夕日さすまに いそしめよ(旧「今日までそして明日から」)

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木田元著『反哲学史』(講談社 1995年)

2018-06-27 15:56:12 | 読書
 本書を知ったのは、須田朗著『もう少し知りたい人のための『ソフィーの世界哲学ガイド』」(NHK出版 1996年)を読んだのがきっかけです。その「あとがき」で著者がもっと学びたい人のために薦めていたからです。木田元という先生は名前だけは知っていましたが、ハイデッガーや現象学など現代哲学の専門家で難しいのではないかと著書を読もうとまではしませんでした。本書は「反哲学」などという奇妙なタイトルでますます敬遠したくなります。しかし須田先生が薦めるままに読んでみると、文章が読みやすく引き寄せられるのです。
 これは中央大学の一般教養課程の科目「哲学」で行った講義ノートがもとになっています。内容的には西洋哲学史入門です。「反哲学史」という聞き慣れない名称は、従来の哲学に対抗しようという意図ではなく「哲学をあまりありがたいものとして崇めたてまつるのをやめて、いわば『反哲学』とでも言うべき立場から哲学を相対化し、その視点から哲学の歴史を見なおしてみようということ」(7頁)だそうです。
 「反哲学」という言葉を使ったのは、今世紀になってフランスのメルロ・ポンティが初めてだそうですが、ニーチェ以降にプラトン・アリストテレスを土台に発展した伝統的哲学の流れに対する批判が起こってきたことを念頭においています。木田氏もそうした新しい流れに同調していると思われます。また日本という西洋の哲学とは無縁の思想風土の中で哲学を学ぶ視点をも示唆しています。
 内容は非常にスタンダードな西洋哲学史の手ほどきとなっています。目次は次のとおりです。
第1章 ソクラテスと「哲学」の誕生
第2章 アイロニーとしての哲学
第3章 ソクラテス裁判
第4章 ソクラテス以前の思想家たちの自然観
第5章 プラトンのイデア論
第6章 アリストテレスの形而上学
第7章 デカルトと近代哲学の創建
第8章 カントと近代哲学の展開
第9章 ヘーゲルと近代哲学の完成
第10章 形而上学克服の試み
 第1節 後期シェリングと実存哲学
 第2節 マルクスの自然主義
 第3節 ニーチェと「力への意志」の哲学
終章 19世紀から20世紀へ
 因みに出版社のホームページの能書きでは「ニーチェによって粗描され、ハイデガーによって継承された『反哲学』は、西洋2500年の文化形成を導いてきた『哲学』と呼ばれる知の様式を批判的に乗り越えようとする企てである。この新しい視角を得れば、哲学の歴史も自ずからこれまでとは違って見えてくる。古代ギリシアから19世紀末にいたる哲学の道筋をたどり直す『反哲学史』。講談社学術文庫『現代の哲学』の姉妹編」となっています。
 実際、どんなにやさしく書かれた西洋哲学史入門を読んでいても、日本人初心者が抱く疑問は、なんで西洋人はこんな七面倒くさい思索を巡らさねば気が済まないだろうということです。そんな素朴な疑問に対しても、著者は自分の体験を踏まえて、共感を持って語ってくれています。いい本に巡り合いました。
 なお、同じ著者に「反哲学入門」(新潮文庫)という本もあります。はじめは間違えてそちらを買って読んでしまいました。内容はほぼ同じですが、そちらのほうがさらに砕いた語り方をしています。木田元という先生は、むずかしい哲学を一般読者に分かりやすく語る名人だと思います。

 

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