている。好戦的とはいえないが、外世界からの接触は好まないようだ。
(※マングース版設定で人類だとされたが、初出の資料では人類と断定できる描写はないため、これは誤植の可能性がある)

トラルター Traltar ×
居住地:トラルサ(スピンワード・マーチ宙域 2834)
 かつて砂漠で遊牧生活を営んでいたこの星の住民は太古種族にまつわる伝承を持ち、群小人類を自称するが、実際のところは水源の枯渇によって放浪を強いられた入植者の子孫のようだ。ただし、トラルサ星系に太古種族の活動痕跡があるのは本当である。

トレクセン人 Trexen ○
母星:769-422(スピンワード・マーチ宙域 0240)
 乾燥惑星の植物がほぼ食用に適さなかったため、草食動物を飼い慣らす遊牧民となった。技術供与によってTL8程度まで進歩したが、今も遊牧生活は捨てておらず、年2回の頻度で世界各地に点在する小さな工業団地を巡っては輸出商品を生産している。闘争を好まない文化で、対話によって物事を解決してきた。
 ちなみに、彼らの起源は実ははっきりしておらず、ダリアン人など入植者の末裔という説も存在する。その説を裏付けるかのようにこの星での太古種族の痕跡は今のところ確認されていないが、逆に彼らの言語や文化に外世界的な要素も存在しない。
(※初出のGURPS版設定では名称不明。トレクセン人という名は非公式設定)

トンドウル人? Tondouli ×
居住地:トンドウル(スピンワード・マーチ宙域 0739)
 厳寒の星に持ち込まれ、以後30万年間を太古種族が遺した生命維持装置で生き延びた……というのは彼らの主張であり、帝国暦260年に初接触した偵察局によれば、生命維持装置は比較的新しいもので、この星に太古種族の遺跡もないことから科学者も否定的である(※「遺跡のあった衛星は最終戦争で破砕されて軌道上の環になった」と彼らは反論している)。
(※GURPS版設定にありながら、後に存在が否定された珍しい例)

ネキージ人? people of Nakege ○
母星:ネキージ(スピンワード・マーチ宙域 1305)
 元々ネキージには、技術的に未熟な約6万人の人類の分派(human offshoot)が居住しており、帝国は彼らに不干渉の立場だった。しかし第三次辺境戦争(979年~986年)でネキージが凄惨な戦場となった結果、彼らは外世界人排斥や技術恐怖症に陥ったため、帝国はネキージ星系をアンバーゾーンとして隔離を行った。
(※記述が曖昧なので先住民は「かつての入植者の末裔」と解釈も可能。T5設定にて「minor」として採り上げられたので、群小人類として数えられているのだと思われる)

(※現在の設定では、ネキージに住んでいるのは「わずかに接触があるだけの名もなき群小種族」となった模様。これでGURPS版設定(アンバーゾーンの理由は活発な火山活動)とも矛盾しなくなった)


【設定競合】 Canon-Conflicted
 かつてJudges Guild社やParanoia Press社から発売されていた資料で、現在の既知宇宙設定と競合して無効となったものをここに記す。

アルタレア人 Altareans ◎
母星:ヴァンガード・リーチ宙域 N
(※Paranoia Press版設定では、非人類種族ムリアン(Murians)による「アルタレア連合(Altarean Confederation)」という国家が(N星域ではない場所に)ある一方で、アルタレア人の設定自体が存在しなかった。後のマングース版でもそれを踏襲したため、アルタレア人は設定競合により抹消されたと思われる)

ザリ人 Zaris ○
母星:ザイラエ星域(グリマードリフト・リーチ宙域 N)
 労働者となるように太古種族に遺伝子操作されたらしい彼らは、他の人類と交雑ができず、技術革新よりも安定を好む種族となった。

マルニャー人 Mal'Gnar ○
母星:マルニャー(ビヨンド宙域 3002)
 テラのホモ・ペキニーシス(※北京原人)に属した種の直系子孫。太古種族による遺伝子操作で翼と鉤爪を持つ足を手に入れた。ちなみに単独飛行はできないが、滑空はできる。



【T4設定】 Aliens Archive
 『Marc Miller's Traveller』(通称T4)でも様々な知的種族が紹介されたが、その中でも「母星の位置が特定できないので、現在の設定には組み込まれていないもの」を紹介する。

ヴラスト人 Vrast ○
母星:ディアスポラ宙域のどこか
 背が低くずんぐりとしていて、額が大きく眉も濃い。巨大な洞窟内での地下生活を営んでいたため、光に対しても過敏である。
 彼らの祖先はテラで絶滅しかけていた(ホモ・サピエンスではない)人類らしく、種そのものを太古種族が移植したと考えられている。そのせいか彼らは人類を敵視する伝承を持ち、自分たちを人類ではないとしているが、第三帝国による接触以後は関係改善が図られ、今は帝国市民の一種族として収まっている。
(※彼らは第一・第二帝国とは接触せず、暗黒時代に宇宙開発を行ったことで「憎き人類」がそこら中にいることを知ったとのこと(そんなことがありえるかは別として)。なお、彼らは暗黒時代の間にディアスポラ宙域やマッシリア宙域に拡散したらしい)

テクンドゥ人 Tekundu ○
母星:ユリアニイ(宙域不明)
 砂漠に適応し、体内に大量の水を蓄えることができる。

バイ=レン人 Bye-Ren ○
居住地:バイ=レン=エイ(宙域不明・おそらく帝国内)
 -4000年頃に表面重力2Gの惑星に入植したヴィラニ人鉱夫の生き残りが、過酷な環境に適応して身長1.2~1.4m・体重350~450kgの強靭な肉体を手に入れたもの。種族名は、第二帝国の探検隊が彼らと再接触した際に中国系ソロマニ人の隊長が「別人種(bie-ren)」と命名したものを語源とする。

フォーローン(放浪)人 Forlorn
母星:フォーナスト宙域のどこかかそれよりも遠い星?
 記録は定かではないが、彼らが「大破壊(The Destruction)」と呼ぶ事件によって27隻の亜光速船で母星を離れ、1500年間に及ぶ放浪の旅の末にゲシャッゲレ星系(宙域不明)に辿り着いた種族。長期の宇宙生活によって無重力空間に適応し、独自の生命維持技術や無重力建築技術を発達させた。
(※元々はHIWGで作られた設定だが、「帝国暦0年設定(Milieu 0)」で使われることが想定されているのでこちらに回した)


【参考文献】
・Supplement 5: Lightning Class Cruisers (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 4: Zhodani (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 5: Droyne (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 7: Hiver (Game Designers' Workshop)
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宙域散歩(24) カレドン星域

2014-11-21 | Traveller
 今回はリーヴァーズ・ディープ宙域の数々の設定の中から、帝国とカレドン公王国の国境線が走るカレドン星域を紹介したいと思います。全ての星系がジャンプ-1で繋がっているわけではありませんが、商取引に熱心なカレドン公王国の存在もあり、辺境ながらも活発な国境間交易が行われていることが想像できる地域です。同時に、90年前の内戦がいまだに「終わってはいない」ことも…。

 カレドン星域の名は、隣接するスコティアン・ディープ星域に跨って存在する小さくも繁栄した恒星間国家であるカレドン公王国が由来です。そして公王国はディープ宙域内で最も重要な独立国家です。
 星域のトレイリング方面は帝国とその実質的な属国であるコラス統治領に治められており、帝国がじわじわと影響力を増しています。
 カレドン星域には29の星系があり、総人口は361億2200万人です。最も多い人口はジェリムの190億人、最も高いテクノロジーレベルはコンコードとジェリムの14です。
(※UWPの数値を全て足すと総人口は約271億人となります。しかしそれではジェリムの「誤差」の90億人が含まれず、他の星系で吸収させることもできないため、独自にそのまま合算しています)



ツァネシ Tsanesi 1711 D653636-6 非工・貧困 Cp
 ツァネシには知的種族イン=ツァイが居住していますが、彼らはこの星で進化した存在ではないようです。彼らには他にも謎が多く、カレドン公王国はここを保護領化して研究基地を置き、科学者たちがその謎を追い求めています。

スチュアート Stuart 1716 A668786-B M 農業・肥沃・富裕 G Ca
 この星の現在の入植地は、カレドン公王国の拡大初期に建設されたものです。しかし遥か以前に地球連合から旅立った植民団の第一波が先に入植しており、その入植地が消え去った理由はちょっとした謎となっています。例えば、《略奪者》が入植者を連れ去り奴隷として売ったという説、密林の奥に潜む未知の知的種族に滅ぼされたという説、逆に密林の奥深くに移住して今でも生き残っている説など、様々に考えられています。これらの説はどれも証明されていませんが、まるで裏付けるかのように、密林に向かった探検家が謎の音や未知の存在に遭遇したとされる報告は時折なされています。ちなみに、地球人が築いた最初の街は大河川(Great River)の河口かつタングルグレード密林(Tangleglade Jungle)の縁に位置していましたが、現在では史跡として保存されています。
レフリー情報:地球人入植地が消えた理由は確かに諸説ありますが、実は初期のカレドン入植地も一度消滅しています。この時は伝染病によるものとはっきりしており、その後の医療技術の進歩によって克服されています。

マクベス MacBeth 1717 B573733-A M G Ca
 マクベスには、莫大な量が埋蔵されている工業用ダイヤモンドを求めて入植が始まりました。カレドン公王国内で製造されているレーザー機器の大半で、マクベス産のブルーダイヤモンドが使用されています。
 マクベスは地質学的に活発な世界で、潮汐力による地震と火山活動が地表に多大な影響を与えています。火山活動が活発だからこそダイヤモンドも豊富なのですが、火山性ガスに含まれる硫黄や硫黄合成物によって大気は損なわれており、外気を呼吸する際にはフィルタ付きのマスクを必要とします(が、地表全てで必須というわけでもありません)。
 バーナム市(Birnham)、スコーン市(Scone)といった複数の都市からなる入植地は地震の影響が少ない地域に建てられていますが、ダイヤモンド鉱山はそうはいきません。鉱山はえてして活火山の麓にあり、地質が不安定化すればその仕事は極端に危険となります。
 マクベスのダイヤモンド産業は公王国内だけでなく、諸外国からも注目されています。帝国のメガコーポレーションであるスターンメタル・ホライズン社は、この地を探査し、開発し、帝国へ宝石を輸出する認可を取得しました。また、公王国と敵対している独立星系ジェルメーヌ(2019)の船が、宝石の密輸や、彼らと内応している鉱夫との連絡のために秘密裏に訪れていることも有力視されています。マクベスの海軍基地はそういった違法行為を可能な限り阻止はしていますが、完全にとはいかないのが実情です。

リンダ Linda 1718 C657510-8 農業・肥沃・非工 Na
 この星系には、リンダとサンチャゴ(Santiago G676430-8 肥沃・非工 Na)という2つの主要世界が存在します。そしてこの2つの世界はお互いに敵対しあっています。
 先に入植されたのはサンチャゴの方で、住み着いたのは暗黒時代の《略奪者》の一団でした。しかしやがて彼らは恒星間航行技術を失い、一時は原始人同然にまで後退しました。
 後に、カレドン公王国の探査隊が惑星リンダの温帯にランサナムの豊かな鉱脈を発見したことにより、こちらにも入植が始まりました。そしてリンダはカレドン系企業のアーバスノット鉱物資源社(Arbuthnot Minerals and Resources Ltd)に保有され、同社はリンダの鉱山入植地に投資しました。入植地は繁栄し、人々を惹きつけ、企業統治下であり続けました。
 リンダ社会が安定した頃、サンチャゴの人々は再び宇宙に足を踏み入れ始めました。そして彼らはリンダの優先領有権の主張を行いました。なぜなら惑星サンチャゴにはランサナムが乏しく、それを必要とするジャンプドライブの生産が困難だったからです。これが両世界の関係を悪化させた原因でした。
 近年、サンチャゴからの侵入者が不法にランサナムを採掘しようとし、それにリンダの企業警備隊が過剰な対応を採ったため、両世界による非難と報復の応酬は惑星間戦争にまで拡大しました。

ファース Firth 1813 C52559B-9 非工 A Ca
 ファースの風変わりな社会構造は注目に値します。それは初期移民の苦難に由来し、現在まで入植地が生き残れた理由となりました。
 カレドン公王国の建国当初の拡大から遅れること15年、惑星の広範囲に鉱脈が発見されたことから入植が開始されましたが、定住に必要な資源はあまりに乏しいものでした。カレドンからの物流の減少に加え、内部対立や相次ぐ天災によってファースの入植地は行き詰まりました。
 入植当初は鉱業生産管理に用いられていた、大規模コンピュータ複合体である『ディレクター(DIRECTOR)』――植民地が見捨てられたと判明した時、人々はこの『ディレクター』の完璧な公平さに全てを委ねたのです。コンピュータは食事配給や開発計画など、社会のあらゆる面を立案しました。さらに裁判権をも持ち、民衆の生殺与奪すら握りました。論理的で冷徹なプログラムによる、人類史で最も効率的な専制政治を築くこと以外全てを犠牲にして、ファースは生き残ったのです。
 『ディレクター』による非人間的な支配が必要ではなくなったはずの今でも、ファースの地下都市複合体に隔離状態となっている民衆は自分たちが普通だと認識し、理解不能な外世界人を恐れています。一部の社会学者は、ファースのコンピュータ技術者からなるエリート階層が社会を裏から操るために現体制を利用していると考えていますが、その証明は成されていません。

カレドン Caledon 1815 A8688A5-C M 高技・肥沃 G Ca 公王国首都
 地球型惑星のカレドンは、もちろんカレドン公王国の首都で、公王国政府の中心地であると同時にカレドンの世襲権力者の住居です。この素晴らしい環境の割に人口がそれほど多くないのは、人口増による環境破壊を恐れて当初から計画的人口調整や移民の奨励などで抑え込んでいたからです。よって世界は完全に探査されていますが、それほど開発はされていません。
 公王国の政治外交経済の中枢である王都セルカーク市(Selkirk)は(※星系行政は300km離れたマッケンジー市(Mackenzie)で執り行われます)、中心を北西から南東に流れるマノーク川(Mannoch River)によって大きく北側と西側に分けられ、さらに地区ごとの性格によって5つに区分されています。
 非常に裕福な市街区(The City)は公王国経済の中心地で、一流企業や大銀行、そして富める者も貧しい者も金銭を求めて往来する街です。カレドンの報道や娯楽を司るマスメディア各社もここにあります。559年創立の証券取引所(Malárteagh Treágtacht)は古めかしく見えますが、実際には最新のTL12技術による建造物です。フィッツロイ通り(Fitzroy Street)には各国の大使館が並び、外交活動や怪しげな活動(特に、外交関係がないはずのマールハイム大使館に「外交官」という名の諜報員が出入りしているのは事実です)が日夜繰り広げられています。
 中央区(The Roods)はマノーク川の中洲にあって素晴らしい川辺の景観を誇る、公王国政府の中心地です。ここには軍事パレード会場として用いられる「公王の広場(Prince's Heath)」を囲むように、公王国政府の三柱となるジョン宮殿(John's Keep)、議会議事堂(Parliament Castle)、公王裁判所(Crown Bench)が集まっています。さらに、迷路のように立ち並ぶ官庁街や、王立カレドン大学(Royal University of Caledon)を中心とする学生街、高級住宅商業地区のバノックバーン街(Bannockburn)、アベルニアン海(Abernian Sea)のラルゴ湾(Largo Bay)に面したラルゴ港(海洋港)もここにあります。
 北郊区(Norfork)は地元住民に愛されるインバーガリー魚市場(Invergarry fish market)など労働者階級の街、南郊区(Soufork)は中流階級の街となっていて、川の上流の堰堤区(The Dam)には指令本部を含む国内最大の海軍基地やカレドン地上港(Caledon Downport)、そして宇宙船乗組員向けの歓楽街があります。

ホフマン Hoffman 1818 D3218A8-8 非農・貧困 G Na
 ホフマンの入植地は事故から始まりました。暗黒時代の直前、カレドン(1815)を経った植民船ゲルマニアは、深刻なドライブ故障によってこのホフマンに不時着したのです。当時のカレドンの星図にはただのカタログ番号で記載されていたような環境の悪い星で、入植者たちは完全に孤立してしまいました。
 惑星および恒星ホフマンの名前は、植民船の船長の名から付けられました。彼は不時着の際に破壊された艦橋で死亡しましたが、彼の操船技術と英雄的行為によって船の残りの部分が守られたのです。
 この酷く寒冷な新天地での最初の3年間で9割の人々が死亡しました。しかしどうにか避難所が建設され、即興の水耕栽培システムは徐々に改善され、探検隊が発見した洞窟の地下に入植地が築かれました。わずかずつではありますが入植地は栄え、彼らはゆっくりと地下都市を拡大していきました。ただ、生存こそが優先されたために彼らの進歩は遅く、126年にカレドンの商船が彼らを発見した時点でも彼らの文明は洗練されていませんでした。ホフマンの民は公王国との交易を歓迎しましたが、長年に渡って染み付いた自立と自給自足の伝統は、もはやカレドンの民とは違う自意識を持たせていました。
 同様に彼らは、公王国の力を削ぐための世界連盟を作ろうとするジェルメーヌ(2019)の提案をはねつけました。しかしこの星の重要性ゆえに、ジェルメーヌ政府による政治的陰謀は日常的です。例えば、ホフマンの世襲指導者をジェルメーヌの利益にかなう傀儡に入れ替えようとする策略が進行中であると、しばしば噂されています。

グレンシエル Glenshiel 1912 DA86563-7 農業・肥沃・非工 G Cp
 グレンシエルは、国境外ではあるものの公王国の強い影響下にある世界です。この保護領は公王国と良好な交易関係や軍事支援を得られていますが、カレドン議会上下院への代表選出権は持ちません。
 カレドンのジェームス・アームストロング卿(Sir James Armstrong)が、現在のアームストロング・ランディング市(Armstrong's Landing)を建設したのはわずか250年前のことです。当時のカレドンで流行した自然回帰思想を受け入れたジェームス卿は、忙しい現代文明からの逃避先を求める人々のために、この入植地を築きました。
 しかし彼の死後、入植地は徐々に彼の理想からは外れていきました。それは今では単なる農業集落となり、双子入植地のもう片方であるベン・ラーレン町(Ben Laren)は、極北海(Northfar Sea)のヤイバウオ(bladefish)を捕獲し輸出する漁港となりました。これらの農水産物は公王国だけでなく帝国領でも人気があります。
 考古学的に重要な「ジュラの墜落痕(Crash Jura)」がある場所として、この星は科学界でも有名です。加えて、ジュラ台地にある印象的な三連峰であるアネクトール山(標高14000メートル)でも知られています。これまで登頂者のいないこの山は神秘に包まれており、この世界の生態系に反した奇妙な生物「風霊獣(Windstalkers)」の噂が広まっています。

クレバース Claverse 1913 B7677BB-9 M 農業・肥沃 A G Ca
 マクスウェル伯爵提督の故郷であり軍事拠点でもあったクレバースは、1024年の王朝危機で提督が敗れて以来ずっとキャンベル朝支配への不満を溜めており、反乱寸前の世界となっています。常にある武装蜂起の可能性を摘むために自由の多くを縛らざるをえず、地方自治の原則を放棄して王朝に忠実な知事が任命され、海軍基地は平均よりも遥かに強化されています(※カレドン海軍は機動小艦隊の運用を主としているので、一般的な海軍基地の規模は帝国偵察局基地と同程度です)。
 そして最新の知事であるジョン・ガン男爵(Lord John Gunn)は、手に負えないこの星を治めるには向いていませんでした。彼は小規模の暴動に対して海軍を投入し、群衆に発砲させました。状況は不安定化し、ジョン卿は戒厳令を発してそれに応じました。「自由闘士(Freedom Fighters)」がクレバースの各地に出現してゲリラ攻撃を始め、武器や資材を蓄積し、さらに緊張を増しました。
 暴力の激化の可能性を考慮し、この世界にはアンバーゾーンが指定されています。

グランピア Grampia 1914 E132520-5 低技・非工・貧困 G Ca
 グランピアはここ2世紀内に入植が始まった、小さくて岩だらけの世界です。ここには様々な種類の鉱物が埋まっていて、最初の入植は大手資源開発企業のマクレガー・ミネラルズ社(MacGregor Minerals)によって行われました。
 しかし同社は1024年の王朝危機の際に付く側を見誤りました。内戦の勝者となったキャンベル卿はマクレガー社の事業認可を取り消し、1025年前半にはグランピアの入植地と鉱山の統治権を「暫定労働者評議会(Provisional Workers' Council)」に与えました。
 評議会は定期的な選挙で選ばれた者たちによって動かされ、重要事項は労働者による投票で決定されます。この星の住民は何らかの職業組合に属する権利を持ちますが、組合に属さない人は二級市民扱いされ、政治への発言権を持ちません。
 民衆による政府は必ずしも順調にはいきませんでした。組合間には既得権を巡って静かな駆け引きがあり、権力は危険なまでに数人の重要組合の理事に集中し、政治は汚いゲームと化しました。特に、鉱夫組合の野心的なソーン・ブルネイ(Thorn Bournais)はマクスウェル派の影響を受けていて、かなりの懸念を引き起こしました。ブルネイと非主流派による組合内の権力闘争はしばらく続いていますが、加えて、鉱夫組合の理事がクレバース(1913)のマクスウェル支持者から援助を受け取っているとも噂されています。
 資源の面では重要な世界とは言えないグランピアですが、カレドン(1815)やスコティア(1916)に近いこの星は、地政学的に要注意な世界となっています。

スコティア Scotia 1916 B789434-B 非工 G Ca
 スコティアはテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)に似た過ごしやすい世界ですが、陸地面積がほとんどありません。土地は広大な海に諸島の形で散らばり、最も大きな「大陸」でも15000平方kmもありません(※四国が18300平方km)。
 陸地に乏しいスコティアには長い間入植がなされませんでしたが、暗黒時代の間には《略奪者》が島を軍艦の秘密修理基地にしていた時期もあります。
 カレドン公王国の拡大が始まるとスコティアは真っ先に領有されましたが、価値ある資源は無いように見えました。しかしここは美しい自然の星です。カレドン(1815)のウィンドシェーム海(Windshaeme Sea)に浮かぶ熱帯諸島を思い起こさせるこの惑星は、第4代公王ウィリアムが王室の資産として保有を宣言し、忠義への恩賞として貴族の地位と併せて島(と邸宅)を分け与えるようになりました。
 スコティアは今もそんな星のままです。多くの大貴族や著名な経営者はここの島を所有し、会席や個人的な休暇に利用しています。そして何人かはリゾートホテルを建設し、カレドンの観光客にこの素晴らしい島々で過ごす機会を提供しました。
 多くの者は、王室に貢献した先祖から相続した遺産としてここの島を受け取っていますが、島と邸宅を保有し続けるには出費が非常にかさむため、時折資産のない所有者が島を貴族の地位と併せて売却しています。これは一個人がカレドン貴族に成り上がるための、非常に高額ではありますが一番の近道です。

ロブ・ロイ Rob Roy 1917 B6469BA-B M 工業・高人・肥沃 A G Ca
 この世界は公王国の重要な工業の中心地で、国内で2番目に人口の多い星系です。ロブ・ロイは1024年の王朝危機の際にはマクスウェル派につき、両陣営はこの星を手中に収めるべく多くの戦略を練り、そしてその結果激戦地となりました。
 ダンバートンの戦いでマクスウェル伯爵が敗れた後、彼は亡命するその時までこの星で防衛戦の指揮を執っていました。勝者となったキャンベル卿の軍隊はロブ・ロイでの地上戦こそ避けられましたが、マクスウェルの指令本部を発見することもできませんでした。
 それは北大陸の北極荒野のどこかの地下にあったと言われています。マクスウェルは逃亡する前に機密情報をコンピュータから消し、施設を閉鎖しました。機密保持目的のためにその場所は極少数の重要人物だけにしか知らされず、案内なしには見つけることができません。マクスウェルの身内がその場所を明らかにしなければ、もしくは偶然に発見されなければ、指令本部は幻のままでしょう。
 一般的に有名なおとぎ話に『氷の城塞』というものがあります。秘密の場所にカレドン公王家の象徴である宝珠、王笏、王冠、宝石の剣が眠り、受け継ぐ資格を持つ公王を待っていたというものです。そして出処の怪しい話ですが、その寓話をなぞるように、マクスウェルはこれら「自分の物」を再び取り戻しに来る日が来るまで国内のどこかに隠した、と言うのです。金銭的に、そして政治的に極めて大きな価値を持つこれら王権の象徴は、確かに内戦以来見つかっていません。

ファーガス Fergus 2014 C253304-7 低人・非工・貧困 G Na
 非常に規模が小さいに割にかなりの大気を持つファーガスは、本来存在し得ない不自然な惑星です。惑星が発見された際には豊富な生物形態を持つことがわかりましたが、これらは明らかに、この数十万年以内にあちこちの世界から寄せ集めて移植し、急激に進化させたものでした。
 科学者は太古種族による干渉だと考えています。彼らが不毛の地であるこの惑星を改造し、生命の種を蒔いたのだと。しかし多くの太古種族の「作品」と同様に、この行動の目的は判明していません。
 太古種族期のファーガスは、大気と気温の調整によって過ごしやすい世界だったと考えられています。いくつかの発掘物からは、かつては多数の植物や動物が栄え、色々な気象現象が起きていたことを伺うことができます。しかし太古種族の滅亡後、そんな環境を維持していた機構は停止し、空気は薄くなって気候は寒冷化しました。この世界で生き延びている生物たちは、寒い気候に適応することができた種です。
 科学者は進化と適応に関するこの「生きた研究所」に熱心に興味を持ち、大規模な科学研究入植地を建設しました。そして著名な考古学者や金儲け目当ての冒険家も、ファーガスに魅せられています。彼らは、ほぼ間違いなくこの惑星に存在するであろう太古種族の遺跡を捜索しています。いまだに気候制御施設の痕跡は発見されていませんが、知識を、富を、力を求める探索者は、ファーガスに次々とやって来ています。

ヴィクトリー Victory 2017 A201766-C M 高技・真空・非農・氷結 G Ca
 恒星イルドラシル(Ildrathir)の名は、この星系に入植目的で最初に訪れたドレシルサー(リーヴァーズ・ディープ宙域 1826)のイルサラ人探検隊が付けたものです。カレドン(1815)の拡大期以前のイルサラ人は、ディープ宙域内にかなり広大な版図を持つイルサラ帝国を築いていました。このイルドラシル星系は、彼らのコアワード方面における最も遠い領土でした。
 星系最外周に浮かぶガス惑星ドルスレー(Druthere)の第3衛星の軍事基地に、当時まだ建国当初のカレドン公王国の偵察艦が捕捉されたのは-86年のことでした。それ以後カレドン領は、イルサラ軍の侵略目標とされました。
 しかしストラスモア伯爵提督(Admiral the Earl of Strathmore)が率いるカレドン艦隊は、ドルスレー軌道上の数に優るイルサラ艦隊に先制攻撃を仕掛け、激戦の末にイルサラ軍を討ち破りました。衛星は占領され、ジェミスン公王は戦勝を記念して衛星を現在の名に改めました。そしてこの戦いを境にイルサラ帝国は衰退に転じ、やがて滅亡に至りました。
 ヴィクトリーは現在、公王国と帝国領を結ぶ通商路上の重要な交易中心地です。カレドン海軍の基地も置かれ、主にジェルメーヌ(2019)からの侵略、もしくは亡命者マクスウェルの帰還に警戒することを任務としています。
 時折、ヴィクトリーもしくはドルスレーの他の衛星のどこかに「イルサラ軍の秘密武器庫」が今も存在するという噂が広まることがあり、探検家や考古学者、はたまた軍事力増強を目論むマクスウェル支持者が幾度となく捜索を行いましたが、その位置や中身が公式に判明したことはありません。しかし繰り返しこの話が出てくるからには、何かしらの根拠があるのかもしれません。

スカイー Skye 2018 E799751-1 低技 G Na
 スカイーはとある創作物語によって良く知られている星系です。それは、内戦に敗れたマクスウェル伯爵が逃避行の果てにこの星に不時着し、わずかな仲間の助けを借りて身を隠し、最終的にジェルメーヌ(2019)から派遣された護衛艦にカレドン海兵隊による臨検をかわして逃げ込む、というものです。この物語は伯爵のスカイー滞在記を基にしたものですが、現在では歴史小説など様々な創作物で親しまれています。
 実際のスカイーは物語ほど幻想的ではありません。地表は主に海で覆われ、陸地はわずか6%です。ここの2大輸出品は海洋産業で生産されるレヴィー肉(leviemeat)とマット草(matweed)ですが、同時にマット草は大気中に漂う危険な花粉の発生源でもあります。マット草の花粉を吸引すると人類の8割がアレルギー反応を示し、非常に苦痛で不快な症状の果てに死亡してしまうことが知られています。フィルタ・マスクと空調の効いた住居は、花粉を避けて生活するためには必須です。

ジェルメーヌ Germaine 2019 A986956-D M 高技・高人・肥沃 G Na
 温暖で濃い大気を持つジェルメーヌは、カレドン植民団の指導者と袂を分かった集団によって、カレドン(1815)とほぼ同時期に入植されました。
 その後、ジェルメーヌの入植地は一足早く恒星間航行技術を失い、暗黒時代の間は《略奪者》がこの世界を時折侵略し、その都度破壊と死を巻き起こしました。とはいえ比較的安定していたジェルメーヌ社会は、特に外世界には目を向けず、自己の世界の改善に努めました。公王国の拡大の際にカレドン商人がここを「再発見」した時でも、ジェルメーヌは外世界との交易に興味を持ちませんでした。
 578年、公式な警告を無視して許可なくここで商売をしようとしたカレドン商人に対して小規模な暴動が発生し、市民2名が殺害される事件が発生しました。その結果、収監された商人を解放し、孤立主義のジェルメーヌとの間に貿易協定を「押し付ける」ことを要求するため、カレドンは海軍を動かして「砲艦外交」を展開しました。結局、ジェルメーヌ政府はカレドンの要求を受け入れるしかありませんでしたが、この事件はカレドンとジェルメーヌの対立の歴史の始まりでした。
 この時からジェルメーヌは近代化と技術革新を進め、カレドンの脅威に対抗できるように宇宙海軍を増強しました。本物の戦争こそありませんでしたが、ジェルメーヌはカレドンとの様々な経済条約の更新を拒否し、王朝危機後には敗れたマクスウェル派の人々の亡命を受け入れました。現在のマクスウェル家の当主である「公王ロジャー1世」はこの星に在住しており、公王国内での緊張を利用して新たな反乱を企てている、と言われています。

ルーシャミ Lhshami 2111 C477794-9 農業 Na
 三連星系であるルーシャミは、知的種族ルーシャナの故郷です。この星を訪れる際には大気中の酸素濃度の高さと汚染物質に注意する必要があります。
 ここの最も有名な輸出品は「触石彫刻(Touchstone Sculpture)」です。超能力を持たないルーシャナですが、一部の芸術家はとある天然結晶を彫刻し、(見た目の美しさはともかく)触れた者に特定の感情を与える作品を作り上げることができます。この芸術品はルーシャミではそれほど価値は高くありませんが、既知宙域のどこでも非常に高額で取引されています。

ガッシュ Gash 2116 DAF8573-7 非工 G Na
 その名の通り、この世界の主要大陸には特徴的な「深い傷(Gash)」が走っています。この渓谷は長さ117km、幅8km、深さ1.2kmにも及び、両側は険しい岩壁ですが、谷底はゆるやかな斜面になっています。
 このガッシュ(谷の地元名)は、数十万年前に太古種族の超兵器によって造られたと考えられています。そして超兵器で破壊せねばならないほどの何らかの施設があったのではないか、とも考えられています。しかしながら、この世界で太古種族の痕跡は発見されていません。
 惑星の海表面上の大気は、人類の生存を支えるにはあまりに薄いものですが、谷底であれば十分存在します(それでも薄いですが)。よって入植地は谷底に沿って建設されました。
 ガッシュの岩壁は、鉱夫にとっては文字通りの宝の山です。銀、金、白金、イリジウムなどの鉱脈が剥き出しの状態で見つかるのです。必然的にガッシュの主力産業は鉱業となりました。4つの鉱業入植地はそれぞれ独立していて、互いに激しく競争しています。彼らは岩壁に新しい鉱脈を見つけ、掘り出すために採掘隊を出していますが、一方で鉱区横領(Claim jumping)もよくあることで、多くの採掘隊は厄介事を前提に行動しています。都市間の不和から来る揉め事は頻繁に起こり、大部分の紛争は論争によって決着しますが、時として戦争にまで至ります。
 ちなみに、第5の入植地であるタッチダウン宇宙港(Touchdown Starport)とその近郊は、誰でも利用できる中立地となっています。

ロック Rock 2214 B400364-A 真空・低人・非工 G Ok コラスが統治
 ガスジャイアントの衛星であるロックは特に目立たない世界で、1000年前ぐらいからコラス統治領の小さな宇宙港が置かれている程度でした。この港は主に統治領とカレドン公王国を結ぶ交易の中継点となっていましたが、帝国領のコンコード(2218)と公王国領のヴィクトリー(2017)に大規模な貿易港が完成すると、その機能は取って代わられました。
 最近、帝国からの移民の増加によってこの港は拡張を促されました。計画では港の近くに新しく海軍基地機能を設け、完成後は帝国のXボート通信網に組み込まれる予定です。
 しかしこの計画は、統治領の残り少ない領土を奪い取るための帝国の陰謀だとも捉えられ、憤慨が広がりました(※その手口がジェリム併合の時と同じだからです)。基地建設に従事していた測量士が既に2回も待ち伏せ襲撃を受け、小規模な破壊行為は幾度となく発生し、計画は予定より1年以上遅れています。これらの犯人は捕まるどころか、捜査もされていません。
 人員の安全確保のために帝国海兵隊を投入しようにも、統治領の自治権侵害となるために駐留ができません。地元知事は代わりに傭兵を雇い入れましたが、効果は上がっていません。帝国当局はこの事態の火消し方法を模索しています。

コンコード Concorde 2218 A999587-E N 高技・非工 G Im
 長い歴史を持つこの星系は、帝国と公王国を結ぶ重要な通商路上に位置し、リーヴァーズ・ディープ宙域における帝国の最辺境世界でもあります。
 当初この世界は、-200年頃に土地を求めていたアスランのイハテイによって定住されました。必ずしも良い土地ではありませんでしたが、より良い世界を支配していた《略奪者》たちから奪い取れるほど、彼らは強くはありませんでした。とはいえアスラン入植地は繁栄し、カレドン公王国が拡大を始めると良好な関係を築きました。
 帝国は200年頃にこの周辺まで進出し、コンコードはアスラン国境戦争における多くの戦場の1つとなりました。奇妙に思えるかもしれませんが、この戦争において公王国は同じ人類の帝国よりも異星人であるアスランに味方しました。カレドン公王国は、既に属国化していたコラス統治領のように自国も「帝国の一辺境」にされることを避けたかったのです。
 結局、独立が保証されたことで公王国は帝国との対立をやめ、コンコードのアスランは皇帝を自分たちの新たな支配者として受け入れました。ウャセアクタイ(Wyaseakhtai)という名前だったこの世界は、人類とアスランの親睦の精神を称えるために名を現在のものに改め、今も両種族が入り混じった社会を構成しています。
 コンコードはカレドン方面交易の主要港であり、さらに遠くのアスラン世界の商品もここの港を通っていきます。近頃、カレドン商人と帝国企業(特にメガコーポレーションのデルガド貿易)との間で競争が過度に激化し、政治的な問題になっています。

ローレン Loren 2311 C57459C-7 S 農業・肥沃・非工 A G Cs
 ローレンは、とても変わった生態系が見られる魅惑的な世界です。自転は絶えず主星プロメテウスの方角に固定されていますが、恒星から届く光が弱いために昼側の気温ですらかろうじて氷点を上回る程度です。よって、一般的な「薄暮の惑星」と違って中間帯の気温は人類の快適な居住範囲を下回っています。
 それにも関わらず、この著しく住み辛い世界は生命を育んでいます。光合成が効果的ではないので化学合成を基盤とするローレンの植物は、火山活動で発生する化学物質や熱を生命活動の源にして、夜側の一部でも繁茂しています。高等動物も存在し、我々が知るものとは違う興味深い複雑な食物連鎖を形成しています。
 帝国からの入植も行われていますが、人類以外はダイベイ宙域出身の非人類知的種族ブルーレ(Bruhre)が占めています。ローレンは帝国の傘下にはありませんが偵察局基地は置かれており、今後50年以内には帝国に加盟すると見込まれています。

コラス Kolath 2313 C7678CB-8 M 肥沃 A G Ok 統治領首都
 コラス統治領は《略奪者国家》の生き残りで、アスラン国境戦争後期(200年~380年)にこの周辺に進出してきた帝国の実質的な属国となりました。それでもコラスは当時の取り決めを盾に、自治を強調しています。コラス社会は厳しく統制されているため、外世界人が現地法に抵触するのはよくあることです。
 コラス政府(Council of Warlords)はかつては《略奪者》による軍事政権でしたが、今では選挙によって15名の終身議員を選ぶ形になっています。軍隊的な文化が受け継がれたため、軍歴があることが被選挙権の必須条件となっています。
 帝国は統治領に大規模な宇宙艦隊の保有を認めていますが、同時にコラス出身の兵士は特に海軍や海兵隊でその優秀さが広く認められていて、直接に新兵の募集も行っています。
 現在、統治領内では動揺が広がっています。それはおそらく、帝国が統治領に残された領土をも剥ぎ取ろうとしているように見えるからです。抵抗は無意味だとわかっていても反帝国運動は多くあり、この世界を火薬庫に変えつつあります。

クラット Kurat 2315 CAA7667-7 非工・非水 G Ok コラスが統治
 クラットはコラス統治領に残された領土の1つです。メタンやアンモニアによる異種大気の気圧が高い上に、地表平均気温が-141度しかないこの星の自然環境は、気まぐれでとても厳しいです。人類の居住には向いていませんが、入植した《略奪者》はこの惑星を修復が必要な船の隠れ家としていました。過酷な環境が、逆に敵の捜索の眼を鈍らせると考えたのです。
 コラスの《略奪王》が国家建設に向かった際にはクラットは早い段階で取り込まれ、そのコラスが帝国に実質的に加盟した際でも統治領の一部のままとなりました。後に統治領から切り離されて帝国に併合されたメル(2414)やジェリム(2416)と異なり、クラットは特に帝国に有用な何かを持っていなかったので、そのまま残されました。
 この世界の最初の用途は、今では過去のものとなりました。現在の住民は鉱業や軽工業などに従事しています。コラスが直接管理している政府は、住民に対して厳しく統治しています。かつて、冷酷な指導者が民衆暴動の危機に際してドーム居住区の生命維持装置を停止させ、1000人以上を殺害して暴動を阻止したという事例があります。現政権はそこまで厳しくはなく、規制も大幅に緩和はされました。
 しかし不満は残っています。地元の「愛郷者」は政府の比較的穏健さにつけこんで抵抗活動を続けていますが、彼らの「解放計画」の成功には、生命維持装置を人質に取る戦術への対処法がまず欠かせません。そして帝国がこの抵抗運動を影から支援しているとも噂されています。よって、この星系は統治領から分断されて吸収されるのかもしれません。

ルラッミシュ Lurammish 2320 C512755-9 S 非農・氷結 Im
 ルラッミシュはM型準巨星から70億kmの軌道を周回している惑星です。薄い大気と低い気温により住みにくい世界ではありますが、ここには大きな入植地があります。
 元々ルラッミシュは辺境の小さな鉱業入植地でしかありませんでしたが、この4世紀の間に大きく成長しました。その理由は豊かなランサナム鉱脈の発見です。希少元素のランサナムは宇宙船のジャンプドライブ製造には必須で、ルラッミシュのランサナム鉱石は入植地を裕福にしました。
 居住に向かない環境の克服のために入植地には大きなアーコロジー(完全環境都市)が林立し、その巨大な建物1つに50万人以上が生活しています(※星系人口は3000万人なので、アーコロジーは60基程度あることになります)。それぞれのアーコロジーでは技術者と管理者を頂点とする封建制の自治が行われ、星系政府は個々のアーコロジーから送られた代議員による議会で運営されています。ただし、その決定が複数のアーコロジーに影響を与える時のみこの大評議会(grand council)は開かれます。
 最近までルラッミシュの全ての鉱業は地元住民によって担われていました。しかしこの10年ほど、LSP社はランサナム鉱山の独立操業に圧力を掛ける動きを見せ、惑星経済を脅かしています。抗議活動と嫌がらせの応酬に対応するため、帝国偵察局基地は大隊規模の海兵隊治安維持部隊を受け入れられるように最近拡張されました。これによって、少なくとも一時的には緊張が緩和されたようです。

ドゥーム Doom 2412 X400200-4 真空・低技・低人・非工 R G Na
 おどろおどろしい名前で知られるこの星系は、記録上最初に訪れたカレドン商人の謎めいた発言から付けられたと言われています。その商人は10名の乗組員と共にこの星に到着しましたが、彼の船がコラス(2313)に(全くの幸運で)ジャンプして逃げてきた時には、たった1人でぼろぼろの状態でした。負傷した他の乗組員はジャンプの前に全員死亡し、彼は自己の体験の記録を残しました。しかしこの記録は、狂気に冒された男による首尾一貫しない妄言に過ぎず、謎を解くにはほとんど価値がないように見えました。
 とはいえ、このドナルド・モリソン船長が名付けた「オロドルイン(Orodruin)」という巨大な死火山には何かがあったようです。しかしそれが何なのかは不確かで、記録によると彼は何らかの人工施設を説明しているようでした。そして、モリソンによる取り留めのない記録と、後の探検による情報を科学者が繋ぎ合わせた結果、オロドルインは放棄された軍事基地、それもおそらくサイエによるものだと推測されました。モリソンの発言は、長らく停止していた地熱発電機を部下の1人が偶然に再起動させ、基地の自動防衛機構を働かせてしまったことを指していたのです。
 そしてこれは現在も動き続けています。モリソンによる訪問以後、678年から数えて10回ほど大規模な探検が実施されましたが、誰もオロドルインまで到達できませんでした。地下施設に入ろうとした者は全て殺され、基地入口から一定範囲内に侵入した車両は破壊されました。さらに2度ほど船が粒子砲で撃墜されました。
 その結果、帝国はここをレッドゾーンに指定した上で、恒久的な研究小基地を設置して謎の解明を進めています。わずかな進展として、ある研究者の論文によれば、防衛機構を解除する「水晶の鍵」があるのではないか、とのことです。実際にその「水晶の鍵」の砕かれたものはグレンシエル(1812)で発見されましたが、現在のところそれを復元する試みは失敗しています。
(※オロドルインは『指輪物語』に出てくる地名で、別名「滅びの山(Mount Doom)」と呼ばれています)

メル Mer 2414 C79A520-8 海洋・非工 G Im
 海洋世界であるメルの表面には非常に小さな島々が見受けられますが、それらは広大な海洋に浮かぶ小さな岩塊に過ぎません。よってメルの入植地は変わった形を採りました。
 この星の初期の訪問者は、後にヤリザメ(lanceshark)と名付けられた雑食性の小さな回遊水棲生物の群れを発見しました。ヤリザメの群れの存在は、それらを追って旅する漁業集落を形成させました。
 こうしてメルの「筏集落」(raft community)が出来上がりました。一般的にこの集落は、数百人が乗り込める大型船の上にあります。1つの集落船は特定の群れを追い、底引き網でヤリザメを捕獲します。集落船は公海を渡る完全な街であり、漁師の生活を様々に支援します。
 集落船同士はゆるやかな惑星政府も形成します。それぞれの集落船の「士官」が参政権を持ち、無線による直接投票で惑星全体に関する議案について決定します。
 一番大きな島には宇宙港が、他の島には集落船が破損した際の修理施設が置かれています。破損の理由には嵐によるものの他に、ヤリザメの群れを人類と奪い合っている大型で危険なオオグイクジラ(gulperwhales)との遭遇によるものもあります。
 これら自然の脅威に加えて、人類が時折引き起こす問題もあります。メルの漁業文化は排他的で抗争的な傾向があり、個人間だけでなく集落間でも復讐行為が行われます。集落船に対する海賊行為や報復事件はよく報告され、長年に渡る集落間の憎悪を促しもしています。

ジェリム Gerim 2416 A888A97-E S 高技・高人・肥沃 G Im
 ジェリムは星域における帝国統治の中枢に位置する地球型惑星です。カレドン星域の帝国領は隣接するナイトメア星域から管理こそされてはいますが、ここは行政や通商の中心地として重要です。
 この世界はかつてコラス(2313)によって統治されていましたが、658年にXボート網の敷設と海軍基地(※現偵察局基地)が建設されたことによって、帝国に併合されました。代わりに統治領政府は多額の補償金を受け取ることで譲歩し、コラス系の地元住民は大規模な移民計画の中に埋没していきました。
 世界には現在、星域で最も多い190億人が居住しています。コラス系住民は少数派ながらも存在し、自分たちの誇り高き軍事的文化が移民たちによって踏みつけにされたと憤っています。一部の人々は秘密結社への参加や政治的抗議などを通して、失われたコラス文化を蘇らせようとしています。そして彼らには「慈善家」からの資金提供が寄せられています。
 しかしえてしてその「コラス文化の復活」は本当に文化保全をするのではなく、突撃隊を組織して民衆扇動を行い、「イルサラ帝国以上の軍国主義的独裁社会を目指している」と、帝国のとある社会学者が呆れて指摘しています。残念なことに地元政府は危機的状態にあるのを認めたがらず、その間にもツヴァー・セン(Thuvar Sen)率いる「コラス遺産連盟(Kolan Heritage League)」は、見た目の規模以上に政治的権力を付けています。

ブリン Bryn 2417 B4268B8-8 G Im
 一般的な「工業」世界の分類には入りませんが、ブリンはこの帝国辺境における工業の中心地であることは間違いありません。惑星規模は小さいものの、飛躍的な経済成長によって多数の移民が惹き寄せられていて、将来第三期探査が行われた時にはおそらく人口は10億の桁に乗り、「工業」の分類が得られていることでしょう(※既に人口は9億2000万人に達しています)。
 ブリン政府は現在、リチャード・クラギン(Richard Kulagin)一人に導かれています。彼の父はエネリ・クラギン(Eneri Kulagin)といい、惑星産業を支配していたメガコーポレーション(ナアシルカ、GSbAG、インステラアームズ)の横暴を止める改革に人生を捧げ、企業政府を倒して民衆に支持され、新設の終身護民官の地位に就いた偉大な人物です。エネリ翁の死後もクラギンの名はブリンで魔力を保っていたので、政治的手腕は未知数だったとはいえ、彼の息子であるリチャードが圧倒的な支持を得て終身護民官を継承しました。
 しかし残念ながら、リチャードは父には全く及びませんでした。彼はすぐに「脳無し野郎(Deadbrain Dick)」であることを露呈しましたが、終身護民官の並外れた権力は死亡か辞任以外には奪うことはできません。今のリチャードは、かつて父が追い出したメガコーポレーションの全面支援を受け、操り人形としての優秀さを人々に見せています。メガコーポ連合体や一部の経済界は当面はリチャードの陰で糸を引き、「人形」を引きずり下ろそうとする動きを妨げています。

イクナ Ikuna 2419 E000410-A 小惑・非工 G Im
 イクナの小惑星帯は、メガコーポレーションのLSPが全て保有しています。LSP社は200年前に、帝国政府からこの星系に関する全ての権利を買い上げました。
 鉱業活動に加えて、小惑星帯には岩石外殻宇宙船用のかなり大きな製造工場などが置かれています。これらのLSP施設は遥かに巨大で、実質的にAクラス宇宙港の規模となっています。
 しかしLSPは、小惑星帯の施設を部外者に開放することを拒んでいます。訪問者は、小惑星帯軌道から1000au以上外側に離れたガスジャイアントの衛星にある旧式施設(※これがUWPが示すEクラス港でしょう)で間に合わせなくてはなりません。許可なく小惑星帯に接近しようとすると、LSPに雇われた手強い傭兵たちを乗せた哨戒巡洋艦(patrol cruisers)によって叩き出されます。
 この極端な保安体制は、「イクナの秘密」として様々な憶測を生み出しました。有名なものを挙げれば、国税当局や外世界の鉱夫からLSPが隠している豊かな鉱脈がある、最新技術による宇宙船の秘密試験場がある、未知の技術で満たされた太古種族の遺跡がある、などです。
 そして、LSPによって隔離された小惑星帯には警察権力も及びません。進入禁止区域に入った宇宙船を警告なしに撃墜した事件がいくつか発生しており、LSPは手段を選ばずこの星系の秘密を守ろうとしているようです。

(※ライブラリ・データはこのページに統合してあります)


【参考文献】
・Ascent to Anekthor (Gamelords)
・TAS-Net Library Data
・Traveller Wiki

宙域散歩(番外編4) 仮死技術と二等寝台

2014-08-12 | Traveller
 医学分野における偉大な発明のうち、仮死技術ほど病院の外で使用されているものはないでしょう。長期間に及ぶ治療のために当初使用されていた仮死技術は、今や宇宙旅行とは切っても切れない関係になっています。
 帝国の科学では仮死技術は「人工冬眠(hibernation)」と「冷凍睡眠(fleezing)」の2種類に大きく分けられます。人工冬眠は人体の代謝を最低限にまで下げる一方、冷凍睡眠は人体自体を凍結させます。

人工冬眠
 TL9で実用化される人工冬眠には2つの手法があります。
 能動的人工冬眠(Active Hibernation)の利用者は、専用の低温寝台(chill berth)に入れられます。この機器は利用者を冬眠状態へ誘導し、維持します。それと同時に利用者の低下した生命徴候(Vital Signs, 血圧・体温・心拍数など)を監視し続けます。
 低温寝台に人体を載せることは低TL下では非常に複雑な手順を必要とします。医師によっていくつものセンサーを体に付けねばならず、静脈には管を挿入し、弱い脳波を診るための電極も装着しなくてはなりませんが、これも全ては冷凍寸前の利用者を監視するためのものです。しかしこれらの手順は技術の進歩によって単純になり、TL11では冬眠期間が60日を越えなければ外部からの監視は特に必要はなくなります。
 対照的に、受動的人工冬眠(Passive Hibernation)は外部からの生命維持や特別な機器を必要としません。その代わりに、TL9で開発されるファスト・ドラッグによって代謝を60倍に遅らせられます。ただしファスト・ドラッグには60日間も冬眠状態が続いてしまう、という唯一の大きな問題がありますが、TL12でファスト・ドラッグの解毒剤が合成できるようになり、薬物を投与された人をより早く起こすことが可能となります。なお、解毒剤なしにファスト・ドラッグによる冬眠を中止させようとするのは難しく、危険な行為です。
 ちなみにTL9未満の技術でも仮死状態を引き起こす薬物は知られていますが(※麻酔薬や睡眠薬のことでしょう)、ファスト・ドラッグほどの安全性や確実性はありません。

冷凍睡眠
 TL9における冷凍睡眠は非常に危険でした。意識を失った個人を過冷却液体に浸して素早く冷却しなくてはならず、作業が遅れれば細胞組織の水分が氷の結晶となり、細胞膜を破壊していました。またこの時点では蘇生技術も薬物に頼って未熟であり、6人に1人が死亡していました。
 TL11で重力音波変調器(gravisonic modulator)が発明されることにより、生物の冷凍睡眠は実用的なものとなりました。ホログラフィが複数の光源から三次元映像を作り出すように、複数の超音波投射器によって生体の正確な内部状態を得られるようになりました。そしてその情報を基に、重力変調器は適切に原子粒子運動に作用して、正確かつ素早くかつ均等に物体を冷やす(もしくは温める)のです。かくして利用者は素晴らしい速度と精度で「凍り」、そして「解凍」されることができます。
 冷凍寝台(cold berth)では次のように手順が踏まれます。まず、寝台のコンピュータが体内の地図を制作し、予想される解剖学的パターンと比較します。この手順は蘇生を容易にするために必要です。次に冷却が開始されます。コンピュータは電気信号を脳に送り、利用者を眠らせると同時に生体反応を変化させていきます。それから体組織や体液の反応を見ながら肉体を慎重に冷却していきます。そして最後にコンピュータは、予定された順番に従って重要な臓器から急速冷凍していきます。
 解凍の手順は冷凍の逆で行われます。記録された体内情報を照会しながら、コンピュータは重力音波システムを正確に制御して体を温め、電気信号を送って心臓や脳活動を刺激します。
 冷凍睡眠は通常自動化されていますが、医学の資格を持つ者が蘇生を監視することになっています。これは対象の個体差を埋め合わせ、事故や非常事態に対処するためです。

二等寝台
 帝国市民は一般的に二等寝台(Low Berth)を「冷凍旅客」のための容器とみなしていますが、実際には「二等寝台」という単語は幅広い意味を持ち、「奴隷拘束」から「薬物を投与されて詰め込まれた移民団」というものまで含まれています。
 スピンワード・マーチ宙域のソード・ワールズ連合では、人工冬眠を誘発させる低温寝台が主に使われています。乗客は普段の睡眠時間に低温寝台に入り、そのまま冬眠状態になります。人工冬眠による10日間の旅行は4時間の睡眠と実質同じで、多くの輸送船ではこういった二等船客を下船する数時間前に人工冬眠から「起こし」はしますが、到着するまでは眠ったままにさせています。こうすることで通常の睡眠よりも心地良い感覚で乗客は目覚めることができます。
 乗客が20日間以上冬眠状態に置かれる場合は、覚醒後に余計に疲れないようにするために「半覚醒状態で」乗客を運びます。上質な低温寝台では音楽や音声娯楽、睡眠学習プログラムが乗客の意識下に働きかけます。脳波は逐一監視されていて、乗客は音声チャンネルを変えたり、船医やスチュワードに「はい/いいえ」式で応答することすらできます。
 一方で帝国では冷凍寝台が一般的です。帝国暦300年代までの低TL寝台は低価格と簡素さが優先されて、製造は容易でしたがその分危険も大きく、乗客を過冷却液以外の面でも震え上がらせていました。暗黒時代には悲惨な状態で星の数ほどの人命が失われましたが、それでも多くの人々は脱出の可能性に文字通り命を賭けていたのです。そういった不遇の人々は、人的資源を必要とする企業によってあまり人が近寄らないような「目的地」に連れて行かれました。そんな二等船客のささやかな楽しみは「二等くじ」でした。船長の指示でスチュワードが乗客から10クレジットずつを集めます。二等船客はそれぞれこの旅を生き残る二等船客の数を予想し、正解者で掛け金を分配します。仮に賭けの勝者自身が死亡してしまった場合は船長が配当金を受け取りました。この遊びはえてして貧乏な二等船客に、到着時にちょっとしたお金を持って船を降りる夢を与えました。
 今では冷凍寝台はより先進の、より新しいデザインのものが用いられるようになっています。例えばTL15の緊急用冷凍寝台(emergency cold berth)は大人4人を収容し、着衣のままの利用者を60秒以内に凍結することができます。
 海軍は緊急用二等寝台を「冷凍予備兵(frozen watch)」のために利用しています。戦いの最中では、必要不可欠な人員がいとも簡単に失われることがあります。そんな時のための補充人員を艦内に乗せているのです。予備兵は一般の緊急用寝台とは逆に、TL15でも3時間程度をかけて慎重に冷凍され、問題なく即座に解凍できるようにシステムによる状態監視が続けられます。そして緊急時に解凍手順が開始されれば、5分以内に目覚めることができるのです。
 仮死技術は医療分野で最初に使われ始めました。医療用冷凍寝台は様々な負傷者や手遅れになりかねない患者を容易に取り扱うために設計され、標準的な医療スキャナを備えた診断援助システムが組み込まれていました。ほとんどの場合、寝台は患者を冷却して、病院に到着するまでの生存を確保するのに十分な程度に代謝を遅くする用途で使われていました。
 しかしTL11になると、それに加えて状況次第で患者を凍結できるようになります。一般の冷凍寝台と比べて医療用寝台は速度の面で慎重に冷凍が行われますが、これはその分、後で解凍担当者の助けとなるように進捗状況を正確に記録しているのです。
 そして(※おそらくTL12での)可動式寝台(portable berth)の発明は、医療分野における仮死技術の利用を飛躍的に高めて、数多くの命を救いました。これは冷却機構と一体化した担架(stretcher)のようなカプセル寝台で、担架はカプセル内に安置された患者の容態を監視しつつ生体機能を維持し、凍結と解凍を行います。このシステムにより、カプセルは病院どころか反重力救急車の中でさえ取り付けられるようになり、病院に向かう救急車内でも患者を凍結して応急手当の手間を軽減しました。そして必要な臓器や外世界の器具が病院に届くまで、容態の悪化を食い止めています。
 また別の用途で幅広く使われているのは、家畜用冷凍寝台です。その用途の寝台は様々な生命体に対応できるように無数の大きさや形がありますが、家畜用寝台はむしろハードウェアよりもソフトウェア面を重視しています。これは個々の家畜に対応した特別な寝台を造るよりは、ある程度汎用性を持たせた方が効率的だからです。適切なプログラムなしでの家畜の急速冷凍・解凍は非常に難しく、生物学的知識を必要とするプログラムは書き上げるのに多くの時間を必要としますが、幸いにも帝国内を冷凍寝台で輸送される大部分の品種についてはプログラムが既に存在します。一般的ではない生命体のためには、AまたはBクラス宇宙港に常駐する専門家が家畜の冷凍・解凍を担当します。

二等寝台と宇宙旅行
 帝国内での二等寝台の人気の主な理由は、おそらく長距離旅行における有用性です。可動式冷凍寝台が実用化されると、商人はそれを旅客輸送に応用しました。多くの客船(特に定期航路上を行き来する船)では可動寝台が利用され、これは二等船客が貨物輸送と同じように取り扱われることを意味します。
 とある二等船客がディンジール(ソロマニ・リム宙域 1222)からリジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)に向かうとします。その旅客はまずディンジールでセンサー付きの継ぎ目のない専用の服(※『Traveller: The New Era』時代のイラストでは「体に密着した服を着た冷凍睡眠者」が描かれているので、それと同様のものと思われます)に着替えた後、冷凍されます。その後、仮死状態に保たれた旅客を乗せたカプセルは船から船へと移され、リジャイナに着くまでは決して解凍の危険を冒すことはありません。特等・一等船客と同じく、二等船客の運賃は帝国商務省(Imperial Ministry of Commerce)の統制下にあり、帝国内で認可された恒星間運輸会社はジャンプ1回につき1000クレジットの固定運賃で二等船客を運んでいます。そして多くの船では、可動式二等寝台のために設置枠のみを備え付けています(これには寝台の新製品に対応しやすいという利点もあります)。
 二等船客は、自身が乗る寝台が「集積所」に置かれることに同意することになっています。集積所は商務省の内局である宇宙港管理局(Starport Authority)の管轄下にあり、Dクラス以上の宇宙港であればたいてい可動式二等寝台の集積所を持っています。集積所はDクラス宇宙港では「コンセントのある貨物置き場」程度でしかありませんが、A~Bクラス宇宙港になると乗客の冷凍・解凍する能力を持つ「寝台ターミナル(berth terminals)」を利用することができます。そこでは医師が解凍作業のために常駐しており、無料でサービスを受けることができます。しかし多くの信頼できる船では、自前の船医と搭載設備を使っています。
(※原文では商務省ではなく帝国運輸省(Imperial Ministry at Transportation)の管轄下にあることになっていましたが、GURPS版設定で宇宙港管理局(SPA)が商務省の下に入り、運輸省自体が見当たらないことを受けて修正しました)

仮死技術と社会
 仮死技術は宇宙空間に限らず、刑事司法の場でも冷凍寝台が利用されています。いくつかの世界での被告人は裁判を待つ間、寝台に留め置かれています。また安く囚人を社会から排除する手段として(将来世代に判断を委ねることになりますが)冷凍保存することがあります。逆に、自分がもはや起訴されない時を待つため(つまり時効を越えるため)に、犯罪者が冷凍寝台に身を隠すこともあります。
 いくつかの地方政府では、失業問題を軽減するために冷凍睡眠が利用されています。生活保護費を支払うよりは、景気後退期に貧困層の中から自発的に冷凍されてもらい、後に補償する方が安くつく場合があります。また企業内でも解雇や事業縮小に代わって、同様のことが行われることもあります。
 同様に、専門家も時折冷凍寝台を使うことがあります。例えば運動選手は競技生命を延ばすために試合のない期間に仮死状態になるかもしれませんし、芸能人も仕事の合間に凍結されることで技術や美貌を保とうとするかもしれません。
 『時間旅行者(Timers)』と呼ばれる裕福な者は、未来旅行のために冷凍寝台に入ります。多くの時間旅行者は単独ではなく、同志と安全を求めて「時間旅行クラブ(Timer club)」に加入します。こういった同好会は帝国内とソロマニ圏双方のいくつかの高人口世界に存在します。
 時間旅行者は通常10年・25年・50年といった間隔で世に出てきますが、中には1000年に5回程度という長期に渡る旅をする者もいます。そして彼らは「短命の者ども」の中に混じって新時代を楽しみ(そのための資金は投資信託で得ています)、しばらくして辺鄙な場所にある会員施設に戻って再び眠りにつきます。
 テラ(ソロマニ・リム宙域 1827)の時間旅行クラブの中で最も古いものは、地球連合の建国と同時期の-2398年に設立されたとされています。当時は4つの施設(その中の1つはルナにありました)で合計1万人の会員が冷凍睡眠していたと豪語していましたが、暗黒時代の間に100人足らずまで減少してしまいました。とはいえ現在の会員の中でも数名は、帝国暦2世紀よりも遥か以前に誕生したと主張しています。
 ちなみにそのクラブの創立当時、少数の者は既に100年以上冬眠していました。-2508年に冷凍されたある人は、自身の病気を治療する技術が開発されるのを仮死状態で待ち続け、やがて蘇生されました。そういった人々の最後の1人は、「人類の支配」時代の-1996年にようやくこの世を去りました。

帝国外での仮死技術
 ゾダーン人は低温・冷凍寝台を限定的にしか使用しません。ゾダーン人の宇宙船では俗に言う「冷たくない寝台(warm berth)」が一般的です。なぜならゾダーン人は超能力で自ら仮死状態になることができるので、この寝台は単に快適な休憩所以上の存在ではありません。同様にドロインも仮死超能力を使えます。
 超能力に疎いと言われているアスランは、瞑想や厳しい自己鍛錬の末に精神を昏睡状態に移行させられるようですが、大部分のアスランは標準的な冷凍寝台を利用します。
 ハイヴは仮死技術が必要とする薬物に耐えられず、冷凍寝台でも6分の5の確率で凍死してしまいます。一方ククリーは冷凍睡眠や人工冬眠には肉体的には容易に耐えられるのですが、閉所恐怖症のために長期間容器に入っていることができません。よって両者の勢力圏内で二等寝台は特殊な状況以外では用いられません。
 そして太古種族は明らかに、仮死技術以外に現在の科学力を遥かに越えた「時間停滞」技術を持っていたようです。この技術は時間の流れそのものを操作し、旅行者の代謝をほぼ停止させたかのように遅らせることができた、と言われています。


【ライブラリ・データ】
可動式医療用冷凍寝台 Portable medical cold berth
 標準的な救急車や多くの軍用車両に備え付けられている可動式医療用冷凍寝台は、「担架」カプセルと冷凍機構が一体化しています。「担架」カプセルは患者を包み、基本的な生命維持を行いつつ凍結させた患者を仮死状態のまま保ちます。「担架」は医療スキャナを内蔵し、反重力モジュールを搭載しています。
 TL12+、容積13.5kl、重量1000kg、価格60000Cr.。

追加ルール:『時間旅行クラブ』との接触
 時間旅行クラブは一般的には極めて珍しい存在で、TL9以上の高人口世界(人口9+)でのみ見つけることができます。条件に該当する世界にクラブが存在するかどうかは(※レフリーが)サイコロを振り、2Dで12+が出れば存在することになります(その世界がTL11+ならDM+1)。
 しかしクラブと接触するのは、超能力研究所を見つけるよりも難しいことです(※超能力研究所を見つける以上の難易度の判定を課すべきでしょう)。彼らの存在は多くの世界で合法ではありますが、クラブの存在自体が極めて隠匿されています。睡眠中の会員を保護するために、部外者によるクラブ施設への接近を厳しく制限しているからです。


【私的考察】
 二等寝台ならではの要素と言える「二等くじ」の描写が過去形で書かれていることから、帝国暦1100年代の二等寝台の安全性は相当なまでに高まっていると考えられます(きっとくじではなく保険が販売されていることでしょう)。実際、メガトラベラーの時代には解凍事故が起きてもルール上めったに死亡しない(最低でも1/36の確率で事故は起きますが、ダメージが小さめに設定されている)ことから、このような描写になったのかもしれません(※TD21号掲載の改訂版ルールでは冷凍・解凍で2回判定が必要になった上に、解凍の難易度が「難」に上げられてしまっていますが、それでも死亡するのは難しいです)。
 逆に、現行のマングース版ではクラシック版以上に死亡率が高まっており(目標値が8+になった上に、使えるDMが渋いので)、おいそれと旅行に使えないものになってしまっています。しかし「第三帝国」設定とは異なるSpica Publishingの『Outer Veil』設定では、難易度が簡易(DM+4)に引き下げられた二等寝台が登場します。マングース版での一般的な船医の水準である〈医学-2〉の者が解凍を担当すれば自動成功も十分見込める(※マングース版には1ゾロの出目で自動失敗するルールがない)ので、ハウスルールでの採用を考えてみても良いのではないでしょうか。
 その場合、上記の設定から判定書式を考えてみると、

 二等寝台の解凍による死亡を避けるには:
 〈医学〉・耐久力・簡易(DM+4)・10分
 注釈:〈医学〉技能は解凍を担当する医師のものを、耐久力は解凍される者のDM修正値を参照する。時間単位はTL14+の寝台のもので、TL11~13なら「1時間」、TL9~10なら「4時間」となる。また、TL12-では難易度は「易(DM+2)」、TL9だと「並(DM+0)」となる。

 と、このぐらいが妥当ではないでしょうか。スリルはなくなりますが、冒険とは関係ない場所で死ぬことの方が興冷めでしょうし。


【参考文献】
・Travellers' Digest #21 (Digest Group Publications)
・Starship Operator's Manual Vol.1 (Digest Group Publications)