随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

台風の正体

2005-09-06 11:39:31 | 政治
大型の台風14号が九州の西の海上を縦断して、やがて上陸し、右折して日本列島を縦断する恐れがでてきた。
毎年、台風が幾つかが上陸し、甚大な被害を生じている。
改めて、台風の正体について考察してみたい。

まずは、台風の発生メカニズムについて。
海面水温が高い赤道近くの熱帯の海上では、熱せられた水蒸気が上昇気流となり積乱雲となる。この上昇気流によって次々と発生する積乱雲(入道雲)が、多数まとまって大規模な渦を形成するようになる。
上昇気流が発生すると、その中心部分の気圧(空気の密度)が低くなる。気圧は水と同じように、気圧の高いところから低い所へ流れて「風」が生じる。気圧の差が大きい程、強い風が吹き、これが暴風となる。
風は、低気圧の中心に向かって反時計回り(左回り)で吹き込んでくる。吹き込んだ暴風は、低気圧の中心を廻って、反時計回りに吹き出す。この渦の中心付近の風速が17.2m/sを超えたものを台風と呼んでいる。

台風は暴風とともに大雨を伴いながら北東へ移動する。
海面で暖められた上昇気流は、上空の冷たい空気に触れて凝集して積乱雲となり、さらに冷えると雨となって地上に落ちる。
台風の場合、垂直に発達した積乱雲が、眼の周りを壁のように取り巻いており、そこでは猛烈な暴風雨となっている。
この眼の壁のすぐ外は濃密な積乱雲が占めており、激しい雨が連続的に降っている。
さらに外側の200~600kmのところには帯状の降雨帯があり、連続的に激しい雨が降り、ときには竜巻が発生することもある。

台風は上空の風(偏西風)に流されて動き、また地球の自転の影響で北へ向かう性質を持っている。そのため通常東風が吹いている低緯度では、台風は西へ流されながら次第に北上し、上空で強い偏西風が吹いている中・高緯度に来ると、台風は速い速度で北東へ進む。
台風は、暖かい海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達し、中心気圧はぐんぐん下がり、中心付近の風速も急激に強くる。つまり、台風は地球の自転と偏西風の影響で移動するが、暖かい海面が広いと上昇気流が連続して発生し、低気圧が継続して周囲から強い風が反時計回りに吹き続け、暴風雨が持続することになる。

日本付近を襲う大型台風の誕生となるのは、日本付近の海面温度による。海面の温度が低いところに来れば、台風はエネルギー供給が絶たれて、温帯性低気圧となって雨を降らせたら消滅してしまう。
陸地に上陸しても、台風はエネルギー供給が絶たれて、やがて温帯性低気圧となって、同じように雨を降らせたら消滅してしまう。
台風は、本来的に中心付近の最大風速は、移動することにより、徐々に弱まる傾向にあるが、暴風の範囲は逆に広がる。

台風は、赤道付近の海洋で年中発生している。ただ、冬場には日本近海の海面温度が低く、また高気圧が張り出している日本に近づけないだけである。

問題は台風のもたらす大雨による洪水の被害のことである。
台風がもたらす雨は大量の雨が短期間(数時間から数日)のうちに広い範囲に降るため、河川が増水したり堤防が決壊したりして水害(浸水や洪水)が起こる。
例えば降雨量100ミリというのは、畳二枚にドラム缶一杯の雨が降るというすざましい大雨である。

近年は治水事業が進み大河川の氾濫は少なくはなっていると言うが、それでも河川の氾濫による洪水が発生している。
また、都市部では周辺地域の開発が進んで保水(遊水)機能が低下していて、水害に占める都市部の被害の割合が増えている。
さらには、山間部では必ず住宅の裏山の土砂が崩壊して、生き埋めの被害が生じている。
一方海岸付近では、満潮時に台風が来て、高潮の被害も確実に起きている。
毎年、必ずと言える程に台風の上陸があり、甚大な被害をもたらしている。
被害が出てから、大あわてで大きな予算を割いて復旧と対策工事を行っている。
いつも後手後手になっているのはどうした事か。

治山治水は、国家なり地方自治体の行う基本的行政ではないのか。
国民の生命財産を守るのが、最も基本的な行政理念でなければならない。
あまり交通量の見込めない所へ、立派な高速道路を建設したり、地方に立派すぎる公共施設の箱物を作るよりも、基礎的な治山治水事業を優先させるべきである。
都市部周辺で無秩序な開発を続けて、自然の持つ保水機能を失わせ、すぐに土砂崩れを誘発している。
海抜ゼロメーター地域での、防波堤の高さを軽々と超えて高潮が押し寄せるというのは、一体どうしたことか。

人知を超えた自然災害ではない。
台風の発生メカニズムも、その構造もその進路も、そしてどの程度の台風が満潮時に来襲すれば、どの程度の高潮が起きるか、ちゃんと計算されている。
短時間に100ミリから300ミリの集中豪雨が降しる事は、何度も敬虔している。その場合に、土砂崩れの危険性がある場所のハザードマップもある。
大都市の今の排水機能では、道路が冠水し地下に水が流れる事も、何度も経験している。
なぜ、国家や地方自治体は、この最も基本的な対策可能な治山治水をきちんと実行しないのだろうか。
詰まるところ、政治課題のプライオリティー(優先度)があまりにも低いという事になる。
人気取りの政策を優先する、つまり道路や箱物建設そして新幹線に血眼になっているからであろう。

郵政民営化も大事な政治課題に違いないが、最も基本的な行政課題に取り組むべきではないかと苦言を呈しておきたい。
台風の被害でいつも犠牲になっているのは、農村地帯や山間部の人々と、沿岸地方の人々であるはずなのに、なぜ政府に声を上げないのだろうか。
今、まさしく国政選挙の時期である。
「政民営化に賛成か、反対か」というような、基本的な国家戦略に欠けた政権を選ぶべきではない。

繰り返すが、国家の基本は「国民の生命財産を守る」ことが前提であり、その底辺に治山治水という基本的国家戦略がなければ、全ては空しい。
台風のもたらす洪水の被害で、全財産を失ったり、尊い命を失っては何をか況やである。
政治も治水と同じである。
留まった水はやがて腐敗する。時々水を入れ替えてやらねばならないと思う。
選挙では、人気に踊らせされるような愚は避けたいものである。