村上春樹の最初の短編集『中国行きのスロウ・ボート』(1983年)に「土の中の彼女の小さな犬」という小説があります。全七編中でもっとも長い作品です。最近ふとしたきっかけで読み直してみました。以下に、あらすじと解釈を書いてみました。
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宗教改革というと信仰義認の教理ということにばかり目が向けられますが、その後の改革派教会では、リタージ(典礼)をめぐって消極派と積極派の果てしない論争が繰り広げらました。いったんは敬虔主義によるノンリタージが教会を支配しましたが、リタージを求める声がしだいにこれを逆転し、ほぼ決着が付いたのは20世紀に入ってからです。本書では、その歴史的過程と正しい改革派礼拝論のあり方が述べられています。もともとはプリンストン神学大学のストーン講座で語られたもの(1960年)。 . . . 本文を読む
これは中央大学の一般教養課程の科目「哲学」で行った講義ノートがもとになっています。内容的には西洋哲学史入門です。「反哲学史」という聞き慣れない名称は、従来の哲学に対抗しようという意図ではなく「哲学をあまりありがたいものとして崇めたてまつるのをやめて、いわば『反哲学』とでも言うべき立場から哲学を相対化し、その視点から哲学の歴史を見なおしてみようということ」(7頁)だそうです。「ニーチェによって粗描され、ハイデガーによって継承された『反哲学』は、西洋2500年の文化形成を導いてきた『哲学』と呼ばれる知の様式を批判的に乗り越えようとする企てである。この新しい視角を得れば、哲学の歴史も自ずからこれまでとは違って見えてくる。古代ギリシアから19世紀末にいたる哲学の道筋をたどり直す『反哲学史』。講談社学術文庫『現代の哲学』の姉妹編」(出版社ホームページから)。 . . . 本文を読む
ゴルデル『ソフィーの世界』を読んだ後、これに進みました。本書は 『ソフィーの世界』の翻訳を監修した哲学者須田朗氏によるものです。氏は厖大な数の愛読者カードの通信欄を読みながら、その返事として自分の発見を書いて送りたいと思ったそうです。 それが本書の内容になっています。『ソフィーの世界』を読み終わった人は、その余韻がさめやらぬうちに本書を読んでみると勉強になると思います。 . . . 本文を読む
副題に「哲学者からの不思議な手紙」とあるように、中心主題は西洋哲学史にあります。ソクラテス以前からプラトン・アリストテレスと中世を経て、デカルトとカントが代表する近代へ、そして現代に至るまでと、これまでに登場した沢山の哲学者の思想を紹介しているのです。しかも相手は15歳の女の子ですから、当然わかりやすくなければなりません。予備知識が何もなくても大丈夫です。またソフィーの素朴な疑問や感想などが織り込まれて、誰もが親しめる哲学入門になっています。長編ですから読み通すには少し忍耐もいりますが、これ以上親切な西洋哲学史入門はないと思います。著者のゴルデルはノルウェイの高校で哲学を教えていたという実績をもつ作家です。池田香代子氏の翻訳も、とても読みやすい日本語です。 . . . 本文を読む
村上春樹の短編の中で何度も読み返しているのもの一つに、「ハナレイ・ベイ」 がある。主人公サチはピアノバーを経営する推定50代半ばぐらいの女性。ピアノが特技で耳コピでなんでも演奏することができる。若い時、知り合ったミュージシャンと結婚したが、まもなく死に別れた。そして19歳の息子が一人いる。ある日その息子がサーフィンをしに行ったハワイのハナレイ・ベイで鮫に襲われて死ぬ。知らせを受けて駆けつけたのは、島の警察の霊安室だった。息子の遺体は眠ったように安らかな顔だったが、その右足は食いちぎられ、断面から白骨が痛々しくのぞいていた。 . . . 本文を読む
(2015年9月7日記)8月に宮崎美子の「すずらん本屋堂」で紹介された1冊。著者の話も直接聞くことができた。買って一気に読んだ。ボルネオ戦の悲しすぎる一断面。特別関心をもったのは、わたしの父(故人)も戦時中ボルネオに行っていたと聞いていたからだ。捕虜となり、収容所で牧師や神父から福音を聞かされた。インドネシアの教会には日本から聖職者が派遣されていた。そのエピソードは出てこないが、この小説は当時のボルネオを知る機会となった。「インドネシア人が今でも日本人に怒りを抱いていると思うなら、それは誤解です。大切なのは、歴史を学び、新たな関係を築いていくことです」という現地の生き証人のありがたい言葉。 . . . 本文を読む
(2014年2月5日記)先生最後となる入院と静養の時期に訳されたものです。キーブル(1866年没)はオックスフォード運動の中心人物の一人。一生イギリスの小さな町の牧師をした人で、この詩集で有名になりました(生前すでに95版)。讃美歌「わが霊のひかり」(54年度版38)のもとになった詩を書いた人です。本の原題は『教会暦』、タイトルの「光射し途へと」は「聖餐」という詩の最後(181頁)からとったものと思われます。訳者の思いに心を合わせて味わいました。 . . . 本文を読む
(2013年5月28日記)まえがきに書いてある。「これだけを電車の中で読んで分かる話のようには記しておりません。机の上で読み、参照すべき聖句を読み合わせて、やっと趣旨が分かる、というようになっています」と。また「学者の判断と伝道牧会者の判断がかなり違ってくることを痛感している」とも言う。著者の情報収集能力と分析能力には仰天することが多い。私の若き日の師の一人でもある。今年召された先生を偲びつつ。 . . . 本文を読む
(2013年9月3日記)8月は必ず過去の戦争を思い起こすことにしている。今年は浅田次郎『終わらざる夏』(2010年 集英社)を読んでみた。終戦直後、千島列島最北端のシュムシュ島で行われたまさかのソ連軍との戦闘を主題にしたものだが、全編を通して戦時下のあらゆる局面を教えられる。戦争の記憶を風化させてはならないと思う。 . . . 本文を読む