ノラの外猫「かあちゃん」が連れてきた3匹の子猫のなかで、
全身真っ黒な子猫を師は育てることにした。
母猫は、毎日ご飯をもらいに来ているのに、
家の中にも入ってきてすぐそばに来ているというのに、
決して触らせないという。
暮しの手帖『あたらさん』創刊号・巻頭の、「うつくしい暮し」
(吉沢久子:清川 妙)に、母猫「かあちゃん」登場!
長い尻尾をくるんと前足の上に回した端正な姿で
行儀よく座ってごはんを待っている。
やっと現れた「かあちゃん」を、カメラマンのHさんが、家の中からねばって撮った。
全身が真っ黒で、胸のところだけがふわっと真っ白。
オーガンジーレースのおしゃれな胸飾り付きの服を着た
貴婦人に見える。
その貴婦人の子の真っ黒な子猫は、
積み上げた本の山を駆け上り、引っかき、
家の中を飛び回るやんちゃ娘だが、
師は
「リリ子」と名づけた。
そして、
「私が、リリ子の名にに相応しい猫にしてみせます」
と、「マイ・フェア・レディ」の教授のように言った。
仕事の電話の中にも時々リリ子の声がしている。
ある日の師の手紙の封筒には、
リリ子のプリクラ・シールが貼ってあった。
それは藤城清治さんの影絵のような、
奈良美智さん描く絵のような
金色の目で、
じっとこちらを見つめていた。
右上画像
リリ子の、レディへの道は近づいたのでしょうか。