夕日さすまに いそしめよ(旧「今日までそして明日から」)

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ヨースタイン・ゴルデル著『ソフィーの世界~哲学者からの不思議な手紙』(NHK出版 1995年)

2018-06-25 17:49:55 | 読書
 現役牧師の頃、学ぼうと思ってできなかったことに「西洋哲学史」があります。リタイアしてから、何かいい手引き書はないかと探しましたが、なかなか見つかりませんでした。いろいろ読んでみて一番自分のレベルにぴったりだったのが本書です。じつはこれが出版されて評判になったときに、すでに買ってあったのです。ところが650頁ほどもあるこの本を読み通す機会をつかめないまま時が経ってしまいました。20年後の今になってようやく読むことができ、とてもいい本だと思いました。
 これは、ソフィーという15歳の女の子がアルベルトという哲学者に西洋哲学史の手ほどきを受けるというお話しなのですが、これはヒルデという同年齢の女の子の父親がその勤務地から娘に宛てて書くいくつもの手紙の中味なのです。この設定はやや複雑です。つまり西洋哲学の授業は作中劇なのです。そして、最後にソフィーとアルベルトはその作中劇から抜け出して自由になろうとし、それを断行しますが、所詮二人は現実世界に体をもつことができない観念に過ぎません。天使か幽霊のような自分たちの存在の有り様を思い知らされることになるのです。このように、外枠になっている親子の物語と内枠にあたる西洋哲学史講義がうまく絡み合いながら、ミステリアスに話が進行していきます。だから、二重に楽しめる本になっているのです。
 もちろん副題に「哲学者からの不思議な手紙」とあるように、中心主題は西洋哲学史にあります。ソクラテス以前からプラトン・アリストテレスと中世を経て、デカルトとカントが代表する近代へ、そして現代に至るまでと、これまでに登場した沢山の哲学者の思想を紹介しているのです。しかも相手は15歳の女の子ですから、当然わかりやすくなければなりません。予備知識が何もなくても大丈夫です。またソフィーの素朴な疑問や感想などが織り込まれて、誰もが親しめる哲学入門になっています。
 長編ですから読み通すには少し忍耐もいりますが、これ以上親切な西洋哲学史入門はないと思います。著者のゴルデルはノルウェイの高校で哲学を教えていたという実績をもつ作家です。池田香代子氏の翻訳も、とても読みやすい日本語です。

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